丹波山地の環境問題を原因まで遡って、少しだけ解説しましょう。
¡ 東前頭二枚目 京都丹波山地での環境問題
→ 見えない刺客は火成岩【北陸新幹線 その10】
http://nagaya.tatsuru.com/murayama/2024/07/12_0738.html
→ 悪魔の温泉へようこそ【北陸新幹線 その11】
http://nagaya.tatsuru.com/murayama/2024/07/28_0742.html
数分に1回、轟音をたててやってくる残土満載の大型ダンプ。騒音・振動・粉塵・交通事故。鮎で名高い清流由良川の枯渇化。多彩な環境破壊。力士で言えば技のデパートですが、なんと言っても一番の決め手はヒ素です。
工業地帯でもないのになぜヒ素なんかがあるのか、上のふたつの記事でも触れましたが、出所はマグマです。少し解説しましょう。活火山のない近畿地方でも、かつては地下からのマグマの上昇があり、いまでもマグマのなれの果てとして、各地で温泉が出ています。
マグマが冷え固まりながら上昇すると、中に溶けている元素のうち、あるものは気体になって大気に出ていき(水素など)、またあるものは岩石が出来るときに中に取り込まれ(鉄、マグネシウムなど)、どんどんマグマから出ていきます。けれども、ヒ素などの大型元素の多くは、行き場がなく残りのマグマと同行します。
マグマは出がらしになるほど色が薄くなります。東日本と比べて西日本の火山は地下深くからマグマが上がってくるので、途中で黒っぽい色のもとになる鉄やマグネシウムが抜けてしまいます。そのため、西日本では花崗岩(みかげ石)という白っぽい岩盤がよく見られます。
残ったマグマには、嫌われ者のヒ素やウラン、ラジウムなどが濃縮されることになります。だから、御影石の岩盤とその周辺にはこれらが残り、岩石の中の透き間や断層などに入り込みそこで固まります。だから、ヒ素の濃度はひとつの岩盤の中のでもばらつきが多くなります。
丹波山地の場合、もとは太平洋の底に貯まった泥などの塊ですが、そこにマグマが侵入して固まる間に、あちこちにヒ素の塊ができてしまった訳です。除去というするものにとっては悪夢です。40kmのトンネルのどの部分にどれだけヒ素が入っているのか、皆目わからないわけです。
現実的には花崗岩や安山岩などのマグマ起源の岩石とその周辺を掘って出てきた残土をハイリスクと見なして別扱いで処理(させてくれる場所があるとして)するぐらいしか対策はないのですが、どこに花崗岩があるのかさえ明確には、掘ってみるまでわかりません。
結局、「トンネルを掘りながら最先端から先のボーリング調査のようなことをして、これから先に花崗岩などがあるのかないのかを調べて、それによって残土の捨て方を変える」という、面倒極まりない工事になります。一般処理された残土の中から高濃度のヒ素が見つかれば、その度に何ヶ月も工事は停まるでしょう。
もっと厄介なのは地下水です。岩石中のヒ素は固めてしまえば比較的安全ですが、地下水に溶けているとなると話が全然違います。京北町側のあかり地点から見ると、敦賀に向かうトンネルは途中まで少しは上り坂になっているので、中に湧き出した水はトンネルの入り口から流れ出てきます。量によっては由良川に流すしかなくなります。ものがヒ素ですから、鮎をはじめ地場食品の商品価値を大きく損ないかねません。
基本的に工事期間中だけの(と言っても20年以上かかりそうですが)残土やそれを運ぶトラックと違い、湧き出す地下水とは未来永劫に付き合わなければなりません。京都府北部の住民が、死に物狂いで小浜ルートに反対するのは、当然の話なのです。
¡ 東前頭三枚目 新大阪駅の施工
→ 迷宮駅に消えた最初の目的 【北陸新幹線 その3】
http://nagaya.tatsuru.com/murayama/2024/03/29_0826.html
大阪人でもあまり意識しませんが、新大阪駅というのは淀川と神崎川に挟まれた中州のような場所で、どちらの川からも約1kmの距離です。当然、小浜ルート名物の水問題はありそうです。詳細はボーリンク調査でしか分かりませんが、地下深くに駅を作るほどリスクが増すことは確かです。
鉄道建設・運輸施設整備支援機構さんの発表では、北陸新幹線は東海道新幹線とほぼ平行に東側から来て、ホームの位置は現在の南口のロータリーのあたりで、長さは400m、深さは地表から20mほどまでとのことです。
https://www.jrtt.go.jp/project/turuhannrennrakukaigi09.pdf
ということは、南東からやってくるリニア中央新幹線を完全にブロックしてしまうことになります。ですからリニアのホームは、北陸新幹線のさらに南側に平行に並べるか、下を潜るしかありません。北陸新幹線よりもはるかに需要が大きいリニアの駅が、東海道新幹線・在来JR線・地下鉄御堂筋線などからは遠く、ついでに言えば淀川には近づきます。はっきり言えば、本来リニアが来たいところを先に押さえる訳です。こんな話を関係者一同、納得しているのでしょうか。
けれども、リニアに場所を譲って大深度のまま新大阪駅に乗り入れると、今度は乗り換えがさらに時間がかかり、歩く距離も伸び、面倒くさくいし迷いやすくなります。つまり、「できるだけ避けたい乗り換え駅」になってしまいます。
乗り換え時間が20分を超えるようだと、大阪から敦賀に行く場合など、新大阪で北陸新幹線に乗り換えるよりも、湖西線新快速に乗った方が早いという笑えない話になります。また、福井や金沢に行く場合は、京都駅(または桂川駅)での乗り換えが最速になりそうです。なんのために「はくたか」が新大阪に乗り入れるのかわからなくなります。
なんのために作るのか分からない駅のために、わが国の地下鉄道史上に残る難工事に立ち向かわれる現場の皆様方に心からご同情申し上げます。
¡ 東前頭四枚目 敦賀・小浜間の山岳トンネルの施工
→ 竹槍戦隊大本営【北陸新幹線 その12】
http://nagaya.tatsuru.com/murayama/2024/07/28_0746.html
何が根拠か知りませんが、この区間の工事は楽勝だとみんな思っているようですが、この地域での過去のトンネル工事(舞鶴若狭道)の例で考えると、工期におそらく15年以上かかることは避けられそうもありません。京丹波地区(私の言う第Ⅲ区)と地質の似たこの第Ⅳ区で工法の試行錯誤を進めて、同時に第Ⅲ区での地質調査をすすめる......どうしても小浜ルートというのなら、これが一番まともな取り組み方でしょう。
その意味で小浜先行開業論もありと思うのですが、小浜までで終わりなき先行開業となって、いつまでたっても新大阪延伸ができないと、路線維持にとてつもない赤字がかかりそうです。