この年末におこること 【北陸新幹線 その14】

 今回は珍しく、近未来予想を書いてみましょう。近未来と言っても、ひとつは来週にも答えが出そうで、もう一つも年内には当否がわかるでしょう。
 最初の予想は、この夏に案が提示された京都市内での3ルートの選択です。私は、3案のうち一番非常識に見える「南北ルート」になると思っています。もうひとつの予想。来年度予算に「着工経費」が計上されるかどうか。こちらは、玉虫色の決着で「着工に向けた調査」のような形になるでしょう。
 以下に、根拠を示しましょう。 今回は是非、国土交通省の資料を見ながら読んでください。

 https://www.jrtt.go.jp/project/turuhannrennrakukaigi6%20.pdf

 一長一短の「桂川」と「東西」

 まず提案された3ルート自体が変だったことを思い出してください。一番西を通る「桂川ルート」は京都人でもあまり知らないマイナーな桂川駅にわざわざ接続しています。東海道新幹線など京都駅から北陸新幹線への乗り換えには19分かかるようです。北陸新幹線による京都-敦賀間の時間短縮効果は最大35分程度[1]と考えられますから、これでは現行のサンダーバードよりせいぜい16分程度の短縮にしかなりません。
 次に、工事規模が最大の「東西ルート」は、用地買収費を除いた工事費用は恐らく最大で(明示はされていませんが)でしょう。工期も長く、京都盆地をシールドトンネルが横断するため地下水への影響も最大で、反対運動のやり甲斐もあろうというものです。京都駅から同じ新大阪に向かうのに、地上の「ひかり」は西に出発し、地下の「はくたか」は東に出発するというのですからシュールは話です。
 一言で言えば、利便性の問題で全京都市民が無視しかねない桂川ルートと、経済性の問題を全国民が無視してる場合ではない[2]東西ルートの争いです。

 ハイブリッドと非常識

 では、「本命」の南北ルート。原型は「桂川ルート」なのですが、途中から大きく東に「コ」の字型張り出したコースです。「京都駅は通りたいが東西ルートのように大きく迂回するのは嫌だ」というコンセプトで、「桂川」「東西」両ルートの致命的欠点を両立させたハイブリッド型です。
 さらにもうひとつ、南北ルートには他にはないオリジナルの問題があります。3ルートのうち唯一、大深度地下でない京都駅を作るため、駅前後に大深度まで降りる急坂が出来てしまうことです。
 なぜならば、用地買収のことを考えれば、大通りの地下を走っている「コの字の縦棒」より京都駅よりで降りてしまいたいところです。
 カーブ部分(コの字の右上・右下の角)は、丸みが必要なので、交差点で直角に曲がる道路の下では無く、その内側の民有地の下を通ります。もし、この部分が大深度でなければ用地買収が必要になります。イケズ日本一の町衆相手の交渉など、下手をすれば1000年ぐらいかかり、JR西日本には平家・豊臣・足利と同じ末路が待っています。というわけで、結局、大深度への降下は「コの字の縦棒」の中で完結するよりありません。
 けれども、その結果出来上がる急降直後の急カーブは安全上無茶な話です。コの字ルートのことを、鉄ちゃんたちは「プラレール」と呼んでバカにしているようですが、それどころかジェットコースターになってしまい、頻繁な事故がいやなら思いっきり徐行するしかありません。下手をすれば、京都敦賀間は現状のサンダーバードより遅くなるでしょう。

 井戸水殺しの南北ルート

 資料の2ページでは、「京都市街地の地下水は、浅い層・深い層ともに地下水が面的に流れているため、十分な厚さがある帯水層に対しシールドトンネル(約10m)は点の構造物となり、地下水をせき止めない。このため、シールドトンネルによる地下水への影響は発生しない」との説明があり、図がそえられています。図では、京都の地下水は「浅い帯水層」と「深い帯水層」があり間に「難透水層(水を通しにくい層)」あるとしています。
 けれども、もしこの図のイメージが正しいとすれば、南北ルートでは京都駅の前後で、この難透水層に斜めの穴を開けてシールドトンネルが通ることになります。当然、トンネルとその周囲にある難透水層の土砂の間にはすき間が出来ますから、そこを通って「浅い帯水層」の大量地下水が「深い帯水層」に流れ落ちていく大きな危険があります。
 これはまさに、岐阜県瑞浪でのリニア工事で実際に起こった事ではありませんか。京都の井戸水の大部分は「浅い帯水層」のものですから、「難透水層」の破壊は周囲一帯の井戸に悪影響が現れることになりそうです。酒がまずくなる話です。おまけに、渇水だけで済んでいればまだしも(あまり「まだしも」ではないでしょうが)、恐ろしいのは瑞浪のような地盤沈下です。
 「コの字の縦棒」の西側には西本願寺があり、世界最大級の木造建築物である御影堂までは「縦棒」から100mも離れていません。「金閣」「銀閣」にならぶ京都三閣のひとつ「飛雲閣」に至っては50mほどです。南北ルートではこんな場所で「難透水層」に穴をあけ、地下水を動かそうというのです。
 「コの字」から500m以内の地点には、実質的に世界最大の木造建築物と言える東本願寺の御影堂や東寺の五重塔など、地盤の傾きに弱い大型の文化財が多数あります。もし、少しでも傾いたりしたら、即刻工事を中止にし、地盤を安定させ建物を修復するのに膨大なコストがかかるどころか、修理不能ということも十分あり得ます。
 実際には、詳細なボーリングによる地盤調査・地下水調査が始まった段階で「危険すぎて工事不能」との結論が出て、コースの再検討になるのではないかと思います。

 より高く・より遠く・より遅い南北ルート

 ここから先はSFかファンタジーだと思って読んでください。
 では、万一、南北ルートが完成したとして、どんな北陸新幹線ができるのでしょうか。
 乗り換えの利便性についてですが、資料には「乗換利便性(京都駅在来線)」という表現になっていますが、京都駅は日本一長いプラットフォームで有名なぐらい長大ですから、在来線と言っても嵯峨野線・湖西線・京都線(琵琶湖線)・奈良線と停車場所がバラバラです。
 乗降数の多い京都線・琵琶湖線を基点にしても、新駅の予定されている堀川通からは約300m、ここを直角に曲がって約200mです。ただしこれは「在来線では最も大阪寄りに乗車」「新幹線では最も小浜寄りに乗車」という最も条件のよい車両を選んだ場合の話で、実際には700mぐらいになりそうです。ちなみに京都の公共交通の中心と言える地下鉄烏丸線からは新駅まで1km近くあります。
 慣れない旅行者なら軽く10分はかかります。これに改札を通る時間やエレベーターやエスカレーターにのる時間が加わりますから、公式発表の13分での乗り換えはとても無理で、桂川ルートの19分に近い時間になると思われます。乗り遅れの不安を抱えながら、慣れない通路を早足で歩くのも決して快適ではありません。
 また、新大阪から敦賀方面に行くにしろ、この京都駅付近のコの字型区間を通過するだけで、直線的な桂川ルートより10分以上余計にかかりそうで、新大阪・敦賀間を55分なんて可能とは思えません。ということは、(新大阪駅発ではなく)大阪駅発で敦賀まで行く場合、新大阪や京都で「コの字コース」をのろのろ走る北陸新幹線に乗り換えるより、直通のサンダーバードが最速という、情けない結論になる可能性まであります。
 最近、面白いニュースが飛び込んできました。
 「JR西日本は、能登半島地震の被災地と関西を結ぶ、臨時の特急列車の運行を検討する考えを示しました」[3]。これまで、敦賀駅でのサンダーバードと新幹線の乗り換えの不便さを解消するため、大阪・金沢や大阪・和倉温泉までのサンダーバードの復活を求める声は常にあり、被災地への足の確保という切実な需要も加わりました。
 これまで、そうした意見を黙殺してきたJR西日本が今になってサンダーバードの復活に言及するのは、遠回しでの「南北ルート」への批判なのかも知れません。「乗り換えに時間がかかるルートは堪忍やで」という訳です。
 しかし、それでも私は、年末に決定されるルートの最有力候補は「南北ルート」であると思っています。その理由は次回にしましょう。
[1]
https://hokuriku-shinkansen-osaka.jp/merit/
[2]
https://trafficnews.jp/post/136377/3
[3]
https://news.goo.ne.jp/article/mro/region/mro-1596859.html