残土は続くよどこまでも【北陸新幹線 その9】

ゴジラも逃げ出す大量残土 

北陸新幹線の延伸で小浜から京都まで40kmほどの山岳トンネルを掘ると、5トンダンプ160万台分の残土が出ます。ゴジラ400匹分です。自分の体重の400倍の土砂を運べと言われたら、ゴジラだって嫌だと思います。前回お話しましたように、トンネルからの運搬も一苦労ですが、あかり区間か立坑などを使って、なんとか中間拠点の外まで残土を運び出せたとしましょう。
 さて、これをどうしますか。2年前に熱海で、28人の犠牲者を出した人災土石流の引き金になったとされる盛り土の40~50倍の量です。残土引き受けの迷惑料をtあたり1万円としても、800億円が吹き飛びます。国内での陸上処理、特に丹波高原国定公園内での処理は問題外です。
 そのため、まだしも現実的なのは海洋投棄でから、とりあえず船に積むとこまで考えましょう。美山の中間拠点(あかり区間か立坑かしありませんが)から、小浜付近の最寄りの港まで往復で2時間はかかりそうです。
 労働法上、一人でダンプを運転ができるのは一日9時間までですから、一日で運べるのは4.5回程度です。160万台分のうち少なくとも半分は美山付近の中間拠点から運び出すようになりそうなので、それを15年で運ぼうとすると、365日24時間休みなしと仮定しても一日に144回になります。
 台風・豪雪・凍結などで走れないこともしばしばあるでしょうから、工期15年を絶対に守るなら一日に160回ぐらいは走りたいところです。これを、4.5で割って36人。我が国は奴隷制の導入が遅れていますから、休日は省略できません。アクシデントにも備えるとなると、50人ほどの運転手の確保が必要になるでしょう。そんな組織を15年も回すのですから、ちょっとした運送会社の立ち上げです。社会保険などを含めると一人あたりの年間係費は1000万円程度、50人でも15年とすると75億円。
 次にガソリン代。最寄りの港である小浜まで片道40km。山道ということを考えれば、燃費はせいぜい5km/Lぐらいでしょう。往復で16L。80万回出動すると、1280万L。軽油が1Lあたり150円としても、19億円以上。ダンプの整備費、減価償却、車検、自賠責、重量税なんかを考えれば、人件費と合わせて、土を海岸まで運ぶだけで、中間地点から運ぶ分だけで100億ぐらい軽く行くでしょう。京都側、小浜側を合わせれば200億が最低ラインでしょう。
 だいたい、都市部でもバスの乗務員が集まらないのですから、長い拘束時間と山深い場所を考えたら、運転手の大量確保は事実上不可能でしょう。結局、自動運転技術が実用レベルになり、かつ認可されるのを待つしかありません。それならいっそのこと、5トン積みダンプなどとケチなことを言わず、数10t積める特殊車両を作ってしまいましょう。さらに、広くて頑丈な専用道を小浜まで一直線で作りましょう。もっとも、それが可能なら、はじめからその道に新幹線を走らせた方が良いですよね。

 残土をなんとか港まで運んだとしても、もちろん海洋投棄はそう簡単ではありません。どうやら土砂にはヒ素が含まれている可能性が高いからです。かなりの沖合まで運ぶしかないでしょう。漁業権やら近隣諸国との問題なんかも出てきそうですが、本稿もそこまで付き合い切れませんから無視します。
 さて、このトンネルから出てくる残土。なぜヒ素が含まれている可能性が高いのか、また、掘ってもいないうちから、なぜそんなことが分かるのでしょうか。次回とその次で、丹波山地の地質の解説を簡単にしながら、あまり報道されていないリスクや環境問題などを解説していくことにします。