雑誌「正論」7月号の西田昌司参議院議員による「ひめゆりの塔」に関する記事に反論します。正直言って気の重い話です。理由は......記事を読んでみれば分かりますが、話があちこち飛んで、戻ってきたときには違う趣旨になっていたりの混乱ぶりで、しかも大小さまざまなヘイトや無礼をちりばめた文章相手の、かなり苦痛を伴う作業だからです。
実際、大部分の批判は、「謝罪も撤回もしていない」とあきれて終わっています。けれども、このまま何年かしてほとぼりが冷めたら「私の記事には、だれも正面からは批判できなかった」などと西田議員が言い出し、記事が一人歩きするといけないので、正面から批判して、記事全体に引導を渡すことにしました。この長屋の大家さんのおっしゃる「雪かき仕事」というやつです。
本質的な2つの矛盾
記事は、ほぼA5判サイズの誌面で8ページ。本分だけで6000字以上(私のこの記事を50%増量したぐらい)の堂々たる代物です。このうち、前置きが2ページ。それに続く直接の弁明が1ページと少し。残りが5ページ弱で、正直言ってどうでもよい本題と無関係なことが、やたらと書いてあります。
【「ひめゆりの塔」発言訂正の真意、私は事実を語った... 参院議員・西田昌司
「正論」7月号】雑誌「正論」;(以下「正論記事」と呼びます)https://www.sankei.com/article/20250531-MGVQNXP3T5H7JF7E7WFIOBLIIY/?outputType=theme_monthly-seiron
まず、この正論記事には本質的な矛盾が2つあります。第一に、記事を執筆したこと自体が「反省している」と矛盾しています。謝罪の理由が、「沖縄において『ひめゆり』という言葉が伴う痛みや重さを十分に理解していなかったと思ったから」なのですから、これから沖縄の人に寄り添うつもりがあるのなら、講演内容の真偽は二の次で、謝罪以外の発言は控えて、静かにしておくべきでした。
ところが、炎上が沈静化しかけたタイミングで、わざわざ全国誌に記事を投稿して騒ぎを蒸し返す。「痛みや重さを十分に理解」している人間のやることとは思えません。
まるで、主治医が患者に「あなたがステージ4の胃がんだなんて、ウッカリ言ってしまってごめんなさい。本当は肺がんで余命1ヶ月です」と言い渡すとか、性加害者が被害者に「この前のことは心から謝罪しますが、ただいまよりセカンドレイプを行います」と宣言するようなものです。「反省」どころか、「この機会にもっと傷つけてやろう」というドス黒い潜在意識が垣間見えるようで、読んでいて気分が悪くなります。
第二の矛盾。議員はこの記事でいったい何を訂正したいのでしょうか。冒頭には、講演で話した中の「ひめゆりの塔」に関する部分を「削除」すると言い、すぐ後に「訂正」すると言い、次に「私の認識を説明したい」と言ってみたりで、趣旨が次々と変わります。
そのあげく、「私が講演した通り」「日本の『侵略』により戦争が始まり、米軍の『進攻』又は『反攻』により戦争が終わった」「という文脈で展示を行っていた」とまで主張しはじめ、最後には「事実は事実として、はっきり申し上げなければなりません」。つまり、「事実関係について訂正する気は無い」というのが結論です。
ひとつの記事の中で主張が少しずつズレていき、最終的には180度ひっくり返るのですから、追いかけて読む方は大変です。
コジツケとゴマカシを総動員
細かい論点も見ていきましょう。まず、記事での講演内容の引用が、実際のものとは違っています。琉球放送のノーカット判と正論記事とを比較してみます。
「あの説明のしぶり、あれを見ていてると、要するに日本軍がね、どんどん入ってきて、ひめゆりの隊がね、死ぬことになっちゃったと。そして、アメリカが入ってきてね、沖縄は解放されたと。そういう文脈で書いてるじゃないですか。」
(琉球放送;https://newsdig.tbs.co.jp/articles/rbc/1898522?display=1)
「ひめゆり平和祈念資料館の説明ぶりは、『日本軍がどんどん入ってきてひめゆり隊が死に、アメリカが入ってきて沖縄は解放された』という文脈で書いているのではないか。」
(正論記事https://www.sankei.com/article/20250531-MGVQNXP3T5H7JF7E7WFIOBLIIY/?outputType=theme_monthly-seiron)
表現の不謹慎さについては今更もう何も言いません。講演と正論記事で一番違う点は 、講演では「死ぬことになっちゃった」とあったのが記事では「死に、」に書き直されていることです。これによって、講演で「日本軍が入ってき」たことが「死ぬことになっちゃた」ことの原因であると勝手に決めつけていたのが、正論記事では誤魔化されています。
しかも、すり替えた内容は、約20年前に御自分の後援会の機関誌に書かれた議員自身のエッセイの丸写しです。御自分でも「ある記者の方から指摘いただ」くまで、その存在自体を忘れていたような代物を持ち出して、なんでそこまで自信があるのでしょう。
【知恵と勇気,2005.1.1,西田昌司】
https://www.showyou.jp/showyou/detail.html?id=232
やはりというか、反論がありました。
>>>正論記事>>>
共同通信が五月十日に配信した記事ではこの点について、「数少ない〝根拠〟は正確性が疑問視され『不十分な事実確認で、沖縄の歴史を否定している』と憤りの声が上がる」などと批判的に報じていました。同館(村山注;ひめゆりの塔平和祈念資料館)の普天間朝佳館長も「『米軍の反攻によって戦争が終わった』という記述はない。資料館では、西田氏が言うような説明は過去も現在も一切していない」とコメントしていました。
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しかし、これにも西田議員はイチャモンを付けます。
>>>正論記事>>>
しかしこの記事には、重大な矛盾があります。
記事では、私が発言で批判した「ひめゆり平和祈念資料館の説明ぶり」について、普天間氏が「2021年の改装前に展示していた、太平洋戦争の戦況図のことではないか」とも推測し、この「戦況図」は「実物は残っていないが、同じ図が載った当時の資料館ガイドブックには、日本軍の『侵攻』米軍の『反攻』と記されている」と書いています。「侵略」と「侵攻」はほぼ同義です。
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20年前に自分が間違えておいて、強引に「侵略」と「侵攻」を「ほぼ同義」であると強弁するのはお愛嬌の範囲です。けれども、侵攻図には「米軍の『反攻』と記されて」いましたが、これは「『米軍の反攻によって戦争が終わった』という記述」とは意味が全く違います。
そもそも、地図の一種である戦況図を見て「そうした物語が年表のようにして壁に掲示してありました」などと言うのは無理です。しかも「私が講演した通り」などと、どうして言えるのでしょうか。
まとめて言えば、20年前の観光旅行で垣間見た戦況図にあった「日本軍の『侵攻』」とか「米軍の『反攻』」とかの文字だけから、コジツケやゴマカシを駆使して、「要するに日本軍がね、どんどん入ってきて、ひめゆりの隊がね、死ぬことになっちゃったと。そして、アメリカが入ってきてね、沖縄は解放された」と、はるばる京都から那覇まで行ってデカい声で言い切ってしまいました。記憶の捏造ないし妄想と言われても仕方ないでしょう。
もっとも、正論記事の冒頭にあるように、「ひめゆりの塔」の話を「削除」したら、唯一の具体的根拠が無くなってしまい、いくら「ひどい」「歴史を書き換え」「東京裁判史観」「むちゃくちゃ」などと言ってみても、議論の対象にすらなりません。ひろゆき氏の表現を借りれば「それはあなたの感想ですね」で終わりです。
講演の主題が改憲であることを考えたら、変に沖縄の話などせず最初から「感想」だけでもよかったのだと思いますが、不用意に本音を漏らした上に意地を張ってしまい収拾がつかなくなったというのが、どうやら真相のようですね。
改憲派は闇の秘密結社なのですか
ひめゆり関係以外でも、聞き捨てならない内容が二つあります。ひとつは、講演内容が公表されたことに対して不満に思っていることです。
>>>正論記事>>>
厳密に言えば、あの講演は、改憲の志を同じくする限られた人数の人々に向けたもので、沖縄県民全員に向け、県民感情を刺激しようなどと考えて行ったものではありませんでした。しかし、なぜかそれが広く報じられてしまった。とても残念なことでした。
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今回、西田議員を擁護しようとした何人かの政治家や評論家も同様のことを言っていますが、沖縄の保守派というのは「暗闇の秘密結社」なのでしょうか。夜な夜な集まってわ、「県民感情を刺激」するようなことばかりを、仲間内で叫んで喜んでいる集団なのでしょうか。それならそれでもいいのですが、改憲論が沖縄で大きな支持を得ることはないでしょう。
今から12年ほど前、憲法改正はナチスの「手口学んだらどうかね」と言った自民党の重鎮がいましたが、今の沖縄県の保守派も同じ発想で、自分たちの改憲論が広く支持を得るための努力など全くする気が無いのでしょうか。だったら、憲法記念日に無料公開のシンポジウムなど開かなければ良いでしょう......大事な秘密がばれちゃいますよ。
【質問本文情報;衆議院】
https://www.shugiin.go.jp/internet/itdb_shitsumon.nsf/html/shitsumon/a184006.htm
自分たちの思想は支持者にだけ理解されれば良い。批判者と議論したり、批判者を説得したり、批判者から学んだりする必要は無い......我が国が国際的に信用され切らないのは、こういう発想が政権政党に強いせいもありそうです。日米地位協定がなかなか改訂されないのも、日本へのこうした不安が大きいと思います。米軍トップが、「ナチスと同じ発想の与党議員がいる国で、我が軍の将兵に刑事裁判をさせたくない」と思っていても、あながち「偏見だ。差別だ」とは言えないでしょう。保守派のひとはそれでも、いいのでしょうか。
まだ懲りないのですか
もう一つは、沖縄県平和祈念資料館へのイチャモンです。
>>>正論記事>>>
私はこれまで同館(沖縄県平和祈念資料館;村山注)を訪れたことはありません。
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だったら何で、ネット情報だけを元に以下延々と因縁をつけたあげく、
>>>正論記事>>>
これはあまりにアメリカの立場に立った歴史認識ではないでしょうか。
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などと無責任なことを言うのでしょうか。
よく知らないものをよく知らないままに侮辱するとどうなるか......議員はまだ懲りていないみたいですね。