悪いのは沖縄県民?
そろそろまとめましょう。今回の西田議員の講演および関連する会見での事件は、知識でも理解力でも判断力も大きく劣る人が、沖縄県民の幸せや憲法「改正」よりも、北陸新幹線問題で危なくなったこの夏の再選のために、軽い気持ちで過激なことを言ってしまい、弁明会見でさらに墓穴を掘ったというものです。
ここまで、二重三重の無茶をしたのですから、擁護する声はほとんど上がってきません。例外として参政党の神谷宗幣代表の発言がありますが、よく読んでみると西田議員の歴史観に賛意を示しているだけで、講演の内容を擁護しているわけではありません。「言い間違いとか表現の違いはあったにしても」などと、問題の存在を認めています。祇園のドンキホーテと一緒にされては堪らないからでしょう。けれども、そうでありながら、炎上の残り火に燃料を投下して一騒動起こそうという、せこい魂胆が見え隠れしています。
失言を批判する野党の側にも控えめな印象があります。もとの講演は、つたない観察を元に過激な言葉で沖縄を攻撃している訳ですから、批判は「デタラメはやめろ」としか言えないのです。歴史観うんぬんまで議論が続きません。けれども、心配は御無用です。2回目の会見で、ご本人が炎上の燃料を追加したからです。
「私はあの自分のことを言ってることは事実という前提で今も喋ってますけど、問題は、事実だけじゃないんですよ。事実じゃなくて、県民の心県民の感情をね、そのとき私は感じて、わかってなかったということに気がついた」
「そのTPOが、私はわきまえて喋ったつもりだったんだけれども、沖縄県民の心の傷がね。要するに、ひめゆりの塔という言葉がね、もたらす彼らの心の何か傷つく、そういう言葉なんですよね」
「トラウマのようにいろんな沖縄の方々がね、いろんな思いや苦しみが思い出されてきてしまう」
【自民・西田参院議員「ひめゆり発言」訂正会見(下);琉球新報】
https://ryukyushimpo.jp/news/politics/entry-4218365.html
「自分の言ったことは正しかったが、こころに傷を負った県民の前で話すべきではなかった」というのは、謝罪・撤回というより、正当化・侮辱の追加というのが正確でしょう。「要するに、ひめゆりの塔という言葉がね、もたらす彼らの心の何か傷つく」......ついに県民全体をノイローゼ扱いですが。今気がつきましたが、このひとの場合、「要するに」と言った直後に失言のホームランが良く飛び出すようですね。確信歩きというやつですか。
ひめゆりの塔周辺には、「ひめゆりそば」とか「ひめゆりステーキ」などという、かなり不謹慎なネーミングの店が堂々と営業しているぐらいですから、別に「ひめゆり」という言葉がタブーだとか、トラウマの引き金を引くとかの話ではありません。ありもしない展示を妄想して沖縄を誹謗中傷したから、幅広い層の怒りを買ったのです。
ハットトリックの夏
皮肉なことに、2回目の会見を境に、西田批判は急速に沈静化しました。飽きられたということもありますが、批判を理解する能力のない人を批判してもしかたないからでしょう。これだけ説明されても自分の誤解に気がつかず、さらに「ひまわりの塔」などと「華」のある言い間違いをしているのですから、議論は「政治家としての資質」から「責任能力」のような話に移ってきているように思います。
【自民・西田昌司議員が"ひめゆりの塔"発言を撤回 謝罪の場で「ひまわりの塔は‥」と言い間違う 沖縄への歴史認識"誤っていない"】https://www.qab.co.jp/news/20250512250117.html
夏の参議院選挙前に、ただでさえ旗色の悪い政権与党は頭の痛いところです。特に公明党は迂闊にこの人を推薦すると、京都ばかりか全国津々浦々の支持者を失うことになりかねません。比例代表など目も当てられないことになりそうです。できれば、西田先生には議員辞職していただき、出直し禊ぎ選挙として無所属ででも登場してほしいものですね。
逆に野党は、これほど高性能の炎上発生装置を失うのは、もったいないと思うのでしょう。相手がバイデン氏からハリス氏に交代したことで、トランプ氏がかなり苦戦したのと同じ構図は避けたいところです。だから、議員辞職やら引退勧告と言った「正解」再編に向けた話はしたがりません。
もともと親から引き継いだ強固な地盤があり、前回2019年には安倍内閣のもと圧勝したとは言え、今回は危機感を感じた本人が保守票固めを狙って、さらに別の過激発言をしてしまったら、北陸新幹線、ひめゆりの塔に続く、ハットトリックです。ただしオウンゴールのですが。
個人的には、夏の参議院選挙直前の北陸新幹線の山岳トンネルをめぐるトンデモ発言は避けて欲しいところです。緊急取材に向かう丹波山地の真夏の暑さは、しばしば糸満市をも凌ぐからです。