今回の記事は自分で言うのもなんですが、力作です。かなり難しい話を頑張っ
て解説しました。これぐらい理解しておくと、今年のノーベル賞に輝いた硤合先
生の凄さがよりわかると思うからです。どうか、いつもより根性いれて読んでみ
て下さい。まず、前置きが長いので気合いをいれて行きましょう。


宇宙人との禅問答

 自然科学者が気が向くと口にする哲学的な問題に「左右(の違い)を宇宙人に
言葉だけでどう伝えるか」というのがあります。最初に私がこれを知ったのは、
大学4回生のときで大学院受験生仲間と議論しました。英作文の課題にこういうの
が出たりするからです。
 ちなみに、奥の細道冒頭の英訳なんてのもありました。
 例によって私は、「右でない方が左だ。そして左でない方が右だ」とか「茶碗
持つ方が左、箸持つ方が右、宇宙人でも飯ぐらい食うだろ」などと混ぜっ返して
いるうちに、数学や物理専攻のの真面目な連中からは相手にされなくなりました。
当然でしょう。
 実はこの問題「オズマ問題」と呼ばれていて、最初に発表したのは哲学者のカ
ントだそうです。単純ですが、奥が深くて嫌らしい問題です。物理学的(?)に
は、1956年に放射性元素を使った実験で決着を出した事になっていますが、カン
トがこの説明で満足できるとは思えません。実験結果で「左右」を説明するのに、
宇宙人と実験者が「上下」や「前後」について認識を共有していることが前提だ
からです。悪く解釈すると、「宇宙人だって飯ぐらい」と同じタイプの議論とも
言えます。


ウィキペディア、自然界における左と右

https://ja.wikipedia.org/wiki/%E8%87%AA%E7%84%B6%E7%95%8C%E3%81%AB%E3%81%8A%E3%81%91%E3%82%8B%E5%B7%A6%E3%81%A8%E5%8F%B3


 「上下」の方は重力で考えればなんとかなるかも知れません。けれども、「前
後」は、その宇宙人の体型に関係しそうです。同じ人類でさえ、「前後」の認識
が混乱することはあります。右肺は人体解剖図では左側にあり、右京区は京都市
の地図では左側にあるのは、解剖遺体や天皇陛下にとっての「前後」が、図を見
る人と逆になるからです。


厚生労働省、呼吸器各部位

https://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-10800000-Iseikyoku/0000057145.pdf


Map-It マップ・イット、京都市

https://map-it.azurewebsites.net/Map/%E4%BA%AC%E9%83%BD%E5%BA%9C__%E4%BA%AC%E9%83%BD%E5%B8%82%28%E5%8C%BA%29/citrus


 こういう蘊蓄系に深入りしていてはキリがありませんが、覚えておいていただ
きたいのは、左右の定義は、「上下と前後が決まっていてはじめてできる議論」
だということです。


右手・左手では分かりにくい

 今回のノーベル賞のテレビ報道で、受賞内容の話で右手と左手が比喩的に使わ
れますが、あまりわかりやすい説明ではありません。なんでアミノ酸に右手や左
手があるのでしょうか。
 そこで、この記事では、もっとも簡単な立体と思えるテトラポット(正四面体
の仲間)の形を使います。テトラポットとは、中心から4本の足が出ているコンク
リート製の物体で、海岸などで波消しブロックとしてよく使われています。
 これを平らな地面に置く場合、三本の足が接地していて残りの一本が真上を向
く事になります。仮に転がしても、足の内一本は必ず真上を向きます。言い方を
変えれば、4本の足は全て平等(等価といいます)で、真上に伸びる一本を残りの
三本が支えているわけです。


テトラポッド(消波ブロック)、不動テトラ

https://www.fudotetra.co.jp/solution/block/tetrapod/


 さて、テトラポットの三本足をそれぞれ青・黄・赤に塗る事を考えてみましょ
う。まず、どれか1本の足を塗装せずにコンクリート色のまま地面に埋めて、地上
に出ている3本にこの3色を塗ることにしましょう。塗り方は二つあります。上か
ら見て右回り(時計回り)に青→黄→赤と塗っていくか、左回り(反時計回り)
に青→黄→赤と塗るかです。大きさも、形も、色使いも全く同じなのに、左右が
違うだけの一組の物体が存在するわけです。二つの関係を不斉(ふせい)と言い
ます。人間の右手と左手の関係も、おおざっぱにはこの例でからよく説明に使わ
れるのですが、これ以上の議論にこの比喩はついていけません。
 だからテトラポットなのですが、大事なのは4本の足の色が全部異なっているこ
とです。仮に同じ色(つまり等価)の一組の足があると、他の2本が別々の色で
も置き方によって同じになってしまいます。全く同じものになってしまいます。
3本以上同じなら言うまでもありません。
 この不斉の関係は立体特有のもので平面ではおこりません。右回り左回りの違
いがあっても、その面を裏から見たら同じになるからです。ですから、裏表が決
まっている平面はもはや二次元ではありません。上下の考え方がはいってくるか
らです。左右に意味があるのは、三次元(以上)の世界です。
 ちなみに、2001年にノーベル賞に輝いた野依良治先生もこの分野です。珍しい
名字の日本人が左右の区別に拘ると、なんでノーベル賞に近いのでしょうか。新
たな研究課題です。


 アミノ酸と不斉

 化学の世界には、不斉をつくるメジャーな原子が二つあります。炭素とケイ素
です......というと、生物系の先生方からつっこみが入ります。はいはい、確かに
生物界全てに関係している炭素と違い、ケイ素の不斉はマイナーです。でも、右
水晶と左水晶なんていう区別があります。と、元地球科学者を代表して......すね
ておきます。
 炭素とケイ素、この二つは4本の等価な電子の腕を持っているので、よくテト
ラポット状の分子(原子が集まって作るユニット)を作ります。一番シンプルな
例は炭素がメタン、ケイ素が水晶です。
 水晶の話は現役の鉱物学者か占い師にでもお任せして、メタン分子の構造を考
えましょう。難しいものではありません。テトラポット構造の中心に炭素があり、
4本の腕には同じ水素がついていて等価になっています。もちろん、この段階で
は不斉などという複雑な話ではありません。
 テトラポットの3本の足にそれぞれ色を塗るように、メタン分子の4つの水素の
うちひとつはコンクリート色のまま残して、3つをそれぞれ別の物に付け替えます。
アミノ酸にするなら、そのうち2つは決まったものになります。アミノ基(NH2)
とカルボキシル基(COOH)です。
 以上まとめるとアミノ酸の真ん中にある炭素の4つの腕には、水素・アミノ基
・カルボキシル基がつき、最後の一つにはトッピングのようにいろいろな物がく
っつくことで、各種のアミノ酸ができます。
 トッピングには何が乗るのか......ピザのダブルチーズみたいに水素がもうひと
つつくとグリシン、メタンもどきがつくとアラニン......という具合です。ドラッ
グストアの売れ筋、タウリンやアルギニンもこの仲間です。理論的には無限の組
み合わせが可能ですが、実際はわずか20種類のアミノ酸の組み合わせで、人体
にある全てのタンパク質は作られています。脳も内臓も筋肉も血液も20種類の
部品の組み合わせでできているわけですから、レゴに似ているとも言えます。
 ちなみに、資格試験や大学院受験などでアミノ酸についてしっかり勉強する気
なら、何か一つ「推しアミ」を作る事がオススメです。料理好きならグルタミン、
体育会出身ならプロテインとか......なんでもひとつご縁のありそうなメンバーを
見つけて、豊富な食品、発見の経緯、人体での役割、合成方法、そしてもちろん
構造。興味のありそうな所から一通り、できるだけ詳しく覚えてしまいます。そ
うしておいて、他のアミノ酸は自分の「推し」との比較で理解していくと記憶が
整理されますし、わりと楽しく勉強できます。
 いくら探しても「推し」が見つからないようなら、できれば「アミノ酸」が必
須の分野には進まないほうが良いと思います。私の場合、この方法で希土類元素
(17種)を勉強しました。アメリカの州、戦国大名、恐竜など、同じようなもの
を整理して覚えるときには、応用が利くと思います。山手線ゲームも強くなりま
す。


本当は怖い不斉炭素

 さて、少し化学の心得がある方はアミノ基の式(NH2)は、アンモニア(N
H3)に、カルボキシル基(COOH)の式は、酢酸(CH3COOH)に似て
いることに気がつくかも知れません。アミノ酸は一つの分子の中にアルカリと酸
の両方の部分があるのです。
 酸・アルカリと言えば中和ですが、中和とよく似た反応でアミノ基とカルボキ
シル基は結合します。ただし自分自身のもの同士は届きませんので、アミノ基は
隣にある別のアミノ酸のカルボキシル基と手を繋ぎ、反対側の腕であるカルボキ
シル基も別のアミノ酸のアミノ基と結合します。こうして、アミノ酸が次々と繋
がって1本の鎖ができると、タンパク質の誕生です。
 動物の胃腸でおこっている消化はこの逆の現象で、食品中のタンパク質を一個
のアミノ酸(か数個のかたまり)にまで分解してしまうことです。レゴの作品を
バラバラにするのと同じですから、もとのタンパク質の構造はほぼ完全に分解さ
れます。
 ですから、食べた動物のタンパク質から、捕食者が影響を受けることはありま
せん。牛肉をよく食べる人が牛っぽくなることはないのです。むしろ食べ過ぎる
と豚っぽくなります。ただし、アミノ酸はそのまま入ってきますから、アレルギー
の原因になることもあります。
 ほとんどのアミノ酸は4つの腕に全部違う物がくっつく不斉炭素が出来ます。
だから左右の区別があります。例外はグリシンですが、なんで不斉炭素ができな
いかはこの記事を読み返せば分かるようになっています。特に興味のある方は考
えてみて下さい(科学記事によくある嫌味な書き方......一度やってみたかった)。
別にわからなくても、この先の話とはあまり関係ありません。
 繰り返しますが、不斉炭素があるということは、同じアミノ酸でも右回り左回
りの2つができるということです。アミノ酸の場合、どれを右回り(D型)、左
回り(L型)と呼ぶかはルールが決まっています。
 面倒な話ですから、必要ない人はこのパラグラフは読み流して下さい。確認し
ておきますと、不斉炭素に直接くっつくのは水素(Hと呼ぶ)、アミノ基(Nと
略す)、カルボシキル基(Coと略す)、そして例のゲスト(Rと略す......なん
でか知らんけど習慣です)の4種類です。テトラポットで考えた時、水素のつい
た腕を垂直に地面に埋めてしまいましょう。上から見えるのは、残りのCoとR
とNの3つの腕です。その並べ方をCo→R→Nが反時計回りをL型(Lの書き
順と同じ回転方向)、時計回りをD型(Dの"背中"の書き順と同じ回転方向)
です。この分類方法をCORNルールと呼びます。

 アミノ酸のCo腕が隣のアミノ酸のN腕とが何十個も連結してタンパク質がで
きることを考えれば、L型とD型の違いの大事さが分かってきます。タンパク質
生成のとき、普通のL型アミノ酸ばかりが手を繋いで並んでいる中に、D型(右
手と左手が逆についている人)がはいってくると、その人だけ後ろ向きで立って
手をつなぐことになり、部分的には奇形のタンパク質ができます。こんなことが
体内のあちこちでおこると、さまざまな不都合がおこるはずです。
 実際、サリドマイド事件はこの不斉分子の違い(アミノ酸ではありませんが)
でおこった薬害でした。各種アミノ酸で同様のことが頻繁におこれば、人類どこ
ろか生物自体がもっとあっけなく全滅していたはずです。
 あるいは全然別の生態系が出来ていたかも知れませんが、何かを「食べる」大
型動物は無理だと思います。食物連鎖をアミノ酸の共有と考えると、全ての生物
がL型でほぼ統一されているのは、全生命にとって都合の良い事なのです。ただ
し、近年の研究によれば、人体でも脳や臓器などに、少量のD型アミノ酸が使わ
れているとのことです。供給源は腸内細菌らしいのですが、生物界全体でどうや
ってL型優位を保ったまま、D型の供給を維持しているのでしょうか。興味のつ
きないところです。


 ノーベル賞を越える業績

 そもそも、なんでL型がメジャーなのでしょうか。最近まで生物体のアミノ酸
にD型はないとまで言われていたぐらいです。L型が出来やすくなるなんらかの
メカニズムが、働いたはずです。理論的に可能性があるのは2つのケースです。
 第一のケースは外部から生体に左右の区別を教えるものがあった場合です。た
とえば地球の自転。全ての台風は左巻きに回転します。アミノ酸にも......という
のは、一見ありそうな話ですが、致命的な欠点があります。南半球では話が逆に
なることです。台風も右巻きになります。けれども、アミノ酸には影響は及んで
いません。だから日本人がオージービーフを食べても大丈夫です。ロースもタン
もホルモンもちゃんとL型ですからです。
 第二のケースは、どちらかがLかDのどちらかがメジャーになったとき、その
差を拡大するメカニズムがある場合です。小さなシェアの差が時間とともに拡大
して、多い方がどんどん増えて市場を独占してしまう......強きを助けて弱きをく
じく、嫌な話ですが、そのおかげで人類が生存しているのですから、ここは我慢
するとしましょう。
 今年のノーベル賞研究の「硤合反応」はそういうメカニズムが、はじめて具体
的に発見されただけではなく、人工的に再現してしまうという凄い成果です。生
命誕生や生物進化の本質という「大きな物語」から、安全性の高い医薬品の製造
といったビジネス色の強い「小さな物語」まで、極めて影響範囲の広い研究です。
 ノーベル賞は当然、誰にも「文句を言われる」筋合いはありません。それどこ
ろか化学賞だけでは足りないと思います。殊勲賞・技能賞・経済学賞のおまけ三
賞をつけても良いぐらいですが、当の硤合先生が「文句」をおっしゃるでしょう。
 面白いのは「硤合反応」自体はL型D型の区別をしていないということです。
L型がメジャーならL型を、D型がメジャーならD型を......分け隔てなく強者を
助けるメカニズムです。イデオロギー無視の新自由主義が、ある意味では平等で
あることにもどこか似ています。
 今後の研究課題。個人的興味の赴くまま3つあげておきましょう。まず、最初に
L型優位はなぜおこったのかということです。まったくの偶然だったのか、なん
らかの理由があったのかです。もし、偶然ならば、最初にD型有利な別の場所で
は、格差がひらくことでD型ガラパゴスができるはずです。それどころか、地球
上でL型地域とD型地域が半々になっていたかもしれません。
 現実にはD型地域は存在しないのですから、「硤合反応」とは別にL型優位に
なる理由があったはずです。それは、生物誕生の前なのか後なのかです。原始的
な生物からは、今でもD型アミノ酸が多く見つかる事を考えれば、淘汰がおこっ
たのは結構最近だったのかも知れません。恐竜がD型だったりしたら面白いので
すが......さすがに無理でしょうね。
 第二の課題。なぜ完全にD型が完全には消滅しなかったのでしょうか。恐らく、
「硤合反応」的なものを抑制するメカニズムがあるはずですが、それは何なので
しょう。また、生物にとってどんな利点があるのでしょう。
 最後の課題は。L型優越は全宇宙たとえば他の惑星系でも共通なのでしょうか。
UFOを操縦してやってくる知的生命体でなくても、原始的な微生物でも地球外
生命体がいるとすれば、それはL型なのでしょうか。D型メジャーか混合型かも
しれません。
 よく考えれば、3つの課題は相互に繋がっているようですが、哲学まで視野にい
れたいろいろな学問分野が関連する、面白い話になることは間違いないでしょう。

 このシリーズは、一話完結形式のつもりですが、よろしければ、この長屋内に
あります関連記事も、お読み下さい。



本質を見落とす劣化メディア【その4】- トカ・キョカで揉め、またガスが
漏れ

http://nagaya.tatsuru.com/murayama/2026/09/12_0755.html




本質を見落とす劣化メディア【その3】 - <支離滅裂なニュース解説

http://nagaya.tatsuru.com/murayama/2026/08/10_0758.html




本質を見落とす劣化メディア【その2】 - 大法螺政治と数字に弱い記者

http://nagaya.tatsuru.com/murayama/2026/08/09_0826.html




本質を見落とす劣化メディア【その1】 - 震災は劣化をあぶり出す
http://nagaya.tatsuru.com/murayama/2026/08/06_1820.html

 2026年10月14日正午前、梁農林水産大臣の進退がはっきりする前に、この記事
を書いています。嵐の予感がしますし、そうなっては書くタイミングを失いそう
だからです。シャトルバス問題、なんだか違和感があります。


 むしろ不利益

 事実関係が重要ですから、最初に細かく確認しておきましょう。今回問題にな
ったのは、年頭の衆議院選での総決起集会でのことす。各種報道によれば、梁事
務所前の会場の駐車場が小さいので、あふれた参加者の車には少し離れた場所に
ある臨時駐車場に回ってもらい、そこから会場までシャトルバスで送迎したとい
うことです。


簗農水大臣が無料バス送迎「会場費の一部として計上」 衆院予算委員会で自
民党議員からの質問に「法令にのっとり適切に対処」、FNNプライムオンライ
ン

https://news.yahoo.co.jp/articles/22d987e6435bed51eb1c14c4e2acda528a08919d

 はたして、こういうのを利益供与と言うのでしょうか。最寄り駅から会場まで
バスを出したというのとは意味が全然違います。車で会場まで来る参加者全員に
駐車場が用意されていないのは、来場者への「不利益供与」で、それを送迎とい
う形で補填したと解釈するべきです。プラスマイナスゼロ。手間と時間を考えれ
ば、むしろまだ不利益のお釣りが出るぐらいです。
 なんでも機械的に「利益供与」というのは道理の上でも実効性でも無理のある
議論です。たとえば、スタッフが会場で階段を上る高齢者の手をひいたらダメな
んですか。車椅子を押したら利益供与ですか。もっと言いましょうか、空調設備
の稼働が有料の場合はどうなのでしょう。いくらでも、揚げ足を取れそうです。
冷静に考えれば、シャトルバスの提供は常識や社会通念の範囲です。
 最初から駐車場が十分ある会場を用意すべきだった......というのはあり得る指
摘ですが、大臣の地盤の大田原市は明らかに車社会です。選挙の総決起集会に家
族やカップルで来るのは少数派。各種地域団体の代表など出席者のほとんど一人
で来ます。人数のわりに車の台数は増えてしまい、駐車場の確保が大変です。
 だからと言って、市民会館や体育館などの大きなホールを借りれば、シャトル
バス代よりも確実に高くつきます。そう考えれば「シャトルバス代は会場費だ」
という説明は理にかなっています。そもそも、突然の衆議院解散後に大きな会場
を予約できないこともあります。それに候補者は他にもいるわけですから、総選
挙のたびに、各種大混乱が予想されます。
 また、もし駐車場確保を参加者の自己責任にして、路駐が増えたりコインパー
キングが満車になったりで近隣の顰蹙を買ったら、何のために選挙運動をしてい
るのかさえわからなくなります。
 情報ネットワークが普及した今、総決起集会などという前時代的なものが必要
かどうかの議論はいったん忘れるとして、実施する以上は今回のやり方があらゆ
る意味で最善だったと思えます。
 実際、公職選挙法での「利益供与」の定義にはグレーゾーンがあり、騒ぎにな
ってからの選挙管理委員会のコメントも黒っぽいようですが、ここは梁大臣が堂々
と論陣をはるべきところです。「私は合法と考えます。文句があるなら告発して
ださい」......これなら、与野党を越えて日本中の政治家が、少なくとも本音では
納得してくれるでしょう。


 説明責任って何

 けれども、大臣本人も自民党栃木県連も、こうした論理での弁明を一切してい
ません。
違法性はないと主張するのに「人道上の観点」などとピントのぼけた言葉をひっ
ぱりだしています。後ろ盾の高市総理も、なんとかなると思っていた「予算減額
問題」が大炎上したので、後から突然出てきた「シャトルバス」を使って轢き逃
げする気なのでしょう。
 まあ、政治とはそういうもの、劣化世論のなかで政権を回す以上仕方のないこ
とです。「私の大事な知恵袋の簗ちゃん」がいなくなって、農政が「大変な事」
になるのは、容認するのでしょう。いなくならなくても「大変な事」は次々おこ
りそうなのですから。


簗農相「辞任論」強まる、高市首相きょうにも「進退」判断へ...バス無料送迎
問題「違法性あれば躊躇しない」、読売新聞

https://www.yomiuri.co.jp/politics/20261013-GYT1T00339/




高市首相の「私の簗ちゃん」大失言...「もう代えちゃえばいいんじゃないで
すか」と立川志らく、J-CASTニュース

https://www.j-cast.com/2026/10/06518301.html?p=all

 問題はメディアです。今に始まった事ではないのですが、政治家でも芸能人で
もイメージが良い間は良い話題を、悪くなるとスキャンダルを次々掘り出してき
ます。高市政権も落日モードですから、いち早く他局に先駆け手のひらを反すの
は、ある意味で仕方ないとしても、取材したネタを評価するときに冷静さを欠く
ことが多いのは困ったものです。
 オールドメディアをバカにしているNSN界隈も、私の知る限り大臣擁護論で
も盛り上がっているようには見えません。地元の有権者がシャトルバスの運行経
路を徒歩で歩く動画など、あればそれなりにバズると思うのですが。
 さて、説明責任ということですが、公人が嫌疑を受けた時に辞任しない場合に
説明責任追求される......これは当然。問題は人事的な責任をとった場合に、周囲
もメディアもそれ以上追求せず、忘れてしまう風潮です。
 今回、「仮に違法性があれば、躊躇(ちゅうちょ)しない」と総理は自決勧告
のようなことを言い出しました(2026/10/14現在)。「違法性は無いが、誤解に
基づく混乱を大切な予算審議に持ち込みたくないので」と言うように追い込む定
石パターンです。そうなると「シャトルバス」は、うやむやになってしまいます。
 これはある意味でもったいない話です。未だに総決起集会に馳せ参じる文化
(行かないと道路予算カットの恐怖)のあり方。IT対応の遅れる選挙運動のあ
り方。そして何より、地方都市の自家用車依存が進んでいて、高齢化とガソリン
高騰は都市機能の消滅をもたらしかねないという問題。こうしたことを論じる機
会は貴重でした。あと数年もすれば、今更いくら論じても、手のうちようがなく
なるでしょうからです。

 この夏、久しぶりに北陸新幹線の話が全国紙の一面トップに載りました
(2026/09/08)。朝日新聞のいわゆる調査報道で、しかもかなり地味な内容なので、
しばらくは他紙も追いかけませんでした。
 けれども編集委員たちはかなり本気のようです。翌日の「かたえくぼ」欄には、
関連する投稿が採用されていました。「かたえくぼ」とは、朝刊に掲載される読
者の寸言です。一週間に5枠しかなく「声(投書)」や「朝日川柳」よりもかなり
競争率が高い中で、山ほど送られて来る投稿の中から「北陸新幹線」ネタが選ば
れたわけですから、新聞社としての関心の高さを表しています。




前提変え「逆転」 北陸新幹線ルート試算、議論の信頼性に影落とす、2026/
09/06(紙版では8日朝刊)、朝日新聞

https://www.asahi.com/articles/ASV920GC9V92PLFA001M.html?iref=pc_extlink




かたえくぼ、2026/09/09、朝日新聞
https://www.asahi.com/rensai/list.html?id=603&page=2




【社説】整備新幹線の財源、国交省はJRと「貸付料」の議論を尽くせ、2026/
09/24、朝日新聞

https://www.asahi.com/articles/ASV9K34YKV9KUSPT015M.html

粉飾のからくり

 それにしても分かりにくい記事です。どうやら国土交通省が不適切な試算をし
たという話なのでしょう。ただし、これは違法ではありません。資料を出した相
手は、与党のプロジェクトチーム(PT)で、事実上、北陸新幹線のルートを決
定する場所なのですが、法的には任意団体です。たとえウソ満載の報告書をつか
ませても、役所として処分される理由がありません。
 しかも「騙された」相手は、悲願の小浜ルートに決定する根拠がほしい自民と、
選挙公約だった米原ルートを断念する口実がほしい維新の寄り合いです。「お妃
様はシンデレラよりお美しい」と言っている限り「魔法の鏡」はカチ割られない
のと同様、根拠が怪しげでも都合の良い報告は歓迎されます。
 何がどう怪しいのか、少し詳しく調べてみましょう。試算の肝は、「B/Cで
考えれば米原ルートより小浜ルートが勝っているよ」ということです。念のため
言っておきますが、まともに考えればそんなことはあり得ません。数字の操作、
粉飾です。手品のタネは、「一体評価の導入」と「社会的割引率の適応」の2つで
す。
 まず「一体評価」、これから工事をするつもりの「敦賀-新大阪」間だけでは
なく、北陸新幹線全体で評価することにしました。つまり「高崎-長野-金沢-
敦賀-米原-京都-新大阪」と「高崎-長野-金沢-敦賀-小浜-桂川-新大阪」
との比較で決着しようというのです。道路計画などでは一般的な方法だというの
が国交省の主張ですが、これは無理な議論です。作っているのは整備新幹線。着
工5条件でのルールではB/Cは実際の工事区間で判定することになっています。
今回の例で言えば「敦賀-米原-京都-新大阪」と「敦賀-小浜-桂川-新大阪」
の比較で行うということです。
 比較検討が始まってから、比較方法を変更しろと言い出すのは、走り幅跳びの
試合中に「跳躍距離だけでなく、フォームの美しさも採点すべきだ。スキージャ
ンプでは常識です」と、負けそうな選手が言い出すようなものです。これほど卑
怯な発想は、そうはありません。
 けれども、まだ卑怯さが足らなかったのか、これだけでは米原有利は変わらな
いようで、次に持ち出してきたのが、会計計算上の「社会的割引率」というやつ
です。かなり込み入った話ですが、解説しましょう。
 全線で小浜ルートと米原ルートのB/Cを比較する場合、それぞれの全線での
Cつまり建築費を割り出す必要があります。この金額は「着工予定部分の建築費」
と「すでに完成した部分(高崎・敦賀間)の建築費」の合計になり、完成した部
分については、着工時点での全額を支払うものと見なします。誰かが誰かにお金
を払う訳では無く、あくまで仮想的な話です。
 まず「小浜ルート」の方は、すでに完成運用されている「上野-敦賀」の費用
は、来年支払うことになっています。ここまでは普通の話です。ところが「米原
ルート」の方では全く同じ「上野-敦賀」の費用を、7年後に支払うことにして
います。なんでそうなるかと言えば、米原ルートは「環境アセスメントが済んで
いないから着工が遅れる」ということです。
 確かにあり得る話ですが、「小浜ルート」方だって、山岳トンネルの難工事が
予想される京丹波市内では「済んでいる」どころか、まともな調査すら出来てい
ないはずです。「小浜ならすぐ着工できる」というのは無理な話、おそらく「米
原ルート」より手間取るでしょう。
 では、もし仮に「米原の」着工時期に何年か遅れるとどうなるのか。ここから
がわかりにくい話なのですが、各ルートで計算する「完成済みの敦賀-高崎間」
の費用が違ってくるというのです。たとえば、今すぐ着工する場合と比較して、
着工が1年遅れるたびに、「社会的割引率」と言って、年間4%程度、金額が増え
ることになっています。
 インフレやら金利やらの影響で、時間がたつごとに「完成済みの敦賀-高崎間」
の経済価値があがることの反映らしいのですが、実際に売買が行われるわけでも
ないのに、B/Cの計算で差を付ける理由は全くありません。わずかな差ではあ
りません。小浜が11兆円、米原が16兆円......つまり、B/Cでの小浜の優位性の
正体はこの「粉飾」だったのです。
 国土交通省は朝日新聞の取材に、こうした計算を禁止する規定はないという趣
旨の反論をしていますが、ルールというものは極端に非常識なことは禁止しませ
ん。野球のルールブックに「打者は捕手や審判をバットで殴ってはいけない」と
いう規定はありません。
 シンデレラで言えば、魔法の鏡が50年後のシンデレラと今のお妃様と比べて、
どちらが美しいかを判定するようなものです。ご機嫌なお妃様は根拠について、
つっこんだりしません。
 今回の試算は、国土交通省が小浜推進派のために作成したものでしょう。逆に
言えば、優秀な日本の官僚でも、ここまで無理をしなければ小浜有利の数字は出
せないということが、はっきりしたわけです。仮に環境問題などを無視してB/
Cの事だけを考えても、小浜ルートに着工などしてはいけないのです。


 朝日新聞へもちょっと一言

 地味でも重要な調査報道、大変ご苦労様でした。けれども、一つだけ小言を言
わせて下さい。国会議員向けだったリーク資料を専門家に精査してもらう......相
手に反論の余地を全く与えない完璧を求めるやり方です。けれども、この今回の
いかがわしさを示すのに、ここまで細かい仕事をする必要があったのでしょうか。
 試算が出た段階で多くの問題が指摘されていました。たとえば、既存の線路を
使う湖西ルートの建設費が長大トンネルが続く小浜ルートよりも高額であること。
小浜以外の7ルートは経由地も工法もまちまちで、便益も費用も千差万別なのに、
B/C(=便益/費用)は全て同じ1.0で、小浜ルート(1.1)に惜敗していま
す。こんな都合のいい偶然がおこるはずがありません。詳しくは、以前のここの
記事を見て下さい。



地下も地上もパンドラの箱【北陸新幹線 その 34】、村山恭平、この長屋 i>
http://nagaya.tatsuru.com/murayama/2026/07/24_0655.html

 どうして、朝日新聞は最初に試算が出た今春に、常識論レベルで指摘できる疑
惑を国土交通省にぶつけて、しつこく追求しなかったのでしょう。それがあれば、
今回の労作記事のインパクトが全然違いました。けれども、忘れた頃に数字操作
疑惑を指摘しても、関係者か私たちのような北陸新幹線ウォッチャー以外にはピ
ンとこないでしょう。 


 北國新聞のボヤキ

 ただし、予算編成の時期、国土交通省にとっては大きな痛手でした。小浜(桂
川)ルートの着工のための予算は、2027年度予算では金額を示さない事項要求と
いう形になっています。これから財務省相手に具体的な工事費用を要求しようと
している矢先に、顔をつぶされました。来年度予算の話をする前に、B/Cの信
憑性について弁明しなければならなくなりました。
 下手をすれば、整備新幹線の未着工区間の凍結を消費税減税の財源のひとつに
される恐れがあります。金額的には微々たるものですが、こういうインパクトの
大きい準公共事業の中止は、日本国政府の財政再建への意思表示を諸外国などへ
送る事になります。つまり、生け贄にされるわけです。
 こうした危機感は北陸全体に広がっているようで、石川県の北國新聞が反論の
ような社説を発表しました。五人の識者からコメントを取り、「確かに数字操作
はよくないけど、それでも小浜ルートが良い」と主張......するわけにもいかず、
匂わせているような情けない記事です。物好きと言われそうですが、細かく見て
いきましょう。 



【特集】北陸新幹線の小浜桂川案 専門家5氏が検証、北國新聞
https://www.hokkoku.co.jp/articles/-/2241288

 名前の挙がっている識者は、以下の5人です。

   京大・富山大名誉教授、中川大氏(交通政策)
   神戸大大学院教授、小池淳司氏(土木計画)
   同志社大大学院教授、大串葉子氏(会計学)
   公立小松大教授・金沢大名誉教授、髙山純氏(交通計画)
   大阪産業大教授の波(は)床(とこ)正敏氏(公共交通インフラ)

 上記のうち、今回の国交省試算に直接言及しているのは、中川・小池・大串の
3氏ですが、批判の強さには濃淡があります。
 まず、朝日新聞にもコメントを出していた中川氏は、「不自然だ。常識的な計
算ではない」と一刀両断です。小池氏は「鉄道評価マニュアルに記載がない。想
定範囲から逸脱している可能性がある」非難を弱める一方、「B/Cはある仮定
のもとでの、一部の評価に過ぎず、あくまで参考の一つ」などと「粉飾決算」を
相対化するようなことも言っています。
 さらに大串氏となると、「一体評価」について「せっかく新たな手法を導入し
たのに、もったいない」などと批判の論点を、説明不足や情報公開の話に(おそ
らく故意に)ずらしています。「個別評価」を「一体評価」に切り替えたことに
ついての見解はなく、なんで「せっかく」なのかさっぱりわかりません。
 記事は粉飾批判を「B/Cへの疑義や違和感はあるが、小浜ルートに決まった
こと自体には、専門家の多くが前向きな評価を寄せた」などと受け流しています
が、とんでもない話です。そもそも「B/C>1」をクリアできない新幹線を着
工してはいけないというのが、着工5条件の趣旨なのですから、それを無視ない
し軽視した上での「前向きな評価」など何の意味も無いのです。経費の問題を無
視して良いのなら、全ての公共事業に「前向きに評価」できる部分があるはずで
す。
 多くの専門家の前向き評価とやらを拝見しましょう。まず、高山氏「将来の山
陰新幹線の可能性を考えると小浜がいい」とコメント......反論は簡単です「将来
も山陰新幹線の可能性など考えられないから、別に小浜がいいわけではない」
 次に、大串氏の災害時の代替という、手垢のついたリタンダンシー論です。
「『東海道新幹線の代替』という北陸新幹線の大本」などとすごいことをおっし
ゃっていますが、リタンダンシー論が持ち出されたのは、小浜ルートの「B/C
>1」達成が怪しことがわかってきてからのことで、別に「大本」ではありませ
ん。
 そもそも旅客輸送の代替なら、リニア、東海道本線、航空機、高速道路......い
ろいろあります。さらに、現行の北陸新幹線(敦賀乗り換え)の利用も可能。災
害事のためだけに、膨大な経費をかけて、所要時間を30分前後短縮する必要が
あるとは思えません。どう見ても不急不要のリタンダンシーです。
大串氏は、もうひとつ根拠不明のことを言っています。「京都の観光業界は北
陸新幹線を歓迎している」本当でしょうか。まず「誘客」といわれても開業直後
の瞬間風速を別にすれば、今後人口減少が大きい北陸からの観光客がそれほど増
加するとは思えません。また、オーバーツーリズムに悩む京都の業者が望んでい
るのは、来客数ではなく一人あたりが落とす金額の増加です。その意味で、新幹
線でカジュアルにやってきて宿泊日数の少ない旅行者は、場合によって迷惑です
らあります。
 「送客」にしても、新幹線が出来れば、京都発のバスツアーは減少するでしょ
う。現地集合の旅行を、京都の代理店に手配してもらう客がどれぐらいいるのか
疑問です。工事による30年分の環境リスクや工事渋滞に引き合うだけの利益を、
本気で期待している業者がいるとは思えません。
波床氏は、何のためにコメントしているのか不明な立ち位置です。大串氏の発
言を受けて京都の抵抗がいかに大きいかを説明し、ついでに東海道新幹線で大き
な利益を受けた京都が、今回は反対に回っている「身勝手さ」を揶揄しているよ
うに見えます。けれども、小浜ルートの優位性の話は一切していません。だいた
い、「東海道新幹線により、東京と新大阪の間に位置する京都は観光都市として
の地位を確立した」というのは明らかにウソです。京都観光は江戸時代から盛ん
でした。五街道が参勤交代のために整備されたのは、たぶん新幹線開通よりも前
の話です。
 そもそも、この5人の識者が選ばれた理由も不明。またそれぞれどんな場所で
取材を受けたのでしょうか。一同に会して座談会のようなことをしたわけではな
さそうです。おそらく、記者が拾い集めたコメントをつぎはぎしたのでしょう。
しかも、主張の理路が交錯していて、ほころびの多いパッチワークに仕上がって
います。
 地元の方には気の毒な話ですが、むしろ「小浜ルートの優位性など全くない」
ということを、この記事は雄弁に物語っているように思います。けれども、北陸
のメディアとして、一言反論(かなあ)をしておかざるを得なかったということ
は、B/C粉飾問題は予算などを通じで、大きな影響がありそうだということな
のでしょう。

那覇は燃えているか

 那覇にいます。知事選挙がありました。12年振りの保守県政が誕生するとい
う大事件がおこったのですが、街は静かです。那覇の県庁の周辺も、島中部の小
さな村も晩夏の日常のたたずまいです。選挙カーが行き交い興奮した連呼が響く
はずの投票日前日も、投開票当日も、いつもと同じ時間が流れています。けれど
も、県民が選挙に関心が薄かったのかというと、そうでもなさそうです。投票率
は前回以上でした。
 そして最終結果は、この長屋の大家さんが嘆いておられるように、42万対2
8万で玉城現職知事の大敗でした。玉城陣営や現地メディアは、SNSに流れた
不正確な情報やら偽動画が主な敗因だと言わんばかりで、告訴まで計画している
ようですが、素朴に考えてその程度のことで、これほどの票差になるものでしょ
うか。例としてよく出される「玉城知事がローラーで潰されるフェイク動画」を
見て、「やっぱり、ペチャンコの人はダメだよね」なんて考える有権者がどれだ
けいるのやら......
 もう少し細かく見ていきましょう。まず、当選した古謝玄太氏の得票数です。
近年の平均的な投票率にもかかわらず、歴代の沖縄県知事選最高の423,124 票
(59.4 %)でした。有権者数1,165,704人の4割弱......結構な数です。前回(2022)、
玉城知事が再選されたときの339,767 票(50.8 %)はもちろん、「オール沖縄」全
盛だった前々回(2018)の396,632 票(55.1 %)さえ軽く上回っています。
 県内に41ある市町村のうち、54票差で勝った大宜見村以外では、玉城デニー氏
は接戦にすら出来ていません。その結果が全県で276,060 票(38.8 %)。前回から
は2割近く、前々回からは3割以上も票を減らしています。民意が、オール沖縄か
ら離れてしまったのは明らかです。
 なんでここまで嫌われてしまったのか......理論的には、「フェイクニュースや
AI動画に煽動されたから」というのもあり得るのでしょうが、これだけ見事な
負けっぷりを、相手候補の卑怯な選挙戦のせいというのは、かなり無理な話です。
大統領選挙に負けて、議事堂に暴徒を煽動した、どこかの国の現職候補みたいな
議論です。
 では、支持者が激減した本当の理由は何か。共同通信が今回行った出口調査で
は、投票で有権者が重視した項目は、多い順に「経済の活性化」「基地問題」
「人柄や経歴」となっています。SNSなどでの人格攻撃が最も影響するのは、「人
柄や経歴」のはずですが、これを最重視した有権者は20%弱で、しかも半分ほど
は玉城氏に投票したようです。仮に残り全員が玉城氏に投票していたとしても、
結果はひっくり返りません。地滑り的な結果を説明するには、「人格攻撃」はあ
まりにも小さな話なのです。


 辺野古の火の粉

 では、2番目に重視された「基地問題」はどうか。ここを重視する層では、圧倒
的に玉城氏優勢です。ただし、「基地」重視の有権者もせいぜい2割程度。つまり、
基地問題の争点化に玉城陣営が失敗したということです。各種世論調査によれば、
普天間基地の辺野古移転に関して「反対」と「やむを得ない」は、いまだに拮抗
しています。県民が基地容認に回ったというより、「玉城さんでも辺野古は止め
られないのか」という諦めムードが支配的になったと言えるでしょう。同志社国
際高校事故のときに露呈した、反基地運動の非論理性、不可能性、無責任さなど
の影響も無視できません。
 すこし議論がそれますが、辺野古移転はほとんどの沖縄県民にとって、冷静に
考えればとりあえず悪い話ではありません。土地を新たに接収することなく、逆
に普天間の膨大な土地が返還され、近隣住民が事故に巻き込まれる危険も激減す
るからです。
 もし、有事になったとしても、近年のC国の高度な工業技術を考えれば、基地を
狙ったミサイルが、県中南部の人口密集地に向かうリスクもほとんどなくなりま
す。ちなみに、普天間の海兵隊基地は、C国本土や台湾島への上陸作戦の重要基盤
ですから、台湾有事での攻撃の一丁目一番地で、第三次世界大戦勃発の地になる
かもしれません。数ある米軍基地の中でも、特に物騒極まりない代物なのです。
 では、なぜ県民は諸手を挙げてこの移転に賛成できないのでしょうか。まず、
このプランは沖縄から出てきたものでは無いということです。東京の官僚が鉛筆
なめなめまとめた代物です。こういうものを、偉そうに持ってくるということは、
沖縄県民を子供扱いしていることになります。もっと致命的なのは、膨大な予算
と年月をかけて新基地を作ると言う事は、県内での米軍基地の永続化を宣言して
いることになるからです。
 これだけの大問題でも、県民としての意見が政策に反映される可能性が、全く
ないことが判明したのですから、選挙の争点にしても仕方ないと考える有権者が
増えるのは当然のことです。県民以外の私たち日本人は、あまりにもこのことに
鈍感でした。
 たとえば、「そもそも、2013年に仲井真知事が辺野古移転を受け入れる交換条
件に、2021年度まで3000億円台の振興予算確保を安倍総理に約束させたのです」
などと、アゴラの記事に事も無げに書いてあります。いつもながら無神経ですね。


「沖縄振興予算3000億円」を政府批判のための道具にする日本共産党、茶請け、
アゴラ

https://agora-web.jp/archives/260916075202.html

 そもそも、「沖縄のために基地を移転する」と国の方から言い出しておいて、
「受け入れる」かどうかの選択を迫るという感覚が異常です。また、当然ながら
「3000億円台の振興予算」の財源は税金です。本当に必要な「振興」なのかどう
かは、基地移転とは関係なく個別の案件ごとに議論をすべきことです。
 こういうお金の出し方は、要は地元のプライドを踏みにじることへの、せこい
慰謝料なのでしょう。また、「受け入れない」選択肢が事実上なかったのは、そ
の後の玉城県政下で自民党政権がやったことを見れば明らかです。
 基地問題が争点化しなかったのは、県民の総意が辺野古受け入れに変化したの
ではなく、辺野古拒否を諦めたからです。ちなみに、オール沖縄的な穏やかな権
利主張がダメとなると、次に何かおこれば沖縄独立論のような過激な思想が盛り
上がってくるでしょう。


現実否認のバッドルーザー

 結局、今回の選挙で一番重視された論点は「経済の活性化」で、有権者の約半
数が最重要問題としています。そして、この層が圧倒的に古謝氏を支持し選挙の
勝敗を決めたと言えます。有権者から見れば8年の玉城県政で経済状況が悪くなっ
ているのに、今回の選挙戦で効果的な新政策を打ち出そうともしない、ピントは
ずれだということになったのでしょう。古謝氏には何の実績もありませんが、今
よりはマシだろうというわけです。
 沖縄の経済を議論するときには基地の話が全面に出やすいのですが、それ以上
に大きいのは輸送コストの問題だと思います。鉄道・トラック・近距離フェリー
の陸路で相互の物流が完結している他の46都道府県とは違い、県内で自給でない
物資は、バカ高い航空便か遠路はるばる船で運ぶしかないのです。そのため、他
の都道府県と同じ消費生活をするためには大きな追加コストが発生します。
 同じ理由で、企業の「物作り」にも極めて不利な場所です。県内最大の製造企
業だったオリオンビールも、「本土」資本の傘下に下りました。結局、沖縄の産
業と言えば、観光・基地・公共事業のいわゆる3Kになりがちで、何をするにも
行政に頼る部分が大きくなりがちです。


知事選、基地重視20%どまり 経済49%、大半が古謝氏に、共同通信社
https://news.jp/i/1471846039409000807

 たとえ県政の責任ではない大きな世界状況のせいでも、経済がうまく回らない
と、現職は言い訳のしようがありません。不況とインフレが同時進行している時
に、経済では期待のできなさげな玉城県政が見限られたのも、仕方の無い話です。
逆に言えば、敗北自体を恥じることはあまりないでしょう。
 深刻な問題は、玉城陣営がまともに票読みさえ出来ていなかったことです。県
内のほぼ全域で満遍なく批判票を集めてのゼロ打ち負けなのに、開票が始まるま
でゼロ打ちを食らうまで勝ちを信じていたような態度でした。
 政治家の命である支持率すら把握できないようでは、微妙で多様な県民の声な
ど、まるで聞き取れなかったはずです。あげくの果てに、敗因を聞かれると、
「高市が悪い」の「フェイク動画」だの、他罰的な言い訳やら陰謀論を並べる始
末。四年後に立候補するであろうリベラル系候補者の足まで引っ張ってしまいま
した。
 皮肉な話ですが、戦況を客観視できずに無駄な抵抗を続け、いたずらに犠牲者
を増やした旧日本軍に、よく似た負けっぷりなのではないでしょうか。全島的な
静けさは、県民の総意としての冷たい眼差しの反映なのでしょう> --

このシリーズは、一話完結形式のつもりですが、よろしければ、この長屋内に
あります関連記事も、お読み下さい。



本質を見落とす劣化メディア【その3】 - 支離滅裂なニュース解説
http://nagaya.tatsuru.com/murayama/2026/08/10_0758.html




本質を見落とす劣化メディア【その2】 - 大法螺政治と数字に弱い記者 i>
http://nagaya.tatsuru.com/murayama/2026/08/09_0826.html




本質を見落とす劣化メディア【その1】 - 震災は劣化をあぶり出す
http://nagaya.tatsuru.com/murayama/2026/08/06_1820.html

 最初に二つのネット記事の引用を見て下さい。いずれも、熊本地震でのイオン
モールの爆発事故に関するものです。



吉田社長は、一部スタッフが施設内に残ったことについて、客らの避難誘導に手
一杯で、制御が難しかったと説明した。これに対し、この記者は、「確認ですけ
ど、『中に入っていいよ』とアナウンスとかは?」と聞き返した。 すると、吉田
社長は、心外だとの表情でこう説明した。「そういったことは一切ございません。
明確に否定しておきます」




イオンの吉田昭夫社長は事故翌日の7月20日に「 熊本市で記者会見し、」従業員
らに再入館を認めるアナウンスや許可を出したかと問われ「一切ない」 と否定し
ていた。


 前者は、事故翌翌日(7/30)のJ-Castニュース。後者は、8月13日の日経新聞
朝刊(大阪版)の記事です(紙記事ですのでリンクの引用はありません)。いつ
の間にか、イオンが会社として、テナント従業員が爆発した建物内に戻る事を
「許可」していたことを、社長が全否定したことになっています。


、、J-Castニュース
https://www.j-cast.com/2026/07/30516778.html?p=all


 原因は、はっきりしています。最初の記事にある「とか」が、日経の記事では
「許可」に化けているのです。細かく見ていきましょう。
 「とか」という言葉を最初に使ったのは、質問しているどこかの記者です。本
人は「許可」と言ったつもりだったのかも知れませんが、少なくともJ-Castニュー
スが「とか」と聞いているのですから、聞き違いがあったとしても吉田社長を非
難するべきではありません。
 記者が不用意に使った「アナウンス」という言葉も、回答者の意識範囲を「不
特定多数の従業員への放送」に狭めてしまうことになり、避けるべき言い方でし
た。誤解のおこりやすい口頭でのやりとりなのですから、「許可」の有無を明確
にしたいのなら、「確認ですけど、会社として建物内に戻る事の許可はしなかっ
たのですね。たとえばアナウンス放送や、あるいはスタッフの個人的な指示で?」
とでもして、誤解の余地のない質問をしておくべきでした。記者教育で、こうい
う訓練はされてこなかったのでしょうか。
 そもそも記者会見が行われたのは爆発の翌日です。安否確認すら終わっていな
い段階ですから、個々の従業員の言動まで社長に把握できているはずがありませ
ん。相手が知っているはずのないことを、気にもとめずに質問するのは混乱のも
とです。回答する側が、自分の知っている事に、質問を取り違えて答えてしまう
ことがよくあるからです。逆に、少しでも社長が何か把握している可能性を考え
ていたのなら、そこを明確にして質問しないのは怠慢と言えるでしょう。どっち
にせよ質問技術が低すぎるのです。
 「質問をきちんと理解せずに答えた側にも責任がある」なんて言わないで下さ
いね。もし社長が、「許可」の範囲は?「中」とはどこを指すのか?「入る」と
はどういう意味か?「アナウンス」とは何か?......こういう非常識で些細な逆質
問しだしたら、「会見をはぐらかしてる」と、徹底的に非難されるでしょう。言
葉の使い方に関して最小限の文化を共有すらしていなかったら、インタビューな
ど成り立たないのです。
 そもそも、よほどのバカでない限り、誤解や混乱を招く質問をするとは思えま
せん。社長もそんなことは想定していなかったでしょう。でも、今後は大丈夫。
会見場には一定の比率でバカ記者がいることを、イオングループ全体で把握した
と思われるからです。今後は「現時点で把握している限りでは」などという、ア
ホにも分からせる断りが、多発されることになるでしょう。
 この記者に対して、「明確な言質を取った意義は大きい」などという評価(お
そらく同業のさらに高品質のバカ記者でしょう)があったようですが、こういう
のを「言質」とされてしまうのでしたら、誰もまともに記者会見など開かなくな
ります。
 高市現総理大臣が歴代の総理と比べて記者会見の回数が激減しているとのこと、
また、それが大して世論の非難を受けているようにも見えない背景に、こういう
問題もありそうです。


人災の責任、天災の教訓

 その一方で、マスコミの劣化のせいで、大きなことが見落とされようとしてい
ます。地震時でのガス漏れの原因です。現状で分かっているのは爆発したのが、
モール全体で貯蔵していたLPガスで、それが館内に相当量漏れ出していたという
ことです。ポイントは二つ、まず「配管のどの部分が地震時にどう破壊し、どう
いう経路でガスが拡散したのか」という建築設備上の問題。もうひとつはガス遮
断装置が作動したのかということです。これらは、地震国での建物安全性のため
に極めて重要な知識のはずです。
 爆発までの経緯をきちんと調査して、そこから教訓を引き出すことは事故後に
することのなかで際だって優先度の高いことです。特に今回のように、大型ショ
ッピングモールという一般的な施設でおきた前例のない大事故は、技術的な教訓
の宝庫と言って良いでしょう。けれども、こうした視点には新旧ともメディアの
関係者は興味があまりわかないようです。
 配管や設備については後日議論するとしても、安全装置の問題では、次のよう
な疑問が浮かんできます。まず、爆発時点でタンクに付属している遮断弁はどう
いう状態になっていたのか......開栓状態だったのか、不完全な閉栓状態だったの
か、完全に閉栓していたのか。地震避難完了後、多くの従業員がタンク横の駐車
場にいたはずだが、なぜ誰も遮断弁の状態を確認に行かなかったのか(マニュア
ルではどうなっていたのか)。自動遮断弁の横には手動式の遮断バルブがあった
はずだが、誰も閉栓しようとしなかったのか。電源に不安のある状態なのだから、
手動で閉栓しておくべきだったのではないか。
 この手のチェックは爆発の直後から行われているはずです。もし、タンク内に
ガスが残っていて、漏れ出しが続いていたら次の爆発がおこる可能性があるから
です。だから、タンク内のガス残量や遮断弁の開閉状況は、すでに会社側に把握
されているはずです。爆発直後、救助員が建物にしばらく入れなかったのは、こ
の部分を確認していたのではないでしょうか。
 ここいらへんには、多くの問題点が隠されていそうです。マニュアルの他にも、
現場の過失はないのか。例えば、地震後に閉栓しようとして逆に開栓してしまっ
た可能性はないのか。おそらく、関係者の間で調査が進んでいるのでしょう。で
も、情報は公開されていません。理由ははっきりしています。質問する記者のレ
ベルが低すぎるからです。
 社会部記者自身が様々な事件・事故・災害に関して技術的なことを事前に全て
知っておく必要はありませんが、社内に理科系教育を受けた準専門家がいて、現
場で専門家にまともな取材をできるだけのレクチャーを、記者にしておくべきで
した。素人の思い込みだけで書いた記事はないほうがいいぐらいです。
 もうひとつ、問題を人災にして関係者の責任追及という流れにしようとするブ
ンヤ根性を封印してほしいものです。繰り返しになりますが、大事故がおこった
後、最優先すべきは原因の究明と、それにもとづく改善です。責任者の追求より
も、はるかに重要なことでしょう。けれども、これは警察関係者や司法関係者の
岡っ引き根性とも関係していることですが、当事者が処罰を恐れて口をつぐんで
しまうと、真相も教訓も闇から闇へと消えてしまいます。
 警察・検察には、法的な制限もありどうしても過失の摘発という方向でものを
考えてしまいがちなのは仕方ありませんが、メディアがその後押しをするのは公
益に反することでしょう。軽率で偏見に満ちた素人記者がウロウロしていること
がわかった以上、イオンモール側も技術的な情報を、積極的に公開する気にはな
らないでしょう。


さっそくおこった同種事故

 記事を書いていると、こんな小さな事故の報道がりました。


「(2026年9月)4日午前9時10分ごろ、千葉県市原市辰巳台東1丁目のイオンタ
ウンたつみ台で、」「屋外に設置されたガスタンクの配管からLPガスが漏れてい
た」


 幸い爆発や炎上は免れ、単なるガス漏れで済んだようですた。漏れたガスが建
物内に充満しなかったことや、発見が早かった事から、大事には至らなかったの
でしょう。けれども、モール内の基幹のガス管で起こった事故で、遮蔽装置が機
能しなかったことは重大で大爆発が起こっても不思議のない状況でした。
 熊本の教訓から、全国のイオンモールではガス設備の一斉点検を行っているは
ずなのですが、どうして、このガス漏れがおこったのでしょうか。もちろん、事
故自体の直接的な責任は100%イオンにあるはずですが、熊本の爆発後にメディア
が避難誘導の問題ばかり追及して、直接的なガス漏れの原因や安全装置の不具合
に全く関心がなかったことも事故の大きな背景になっています。
 事件や事故のときに、メディアが責任者を追求することは当然のことですが、
それらの最終的な目的が、不幸な出来事の再発防止でない限り、メディアの公共
性は90%ぐらい無くなるのではないでしょうか。
 他人の不幸や有力者の不正やミスを、暴いていじめること自体が目的のワイド
ショー文化に染まり、そのことを社会から批判的というより諦めの目で見られて
いることに、自覚と反省が無い限り、新聞の部数も報道番組の視聴率も近い将来、
限りなく0に近づいていくと思います。



イオンタウンでガス漏れ タンクの安全弁が"老朽化"か 従業員や客ら約
70人が一時避難 千葉・市原市、朝日新聞

https://news.yahoo.co.jp/articles/c55f4a997006f1c54d7ceafd5222a95a00230e00

 

 この夏、暴力的な天地を相手に、われわれ日本人はよく頑張ったものです。そ
うこうしているうちに2026年も3分の2が終了。気の早い話ですが、今年の流行
語大賞はどうなるのでしょう。今のところ有力候補はなさそうですが、夏に話を
限れば、「反省」なんていうのはいかがでしょうか。
 敗戦の日、恒例の首相談話から「反省」の2文字が消えました。お疲れなんで
しょう。就任早々、中国相手に無意味な喧嘩を売って、両方の国益をいっぺんに
毀損するという器用な失言をするわ。支持基盤の劣化世論におもねって無意味な
法律を2つも作り、日の丸と皇室のイメージを決定的に悪くするわ。2年間限定の
消費税減税(非常に慎ましい「悲願」です)も出来ないほど、国の財政を破壊す
るわ。反省材料は豊富にお持ちで、80年前のことまで手が回らなかったのです
ね。
 さらに、この日は大変でした。憲政史上初の総理大臣による駐車場遙拝です。
きっと、ブレーキとアクセルの踏み間違いで亡くなった方たちの冥福を祈られた
のでしょう。ご苦労様なことです。
 そもそも、器でもないのに総理になったこと自体が反省の......いや、やめてお
きましょう。バブル+失われた35年。生産性が伸びない国で平均寿命が延びた
のですから、生活水準が下がるのは当たり前。そろそろ先送りも限界に来ていま
す。ここまで不都合な状況を飲み込めるほど大きな器など、ケネディーもナポレ
オンも徳川家康もお持ちでは無いでしょう。今後しばらくの間、総理になるとい
う事は、これまでに日本人のしたことのツケを払う仕事をすることです。


反省する権利はもうない

 話を8月15日(土曜日)に戻します。高市さんは以前、第二次アジア太平洋大東
亜世界大戦に関して、反省する気がないとおっしゃっていました。意外かも知れ
ませんが、私はこれを支持します。嫌味ではありません。本気で支持します。
 当たり前の話ですが、敗戦から10年以上たって生まれた高市さんには、被害者
に対してできることは何もなかったはずです。こういう立場の人間が、安易に反
省を口にするのは偽善です。「郵便ポストが赤いのも、電信柱が高いのもみんな
私が悪いのよ」なんて言っているのと同じこと。前者は総務省、後者は通商産業
省の責任......ではありません。
 終戦当時、将校だった中曽根康弘氏や兵士だった田中角栄氏など、過去の総理
大臣が、個人的に反省を口にすることは意味がありました。「あのとき何かでき
なかったのか」という素朴な自問で、「反省」という言葉が機能したのです。け
れども、今となっては総理を含む多くの日本人には、反省する義務も権利もない
のです。
 そればかりか、不用意に「反省」という言葉を使うのは、問題を複雑化する恐
れがあります。まずは外国語での感覚の違いです。英語の「introspection」、さ
らに重要なのは同じ漢字熟語の中国語の「反省」や、その韓国語表記であり
「pan-sŏng」などとのニュアンスの上で齟齬です。国を代表して発言するときは、
これらを意識していなければなりません。というより、ここいらへんは外交屋さ
んの仕事です。もし、総理が下手に反省という言葉を使っていたら、誤解による
トラブルがおこらないように、火消しに回るという面倒くさい仕事が、また発生
していました。


反省には中身が必要

 反省の内容も問題です。たとえば、「満州の権益の一部をアメリカに上納しと
けば良かった」とか、「南京はもっと徹底的に破壊しておくべきだった」とか、
「終戦前に平壌を焼き払っておけば、戦後も北に悩まされることもなかったのに」
などという、とんでもない反省も理屈の上ではあり得ます(見た事ないですが)。
 極論はともかく、「反省」という言葉を使った以上、何をどう反省するのか明
確にする必要があります。逆に、反省を求める側にも同様の説明責任が発生する
はずです。そして、詳細かつ具体的に言葉を紡げば紡ぐほど、話がこじれること
は目に見えてます。
 こうした、ニュアンスや中身の問題に関しても、従軍経験のある総理の場合は、
自らの経験という言葉の土台があるのですが、戦後派の総理の場合は、反省する
理由まで含めて首尾一貫した論理の構築が必要になります。
 さらに本質的なのは、「他人の行為を反省して意味があるのか」、ということ
です。たとえば、ある兵士が敵国の住民を射殺した場合のことを考えてみましょ
う。怖かったからなのかも知れません。仕方がなかったのかも知れません。正し
いことだったと最後まで思っていたのかも知れません。本人の言い分を知る術も
ない人間が、安易にその兵士に成り代わった気分で、「反省」を口にするのは、
どう考えても僭越で失礼な話です。


取り返しのつかないことは謝罪するしかない

 では、何が出来るのか。はっきり言いましょう。何も出来ません。家族を理不
尽に殺された人には、責任者の厳罰も、領土の獲得も、膨大な賠償金も無意味で
す。英雄としての顕彰など、私が被害者家族ならセカンドレイプと見なします。
 同時に加害者を具体的に責任追及したり、逆に正当性を主張したりするのも不
毛です。特に、最初から許す気も無いのに謝罪を求めるのは、非暴力的ではあっ
ても攻撃の一種です。これをやっている限り、永久に敵味方のままだからです。
被害者や加害者が代替わりしても、報復の連鎖は続きます。
 それでもやらなければならないのは、加害側を代表する政府としての謝罪です。
自分たちは、取り返しのつかないことをした者たちの後継であり、そのことを悲
しく思い謝罪するのです。ここで大切なのは、検証を極めることでも、心をこめ
ることでもなく、言葉を尽くすこと、そしてそれを続けることです。毎年同じの
紋切り型でもいいというより、毎年同じで無ければなりません。政権が変わるご
とに物言いが変わるようでは、口を開くたびにかえって信用がなくなります。
 この夏、総理には反省に代わる謝罪もありませんでした。永遠に被害国とは友
好関係を結ぶ気はない、という意思表示なのでしょうか。それにしても、あの日、
総理は何をしたかったのでしょう。限りなく即物的な場である駐車場で、個人的
で心情的な行為を行うというのは。カーセックスの発想だと言えそうです。打算
でそれをするのは娼婦、衝動でそれをするのは変態です。

 まさかと思われていた桜川ルート、最初から行き詰まっているのですから、奇
策と力業で突破するしかありません。



「前原誠司衆院議員=日本維新の会=は21日、総工費の75%をJRの貸付料で賄う
場合、京都府と京都市の負担はそれぞれ1%未満に抑えられるとの見通しを示した」
「総工費が5兆5000億円として、1%未満とすると500億円ほど。25年間で割ると年
間20億円」




JRの負担75%だと京都府市は各1%未満 北陸新幹線「桂川案」で前原衆院議
員が試算、産経新聞、

https://www.sankei.com/article/20260721-MI3S2MYWL5MTBPEVSZR7KMSGLA/%0A/

ひと桁足りない資金計画

 この話は別の項目でも触れましたが、もう少し詳しくやりましょう。


本質を見落とす劣化メディア【その2】 - 大法螺政治と数字に弱い記者、こ
の長屋、村山恭平

http://nagaya.tatsuru.com/murayama/2026/08/09_0826.html

 1%負担の京都府や京都市が年額20億円なら、貸付料で75%負担するJR西は
1500億円です。けれども、現在の北陸新幹線(高崎・長野・金沢・敦賀間)の年
間貸付料は500億少しなので、敦賀・新大阪はせいぜい100億といったところでし
ょう。桁がひとつ足りません。そもそも、日本中の整備新幹線路線の貸付料は全
部合計しても800億弱なので、帳尻合わせさえ、そう簡単にはできません。
 別の計算もしてみましょう。現在、大阪・敦賀間のサンダーバードの一日の乗
客数は約8000人、往復16000人 。特急券こみの料金は、平均的な区間と思われる
新大阪・金沢間で約10000円です。一日の売り上げを切り上げ1.6億、年商600億で
す。ここから払える貸付料はかなり無理をしても300億で、やはり桁がひとつ足り
ません。
 ここいらへんの話は専門家による詳しい記事がでましたので、よかったらそち
らを参照して下さい。誰が考えても不可能だということを、おわかりいただける
でしょう。


そりゃ無理だ...北陸新幹線延伸「2027年度着工」を阻む5つの巨大な壁、ダイヤ
モンドオンライン、枝久保達也: 鉄道ジャーナリスト

https://diamond.jp/articles/-/396457


 押付料の後出しジャンケン

 けれども国土交通省は諦めません。いや、おそらく諦めさせてもらえません。
整備新幹線延伸(北海道・北陸・西九州の3区間)費用のための貸付料増額作戦。
まずは既存新幹線の貸付料支払期間の倍増化です。現状30年で打ち切るところ、
もう30年貰おうという厚かましい話です。30年住宅ローンを完済した顧客に「お
代わり」と言う金融機関は、その日のうちに焼き討ちにあうでしょう。
 最初の犠牲者はJR東日本です。2028年に終了するはずの、北陸新幹線(高崎
・長野間)の貸付料175億円の支払いを、あと30年伸ばすことを要求されています。
ウッカリこれを呑むと、他の路線の約300億円も次々と「お代わり」になりそうで
す。自社管内には延伸予定がないのですから、いじめみたいな話です。


説明資料、国土交通省
https://www.mlit.go.jp/policy/shingikai/content/002009184.pdf

 こんな無茶な前例ができると、北陸新幹線のご当地JR西日本をはじめ、整備
新幹線をかかえるJR北海道・九州も他人ごとではありません。東海道新幹線で
しこたま儲けているJR東海にも確実にツケが回ってきそうです。各社とも、こ
んな負担を引き受ければ、間違いなく株主代表訴訟がおこります。
 JR東はこの提案を待ち構えていたようで、早速反撃に出ました。


国土交通省への当社の見解を記した文書の提出について、JR東日本、
https://www.jreast.co.jp/press/2026/20260731_ho01.pdf


 勝てない戦いと負けられない戦い

 この広報合戦、どう見てもJR連合軍側が有利です。国が民間企業に契約以上
の負担を求めるのは憲法違反。公共性を主張しても、「だったら、なんでそんな
契約を結んだのか」という議論なります。
 国土交通省もモチベーションが上がりません。有利な妥協に持ち込んでも、一
桁多い北陸新幹線延伸の負担を賄えるわけではなく、はじめから勝ち目はないの
です。一方、JRの方は、こんな広報資料まで出してしまったのですから、株主
の手前も妥協のハードルが上がりました。そう簡単に負けるわけにはいきません。
 国交省としては、貸付料で必要分の建設費用を賄うことは無理でも、「JRさ
んも泣いてくれたんですから、そちらもお願いしますよ」と京都府市に持って行
くつもりだったのでしょう。けれども、こんな展開になったら、住民の怒りの火
に油を注ぐことになります。「天下のJRはんが遠慮してはるのに、うちみたい
な貧乏自治体がお金出すなんて、そんな偉そうなこと、ようしまへんわ」京風大
炎上のはじまりです。
 もう少し掘り下げてみましょう。前原議員の「20億ぽっきりプラン」でも、延
伸に全くメリットのない京都にとってはボッタクリですが、金額以外も懸念材料
があります。支払いの時期です。
 いくらなんでも完成前から貸付料は取れませんが、工事費の支払いの方は着工
後は毎年のことです。となると、ほぼ確実な建築費の上振れリスク、恐らく確実
な途中断念リスク、今のままでは確実な関係企業の倒産リスク、すべてが自治体
と国にのしかかってきます。
 圧倒的に資金が不足している上に、隠れリスクもたっぷりありそうですから、
着工してしまうと、こちらにも次々とお代わりが来そうです。京都府市に妥協の
余地はありません。水際での完全撃退あるのみ。負けは財政破綻を意味します。
 京都市は、坊さんたちの「法力」を借りて、地下水の独自調査をすることにな
りました。仏教会の請願を市議会は満場一致で採択です。問題が出そうな地域で、
問題が出るまで掘るわけですから、問題が出てくるでしょう。
 行政自らこれをやってしまうと、出てきた問題が解決しない限りGOサインは
出せなくなります。つまり退路を断ったわけです。断る理由をお金にしないのが、
実にエレガントですね。


維新が狙う桂川クラッシュ

 少し引いた視点でこの夏の動きを振り返ってみましょう。北陸新幹線の延伸が
らみの話が急に活性化したのは、7月15日のルート決定からです。大議論になる
かと思っていましたが、あっさり維新が折れて桂川ルートに決着しました。昨年
の参院選、京都選挙区で維新がたてた候補者は、小浜ルート拒否の公約にしまし
た。けれども、維新は公約違反呼ばわりを覚悟で、自民に従いました。大阪都構
想への協力との交換条件とのことでしょう。ただし、その後のことも考えていた
ようです。
 ルート決定の直後に出てきたのが、今回議論している前原発言。これで景色が
変わりました。それまでJR西日本や京都府市は、明確に賛否を表明していませ
んでした。ところが、具体的で無茶苦茶な資金プランを前原氏に突きつけられた
事で、一気に反対論ないしは慎重論に傾きました。
 ところで、前原氏は新大阪延伸を本気で希望しているのでしょうか。私にはそ
うは思えません。公約違反をした維新にとって最大の悪夢は、小浜ルートが京都
府内で着工され、あちこちでトラブルがおこることです。もし、地下水枯渇や地
盤沈下がはじまったら、「あいつらが、裏切りよったせいや」となってしまい、
前原議員本人の次の選挙まで危なくなります。だから、ドサクサまぎれに工事が
始まっては困るのです。
 そこで、「JRの負担75%」という現実不可能な提案で、財源問題を関係者
に叩きつけて挑発したのでしょう。矛盾を抱えながら破綻を先送りしている計画
を、あえて前進するよう仕向けてクラッシュさせる。まさに加速主義です。
 今のとこと、このやり口は成功しています。線路貸付料をめぐって、国とJR
西日本は正面衝突しそうです。桂川の周辺で京都市による地盤調査も始まります。
オール京都で「桂川ルート」バッシングが始まれば、維新の公約違反など誰も覚
えていないでしょう。
 とっちらかった状況で、今年もまた概算要求のシーズンになりました。日本中
から減税を求められ、世界中から緊縮を求められている財務省に、小浜ルートで
の本格着工を求めても認められるはずがありません。
 例年通り、少額の調査費を求めての事項要求にとどめたとしても、最悪の場合、
着工五条件の不成立を理由に、それすら却下されるでしょう。着工の見込みがな
くなったものに、調査予算はつけられないという理屈です。桂川ルート決定のお
りに、推進側が着工五条件を達成させると言ってしまったので、財務省はお手並
み拝見モードのはずです。
 財務省が着工五条件という防波堤を死守しておかないと、日本中にある「基本
計画路線」(半世紀前にゾンビ化した新幹線計画路線)が動き出す恐れがありま
す。実際、二つの路線が「調査対象路線」、すなわち税金で調査を開始する路線
に、この夏昇格しました。どちらもB/Cなど考えるまでもない代物ですが、「桂川
ル-トがOKなら、おらが村にも新幹線を引いてくれ」という、正当な要望を断
るのは難しくなりました。なんとか、調査開始までで止めておきたいところです。
 これはかなり深刻な問題です。シンカンセンというブランドイメージがあるだ
けに、話が国際的に拡散しやすく、「ニホンハ、ザイセイサイケン、ヤルキ、マ
ッタクナイデスカ?」という懐疑論に、新たな根拠を与えることになります。円
の国際的信用にドロを塗り、最悪の場合はハイパーインフレの引き金になりかね
ません。財務省にとってもまた、負けられない戦いなのです。


若き抑制主義者の悲劇

 加速主義者がいるのなら、抑制主義者もいるのでしょうか。最近出てきました。
福井県知事です。間違いなく、一番本気で北陸新幹線が新大阪まで延伸すること
を願っている政治家です。



北陸新幹線の早期全線開業に向けて5日に東京で開かれた建設促進大会で、満場一
致で採択された決議文には、県などが求める「来年度中の認可・着工」の文言は
盛り込まれておらず「一日も早い全線開業」という表現に留まりました。

- 中略 -

石田嵩人知事:
「令和9年度の認可着工は福井県としては実現可能だと考えているが、地下水への
影響や地元負担の課題解決についてスケジュールありきで進めるべきではないと
いう意見もあった。それを受け、令和9年度の言葉は文書にあえて記載しなかった」



沿線府県と福井県に"温度差" 北陸新幹線延伸の認可・着工時期 国への要
望に「来年度」の記載見送る 「スケジュールありきではない」意見を尊重、福井
テレビ、

https://www.fukui-tv.co.jp/?fukui_news=%E6%B2%BF%E7%B7%9A%E5%BA%9C%E7%9C%8C%E3%81%A8%E7%A6%8F%E4%BA%95%E7%9C%8C%E3%81%AB%E6%B8%A9%E5%BA%A6%E5%B7%AE%E3%80%80%E5%8C%97%E9%99%B8%E6%96%B0%E5%B9%B9%E7%B7%9A%E5%BB%B6%E4%BC%B8

 読んでいて、せつなくなります。ここで採択されたのは、あくまで決議文です。
「米原・小浜両ルートの同時着工」「金沢新大阪間にリニアを」......はさすがに
ダメですが、スローガンなんですから、多少は無理なことでも発表できます。
「着工五条件にこだわらない政治決断を」とか「まず小浜までの即時先行開業」
などというのは、盛り込んでも違和感はありません。
 けれども、今回は「来年度中」というキーワードを「あえて」封印しました。
これは、京都の反対派(というより普通に生活したい京都市在住者全員)を刺激
しないこと、また、財源問題が厳密かつ詳細に(というより普通に)議論される
ことも避けようとしているように見えます。つまり、加速主義的衝突をなんとか
止めさせようとする、ある種の抑制主義なのでしょう。
 極めて理性的な判断です。小浜ルートが来年度中に破綻するのを防ぐには、こ
れしかないでしょう。けれども、いまさら議論のスピードを落としたところで、
新たな展望が開けるわけではありません。潤沢な財源や画期的なトンネル掘削技
術が、天から降ってくるころは期待できないからです。また、それ以上に、沿線
人口の減少や国や自治体の財政悪化が進めば、さらに不利な状況になります。
 知事にとっては苦渋の決断です。建設促進大会の流れが抑制主義的になってい
ても、福井県の代表者が「何が何でも来年度」と言えば、採択される可能性が高
かったはずです。「これでは次の選挙を戦えない」とか「ここで妥協すると、永
遠に着工できない」という危惧も、ちらっと知事の頭をよぎった事でしょう。ど
んな犠牲をはらってでも、小浜ルートを生き残らせた......若い知事の決意には心
を動かされるものがあります。
 けれどもそれだけに、実現不可能な計画を立ち上げて福井県民に空しい期待を
抱かせた、初期の推進者は罪深いものだと思います。小浜ルートが完全消滅した
時点で、この誠実な若手知事には、「北陸新幹線をつぶした男」の烙印が押され
そうです。けれども今となっては、もう誰にもそれを回避する手段はなさそうで
す。真珠湾なくしてポツダム宣言なし。無能で無責任な権力者たちのツケは、必
ず次世代の若者に回ってきます。石田知事は令和の平敦盛なのでしょうか。


超絶美少年の悲劇!『平家物語』敦盛最期ってどんな話?、和楽、
https://intojapanwaraku.com/rock/culture-rock/190440/



本質を見落とす劣化メディア【その2】 - 大法螺政治と数字に弱い記者 i>
http://nagaya.tatsuru.com/murayama/2026/08/09_0826.html
本質を見落とす劣化メディア【その1】 - 震災は劣化をあぶり出す
http://nagaya.tatsuru.com/murayama/2026/08/06_1820.html

もよかったら、読んでみて下さい。


撒き餌にはまるメディア

 これまでの話だけなら、メディア記者は理科系に弱いだけということになりま
す。私の学生時代から、彼らは「僕ら文系だから」とまるで問題意識がありませ
んでした。だったら、地球温暖化に警鐘を鳴らしたり、AIの普及に悪態をつい
たりしなければいいと思うのですが......
 けれども、文系の方はバリバリかというと、頼りない限りです。目先の話題に
引っ張られすぎるのです。今国会の終盤の話題の中心は、皇室典範(略してコテ
ンパン)と国旗です。通常国会中は総理大臣の悲願であるはずの減税はほとんど
無視されました。
 ニュースの優先順位を編集者が決めるのは当然ですが、今から1年後に物価で
苦しむ人と、日の丸を燃やしたい人と、自分の子供を天皇にしたい独身男性と、
どれが一番多いかを考えてみたりしないのでしょうか。また、なんで「悲願」を
2年間限定にするのでしょう。想い出作りみたいな話です。
 ちなみに、この騒ぎの中で皇室に養子に行くのは、皇居前広場で日の丸を燃や
すのと同じぐらい、国民の顰蹙を買うんじゃないでしょうか。

 キング・オブ・劣化のニュース解説

 ぼやきの小ネタ集はこれぐらいにして、最後は華々しくいきましょう。最初か
ら最後まで分析が無茶苦茶という最悪のニュース解説です。内容は、今年の全国
学力テスト(中3の国語・数学)で、読書時間が長い生徒の成績が中程度の生徒
より劣っていたことの分析です。リンクをつけますが、半年ぐらいでリンク切れ
になりそうですから、細かく引用しながら、突っ込んで行きます......訂正、どう
やらアーカイブ化する気のようです。どういう神経なんでしょう。リンクをたど
れば、おそらくTBSが停波するまでは読めそうです。



"長すぎる読書"が正答率低下に?「逆U字現象」とは 読書と学力テストと
の相関関係は?【Nスタ解説】、TBS、

https://newsdig.tbs.co.jp/articles/-/2848139?display=1


https://newsdig.tbs.co.jp/list/program/N%E3%82%B9%E3%82%BF

 最初に結論を言いましょう。「いまどきテレビ番組なんか作っているマヌケや、
それにノコノコ出てきてコメントする三流学者や、見るからにアホそうな評論家
は、読解力も知的レべルも低く、そのことに劣等感を持っているので、統計を曲
解して書物そのものを侮辱する」......と主張するのと同じぐらい、偏見に満ちた
解説です。
 物好きと言われそうですが、コーナーの最初から細かく引用して批評します。


最初から嵐の予感



「子どもの読書に関する研究を行っている北里大学一般教育部の猪原敬介准教授
によると、この逆U字現象は2026年が偶然ではなく、毎年起こることだといいま
す。」

 いきなり「偶然」という言葉の誤用です。もとのデータは「小学6年生と中学
3年生の約200万人を対象」の「全国学力テスト」ですからサンプル数は十分にあ
ります。だから、2026年単独のデータでも偶然ということは確率上あり得ません。
何らかの要因(ノイズ)で、理論的に不適切思われる数値が出たとすれば、それ
は「誤差(を含む)」と呼ぶべきです。
 本題にはあまり関係ない用語ミスですが、統計を扱う研究者の発言なら、かな
り恥ずかしいものですし、取材者の聞き間違いなら別の意味で問題外です。この
段階で「大丈夫かいな」と思ってしまいます。



「読書が好きな人が成績がいいということは、読書を多くすれば成績が上がると
思いますが、実はそうではないんです。」

 思いません。理由は二つ。まず、今回は数学の成績の話も出てきています。
「読書をすれば、数学の成績が上がる」とは、あまり自信を持って言える話では
ありません。
 もっと本質的な理由は、相関関係は必ずしも因果関係とは限らないということ
です。例を挙げましょう。「蝉の鳴く日はかき氷が売れるから、かき氷を販売禁
止にすれば蝉は鳴かない」は間違いですね。「暑さ」という共通の原因を無視し
て、存在しない直接の因果関係を主張しているからです。
 番組の例で言えば、「読書が好きな人が成績がいい」のは、勉強重視の家庭の
子供は、本と親しむことが多く、また数学も塾などで学ぶことも多い、とでも考
える方が常識的な解釈です。だから、本嫌いの生徒が急に読書をしたのに成績が
上がらなくても、何の不思議もありません。「思いますよね」と言われても、首
をかしげるばかりです。


つまらないけど常識的な解釈



「中学3年生を対象にした『学力テストの正答率と読書時間』の関係を見ると、読
書を全くしない人に比べると、読書をする人の方が学力テストの正答率は上がり
ます。ですが数学では、1日10分以上30分未満をピークに下がっていきます。国語
でも同様に1日30分以上1時間未満をピークに少し下がっていきます。」

 一日、10分以下の読書をしない中学3年生の多くは、そもそも「知的(テストで
計れるという意味での)」なことが得意ではない、というのは常識的な話で、ニ
ュースでわざわざ取り上げることでもないでしょう。
 もちろん、「知的」でなくても、たとえばスポーツや物作りなど優れたことが
ある生徒もいますし、中学卒業後に急に「知的」になることもよくあります。け
れども、この番組の趣旨は現状での「学力テスト」の高得点をとりあえず肯定的
に考え、それに対する読書の影響を見るもののはずですから、以下これを前提に
議論します。
 まず、数学の方ですが、一日30分以上の読書者は得点が下がるという負の相関
は、いわゆる文系理系論で説明できます。文学や政治経済が好きというタイプの
生徒と、計算や論証や実験が好きというタイプの生徒がいて、受験学年の中三で
一日に30分以上読書するのは前者であるという、これまた常識的な解釈がありま
す。少なくとも、「そういう生徒から本を取り上げたら数学の成績が上がる」と
いう気はしません。
 国語については別の解釈があります。長時間読書者で成績が下がっているのは
「2時間以上」と答えた生徒集団だけですが、彼ら全員が、本当に2時間以上読ん
でいるとは限らないのです。
 この「2時間以上」は、この設問に6つある選択肢の最初のもので、「選択肢を
読み違えるおっちょこちょい」「読む気のない不精者」「そろそろ飽きてきたや
つ」や「テスト自体に反感を抱く生徒」などの「問題児」たちは、最初の選択肢
を機械的に選んでしまいやすく、不真面目な彼らは実力よりも点数も低いという
可能性も高そうです。「2時間以上」組は全体のわずか3%ほどですから、「問題
児」たちの低得点が紛れ込めば、影響が大きいのです。
 この設問の2つ先には、「放課後や学校が休みの日に、本(教科書や参考書、漫
画や雑誌は除く)を読んだり、借りたりするために、地域の図書館(電子図書館
を含む)にどれくらい行きますか」という設問があります。これに対して、最初
の選択肢の「だいたい週に4回以上行く」という、およそありそうもない回答を
した生徒は53.3というかなりの低得点になっています。図書館の近所に住むのは
低学力のもとなのでしょうか。
 これ以外でも、数字で答える設問の最初の選択肢は、内容とは関係なくほとん
ど(11問中9問)が、2番目の選択肢よりも低い得点になっています。「問題児」
たちの仕業の可能性が高いのではないでしょうか。
 身も蓋もないことを言ってしまうと、今回の全国学力テストに限らず、アンケー
トの結果とテスト成績とを比較する時の「逆U字現象」とやらは、かなりの部分
がこの陳腐な「問題児集中」論で説明できてしまいます。
 なにも、「学力低下の原因が長時間読書である」という新奇な仮説を持ち出さ
なくても、常識的な解釈で十分なのです。



全国−生徒(国・公・私立)【表】、国立教育政策研究所、
https://www.nier.go.jp/26chousakekkahoukoku/factsheet/data/26m_401.xlsx




選択肢別平均正答率・平均IRTスコア[児童生徒質問](小・中学校共通)、国
立教育政策研究所、

https://www.nier.go.jp/26chousakekkahoukoku/factsheet/data/26pm_427.xlsx


学力伸ばす謎の活動



「長時間の読書が学力を下げてしまう要因の一つとして、中学生は小学校の時に
比べると部活動や受験勉強など自由時間が短くなり、長すぎる読書が他の活動の
時間を奪ってしまうためではないかということです。」


 思いつきのような仮説に、細かいアラ探しをしても仕方有りませんが、「長す
ぎる読書が他の活動の時間を奪ってしまう」ことが「学力を下げてしまう要因」
だと言っているとしか読めません。「他の活動」って何なんでしょう。学校の授
業でもなく、受験勉強でもなく、自由時間にする読書以外のなんらかの「活動」
が、学力を伸ばしているというのでしょうか。
 もう一度確認しておきますが、ここで言う学力とは共通テストの点数のことで
す。読書時間1時間前後の中3生は、授業と受験勉強以外の「謎の活動」をして数
学力を鍛えているのでしょうか......だとしたら、恐ろしく不気味な話です。国語
にしたって、受験勉強よりも読書よりも有効な「謎の活動」がある、というので
すから。


うっかりコメント、曲解で恥さらし?

 次は組織開発コンサルタント・著作家の方のコメントです。でも、これまでの
話題と、話がかみ合っていません。



「私の子どもも携帯を見ている時間の方が長いです。本でしか得られない効用は
どこにあるのかは、大人も考えなくてはいけないことだと思います。読書経験を
いかに開くかということが大切になってくると思います。」

 「著作家(←普通は「作家」か「著述家」といいます)」が「長いです」など
という間違った丁寧語(さぼり敬語)を使っていることや、本題とは無関係な家
族のプライバシーを開示していることは、いまさら気にしないとしても、何やら
違和感の強いコメントです。
 理由は、ここまで、「本では得られない効用(謎の活動?で得られる効用)」
について議論していたのに、いきなり「本でしか得られない効用」の話になって
いるからです。そして最後に「読書経験をいかに開」けば数学の点数が上がるの
かという、意味不明な世界に突入します。
 ここから先は、私の想像ですが、この「著作家」の方はインタビューで、一般
的な読書と発達の話をしたのに、編集の都合で無理矢理、学力テストでの読書害
悪論に組み込まれてしまったのではないでしょうか。だとすれば、番組に対して
抗議しておいた方がいいと思います。恥をさらしてますよ。



「読書好きだからこそ『お気に入りの作家やシリーズに没頭する』ということを
やりがちかもしれません。しかし、北里大学の猪原淳教授によると、他の作家の
書き方・テーマに触れる機会が少なくなり、読解力や語彙力UPにつながらない可
能性もあるそうです」

 こういう番組で名前を出されるのは一種の災難です。「読書好きだからこそ
「『お気に入りの作家やシリーズに没頭する』ということをやりがち」という怪
しげな仮説は、番組のキャスターが言い出したもので、教授の見解ではありませ
ん。
 この仮説の致命的な弱点は「2時間超組」よりも読書時間の短い「1時間組」
や「30分組」が、多様な読書をしていることを前提にしていることです。何の
根拠があるのでしょう。またもしそうなら、長すぎる読書ではなく偏った読書が
原因のはずです。
 数学に関しては全く説明になっていません。「文章題には読解力が関係してい
る」なんていうのはこの場合は屁理屈です。問題文を読んでみましたが、普通の
中3が誤読するような設問はありませんでした。これを理解できない生徒が、わざ
わざ毎日2時間以上読書をするとは思えないのですが......


令和8年度全国学力・学習状況調査の調査問題・正答例・解説資料について、国
立教育政策研究所、

https://www.nier.go.jp/26chousa/26chousa.html


拡散する話題、加速する劣化



「国際的な学力テストで、"大人も"本の読みすぎによる"逆U字現象"が起きて
いるといいます。毎日読む人より週に1回程度読む人の方がテストの成績が高いと
いう結果が出ています。」

 出典も示さずに出してきた怪しげな国際データですから、コメントのしようが
ありませんが、あえて言えば年齢の影響ではないかということです。
 毎日読書をする人の中には、かなりの割合で高齢者が含まれていそうです。彼
らが、週に1度しか本を手に取れないほど多忙な現役社会人と学力テストで勝負
したら不利を免れません。



「国語に関する世論調査(2023年度)によると、「1か月に何冊の本を読む?」
(16歳以上/電子書籍含む/漫画・雑誌は除く)という質問に対して、「読まない」
と答えた人は62.6%でした。」

 それは分かりましたが、その人たちの学力はどうなってるのでしょうか。番組
のテーマは「本の読み過ぎの悪影響」のはずです。最後に「読まない」人の話を
出して、いったい何を言いたいのでしょうか。



「井上貴博キャスター:
あくまでも学力テストとの相関関係なので、人生を豊かにする曲線とは全く別だ
と思います。何でも熱中しすぎると、相関関係で時間が取れなくなるのは当然だ
と感じます。」

 「人生を豊かにする曲線」とは意味不明ですが、たいした意味のないことだけ
は確かなようです。結局、読書時間が長いと、例の「謎の活動」の時間がとれな
くなるというのが結論ですね。
 今年度の全国学力テストのある結果を、あまり指摘される事の無い「長すぎる
読書の問題性」で説明しようとしたまでは良かったのですが、識者2人からそれを
裏付けるコメントがとれず、とりあえず思いついた仮説を強引にこじつけて、番
組を作ってしまった感じです。
 厳しいようですが、キャスターの能力不足としか言いようがありません。特に
致命的だったのは、統計に関する不勉強で、最後の最後まで無知をさらけ出して
しまいました。
 「相関関係」という基本的な統計用語の使い方(2回目)は、「この番組の制作
者たちが言いたい事は、『本を嫌っていると、私たちみたいなバカになるよ』で
ある」と解釈するのと同じか、それ以上に不適切だと思われます。



本質を見落とす劣化メディア【その1】 - 震災は劣化をあぶり出す
もよかったら、読んでみて下さい。
http://nagaya.tatsuru.com/murayama/2026/08/06_1820.html


超現実、天空に浮かぶ絵に描いた餅

 メディアの劣化は、うちの定番ネタである北陸新幹線関連でも目立って来まし
た。先日、凄い発言がありました。例によって維新の議員からです。

 「前原誠司衆院議員=日本維新の会=は21日、総工費の75%をJRの貸付料で賄
う場合、京都府と京都市の負担はそれぞれ1%未満に抑えられるとの見通しを示し
た」「総工費が5兆5000億円として、1%未満とすると500億円ほど。25年間で割る
と年間20億円」


JRの負担75%だと京都府市は各1%未満 北陸新幹線「桂川案」で前原衆院議
員が試算、産経新聞、

https://www.sankei.com/article/20260721-MI3S2MYWL5MTBPEVSZR7KMSGLA/%0A/

 当然メディアは激怒ないし嘲笑......してませんね。こんな荒唐無稽な数字を見
せられて、暗算レベルのチェックもしないのでしょうか。
 京都府市の負担が各「1%未満とすると500億円ほど。25年間で割ると年間20億
円」なら75%のJRは最低でも3兆7500億。これを貸付料の発生する30年で割ると、
年1250億円。一日あたり約4億円。敦賀・新大阪間の利益でまかなうのは、どう考
えても無理です。この程度の計算(かけ算・割り算のみ、電卓アプリ使用可)を
記者会見場でして、追求質問をする記者はいなかったのでしょうか。
 ちなみに、日本中の整備新幹線の貸付料は合計年770億ほどです。その倍ほどの
額を北陸新幹線延伸のためだけに、JR西日本1社に負担させようというのは、
だれがどう考えても実現不可能。マルグリッドもビックリの絵に描いた餅です。
どうして、「ムリムリムリ」と、どのメディアもはっきりと指摘しないのでしょ
うか。
 案外、一番頭を抱えているのは、当の前原議員かもしれません。「これだけボ
ケとるのに、なんで誰もツッコまんのや」などと、ぼやいているのではないでし
ょうか。この話は、近日出稿予定のの記事「小浜ルートの加速主義者」に続きま
す。


整備新幹線の貸付制度等について、国土交通省、p11
https://www.mlit.go.jp/policy/shingikai/content/001967864.pdf




ルネ・マグリット「ピレネーの城」、アートペディア、山田太郎、
https://www.artpedia.asia/the-castle-of-the-pyrenees/


 希土も希望もない話

 今年(2026)の2月。一億日本人の希望を乗せた船が、静岡県の清水を出港しま
した。大谷さんも長友さんも乗ってませんが、一部の国民と一人の総理は興奮し
ていました。南鳥島のレアース泥狙いの宝船の出発です。それにしても「レアアー
ス泥」という言い方なんとかなりませんか......レアアース泥棒の略に見えます。
 その海賊船じゃなかった宝船からの第一報は「複数の希土発見」。日本海会戦
の「右舷ニ複数ノ敵艦見ユ」ぐらいに勇壮に聞こえますが、大した意味はありま
せん。希土類元素はたいして「希」なものではないからです。普通の岩石にも微
量ですが含まれていて、バルチック艦隊ほど珍しくはありません。
 また、自然界では希土類元素は「16人全員」で集団行動しますから、どれか
ひとつだけが鉱石や泥から見つかることはあり得ません。複数あって当たり前。
大喜びする事ではありません。「右舷ニ複数ノかもめ見ユ」ぐらいの話です。


「レアアース」国産化へ第一歩!南鳥島近海からレアアース含む泥を採取 地
球深部探査船「ちきゅう」が世界初の試み、 FNNプライムオンライン、

https://www.fnn.jp/articles/-/995785?utm_source=headlines.yahoo.co.jp&utm_medium=referral&utm_campaign=relatedLink

 大事なのは、わざわざ深海底から引き上げたくなるほどの、高品質の泥なのか
ということです。けれども、希土類含有量など具体的な数字は一切公開されませ
んでした。7月になって、希土類の中での内訳が発表になりましたが、希土類全体
の濃度は秘密のままです。
 つまり、「どんな希土が多いか」は発表するけど、「全部でどれぐらいあるか」
は伏せているわけです。でも実は、この泥についてのデータはすでに大学の紀要
に概要が載っていて、誰でも無料で簡単にWebで閲覧できます。


南鳥島沖で試掘のレアアース、読売新聞、
https://www.yomiuri.co.jp/science/20260724-GYT1T00145/




レアアース泥の成因解明、千葉大学、
https://orceng-cit.jp/project/detail/15


何はなくともまずネオジウム

 「ちきゅう」一派は、いったい何のために誰に対して、情報を隠しているので
しょうか。防衛上の理由や産業上の都合は考えられません。WEB公開レベルの情報
を見落とす専門家はいません。プロ相手ではなく素人衆がターゲットの話です。
 いまのところ、この南鳥島プロジェクトは好感をもって迎え入れられています。
けれども、日本最大の客船「あすかⅢ(52000t)」よりもでかい「ちきゅう
(57000t)」を動かすのですから、当然巨費がかかります。世論や政権の支持が
なくなれば、たちまち予算を切られますから、ウソにならない範囲で広報では話
を盛るのでしょう。元研究者として気持ちはわかりますが、やり過ぎると信用な
くします。
 この手の希土類がらみの問題は、根拠や詳細まできちんと理解するのは、一定
の専門知識が無いとしんどいので、近々ゆっくり記事で解説するつもりですが...
...難航しています。
 かなり複雑な話の上に、普通の化学とは微妙に違う希土類独特の景色があった
りで、自分でもゲッソリするぐらい、解りにくい解説になるからです。実は5回ぐ
らい自主ボツで、最初から書き直しています。というわけで、今回はかなり説明
を省略して話をすすめます。
 日本で使われる希土類元素のうち、おそらく一番不足しそうなのはネオジウム
です。最強の永久磁石をつくる原料で、乗り物などほとんどの電動機械に大量に
使われるからです。
 同類のプラセオジウムとの合計で、2024年の我が国のネオジウムの使用量は
5500tほどとのことです。これだけの量のネオジウムを精製できるなら、そのほ
かの希土類元素は、そのときの副産物だけで全て賄えそうです。なにせ、希土類
元素は常に団体行動しているわけですから。


日 本 の レ ア ア ー ス 需 要 推 移、(財)新金属協会、
https://www.jsnm.or.jp/news/files/2025/04/JSNM_REE_Domestic_Demands_2024.pdf


タイタイニックを引き上げますか

 それでは計算をしてみましょう。レアース泥中のネオジウムとプラセオジウム
の濃度。合計で160ppmほどです。ppmとは100万分の1ということですから、豪快に
計算できます。

 5500 t / (160/1000000) = 3500 万t

 タイタニック号(4700t)の7000隻分以上の泥で、これを毎年6000m?の海底か
ら吸い上げる必要があります。もちろん、このレアアース泥だけで全使用量を賄
う必要はないのですが、1%分でも月に5回の「タイタニック号引き上げ」になり
ます。
 つまり、今回発見されたぐらいの品質のレアース泥では、とてもビジネスには
ならないということです。映画「タイタニックⅡ......もうひとつの悲劇。氷山の
白熊母子を救出せよ」でも制作して、興行収入20億ドルぐらいを狙うほうがマ
シというものです。衝撃のラストは、タイタニック号に扮した「ちきゅう」が、
衝突直前に自爆するシーンで行きましょう。CGには無い迫力がウリです。



タイタニック号、wikipedeia、
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%BF%E3%82%A4%E3%82%BF%E3%83%8B%E3%83%83%E3%82%AF_(%E5%AE%A2%E8%88%B9
)

 全国紙の編集局には、たいてい「科学部」というのがあり、最低でも数人は化
学やら資源のやらの担当がいるはすですが、今からでも「あれ、見込みないよ」
と声を上げた方がいいのではないでしょうか。

 気の重い原稿です。劣化について語るのは簡単です。昔は良かったという話...
...テーマにかかわらず年寄りの繰り言で、多忙で健全な若者は恐らく無視するで
しょう。暇で不健全な若者は劣化の最先端にいますから、私の記事なんか読まな
いでしょう。それ以外の普通の若者を想定して、情理を尽くして文章を練りあげ
ると、今度は怒らせてしまいます「あなた方世代の責任でしょ」。まさにその通
りなのですが、大汗かいたあげく言い訳まで準備するのはタイパの悪い話です。
いつものことですが。


 社長様は神様ですか

 発生直後の社長インタビューで、「確認ですけど、『中に入っていいよ』とア
ナウンスとかは?」と質問した記者がいたそうです。「すると、吉田社長は、心
外だとの表情でこう説明した。『そういったことは一切ございません。明確に否
定しておきます』」そうです。
 まず「確認ですけど、」というのも馬鹿げた話。アナウンスが有無の確認なら、
なんでわざわざ、現場の駐車場にいなかった人に質問するのでしょう。おまえが
取材しろよ......いや、よく考えれば取材以前にわかることです。
 地震後すぐに買い物客の避難誘導がはじまり、建物外に全員の避難完了。さて、
誰がどうやって、アナウンスとやらをするのでしょうか。従業員は駐車場などに
散らばっています。それに、強力な放送設備があったとしても、誰がどこでマイ
クを握るのでしょうか。
 避難の手順を考えてもおかしな話です。このイオンモールは防災拠点としての
利用も想定されていたそうですから、安全確認を迅速に行い被災者の受けいれる
準備を始める可能性はありました。
 けれども常識的なマニュアルなら、最初にするべきなのは、「保安要員は安全
確認のために持ち場に戻って下さい」というアナウンスのはずです。ただしもし、
このような指示が出されていれば、さらに数十人単位で犠牲者が増えていたはず
です。それにアナウンスをした本人はどうなっていたのでしょう。「確認ですけ
ど」そんな話はありません。
 そもそも「中に入っていいよ」などという呑気な許可を、誰が誰に何のために
するのでしょうか。そんなお気楽な状況なら、はじめから避難などする必要はな
かったのです。
 この間抜けなインタビューに、社長が「心外だとの表情」になったのは、安全
管理を疑われたからではないでしょう。忙しい時に絵に描いたような愚問をぶつ
けられたからでしょう。
 「予見できなかったというは、それでいいんですかね?」というのも無意味は
質問です。神ならぬ身の社長に地震を予見できたはずがありません。爆発につい
ても「予想通りの迫力。今後もあちこちのモールでドカンドカンと行きますから、
応援の方よろしく」とでも答えると、記者は思っていたのでしょうか。
 一方、「ガス漏れの可能性」とか「戻ろうとする従業員の抑制」などの実務的
な問題ついては、爆発原因すらはっきりしていない段階で、軽々に社長が口にで
きる話ではありません。どちらにせよ完璧な愚問だったわけです。
 質問内容や態度があまりにも低レベルな記者が混じっていると、取材者船員が
取材対象に舐められることになります。「マスゴミのバカども相手に誠実に説明
しても、どうせまともな記事にはならんわ」と思われてしまうのは、他の記者に
は迷惑極まりない話です。

https://www.j-cast.com/2026/07/30516778.html?p=all
「想定外でいいのか」「戻っていいとアナウンスは?」 イオン社長会見での
しつこい記者質問に疑問も続々、J-CASTニュース、野口博之、



遅れてきた優等生も一声だけ

 既存メディアがイオンモール熊本での群発愚問で顰蹙を買う一方、それなりに
大きな事故なのに、あまり追求されていないのがコストコ熊本御船倉庫店での売
り場崩壊です。この事故は、地震後すぐに各種NSNに動画付きで情報が流れました。
それを受けて最初に報道したのが、ネットメディアのJ-CASTニュースでした。


熊本地震でコストコの商品落下「重く受け止めております」 地震大国で「高
積み陳列」が心配...IKEAにも聞いた、J-CASTニュース、

https://www.j-cast.com/2026/08/02516811.html?p=all

 「既存」メディアの続報を待っていたところ、ほぼ一週間後の8月4日、やっ
とNHKの地上波のニュースで見かけました。けれども、奇妙なことに他局や他紙は
追いかを報道をする様子がありません。そのNHKも続報はないようです。


コストコ 熊本地震で5人けが "一部商品落下 重く受け止める"、NHK、
https://news.web.nhk/newsweb/na/na-k10015195951000

 この事故が重大だと思われるのは、最低でも20kgはある荷物用パレットが、
目測では3mぐらいはありそうな棚から落下したからです。ことの危険性は、パレ
ットメーカーからも指摘があります。死者が出なかったのは、全くの幸運だった
と言えるのではないでしょうか。


コストコ熊本の商品落下はなぜ起きたのか、パレット1枚20kgが落ちる高積み
陳列のリスク、プラスチックパレット株式会社、

https://plastic-pallet.co.jp/costco-kumamoto-pallet-rack-20260803/

 けれどもコストコの広報ページには、店内でおこった人身事故への言及は、8
月4日現在、全くありません。それどころか、「この度の地震により被災された
皆様に、心よりお見舞い申し上げます。発生した地震の影響、およびお客様と従
業員の安全確保を最優先に考慮し、誠に勝手ながら、以下の通り臨時休業とさせ
ていただきます。」などと完全に他人事です。


重要なお知らせ、コストコ、
https://www.costco.co.jp/ImportantInformation

 NHKの取材に対する対応でも、「一部商品の落下を防げなかった事実につい
て、大変重く受け止めております。この度の事象を真摯(しんし)な教訓とし、
今後より安心してご来店いただけるよう、安全管理体制の再確認と、さらなる安
全確保の徹底に努めてまいります」とコメントしながらも、怪我人についてはJ-
CASTニュースに「会員様および従業員に命に関わるような重篤な被害の報告は受
けておりません」などと答えています。それにしても「一部商品」ってどういう
ことですか。全部も商品が落ちる事なんか、もともとありそうもないですから、
話を小さく見せるためだけの見苦しい表現です。
 店内でおこった事故なのですから、「報告」など当てにせずに、怪我の原因、
程度(打撲なのか骨折なのか)、被害者の年齢性別(「30台の男性」など)、容
態(入院中かなど)、予後(全治日数など)といった詳細を把握し、プライバシー
にも十分配慮しながら広報するべきです。
 こうしたことを怠っているのですから、コストコは事故をもみ消そうとしてい
ると勘ぐられても仕方ありません。また、しつこく取材して「なぜ事故の詳細を
広報しないのか」を問いたださない各局・各紙も、もみ消しに加担したと言われ
てしまいそうです。
 実はコストコが震災時に人身事故をおこしたのは、今回で少なくとも2回目で
す。「東日本大震災で東京都町田市のスーパー「コストコ多摩境店」の駐車場ス
ロープが崩落し8人が死傷」して、刑事事件にまでなっています。
 このときも今回も、複数いるはずの被害者が、誰一人として声をあげていない
のが不気味です。


コストコ崩落事故で高裁判決が責任言及 設計責任者ら3人再び不起訴 東京
地検、異例の再捜査、産経新聞、

https://www.sankei.com/article/20170718-I4BUQBEGTFMR5EI2TXEF3EPSTQ/

 立地や事故の状況は今回とは異なりますが、どちらのタイプの事故も他の大型
商業施設では、ほとんど例がないもののように思われます。地震被害の少ない国
で生まれた「倉庫型」のビジネスモデルと日本の耐震基準の間に、規格上のエア
ポケットのようなものがあったとすれば、コストコにも同情の余地はあります。
 けれども、従業員、顧客、建築関係者、同業他社などと事故の情報共有をして、
再発防止に取り組む気が今後も無いのなら、悪い事は言いませんから、大惨事が
起こる前に地震国からは撤退することをおすすめします。
 というようなことを、なんで既存メディアは論評しないのでしょうか。コスト
コはyahooなどにも広告をバンバン打っている企業だということが、微妙にか露骨
にか知りませんが影響を受けていないことを祈ります。