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2004年8月 アーカイブ

2004年8月 3日

ちょっと向田邦子風

8月1日(日)


6月から新しく研究室にきてくれた秘書さんは愛媛の出身で、ご実家は100年続く乾物
屋を営んでいるそうだ。

先日、実家で扱っている干物をたくさん医局に持ってきてくれた。いりこ、えび、か
わはぎ、姫貝(最初に「秘めがい」と変換されてどきどきした)、さわら…。たっぷり試
食させてくれた後には、しっかりと通信販売用の注文用紙が待っていた。

特に美味しかったいりこと、さわらを注文した。秘書さんの話によると、今年はいり
こが10年に1度の当たり年で、形の良い大きないりこが例年の半分の値段で売られてい
るということだった。

楽しみに待ち構えていた品物が宅急便でたくさん届いたので、お中元にと思い、内田
先生のお宅にすこしお持ちする(ちょっと向田邦子風)。

試食用として医局においてあったいりこの袋には、「だしをとるのに最高です。その
まま食べてもおいしいですし、ちょっとレンジでチンしてから醤油をかけて食べると
とてもおいしいです」とメモが貼ってあったので、内田先生にその通りお話しした。

研究室ではチンなどせずに頭からぼりぼりかじっていたのだが、家に帰ってから試し
にいりこをレンジで30秒程チンしてから醤油をかけて食べてみた。

確かにほくっとした感じがして、そのままたべるのとはまた違った味わいがある。お
いしいのでもう少し食べようと思い、4、5匹のいりこを皿にのせてからもう一度レン
ジのドアを開けると、レンジの中が恐ろしい程いりこ臭かった。内田先生、もう遅い
かもしれませんがどうかレンジのいりこ臭には注意してください。

しかし、いりことかさわらの味醂干しとか、痛風発作が起こってからというもの痛風
に悪そうなものばかりが目に入ってくる。しかも、痛風クラブの内田先生にそれを送
り届けるというのは、内科医として如何なものだろうか。

だって美味しいんだもの。みりんの国の人だもの。


徴兵制の話が取り上げられていた。

韓国の若者はなかなか大変みたいである。でも、どうやらそこで一枚皮がむけてたく
ましくなる人が多いらしい。

日本で徴兵制を導入するというのは現実的なことだと思えないのだが、その代わりに、2年間家事労働の義務を与えるというのはどうだろうか。

どこで家事をするのかというのはそれぞれの家庭環境があるからとても難しい問題だ
と思うが、要するに男女を問わず自分の身の回りのことをきちんと整えるスキルみた
いなものを若いうちに体にしっかり叩き込んでおくことができないだろうか。そうい
うことというのは、思っている以上にこの世の中の安定のために重要なことのような
気がする。

僕自身、身の回りのことをきちんとできずに一人暮らしをするようになってずいぶん
苦労をした。僕はときどき几帳面な人間に間違えられるが、決してそんなことはなく
て、恐ろしくずぼらな人間である。自分のたがが外れるとどこまで落ちていくかわか
らないので、できるだけ身の回りのことはきちんとしていたいと考えている(これも
「割れ窓理論」というのでしょうか。恥ずかしくなってきたのですが、それほどきち
んとしているわけではないです)

今の世の中は子供がどんどん家事をしない方向に進んでいる。それは親が過保護だから子供に家事をさせないわけでは決してなくて、おそらく親がくだらないことで忙し
すぎるのだと思う。家の雑事は、子供にやらせるよりも親が自分でやった方が圧倒的
に早い。生意気な口答えをする子供を説き伏せて子供を働かせるのは精神的な余裕がないとなかなか難しい。

しかし、その余波は知らない間にこの世の中を確実に浸食している。掃除を全くした
ことがない子供達が一人暮らしをするようになって、ゴミの山のような部屋で暮らし
ているのである。これは男女に限った話ではない。

一人暮らしの部屋は絶対に奇麗じゃなくちゃいけない。というと言い過ぎかもしれな
いが、少なくとも、ささっと物を寄せれば人を招き入れられるくらいの状態じゃなく
てはならない。

デートの後、いきなりラブホテルには入りずらいものだが、「ちょっとうちに寄って
コーヒーでも飲んでいかない?」というのはずいぶんと言いやすいセリフである。

ぼくは真面目な話、こういうのが人口の再生産につながる正しい方法じゃないかと思
う。

そういう話はさておいたとしても、兵役を経てたくましさを身につけることも大切だ
と思うが、カレーがこびりついた鍋を洗う大変さを知るのも大切なんじゃないだろう
か。一人で生きて行かなければならない状況というのは、誰にでも起こりうることな
のだから。

でも、兵役で身に付くことって案外「鍋にこびりついたカレーを丁寧に洗う」といっ
た類のことなのかもしれないですね。

2004年8月 4日

涼しくなる話

8月3日(水)


朝晩の暑さが少し和らいで、早くも秋の気配さえ感じるような気がする。

車に乗ってラジオをつけると、最近はこども電話相談室をやっている。久しぶりに聞
いたのだが、これがなかなか面白いし勉強になる。

先日は、非常に元気のよい小学4年生の男の子が、「月のでき方の説としてはgiant
impact説が最も有力だと本に書いてあったのですが、それは本当ですか?」という質問
をしていた。

giant impact説というのは、地球に巨大な隕石が衝突して、そのときにできた破片が
集まって月になったという説なのだそうです。勉強になるでしょう。

「ぼくはしまりすを飼っているんですが、しまりすは夢を見るんですか?」という質問
もあった。

先生は、「他の動物で科学的な実験がいろいろなされているが、動物が夢を見ている
という確実な証拠はまだない。よく観察しなさい。そして、君が夢を見ていると思え
ば、しまりすは夢を見ているのだよ」と答えていた。

アナウンサーの女の人が強引に「わかったかな?」と聞いているのが一番面白かった。

星や動物に興味をもつ子供がとてもうらやましい。

僕は、動物や昆虫に全く興味がなくて、むしろ嫌いなくらいだった。ラジコンに夢中
になっている友達もいたが、これにも僕はぜんぜん興味がなかった。夏休みは学校の
プールに行くか、高校野球を見るか、弟とけんかをして過ごしていた。ときどき習字
の教室に行って、弟と墨汁をぶっかけあったりしていた。

小学生の頃、僕は公文の教室にも通っていて、夏休みになると公文の合宿に行かされ
た。2泊か3泊の間、汚い宿に泊まって公文の計算ばっかりやらされるその合宿が僕は大嫌いで、毎年しぶしぶ参加していた。ある年、午前中の勉強が終わってテレビをつけると高校野球をやっていて、僕の住んでいた岩手県代表のどこかの公立高校が、一回戦で兵庫県代表の報徳学園に9対0くらいのスコアで負けていた。その年の報徳学園は、現在野球解説者をしている金村義明がエースで4番の中心選手で、報徳学園はそのまま勝ち進んで行き、結局優勝した。

夏休みにはワイドショーの心霊写真特集もよく見た。僕は小さい頃から基本的に怖い
物が大嫌いなのだが、弟と、当時同じマンションに住んでいた同級生のながちゃん
と3人でよく心霊写真特集を見たのを覚えている。修学旅行の集合写真に霊が映っているのが多かったような気がする。
 夏休みはそんな感じで毎年だらだらと過ごしていた。昼間両親は仕事でいなかった
ので、特別勉強しろとうるさく言われることもなかった。知り合いのおばさんがお昼
と晩ご飯をいつも準備してくれて、大抵母親が7時から8時の間に、父親はもっと遅い
時間に帰ってきた。兄弟ふたり仲良く晩ご飯を食べていたのに、母親が帰ってくるな
りひどい兄弟喧嘩を始めることがよくあった。きっと寂しかったのだろうと思う。

今朝大学へ出かける前にNHKのニュースを見ていたら、戦没者の納骨堂の老朽化が進み、改築工事が必要だというニュースをやっていた。アナウンサーがニュースを読んでいる途中で納骨堂の中の映像が出てきたのだが、その納骨堂は明らかに何か霊のようなものが渦巻いてるような場所だった。

霊感政務次官の僕に言わせると、こういうのは映像が目に入った瞬間わかるもので、
「そこに何かが渦巻いている」ということがかなり確かな感じでわかる。そういう目
で見ると、納骨堂の内壁に大きく入ったひび割れまでが気持ちが悪い物に見えた。

そんなことはすっかり忘れて、夜に帰宅してからテレビをつけようとリモコンをいじ
ると、テレビがつかない。何度電源をいれても、朝はふつうに見ることができたテレ
ビがうんともすんともいわなくなってしまった。長年使ったテレビの最後に映った映
像があの納骨堂だったのかと思うと、あの映像がテレビの中に封じ込められてしまっ
たみたいでちょっと怖い。

2004年8月 7日

敵、刺す。あら!スカ。マサ、あっち右折!

8月5日(木)


「ハワイのことはワイにキキ」というのはなかなかよくできている広告だと思う。

そこで自分でも考えてみたが、

「寂しいあなたもきっと愛拿捕」

「クリントン 不倫をしたら アーカンゾー」

「あらすっかり季節はもう春。春といえば筍。スコップ借り掘るにゃまだ早いかしら
ん。ありぞななさそな気がするわ。奥さんおはいおございます。ところで好きなお野
菜なーに?うっそーおくら?ほんま?ミキサーにかけたらねばねばだわね」

というものしか浮かんでこなくて、さっぱり旅行の広告にはなりそうもない。

8月4日(水)


愛想尽かしのことばがだめなあんたに似合いさといつも僕は笑われるのだ

世良まさのりをくちずさみちょっとこころがねじれる夕暮れ

2004年8月15日

ぼくの夕めし

8月13日(金)


いつ頃買ったのか忘れてしまったが、寝る前にときどき『わが家の夕めし』(アサヒグ
ラフ編 朝日文庫)という本を読むことがある。

アサヒグラフに昭和42年7月21日から20年以上にわたり連載されていた人気シリーズを
本にしたもので、様々な人達の夕食風景を写真と文章で紹介している。見開きの左右
に、連載2回分の写真があり、ページをめくると前のページに対応した形で、左右に本
人による(ときには家族による)食事の紹介の文章がおさめられている。

まだ若乃花や貴乃花が生まれる前の二子山親方が、数年前に離婚した奥さんと二人で食事をしている風景や、偉いお坊さんが一人で精進料理を口にする姿が載っている。
アントニオ猪木と倍賞美津子夫妻なんていうのもある。

人によって気負い方が全く違うのが面白い。湯川秀樹は奥さんと長男夫婦とともに食
卓を囲んでいるが、奥さんと長男の嫁はきれいな着物を着てばっちりメイクである。
とても普段の夕食の姿には見えない。作家の森敦は雑然とした仕事部屋の机の前で、ひとりカップヌードルをすすっている。ページをめくって本人による解説の文章を読
むと、最後に「平成1・7・29没」と付け加えられているのがちょっと怖い。

写真のページには、日付と写真を撮った場所、その日の主役と一緒に写真に載ってい
る人の紹介とともに、丁寧に夕食のメニューが記されている。

例えば寺山修司。

「48.8.2 右から三人目が寺山さん=東京都渋谷区の劇団天井桟敷で

ニールコンソメ セルビア・サラダ(ピーマン、トマト、玉ネギ) ムチ・カリサ=ユー
ゴスラビア風シチュー(マトン、牛肉、玉ネギ、ニンニク) 果物」

畑正憲の場合、
「47.1.7(左から)畑さん、熊のどんべえ、弟の三喜雄さん=北海道厚岸郡浜中町アザラップの書斎兼休息所で

人間=ゆで卵 ししゃも パン 牛乳 熊=あきあじ(鮭)の煮付け ゆで卵 チーズ 
プリン ソーセージ ミカン 桃の缶詰 コーヒー」

といった具合である。

解説の文章もかなり面白い。

画家の熊谷守一の回(49.5.10)の最初の部分を引用すると、

この4月2日で、94歳になりました。年とると、子どものころから食べつけているもの
が一番いい。岐阜から東京へ出てきたのが中学2年で、その夏休みに静岡の焼津へ泳ぎにいったら、旅館で毎日カツオの刺身がでるんです。それまで食べたことがなくて、三日もすると腹へって困って、ついに食べたんですよ。それが刺身を食べた最初なんです。いまでも、カツオやマグロはいいが、タイやヒラメの刺身はあんまり好きでは
ないですね。やっぱり川魚がいい。アユが好きだけど、もううまいのがないからめっ
たに食べません。いまでは、ビフテキなんか好きです。でも、40くらいのときから歯
が全部なくなっていたから、カンバス張りで潰してから、歯肉で噛んでいるんです。
(以下つづく)

という感じで、なんだかめちゃくちゃである。おもしろい。

僕がもし、今は無くなってしまったアサヒグラフの「わが家の夕めし」に出るとした
ら、どこでどんな食事をとっている所を写真にとってもらうだろうか。

僕の「芦屋の母」を自認してくれている、やまぎわさんのお店のカウンターにしよう
か。あそこで、悲哀に満ちた単身赴任らしきおじさん達や、この前、北新地のきれい
なお姉さんつれて来ていた僕の天敵の常連じじい(やまぎわさんがぼくを可愛がるのが面白くないらしい)と一緒に写真におさまることにしようか。駅前の焼き鳥屋もいいか
もしれない。最近あまり行っていないが、大学の食堂という手もある。

熊谷守一の文章の最後には「52・8・1没」と書いてあった。97まで生きたのね。えら
い。

2004年8月18日

「もげひー!」と「モヒハー!」

8月18日(水)

お昼ご飯に、まんしゅうろうでばんばんじーめんを食べた。または、あわや食堂で和
風冷麺と、ひじきの煮物を食べた。

帰りに、ぷらっと立ち寄ったフリー雀荘で国士無双をツモる。

と、ふと未来を予測してみる。

8月17(火)

実験が知らない間にうまくいっていて嬉しかった。人は寂しくっても暗闇の中をすす
まなければならないのだ。

8月16日(月)

「ひー」はマスタードに効果が高く、「ハー」は唐辛子系で好んで用いられる。

それはポール・マッカートニーとポール牧くらい違うの。

8月15日(日)

辛いものを食べたときの感嘆詞として「もげひー!」という場合と、「モヒハー!」と
いう場合の2種類があるわけだが、

北、四巡!

8月18日(水)

それはラス牌の北だった。

配牌からイーシャンテン。初ツモでイーピンを引き、即リーチ。

北がぱたぱたと3枚切られてピンチを迎えるも4巡目でツモ。ペーヨンジュン。

そこの若い兄さん、引きが強いねえ。さっきから見ていると荒削りだがなかなか筋が
良い。どうだい、ひとつ私の弟子にならないか。

おっさん、いいから早く点棒をよこせ。

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2004年8月25日

Dr.サトーの挑戦状

8月24日(火)


研究室の宴会係を拝命して初の幹事をする。明日からは、長野で開かれる3泊4日の研
究セミナーへ。


8月23日(月)


週末。合気道のお稽古の後、丸亀で講習会をされる内田先生にドライバーとして同行
させていただいた。守さん、そしてお世話になった皆様方本当にどうもありがとうご
ざいました。

丸亀に向かう車の中で、内田先生がフランスに行っておられる間この長屋日記は先生
のIT秘書のイワモト氏によってアップされるということを知る。そして、日記のタイ
トル命名権(北四巡とかそういうのです)も期間限定でイワモト氏に委譲されるという
ことであった。

イワモト氏には是非、学校の先生の日記ににっかつロマンポルノ顔負けのえぐいタイ
トルを付けるなどの暴挙を重ねてほしいと僕は密かに期待している。

僕に限って言うと、タイトルを付けにくいようなとりとめのない日記をがんがんイワ
モト氏に送りつけて、できるかぎり氏を悩ませたいと考えている。というわけで、大
家の内田先生が渡仏中、この日記は毎日更新されますので、みなさん読んでください
ね。

普段とりとめがなさすぎるだけに、いざとりとめのないものを書こうとするととても
難しい。

2004年8月26日

ドクター、長野で天文部員と出会う

8月25日(水)

今日は長野で開かれる研究セミナーの初日。

ただいまの時刻は夜の11時22分。僕は今、ホテルの部屋でこの日記を
書いています。

このセミナー、なんかあまりなじめません。ぐすん。

若い人を対象にした研究会ということになっていて、全国から集まった大
学院生やポスドク(post doctoral fellow.
博士号を取得済みの研究者)が集まって、勉強しつつ仲良くなりましょ
うという趣旨の会のようなのですが、あまり仲良くなれそうな人がいませ
ん。

もしかしたらマリちゃんみたいな女の子とセレンディピティックな出会い
があるかもしれないという淡い期待を持ってやって来たのですが、そんな
ことを思っていた僕が馬鹿でした。男も女もみんな高校の天文部員みたい
なひとたちばかりです。

同室のKさんがまともな人だったのが救いです。彼は京都から来た大学院
生でした。

お勉強のスケジュールは土曜日の午前中までびっしりと埋まっています。
全てが終わった頃にはぼくも天文部員のようになっているかもしれません

明日はポスター発表。

では皆さんまた明日。

2004年8月27日

天文部員と食べるハヤシライスは生命科学の味がする

8月26日(木)

セミナー2日目。

早起きして温泉に入る。露天風呂に入るために外へ出ると空気がひんやり
と肌寒い。信州にはもう秋の気配が漂い始めている。

朝食を食べた後、9時から12時過ぎまで口演発表を聞く。異なる分野の
人達が集まっているので、さっぱり内容が理解できないものも多い。分か
らないなりに、どこかにとっかかりをみつけていろいろ考えることができ
ればよいと思うのだが、そんなことを考えている間にも、知らない間にし
のびよってくる睡魔に取りつかれ、僕は細かい入眠と覚醒を繰り返す。

午前中のセッションが終わりかけた頃に、これから始めようと思っていた
研究テーマと関連した、非常に興味深い発表を聞けたので、それだけでも
よしとしたい。

それにしても皆さんよく質問する。

同室のKさんと昼食をとりにレストランへ行くと、午前中のセッションで
座長をしていた30台半ばくらいの研究者と同席になった。

このセミナーは、セッションの座長も全て参加者の中から選ばれることに
なっている。参加者は修士過程の学生からポスドクまで年齢の幅が結構あ
るようだが、座長はこの東京から来たという研究者のようにちょっと歳を
とった「ぎりぎり若手」くらいの人が選ばれることが多いようだ。

セミナーの事務局として来ているおじさん研究者も加わり、4人でハヤシ
ライスを食べながらいろいろな話をする。

4人の中で臨床医学の講座から来ているのは僕だけで、他の3人の研究者
はみんな基礎医学を含めた生命科学の研究室から来ている人達。医者も僕
だけで、多くは生物系の学部を卒業してから大学院へ進んだ人が多い。

僕以外の3人は、ものすごく有名らしい、「どこどこ研究室のだれだれ教
授」の話で盛り上がっているのだが、僕にはその超有名な「だれだれ教授
」が誰のことだかさっぱりわからない。

ただでさえ早食いの僕は、話に加わることができないので、他の3人に圧
倒的な大差をつけてハヤシライスを完食。ご飯を食べ終わるともうするこ
とが無いのだが、何となく先に席を立ちにくい。お話も大変結構なのだが
、おまえら飯早く食えよな。


午後はポスターセッションでの発表をする。

発表と言っても、自分のポスターの前で待ち構えていて、見に来てくれた
人達の質問に答えるだけである。

集まっている人達がいつもの学会とは違うこともあり、質問を受ける内容
もいつもとは少し違う。とても勉強になった。好意的に質問をしてくれる
人が多かったし、「これは、こういう実験系を使った方が良かったんじゃ
ない?」というような感想をみんな気軽に話してくれた。

全国の天文部員達は思ったよりも良い人達が多かった。ただ単に、皆さん
憐れみをもって僕に接してくれただけのような気もするが。

自由時間の後、夜は1時間ずつの口演発表と特別講演があった。それから
懇親会へ。

日程はまだ半分を終えたに過ぎない。うげー。

2004年8月28日

囚われの白衣 北天にPolarisを尋ねる

8月27日(金)

別世界に幽閉されて三日目。曜日の感覚が希薄になってきた。

5時30分に起きて風呂に入ってから、ホテルのロビーで日記を書く。

今日も午前中は口演発表で、午後はポスターセッション。夕食後に再び口
演を聞く。ポスターと夜の口演で、いくつか面白そうな発表があった。

休憩や食事の時間に、同室のKさんと発表内容についてぽそぽそと感想を
述べあう。

Kさんは使用するタームが正確な人だ。話をしていて、言葉の選び方がと
ても慎重であるという印象を受ける。普段ラボで相当鍛えられているのだ
ろう。笑顔の奥に芯があって、ちょっとだけ一流の寿司屋で修行をしてい
る板前さんみたい。おぼろ豆腐のように言葉がずるずると崩れていく僕と
は大違いだ。

九州からきたという整形外科の先生は(二日連続お風呂で一緒になった)
、僕より大分年上の人かと思ったら、ほとんど同じ年齢だということが分
かりびっくりする。最近、こうしたことに驚く機会が本当に増えた。僕は
あさってで33歳になるが、どんどん幼児化している気がする。

この先生は研究に専念していた大学院生活をこの春に終えたのだが、事情
により今年1年だけ研究を続けているそうだ。来年には整形外科の臨床に
戻るという。

参加者の中には、患者さんを診ることをやめて研究に専念している医者も
いる。

初日は参加者全員が高校の天文部員のように見えたが、3日目にもなると
結構色々な人が混じっているのだということが分かってきた。

しかしそれはセミナー初日に僕自身が予想したように、単に僕が天文部員
化しただけなのかもしれない。外から見ると均一に見えていた集団も、中
に入ってみるとその構成要素は思っている以上にヘテロだったりするのだ

少しずつ天文部員化が進んでいるものの、僕は北極星の位置さえ理解して
いないような気がする。

2004年8月29日

長野のセミナーを終えて:ドクターの収穫

8月28日(土)


4日間にわたるセミナーも今日が最終日となった。

朝5時前くらいに窓の外から大きな音がして目が覚める。ベッドから起きあがって外の
様子を見てみると、夜通し酒を飲んでいたと思われる数名の参加者たちが、奇声をあ
げながらホテルのプールに飛び込んでいた。

セミナーの参加者は僕のように初参加の人間が多いのだが、中には何度も参加してい
る人もいるようだった。こういうリピーターたちと、事務局をしている研究者たちが
一緒になって宴会を夜通し盛り上げるのがこのセミナーの習わしになっているらしい。

僕は常連顔をしている人たちとはあまり近づかないようにして、一昨日も昨日も懇親
会場の隅の方でこっそりビールを飲んでいた。

何人かの人たちと研究や普段の生活について軽く話をした後で、話し相手がいなくな
ると、部屋に帰って本を読んだりしていた。同室のKさんは僕より少しだけ社交的な人
のようであり、いつも僕が部屋に戻ってから1時間か2時間たった後で部屋に戻ってき
た。


プールサイドに出てきている連中には女性も数人混じっていて、はしゃぎながらプー
ルに飛び込んでいる男の子(男の子と呼ぶことがすでにはばかられる年齢の者も少なか
らず混じっていたが)たちの姿を眺めたり、手や足をプールの水に浸したりしていた。

騒音で、まだ起きたくない時間に無理矢理起こされたことはとても腹がたったし、い
い歳をして、「若者が夜通し騒いで、プールで締める」というありきたりの青春ストー
リーを恥ずかしげもなく演じている男女の姿はあまりにも痒々しかった。

眠くて不機嫌だったし、もし僕の手元にロケットランチャーがあったら、プールをめ
がけて打ち込んでいたかもしれない。でも、とっても不思議なことなのだが、僕は彼
らのことを心の底から憎むと同時にどこかで許していた。「よかよか。ちょっとくら
い騒いでもよか。楽しんでおきなはれ」という気持ちになっていた。

セミナーへの参加者は基本的に1研究室から1名ということになっていて、知り合い同
士で群れるということが許されない。

誰も話し相手がいないものだから、僕のようなひねくれ者を除いて、多くの参加者は
お互い見ず知らずの人たちと、ためらうことなくどんどん話をして友達になっている
ようだった。

普段自分に張られている「できる人間」とか「だめ人間」のようなレッテルから解放
されて、わりと自由な気持ちですいすいと新しい友達を作っているように見えた。

そう思うと、普段、研究室では周りの目を気にしたり、研究上の細かい利害関係なん
かのために、素直に異性と仲良くできないまま、ずるずるとオンゴーイングで年齢を
重ねている男女が、年に一回くらい信州の山の中で恥ずかしい青春芝居をしても許さ
れるような気がちょっとだけしたのである。本当にちょっとだけだが。

腹が立っている方の僕は、同じホテルに宿泊していたゴルフ旅行の中年男性を装って、
窓の外に「おめーら、静かにしろ」と叫ぼうかと考えていたが、僕は声が高いので中
年を装うことは難しく、叫んだりしたら絶対に僕だとばれると思い、断念した。

すっかり目が覚めてしまったので、朝風呂に入りに行こうかとも思ったが、プールに
飛び込んだ後、当然風呂に入っているだろうと思われる酔っぱらい青春野郎どもとは
会いたくなかったので、仕方なくベッドの上で本を読みはじめ、いつの間にかまた1時
間ほど眠った後で、6時30分くらいに露天風呂に入りに行った。

風呂は、脱衣場におじさんが一人いるだけでとても静かだった。寝ている間の汗を軽
く流してから、誰もいない露天風呂に入った。

露天風呂の屋根の隙間から見える雲量4くらいのきれいな青空を見ながら、僕はもう一
生、この露天風呂に入ることはないかもしれないなあと思ったり、ずるずると馬齢を
重ねているのはいい年をして青春芝居を演じていたあいつらだけでなく、僕だって同
じだよなあなどと、言葉にもならない感じで考えながら、「ういー」と唸ってみたり
した。

僕は、人間というのは、ほんの一瞬の間に、全然違うことを考えることができたりと
か、それとともに唸ってみたりとか、同時にいろいろなことができるすごい生き物だ
なあと思う。なにも、オリンピックに出ている人だけがすごいわけではないと(ちょっ
とだけ)思う。


この日は午前中に8題の口演発表を聞いた。これでようやく全日程が終了である。最終
日の内容が一番面白かった。アポトーシス関連の話、肝細胞の分化成熟の話、マウ
スES細胞から脂肪細胞への分化の話などなど。

新しい情報を得られたことはもちろんだが、研究一筋でやっていこうという若い研究
者達の姿を間近で見られたことが、僕にとって、今回のセミナーで得られた一番大き
な収穫だったように思う。

当然、前からわかっていたことではあるのだが、実際に会った若い研究者達の研究に
関する知識や、思考の組み立て方、そして心構え(というか覚悟のようなもの)は、僕
のそれとは全く次元が違うものだった。

僕のように医者をしながら研究をしている人は沢山いて、それはそれで意義があるも
のだし、そういう立場でしかできない素晴らしくて、格好いい研究もあると思う。

しかし、他に逃げ場がないところで研究を続けていくというのは、職を得るという意
味でも、仕事を仕上げていくという意味でも本当に大変だと思う。おそらく彼らから
してみると、それは研究者として当然のことであり、たまたま彼らの研究分野と近い
ところに医者がいたというだけなんだろうけれども。

僕は医者をしながら研究をする人間としても、まったくコンピテントとは言えない者
であるわけだし、いつまで研究をできるかもわからない訳だが、ひょんなきっかけで
僕のような人間が、このような場所に紛れ込んで、ちょっと太刀打ちできないなあ、
と感じさせるような人たちと同じ時間を過ごすことができたのは本当によい勉強になっ
た。

僕は大学院を来年の春に卒業するのだが、この先どんな感じで仕事をしていくかとい
うことについてはあまりちゃんと考えていなくて、というか、考えても答えがわから
ず、「バッキーのおじさんじゃないが、やっぱ、いきがかりじょうだよな」などと思
いながら日々酒を飲んでいる。

セミナーに参加して、他の参加者達を天文部員だとからかってみたり、頭がいいなー
と褒めてみてたりしても、僕の将来について何らかの答えが見つかるわけではないし、
むしろ、いろんなことがしてみたい僕のような人間は結局、こんな風にやっていくし
かないよなあ、目の前に現れた仕事やお酒のグラスを丁寧に平らげていくしかないの
だなあと思ったりする。

そう思うと、なんら新しい答えは得られていないのに、ほんの数日前とはちょっと違
う高さから自分を取り囲んでいるものを見ているような気持ちになるから不思議だ。
恐るべし信州幽閉セミナー。



ポインセチアの葉脈をめぐる血は 

ヘモグロビン合成で鉛色に輝き

ウツボカヅラに捕らわれた虫は

白いふと腿の血とともに溶ける

ローライズのジーンズからはみ出した尻は

青い下着が洗濯ですり切れていて

ほつれかけたレースのふちどりが

怖がらなくていいのよとささやいている

あくにんサトウ先生あくにん秘書に文句をたれる

8月29日(日)


誕生日なのでうなぎを食べに行った。

この辺に引っ越してきてちょうど1年になるが、家の近所にある、そのうなぎ屋には初
めて入った。

僕は、ベンツを乗り回している離婚秒読みの若い医者という最低の人間だが(改めて書
いてみると本当に最低だな)、普段からむやみやたらにうなぎを食べに行ったりしない
位の節度は持っているのである。

話がそっち方面にいったので、少しだけそっち方面について言及すると、僕はときど
き、よい人に間違えられるがあまりよい人間ではない。僕よりもっと悪い人が世の中
に沢山いるのはわかっているつもりだが(たとえば、あの人とかあの人とか、あの人な
んて、ほら。ねえ)、僕も、お世辞にもよい人間だとはいえません。なんたって、離婚
秒読みでベンツを乗り回してるんですから。へへん。

勘違いされると困るので言っておきますが、僕はけっして内田先生がフランスに行っ
ている間、ウェブサイトを盛り上げようと思って毎日日記を書いてるわけではなくて、
本当にIT秘書のイワモト氏に嫌がらせをしようと思って毎日日記を書いている訳です。
「ああん、日記にどんな題をつけたらよいかわかんないよう」と苦しみ、仕事も手に
つかなくなったイワモト氏の姿を想像して僕はしばらく楽しもうと思っていたんです。

しかし、僕が毎日日記を送るとイワモト氏はそれをどんどん喜んで更新して、題名を
つけるのもあんまり困っている風ではなく、ノリノリで秘書の仕事をこなしています。
調子に乗ったあげく、僕の日記のコメントの欄に「これこれの題で日記を記せ」と注
文までつけ始める始末です。

これはいちおう日記なので、僕の人生に起こった出来事を忠実かつ正確に書く場所な
のですが、イワモト氏は僕に、彼の注文通りの人生を送れと言いたいのでしょうか。
一億円くらいくれるなら注文に応えることも考えないでもありませんが、まったく困っ
たものです。

えっと、横道にそれましたが、というわけで僕は誕生祝いにうなぎを食べに行きまし
た。誕生日なので、もちろん鰻丼の上と肝吸いを注文。


ビールの中瓶を飲みながらうなぎが焼き上がるのを待ち、20分ほどで、待望の鰻丼が
登場する。ふたを開けるとでっかい蒲焼きが2個乗っかっていた。肝吸いの肝も超でか
い。

ものすごく脂がのっているうなぎで、箸で切り崩すと、中の白い身がきらきらと光っ
ている。

確かに美味しいうなぎなのだが、昔のうなぎは、こんなに大きくなかったし、ここま
で脂がのってはいなかったような気がする。そんなに自慢できるうなぎ歴があるわけ
ではないが、そんな気がする。

うなぎを食べながら、先日丸亀でお聞きした、高脂肪食で養殖しているうなぎがある
というお話を思い出した。ドーピングうなぎですね。

帰り際に、レジのところで店のおじさんに、大きいうなぎですね、と褒め言葉のつも
りで言ったら、おじさんはお札を数えながら「すみません」と答えた。

あれはいったいどういう意味だったのだろうか。

2004年8月30日

ドクターがイチバン気になる女性

8月30日(月)

今最大の注目株といえば、それはやはり「おはよう日本」の高橋美鈴アナウンサーと
いうことになる。

NHKのメインストリームである報道部門を、今後20年にわたって支えるであろう大器で
すね。

いかにも日本のアナウンサーという感じで僕は好きです。NHKにしか出せない味わいを
感じます。

以前は、無難なパステル地の服装が多かったですが、だんだん色遣いが大胆になって
きて、今朝なんか黒のスーツでした。大きな襟に、白いラインが入っていたような気
がします。ちょっとサイズが大きめに見えましたが、なかなかよくお似合いでした。

僕は高橋アナウンサーが、お天気コーナーが始まるときに「はいっ」といいながら少
しだけ前かがみになって両手を組む姿が好きです。

台風は怖いが、台風情報が長いのはちょっとうれしい。

2004年8月31日

大晦日のTUBE、真夏の天童よしみ

8月30日(月)

まだ夏の終わりなのに、最近冬のことばかり考えている。

ポインセチアも冬のものかと思っていたのだが、調べてみたら特別冬の植物というわ
けでも無いようだ。

どういうわけか気分は冬。なぜかしら。

ここ数日は、スピードの「ホワイトラブ」を口ずさみながら実験をしている。

「はーてーしーなーいーあのくもーのかなーたーへー」

ってな風にこっそり歌いながら、マウスの飼育ケージを交換したり、かちかちとピペッ
トをいじったりしている。

向田邦子の「冬の運動会」というのがありましたが、「夏のホワイトラブ」というの
もありでしょうか。「春の月見」とか、「秋の桜餅」なんつーのもたまにはいいんじゃ
ないでしょうか。「極寒の水羊羹」とか「猛暑のしもばしら」というのもおつですね。
「氷点下の夕立」なんて、考えただけでどきどきしちゃいます。うーさむ。

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