久しぶりに北陸新幹線の話です。今回は、小浜・京都ルートで唯一利益を受けると思われる小浜市について考えてみます。どんな街なのでしょうか。
福井県は嶺北と嶺南の二つの地域に分かれています。福井平野があり福井県にある九市のうち、人口上位の4市(福井、坂井、越前、鯖江)を含む7市が北部の嶺北に集中しているのに対して、若狭湾のリアス式海岸線に並ぶ小ぶりな2市4町が嶺南地方で、小浜市は敦賀市と共に嶺南地方を代表する典型的な地方都市です。
北陸新幹線の駅の選定でも、小浜市が敦賀市と共に選ばれるのは極めて自然なことです。原発立地の見返りとの風説があります。確かに、福井県の原発は敦賀・美浜・大飯・高浜と4カ所全てが嶺南にありますが、小浜には一基もなく、市街地は最も近い大飯原発からも10km程度離れています。ですから原発の補償ならば、おおい(大飯)町か高浜町が選ばれたはずです。
小浜市はどんなところか
小浜市の最新(2024)の人口は約28000人で[1]、人口問題研究所の推定では2045年には20000人を下回るとされています。北陸新幹線の大阪延伸は早くて2050年とされていますから、18000人程度で、小浜に限った話ではありませんが、コロナ後の爆速少子化を考えれば、15000人ぐらいになっていても何の不思議もありません。さらに当分の間は減少し続けると考えられます。
では、小浜に新幹線が来ればどれぐらい利用されるのでしょうか。市内居住者18000人が年に平均3回北陸新幹線で出かけるとしても、1日平均の乗降者数は300人弱で、現行の敦賀駅発の「つるぎ」の本数32本が維持されるとすると、一本あたりの乗降数は十人以下ということになります。開業時点からも人口減少が予想されますから、この数はさらに小さくなるはずです。
もう少し細かく見ていきましょう。よく延伸のメリットとしてあげられる関西圏大学などへの市内からの新幹線通学。少子高齢化が進んでいることを考えれば、完成時点での小浜市18歳人口は多くて200人。県の高卒進学率が80%で、約半数が京都か大阪に進学することを考えても、小浜市から京都・大阪に進学する子供の数は、せいぜい1学年で80人程度になります[3]。自宅が新駅(「新小浜」とします)に近く、学校も京都や新大阪に近いことが必須ですから、京都・大阪への進学者のうち5人に1人が下宿をせずに新幹線通学をするとしても、4学年で約60人。しつこいようですが、この数字もその後は減少が見込まれます。
だいたい、県外に通学する若者を優遇したところで、就職すれば大多数はそのまま転出することが目に見えています。新幹線の建設目的のひとつとして、地元就職組や県内で進学した学生よりも彼らへの配慮をあげるのもおかしな話です。
市民の利用は少数にとどまりそうですから、首都圏や関西圏からの観光客やビジネス客に期待するよりありませんが、結論を言えば残念ながらどちらも期待薄です。小浜は美しい海岸線を持つ町ですが、市内や近隣にも知名度や集客力のある観光地などはおほとんどありません。今後、海岸でリゾート開発をしたとしても、「新小浜駅」から遠くバスかタクシーでしか行きようがない場所には観光客は集まりません[4]。
ビジネスにしても、熊本のTSMCや石川のコマツ並とは言いませんが、従業員数200人以上の事業所はなく、県外とのビジネス客の行き来は多くて一日あたり十数人と言えるでしょう[5]。
どう考えても、新幹線のメリットを生かせるほどの需要が小浜市にあるとは思えないのです。
なにかと不便な「新小浜駅」
さて、予定される「新小浜駅」の位置は、小浜線沿線ではあるのですが小浜駅から1.5km、東小浜駅から1kmの地点にを作ることになりました[6]。かりに小浜線から乗り換えるとすれば運行本数は一日12本ですから、大幅に増便しなければ、「つるぎ」の32本に合わせることは出来ません。(実質)並行在来線の大増便などJR西日本が飲むとは思えません。
「新小浜駅」前バスターミナルを作って在来の路線バスを停車するにしても、乗降客数が一日300人では大したネットワークは出来そうもありません。唯一考えられるのは、近くにある小浜インターから舞鶴若狭道に乗る高速バスですが、東側の三方五湖、美浜方面は、同じ北陸新幹線で「はくたか」も停まる敦賀を拠点にしたほうが、はるかに利便性が高いでしょう。よって、西側の舞鶴・天橋立方面に向かう路線ということになりますが、これでは小浜駅は、京都府北部に向かう高速バスへの乗り換え場所として利用されるだけになります。
痛すぎる負担
駅の維持費だけでも相大変なのに、新幹線自体の建設費の債権負担(ローンみたいなもので、一定期間は毎年返済しなければなりません)にまで耐えられるとは思えません。費用のうち地方負担分は基本的に福井県が受け持つはずですが、県内唯一の新駅が出来る小浜市がフリーライドすることはほぼ不可能です。建設費総額は「大本営発表」かつ一番安い見積もりでも、3.4兆円。このうち1%を負担するとしても、小浜市の2024年度の当初予算[7]の倍以上です。JR西日本や国にさらなる支援を求める話が早くも出てきていますが、株主や国民が許してくれるとも思えません。同様の問題が発生している北海道新幹線や西九州新幹線の沿線自治体に対しても示しがつきません。
以上まとめれば、小浜市民にとって北陸新幹線は、十分な需要が見込めないなか、膨大な建設費や維持費が発生し、小浜市には過大な負担となることが目に見えています。将来の負担に耐えられそうもないことが目に見えています。では、どうしたらよいのでしょうか。
先ずは小浜線の充実
こと交通に関して、小浜市民にとって一番切実なのは、近隣の大都市敦賀へのアクセスの充実です。敦賀まで行ってしまえば、既存の北陸新幹線で東京へ出るにも、サンダーバードで大阪・神戸に行くにも、しらさぎで名古屋に行くにも大変便利です。多少時間がかかりますが、新快速を使えば大阪まで3500円弱で行けてしまえます。米原ルートで北陸新幹線が延伸したら、さらに選択肢が増えます。
現状では小浜・敦賀間は普通電車しかないため1時間以上かかっていますが、ノンストップの快速電車を走らせれば、40分ぐらいにすることは可能でしょう。敦賀からサンダーバードを利用すれば、3時間程度で大阪まで行けます。
こうした小浜線快速を朝夕を中心に一日5~6本運行する費用と、小浜ルートが大阪まで延伸した場合に「つるぎ」に合わせて一日20程度、小浜線を増便するコストはそれほど変わらないのではないでしょうか。
さらに、敦賀・大阪間の現行の湖西線新快速電車は大阪まで2時間半近くかかります。敦賀から途中の近江舞子までは、実質的には各駅に止まる普通電車だからです。停車駅を減らし(別途普通電車を走らせ)て大阪まで行くようにすれば、特急サンダーバード並(1時間半)とは言いませんが、2時間弱にすることは可能でしょう。小浜線の快速と合わせても3時間を切って大阪まで結ぶことになります。しかも特急券はいりません。
線路設備を全くいじらなくてもダイヤ改正だけで、これだけのことができます。確かに、新幹線と比べると小浜市にとっての利便性は劣るかもしれませんが、膨大な建設費用や保全費用の負担を考えれば、一考に値する話ではないでしょうか。
そろそろ「下取り」を考えるとき
さまざまな計算をしてみて、小浜という町の規模と比べて新幹線というものが大きすぎることをつくづく感じました。そのため、「市の税金を使ったり国や県から資金を出してもらうなら、福祉にしろ公共投資にしろもっと有効な使途があるやろ」という議論もあちこちから聞こえ始めました。まさに正論でしょう。
お金を町おこし系で使うなら、小浜線を強化した上で、福井大学小浜キャンパスに新学部を誘致するのはどうでしょう。文系なら北陸地方では数少ない法経の学部、理系なら同キャンパスで既存の水産学部を拡張する形でバイオ系などが考えられます。
国立大学ですから、定員の充足は当分心配ありません。人口2万人程度の街に、数百人の若者と数十人の研究者が集まってきます。大きなインパクトがあるでしょう。
何をやるにしろ、新幹線の延伸と比較すれば支出は微々たるものです。しかも、効果が現れるまで30年前後待つ必要もありません。「小浜ルートはきっぱりとあきらめるから、その分の補償をしてほしい」とほとんど唯一の受益者である小浜市が言えば、延伸中止に向かって話が大きく動き始めます。
計画自体に技術的にも経済的にも暗雲が立ちこめている状態では、国やJR相手に、小浜ルートを高く「下取り」してもらうことを考えるのが、小浜市の立場としては最善ではないでしょうか、着工してしまってからでは遅いわけですから。
[1]
https://jp.gdfreak.com/public/detail/jp010050000001018204/16#:~:text=2024%E5%B9%B41%E6%9C%881%E6%97%A5%E3%81%AB%E3%81%8A%E3%81%91%E3%82%8B%E5%B0%8F%E6%B5%9C%E5%B8%82%E3%81%AE,14%2C178%E3%81%A8%E3%81%AA%E3%81%A3%E3%81%A6%E3%81%84%E3%81%BE%E3%81%99%E3%80%82
[2]
https://ecitizen.jp/Population/City/18204
[3]
https://www.pref.fukui.lg.jp/doc/koukou/jittai-kekka_d/fil/R5gaiyou.pdf
[4]
https://www.jalan.net/kankou/cit_182040000/
[5]
https://baseconnect.in/companies/city/88330d57-0b40-40d9-8469-9c68abe6e117
[6]
https://www.jrtt.go.jp/project/turuhannrennrakukaigi6%20.pdf
[7]
https://www1.city.obama.fukui.jp/shisei/zaisei-kansa/yosan/p006487_d/fil/R6_0_0.pdf