【西田議員のトンデモ発言 その1】 酷暑の炎上事件

 熱いですねぇ。実は私、いま那覇にいます。別件で沖縄にやってきたのですが、西田議員のトンデモ発言の記事をたまたま書いていたので、取材方々ひめゆりの塔を再訪することにしました。那覇からバスで往復3時間、かなりハードでした。
 西田昌司参議院議員。不思議なご縁です。京都選挙区の方ですから、ポスターは良くお見かけしました。典型的な二世議員ですが、お姿は「上品な上岡龍太郎」、藤本義一さんにも似ておられます。正直格好ええなと思っていました。北陸新幹線小浜ルートの最強推進者で、根拠不明の議論を延々としても、京都では誰もいぶかしがりません。「ぼんぼんはしゃあないなあ」という訳です。
 けれども、沖縄ではそうは行きませんでした。

 大事な議論を暴論にしてしまう

 実は西田議員の今回の講演には大切な論点が含まれていたと思います。「ひめゆりの塔に象徴される歴史観は完全に適切なのか」というものです。一言で言えば、この小さな塔が象徴する学徒隊の「理不尽」や「被害性」に注目するのか、「愛国心」や「貢献」に注目するのかで、沖縄戦の様相はがらっと変わってしまうのです。
 米軍による「解放」という西田議員の(むちゃくちゃな)指摘の裏にも、「戦場の住民にとって重要なのは、勝敗ではなく停戦なのか」というパラドックスがあります。言い換えれば、「国家の正義」か「国民の生命」かの話。これが厄介なのは、どちらかに片寄ると、両方を失うということです。
 正義など最初から興味なく、国民こぞって「命あっての物種」という国は、武力侵略に極端に弱くなります。そういう国だとプーチンに思われていたウクライナは、いきなり侵攻されました。実際は全く違いましたが。
 一方、80年前に我が国が最後まで「正義」に拘り、ポツダム宣言を拒否して本土決戦・一億玉砕となっていたら、その時点で正義も終わっていました。ですから、どう言い訳しても負けた以上は、いわゆる東京裁判史観とも折り合いを付けながら、国としての正義を再構築していくよりないでしょう。
 いきなり、東京裁判史観全面廃棄のチャブ台返しをすると、世界に向かってウソをついたことになり信用を失います。正義と現実、バランスを取っていくよりありません。
 「国家の正義」には困ったことがもうひとつあります。正義に守られて生き残る者と正義の犠牲になる者が多くの場合に一致しないことです。たとえば、「戦いの起こる地域」と「その戦いで守られる地域」が一致しないことです。地政学的に考えれば、ある戦争の激戦地は次の戦争でも激戦地になる可能性が高いわけですから、遠く離れた首都住民に、「共に戦おう」と言われても、かつての戦場の住人は簡単には「わかりました」とは言えません。戦略の要衝に住むことの理不尽さと悲しみ......それを象徴するのが「ひめゆり」なのです。

 炎上狙いの計算違い

 今回、西田議員はわざわざ那覇までやってきて沖縄戦の話をするのに、題材は「20年以上前」の記憶と「地上戦の解釈」だけです。それも、強烈な印象があったというのではなく、「要するに日本軍がどんどん入ってきて、ひめゆり(学徒)隊が死ぬことになっちゃったと」などとうろ覚えの代物です。茶髪の中学生の感想文でも、もう少しまともな内容を、もう少しましな日本語で書きそうなものです。
 「要するに」沖縄戦のことなど興味も熱意も、西田議員にはないのです。憲法改正を叫び、戦後教育を誹ることで、夏の選挙で票を集めたいだけでしょう。遠い沖縄で少し乱暴なことを言って、京都の保守派の注目を集めたかったとういうことです。
 だから、「今はどうか知りませんけど」 とか「そういう文脈で書いているじゃないですか」などと、言い逃れの布石を打ちながら、抽象的な論拠で罵詈雑言「ひどい」「歴史を書き換えられる」を並べて、適度に顰蹙を買うことを計算をしていたのでしょう。
 これはデジャブ感のある手法です。思い出しました。北陸新幹線で京都の地下を掘り返しても、「地下水には全く影響が出ない」というのと同じ論法です。根拠が無くても勢いのある話には支持者が喝采してくれるという訳です。
 けれども、今回はそうは行きませんでした。地質や地下水の話なら、思いつきでいい加減な事をおっしゃっても、その場でウソを見抜ける人はあまりいませんが、那覇で沖縄戦の話となると、当事者や当事者の話を聞いた人が山ほど残っておられて、粗雑な議論が見逃されなかったわけです。

 観光気分で「ひめゆり参り」

 「(ひめゆりの塔に)お参りに行った」とはすごい表現です墓地や神社仏閣じゃあるまいし......「お参り」ですか。おみくじは引きましたか。何か御利益がありましたか......嫌味を言いたくなるぐらいの不適切な表現です。「お参り」と「お祈り」は全く別のもので、どちらが相応しい場所か言うまでも無いでしょう。

【5/3の講演内容;"ひめゆり"は「歴史の書き換え」 自民党・西田昌司参院議員発言の全容と真意は 独自映像;琉球放送】 https://newsdig.tbs.co.jp/articles/rbc/1898522?page=2

 それが、四日後の会見では、「国会議員になる前の20年以上前に視察に行ったことがある」ですか。どうやら、お参りも視察もちゃんとはしなかったようですね。ただの物見遊山の観光客でしたか。
【5/7の1回目の記者会見;自民 西田参院議員"ひめゆりの塔 歴史書き換え発言"撤回せず;NHK】
https://www3.nhk.or.jp/news/html/20250507/k10014798941000.html
 仮に京都市内での講演なら、「ネタ」のひとつとしてこんな失言をしても、せいぜい、「即時に議員辞職して夏の選挙で禊ぎ」ぐらいで済みそうです。けれども、このとっておきの「大ネタ」をわざわざ那覇に持ち込んで炸裂させてしまいました。京都府および沖縄県の自民党政治家にとっては、突然爆発した大量破壊兵器みたいなものでしょう。