小浜ルートのリスク番付(4)  【北陸新幹線 その22】

さてここからは、西方(社会的リスク)の番付です。これらの方は、私の専門から遠いせいもあって話がシンプルです。基本的におかねの話が多いですからね。もう一度、番付を見てみましょう。

西 (社会的問題)
横綱     沿線自治体の財源問題
大関     費用対効果(B/C)
関脇     JR西日本の収支見込み
小結     並行在来線に関する滋賀県の同意
前頭筆頭   沿線および日本全体の人口減少・高齢化
同二枚目   日本全体の経済状況の悪化
同三枚目   政権与党の弱体化
同四枚目   米原ルートなどの有力代案

l 西横綱     沿線自治体の財源問題
→ 引用文献不要
 福井県お金ありません。大阪府お金ありません。京都府お金もっとありません。基礎的自治体、京都市以外の市町村はもともと負担があるなんて夢にも思ってません。

l 西大関     費用対効果(B/C)
→ 北陸新幹線の大阪延伸は不可能である。
http://nagaya.tatsuru.com/murayama/2024/03/24_0827.html
 話が長引けば長引くほど関西大阪万博炎上の影響が現れ、「経済効果」という言葉自体、クチにできる雰囲気ではなくなりそうです。ある小浜ルート推進派の方が「東海道新幹線が災害で何年も寸断されることになったら日本経済はおだぶつだ」などと近頃絶叫しているレジストリ論には、上の記事で予め反論しておきました。もしかしたら、小浜ルート建設の泥沼に落ちるより、「おだぶつ」の方が日本にとってはまだマシかもしれません。この夏頃に出た朝日新聞の社説でも同様の見解があったようです。
 念のために言っておきますが、自分の先見の明を自慢しているわけではありません。あまりにも当然の話なので誰も活字にしてこなかった事ですから。私の先見の明があるとすれば、恥ずかし気もなくこんな議論にしがみつくお方が出てきそうだと予感していたことでしょう。自慢する気にはとてもなれませんが。

● 西関脇     JR西日本の収支見込み
→ 引用文献不要
 今、維新の政治家を不機嫌にしようと思えば、しつこく「万博の赤字どうするの」と聞くのが手っ取り早いでしょう。けれども、JR西の幹部に「新大阪延伸の赤字どうするのか」と質問しても怒るとは思えません。安心しているようです。小浜ルートの最大のメリットは完成する可能性がほぼないことです。

l 西小結     並行在来線に関する滋賀県の同意
→ 北陸新幹線の大阪延伸はもう「詰んで」いる 【北陸新幹線 その2】
http://nagaya.tatsuru.com/murayama/2024/03/24_0827.html
 整備新幹線に関する誤解のひとつに、着工五条件には「沿線自治体の合意」があると言われていますが、そんなものはありません。だいたい、地元が(ということは実質的にはそこの沿線自治体)から要望が出たときに、国が着工へのGOサインを出すための最低条件が着工五条件という目安なのです。沿線自治体がイヤやと言うのなら五条件の議論にさえ乗らないはずです。
 よく間違えやすいのは、五条件の最後の「並行在来線の経営分離についての沿線自治体の同意」というやつです。これを「沿線自治体の同意」と略する場合があるので、混乱がおこります。
 混乱の方はとりあえず放っておくことにして、今回の新大阪延伸で「並行在来線の経営分離」の対象になるのは、北陸本線および湖西線です。少なくとも他の路線は議論になっていません。この2路線は主に、小浜ルートが全く通らない滋賀県を走る路線で、どちらかと言うと県内では過疎地と言える湖西・湖北地方の大動脈という位置づけです。もうひとつ付け加えると、湖西線というのは旧国鉄時代の最後を飾るような豪華仕様在来線です。新幹線のように高架を走り、全線ひとつの踏切もありません。また、敦賀から京都まで直線的なコースで最高時速130kmのサンダーバードが走り抜けます。
 もうひとつ面白い存在が姫路・敦賀間に昼間は一時間に一本走る新快速です。兵庫・大阪・京都・滋賀・福井と5府県を3時間少しで結んでいます。でも、あくまで快速電車ですから貧乏学生の味方です。大阪・敦賀間は2時間強、サンダーバードと比べて45分ぐらいの違いで、2000円以上する特急料金は不要です。要は在来線最強の特急(25往復)とコスパ最強の新快速(7往復)と遙か北海道まで行く貨物列車(一日数本)が走る路線です。首都圏で言えば埼京線にイメージが似ています。
 北陸新幹線が小浜ルートになればサンダーバードの走る湖西線が、米原ルートになればはくたかの走る北陸本線が並行在来線ということになり、特急列車が走らなくなりおそらく赤字路線となるので、これを負担するわけには行かない。よって、「新幹線着工前に滋賀県が三セクという形ででも引き受けてね」とJR西としては言いたいわけです(公式には言っていませんが)。
 ところが、小浜ルートの場合、延伸自体もともと滋賀県には何のメリットも無い話ですから、三日月知事は「県内には並行在来線は存在しない」とはじめから相手にしません。上の記事でも書きましたが、知事が小浜ルートを指示しているのは、米原ルートだとこの主張が難くなるからのようにも思えます。
 「滋賀県がどうしても拒否するなら、湖西線など廃止してしまえ」という勇ましい意見も鉄ちゃん系の人からは出ていますが、これは不可能です。公共交通機関の廃止は国土交通省の許可がいるからです。だから、滋賀県が三セクはイヤやと言えば、JR西とすれば、鬼の辛抱で赤字湖西線を抱えるか、北陸新幹線の新大阪延伸自体を断るかの選択になり、おそらく鬼の辛抱は拒否するでしょう。で、全てが終わる訳です。
 けれども、最近、JR西にとってさらに悪いシナリオが出てきたように思えます。桂川ルートにせよ、南北ルートにせよ、完成したとしてもかなり使い勝手の悪い仕上がりになりそうです。また、2024年の北陸新幹線の敦賀延伸にともなって三セク化されたはハピラインフクイが、この新快速との接続の良さを武器に増便を始めたという話もあります。
 だからもし、3セクの話が出たら拒否するどころか、喜んで引き受けてハピラインふくいとコラボして、京都・福井間の新快速を走らせる可能性があります。ダイヤを少し工夫すれば、少なくともサンダーバード並の速度で走ることは可能です。あるいは、少しだけ特急料金(ワンコインぐらい)をいただいて特急列車にしてもいいでしょう、名前は三セクバードにしましょう。引き受けるときの条件交渉で、大阪まで東海道線に乗り入れる権利をとれたり、北の金沢まで延伸したりしたら、相当数の乗客が新幹線から流れるでしょう。
 もうひとつ、この路線には秘密兵器があります。山科駅です。あまり知られていない話ですから、山科駅にはJRの他、京阪電車と京都市地下鉄が乗り入れていて、京都の洛東エリア(清水寺・平安神宮)に行くには、オーバーツーリズムの聖地である京都駅よりも便利です。もしかしたら、3セクではなく京阪電車が手を上げるかも知れません。
 もし、延伸が桂川ルートになったりしたら、こうした悪夢のシナリオがさらに現実味を帯びてきます。JR西が南北ルートや(今は亡き)東西ルートに固執していたのは、こうした背景があるのかも知れません。


● 西前頭筆頭   沿線および日本全体の人口減少・高齢化
→ 小浜の立場で考えてみる【北陸新幹線 その13】
http://nagaya.tatsuru.com/murayama/2024/11/17_0943.html
→ 小浜市(オバマシ 福井県)の人口と世帯
 石川県の県議が小浜ルートについて「3万人の町でしょ、できるわけではない。」などとぶち上げました。失礼極まりない発言ですが、それでもなお現実はもっと残酷です。
 延伸工事の着工は早くて2026年、新大阪駅の工期が25年、どんなに早くても完成は2050年以降です。そのころの小浜の人口は2万人と少しです。一日に停車する金沢行きつるぎの総座席数と良い勝負です。延伸の地元負担分で、たっぷり市債を発行してしまって、償還は大丈夫なんでしょうか。まるで、50代のおっさんが、前払い30年ローンでスポーツカーを買うようなものです。
 他の沿線自治体や国も似たような状況です。もし今の財務状況のまま着工が決まったら、支払いに不安があり施工後値切られかねないこんな現場を、引き受ける工務店があるのでしょうか。関西大阪万博でパビリオン建設の受注が大変だったのと似た状況になるでしょう。