迷宮駅に消えた最初の目的 【北陸新幹線 その3】

遅くて高い北陸新幹線

 こんばんわ。村山恭平です。
 北陸新幹線の新大阪・京都間でコースが直線ではなく東に膨らんでいる話をしました。このため不思議かつ不都合なことが起こっています。ほとんどの北陸新幹線利用者にとって、延伸完成後もこの区間には乗る理由がないのです。京都駅で乗り換えられればそれで十分だからです。理由は2つあります。

1)北陸新幹線が速くないこと
2)新大阪駅は便利な駅ではないこと

 順に見ていくことにしましょう。
 まず、北陸新幹線の列車(推定)と現在するJRの主な列車との、新大阪・京都間の所要時間と平均的な運転本数を並べてみましょう。

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 目に付くのは北陸新幹線の遅さです。同じ駅間なのに、最速列車の「はくたか」は「のぞみ」よりも40%以上、余計に時間がかかっています。考えられる原因は2つ。ひとつはほぼ直線的に走る「のぞみ」よりも、「はくたか」の走る北陸新幹線の曲線コースは速度を出しにくいこと。もうひとつはこの迂回のため距離が長くなることです。

 このため、東海道山陽新幹線から北陸新幹線に乗り換える場合、下りで名古屋方面から来る場合はもちろん、上りで岡山方面から来る場合も京都駅乗り換えの方が早くなります。 新大阪延伸は、東海道新幹線の横に「並行在来線」をわざわざ新設するようなものです。

 新大阪を使うと500円損

 それでは、JR各線の他に3本の地下鉄と2本の私鉄が乗り入れる関西最大の旅客ターミナルである大阪駅から、北陸方面に向かう場合はどうでしょう。大阪駅から新大阪駅に向かう東海道線(京都線)の電車のうち、1時間に4本ある新快速電車は新大阪から最速23分で京都まで行けてしまいます。その差は「つるぎ」とならわずか2分、「はくたか」とでも4分です。
 一方、「はくたか」や「つるぎ」は、せいぜい毎時各1本程度しかないので、「新大阪でこれらを待たずに、さっさと新快速で京都まで行っても、そこで同じ列車に乗り換えられる」という現象がよくおこるはずです。また、乗りたい列車の発車よりも20分ほど早く新大阪に行けば、京都までの特急料金がほぼ確実にいらなくります(500円ぐらいの違いになりそう)。多くの関西人はこちらを選ぶでしょう。
 まとめて言えば、大阪駅よりも新大阪駅に行く方が便利な一部の地域を例外として、ほとんどの関西人は、北陸新幹線に乗り換える場合は京都駅を選びそうだということです。

 もっと身も蓋もない事をいえば、1時間ぐらい早く出発して新快速で敦賀まで湖西線経由で行ってしまう手もあります。この場合、新大阪・敦賀間の特急料金(2000円程度か)は全く不要になります。実際、「サンダーバード」だけで金沢には行けなくなった今、関西から北陸へ移動の主流は、この新快速から新幹線に敦賀で乗り換えるルートになるという話もあります。やや極論のようにも思えますが、学生の帰省などには向いているでしょうし、琵琶湖の眺望をゆっくり楽しめるという特典もあります。
 いずれにせよ、「はくたか」や「つるぎ」の最大のライバルが、同じJR西日本の新快速というのは皮肉な話です。

 では将来、京都駅を通らずに名古屋から新大阪駅に、リニア新幹線が乗り入れたらどうなるのでしょうか。
 この場合も、リニアで東(山梨・岐阜方面など)から来て、北陸新幹線に乗りかえるのならば新大阪まで行かずに、名古屋で「のぞみ」に乗り換えて、京都で北陸新幹線に乗るのが安くて早そうです。
 また、さらに遠方の東京や神奈川からリニアで新大阪まで来て、北陸新幹線に乗り継ぐこともあり得ません。長野回りの北陸新幹線に東京で直接乗れるからです。
 リニアからの乗客も、新大阪駅を使ってくれそうもありません。

 乗り換え駅の「点と線」

 しかもここまでの議論は、かなり新大阪駅にとって有利な想定で行ったものです。けれども、今後さらにいくつかの不安要因が現実化すると、新大阪駅を利用するメリットがいよいよ無くなり、新大阪・京都間の延伸自体が全く意味不明なものになりかねません。
 懸念の例を三つあげます。

 1)新大阪駅での北陸新幹線への乗り換えが、京都駅より圧倒的に不便になる。
 2)京都までの所要時間が、さらに長くなる。
 3)特急料金が値上げされる。

 現在、京都駅はJR線全ホームがほぼ平行に並ぶという単純な構造をしています。北陸新幹線の大深度地下ホームも同様に平行になりそうですから、改札やエレベーターの設置も比較的容易でしょう。
 ところが、新大阪駅では在来線と新幹線のホームが斜めに交わっているために、乗り換え改札は、両線の交点である場所にしかなく、増設するのは物理的に困難です。さらに北陸新幹線が来るころには、すでにリニアも大深度地下に入ってきていますから、とんでもない迷宮駅ができそうです。
 現在、敦賀駅での「サンダーバード」から北陸新幹線への乗り換えに10分程度かかるようですが、新大阪駅の規模や複雑な構造を考えれば、最悪20分以上かかっても不思議ではありません。事実上、乗り換え駅として使い物にならない可能性すらあります。
 一方、京都駅は極めて単純な構造なので、乗り換え時間は現在の敦賀駅と同じようなものでしょう。少なくとも新大阪駅よりも不便になることは無さそうです。
 極端な場合、乗り換えではなく新大阪駅で直接北陸新幹線に乗る場合でも、迷宮をかき分けて地下ホームに向かうより、「京都まで新快速で行って乗り換える方が早い」ということになり、始発駅としての新大阪駅の価値も完全になくなります。

 少し話はそれますが、大阪駅には乗り入れない北陸新幹線には、乗り換えの不便さが宿命のようについて回るでしょう。たとえば大阪駅から金沢方面に向かう場合、これまで「サンダーバード」一本で行けていたものが、北陸新幹線のせいで新大阪か京都か敦賀かのいずれかで乗り換えが必要になるのです。金沢到着がわずか30分ぐらい早くなったところで、高額の特急料金と面倒な乗り換えのために、関西人にとって北陸は遠いところになってしまいました。高齢者や家族連れのJR利用は激減し、高速バスに移るのではないでしょうか。

新快速に勝てないけれども特急料金

 次に、新大阪・京都間(第一区)のコース自体の懸念です。現在公表されている北陸新幹線の所要時間は、予定の場所に普通に線路が引けた場合の話です。ところが、すでに京都市内では水問題で、この想定になかった大幅な迂回が必要になりそうで、新大阪駅付近にも似た問題があります。第Ⅰ区の迂回が大きくなり所要時間があと5分も増えれば、「新快速より遅い新幹線」というマヌケな事になるのですから、これは結構深刻な問題です。

 三番目は料金の問題です。膨らむ追加経費を背負わされそうなJR西日本が、特急料金の値上げをせざるを得なくなった場合、JRの利用者自体が激減するだけでなく、「仕方なく」乗る場合でも安く上げるための京都駅利用の割合が、さらに上がりそうです。

 以上、三つの懸念のうちひとつでも現実化してしまうと、只でさえ少ないメリットを完全に吹き飛ばしてしまうことになり、京都・新大阪間の乗客は皆無になりかねません。
 最初の計画がいい加減なためさまざまな問題がボロボロ出てきて、つぎはぎで対応しているうちに、元の目的が消滅してしまう......この第Ⅰ区の悲しい状況は、北陸新幹線の敦賀以南への延伸そのものが抱える問題の縮図のようです