何を考えているのでしょうか。「北陸新幹線延伸ルート、維新が8案の再検討
要求...与党PT」,「出直しダブル選挙」,「自民党と日本維新の会が85選挙区
で激突」......批判派はもちろん、維新の支持者でも意図がさっぱりわからないと
嘆いています。
 関西万博の収支をなかなか公表しない事やいわゆる国保逃れなどは、褒められ
た話ではありませんが、よくある問題の範囲です。けれども、昨秋以降の維新は
トチ狂ったとしか言いようのない政策が続いています。

 時間稼ぎで嫌がらせ

 まず、北陸新幹線の新大阪延伸問題。京都・小浜ルートの目処が立たない中で
の米原ルートの再検討は、昨年の参議院京都選挙区での維新候補の公約ですが、
なんで8本ものルートが出てくるのでしょう。中には、これまで誰も提案したこ
とのない珍妙なルートまで含まれています。
 たとえば小浜・舞鶴・京都のルート。何しろ、湖西線と比べて距離が2倍近く
にりそうな上、最速列車でも舞鶴に停まるとすると、京都・敦賀間の時間では現
行のサンダーバード(約52分)どころか、新快速(約90分)にも負けかねません。
料金も2倍以上でしょう。丹波山地の長大トンネルや京都盆地の大深度地下工事
などの致命的欠陥は、現状の京都・小浜ルートと同等かそれ以上です。さまざま
な延伸ルートの欠点だけを集めてきたようなプランです。
 ただの当て馬(他のルートをマシに見せるため)なのかも知れませんが、北陸
新幹線の一日でも早い延伸を素直に期待している人から見れば、時間稼ぎの嫌が
らせにしか見えません。実際、こんな代物の検討資料を作らされる現場担当者は、
たまったものではありません。
 この件は、昨年末、下の記事にまとめましたので、興味のある方はお読みくだ
さい。

小浜ルートの駆除が始まった  【北陸新幹線 その28】
村山恭平
http://nagaya.tatsuru.com/murayama/2025/12/22_0935.html


 アホな有権者に再挑戦

 うんざりするのが都構想です。大阪府市政を牛耳っているのに2回続けて住民
投票で否決されたことを、もう一回住民投票にかけようというのです。自分の任
期中はやらないと言っていた吉村知事の心変わりです。というより、与党になっ
て本音がうずいたのでしょうか。
 政治家が前言を撤回することは、必ずしも悪い事ではないと思いますが、大き
な説明責任が発生します。吉村知事の場合、過去2回の住民投票の結果をどう評
価するかということを明言すべきでしょう。理論的に考えれば、次の3つの可能
性しかありません。

 1)否決されたときと、今回は状況が大きく変わった。
 2)否決されたのとは、今回は別の提案をもってきた。
 3)否決は誤った判断だと考えている。

 順に検討しましょう。
まず、否決時点と比べて状況が変わった事は、維新が与党になったことです。け
れども、国家の財政も民間の経済状況も大幅に悪化し、「都構想どころじゃない」
という状況になっています。
 では、新しい画期的な提案があるのか。どう考えても何もありません。都構想
の信を問うと言いながら、具体的な内容は全く聞こえてきません。吉村知事自身
が、「有権者の審判を仰ぎ、〝大阪都構想の設計図〟を作らせていただきたい」
なんて、いまさら言っています。まともな脳味噌の持ち主ならば、「設計図」を
作ってから「これはいかがでしょうか」と、「有権者の審判を仰ぐ」はずですが。
内容を議論するのではなく、「俺に白紙委任しろ」と言いたいわけです。維新と
いう政党には良い点もたくさんあると思うのですが、議論より独裁という体質に
はゲッソリします。
 彼らは恐らく本心で「大阪都構想について有権者の審判をあおぐ必要はない」
と考えているのでしょう。だから、過去2回の否決は、「馬鹿な府民どもの誤っ
た判断であった」と思っていることになります。「再挑戦」という言葉もよく出
てきますが、誰に「再」び「戦」いを「挑」むのでしょうか。大阪の民意と戦う
気だと理解しました。

出直し大阪府知事選、都構想「設計図」是非を問う 吉村氏、府市一体の成長
を訴え,
47news
https://weekly-osakanichi2.net/archives/45922

 白票で冷や水を

 そもそも都構想に何のメリットがあるのでしょうか。二重行政の廃止と言って
も、大阪市を複数の基礎的自治体である「区」に分割して、なんで二重行政じゃ
なくなるのでしょうか。だいたい、約十年にわたって府市両方の行政を牛耳って
きていながら、なぜ「二重行政」とやらの解除ができなかったのでしょうか。そ
もそも、都道府県の他に市区町村という基礎的自治体を置く制度は、はじめから
手厚い二重行政を指向するもので、大阪だけに限った話ではありません。
 つまり都構想のメリットがよく分からないことが、過去2回の住民投票での否
決に大きな影響があったと考えるべきではないでしょうか。さらに、ここ半年ほ
どは副首都の話が出てきてさらに、議論が混乱しています。
 念のために書いておきますが、副首都とは災害などで東京が機能不全になった
ときに、代わりに首都の働きをする都市を予め造っておこうという考え方で、別
に特別区が構成する都である必要はないのです。また、国全体に関係する事です
から、大阪府市だけで決められるわけではありません。実際、長野や福岡なども
手をあげています。恐らく、我が国は独裁制ではなく一応は民主主義国家である
限り、この話は実現しないでしょう。
 副首都になることのメリット(確かに大阪にとっては大きい)と都構想そのも
ののメリット別物です。あたかも、都構想が成立すれば自動的に大阪が副首都に
なれるような幻想を振りまくのはやめるべきでしょう。
 もうひとつ、あまり知られていないことですが、住民投票以下の手続きが進ん
でも、国会での法改正が無い限り、大阪都にはなりません。考えてみれば当然の
話で、道府県が自分たちだけの判断で「都」を名乗れるのなら、北海都、青森都
......なんてことにもなりかねません。大阪市が区に分割されても、大阪府は府の
ままです。前回の住民投票でもそうなっていたのに、なぜかみんな都構想と平気
で言っています。
 ちなみに、今回の知事・市長選挙では私は白票をいれるつもりです。選挙の開
票では白票は他の無効票とは別途集計されます。つまりひとつの意思表示として
認められているわけです。たとえば選挙を行うことへの抗議としては、認められ
ていることです。
 過半数が白票だったら面白いのですが、そこまで行かなくても大阪府なり市で
行われた過去の選挙と比較して突出して多い白票が出れば、ゾンビのような都構
想に盛大に冷や水をぶっかけられ、簡単には住民投票に踏み切れなくなります。
今回の知事選・市長選に納得の行かない有権者の方におすすめしたいと思います。
白票が歴史を動かすという前代未聞の民主主義に参加してみませんか。

最後に衆院選。維新は与党になりながらも自民党と選挙区調整しないため、小
選挙区に与党候補が2人立候補するという複雑怪奇な事が、数十選挙区で起こっ
ています。高市総裁は、「あたらしい連立の形」などと力なく笑っておられまし
たが、自民党の候補者はたまったものではありません。特に、与党の現職がいる
選挙区に、あえて立候補するということは、与党の政策を認めないということで
す。ひとつやふたつなら、その議員の例外的な話なのでしょうが、これが何十選
挙区にも及ぶとなると、「どこが連立なんじゃ」と思います。
 ビートたけし氏などは、「自民党の寝首をかく気じゃないか」などと言ってい
ますが、与党の一角に加わることで国民の信用を得て、結党以来のいかがわしさ
を粉飾するのが最大の目的ではないでしょうか。
 右も左も次々と新党が結成され、自分たちが目立たなくなったからと言って、
奇をてらったことばかりするのは、落ち目の芸人が舞台で裸になるのと同じよう
なもの、みっともない限りです。

新春備忘録

 第二部 水に流して流される

 備忘録ということですが、私も忘却力では若い者には負けません。一方こうい
う人間は、脈絡なくつまらないことを、突然思い出したりします。少し前に流行
った言葉が妙に気になったりもします。
 米百俵の話を覚えていますか、2002年当時の小泉純一郎総理大臣が所信表明演
説に引用してから一気に有名なった物語です。内容の真実性や総理の引用の適切
さはあえて議論しませんが、そのとき多くの私たち日本人の心に刺さったことは
間違いありません。
 それから30年もしない昨年、別に飢饉でもないのに私たちの多くは、備蓄米の
放出を支持しました。その結果、昨春100万t弱あった政府備蓄米は三分の一弱し
か残っていません。しかも大半は、2020年21年産のいわゆる古古......米。備蓄の
うち新しい方から食い散らかしたわけです。事情はいろいろあるにせよ、なんだ
か意地汚い話です。米百俵の精神とどこへ行ったのだ......などと「オールドメデ
ィア」のラスボス、新聞のコラムあたりがボヤくか思ったのですが、どうやら何
もおこりませんでした。米百俵どころか備蓄米という言葉さえ、みんな忘れてし
まったみたいです。
 それにしてもなぜ、古古古......なんでしょう。いくら農業技術が進んだとは言
え、収穫直後から古古古古米になる品種はありません。政府が新米を通常は食用
にしない古古古......米になるまで保管したからです。毎年の備蓄量を増やして、
せめて古古米ぐらいのときに、海外での飢餓救済や工業用に回すのが普通のやり
方だと思うのですが。購入量は増えますが、使わなければ新しいうちに償却でき
るのですから、それほど経費には響かないでしょう。農林大臣が、備蓄の量と質
を確保するより目先の米価を下げることを考え、あまり批判を受けてはいません。
今後、米百俵の話が復活することがあるのでしょうか。いやないでしょう。


米百俵物語,米百俵スクールプロジェクト
http://kome100sp.com/story/


小泉首相の所信表明演説(米百俵の引用),小泉純一郎
https://www7a.biglobe.ne.jp/~jigenji/koizumi.htm


農水省は11月12日、同日時点の政府備蓄米の在庫状況を32万tとの見込みと公表
した。農水省
https://www.jacom.or.jp/kome/news/2025/11/251113-85698.php

 見栄を張る「首長」族

 前回お話しました原発は、いくら公共性が高いと言っても民間企業である電力
会社の話です。福島第一の事故で東電株は紙切れになりました。今後の原発の安
全性については、曲がりなりにも、株主によるガバナンスが機能することが期待
できます。ところが、純粋に税金だけで動いている国や自治体となると、どんな
無茶をしても選挙で落ちる以上の形で責任を取らされることはありません。
 バラマキで破綻が確実であっても、それが数十年以上先の話だと、「なんとか
なるさ」と考えるのが、私たち日本人の特性です。逆に、目の前でクラッシュが
おこっても、数十年以上前まで遡って責任を追及することはありません。何でも
水に流す国民性だからでしょう。
 覚えてますか東京五輪(2021)。都は莫大な損失をどうするのでしょうか。今
でも日々それが膨らんでいます。金利の話をしてるのではありません。レガシー
という名の金食い虫が元気に活躍しているからです。
 たとえば、水泳会場となった東京アクアティクスセンター。ここにはメイン・
サブ・飛込用と、3つのプールがあります。メイン・サブはいずれも長さ50m
幅25m深さ3mとなっていて、競泳・水球・アーティスティックスイミングの
全てに対応できる公認規格です。
 とんでもない代物だと思います。国際基準の公認規格では、競泳用のプールは
深さは2m以上あればよく、水球・アーティスティックスイミングは長さ約30
mで十分です。だから、メインを競泳用(深さ2m)にサブ水球・アーティスティ
ックスイミング用(長さ30m)にすれば、30%以上水量を減らせます。温度や
水質を管理しなければならないことを考えると、五輪以降の維持経費を大幅に削
減できたはずです。
 実は、学校プールの維持管理に関わったことがあるので身にしみているのです
が、水質は一度悪化させてしまうと、システム全体のメンテが必要になるので、
使い続けるつもりなら水の循環を長期間止めることはできません。
 それにしてもなぜ、競泳用プールを3mにしたのか......どうやら、深いプール
ほと波の発生が少なく、良い記録が出やすいことが理由だと言われています。実
際、競泳37種目中、世界新記録が6とまずまず多めの大会だったと言えますが、
歴史の浅い種目も多く自由形での世界新はなし。どこまで水深に効果があったの
か不明です。
 この東京アクアティクスセンターが出している赤字は、年間6億円以上だそう
です。辺鄙なところで、最寄り駅から無料の送迎バス(これまた赤字の原因)が
出ていますが、都民が気軽に泳ぎに行ける立地ではありません。旧東京オリンピ
ックで使われた代々木体育館のプールを復活させれば、こうしたレガシー経費も
不要だったはずです。今からでも、せめてプールを部分的に埋め立てて、公認規
格ギリギリまで縮小してはいかがでしょうか。
 一方、さらに巨大な赤字が出そうな国立競技場の収支計画は不明。プールの水
を気にしている場合ではないのかも知れません。後腐れ無く、閉会後は全てを更
地にもどしてしまう関西万博の「潔さ」さえも、光って見えます。
 ちなみに、五輪自体の赤字は2.3兆円以上。東京から地方への税の再分配問題に
せよ、ゴミ袋有料化の話にせよ、「都にお金がないからダメ」とは言い出せない
でしょう。


東京アクアティクスセンター,東京アクアティクスセンター
 https://www.tef.or.jp/tac/index.html


東京オリンピック【競泳】世界新記録、五輪新記録まとめ, Excalibur(エク
スカリバー)水泳教室

 https://excalibur-personal.com/1474/


東京オリパラ「負のレガシー」が重すぎる 7つの恒久施設の維持費は年間50億円,
AERA
 https://dot.asahi.com/articles/-/67041?page=1


◆宮本勝浩 関西大学名誉教授が推定 ◆東京オリンピック・パラリンピックの経
済効果と赤字額〜経済効果は約6兆1,442億円。一方で、組織委員会や国、東京都
の赤字総額は、約2兆3,713億円〜,宮本勝浩
 https://times.sanpou-s.net/detail/pid-31143/

 不発爆型レガシー

 赤字と言えば、一番恐ろしいのがミャクミャク界隈です。不気味なのは、「万
博は黒字だ」としながらも、あまり維新の連中が騒がないことです。彼らの「上
品な」文化を考えれば、鬼の首でも取ったように大言壮語しそうなものですが、
妙に静かです。
 そもそも、公的イベントでの黒字の定義はなんなのでしょう。まず、設備投資
とも言える建設費は滞りなく瓦礫に化けつつあります。それと比べれば経済効果
なんてほとんどないでしょう。誰かが万博に行ってお金を使えば、その分は他で
の消費が減ります。「万博で遊ぶために一生懸命働くぞ」という人は皆無だから
です。せいぜい、万博に行くために来日した少数の外国人たちの、インバウンド
消費が経済効果と言えるぐらいですか。
 知事や市長がどや顔で言う「黒字」は、チケットの売り上げが会場経費の合計
を上回ったという意味でしょう。けれども、よく指摘されることですが、会場の
警備費や市内あちこちにあった宣伝用の飾り(粗大ミャクミャクなど)やイベン
ト。大部分は博覧会協会とは別会計で、膨大な金額になるはずです。建築費の未
払いも踏み倒す気でしょう。仕送りで衣食住まかなっているくせに、下宿の家賃
を滞納している大学生が「今月はバイトでいっぱい稼だよ」と無邪気に自慢する
ようなものです。
 「黒字額」の公式発表は来年(2027年)とのことです。変だと思いませんか。
「総選挙だ!、大阪名物同時選挙だ!!」などと騒がしい今年(2026年)。「逆
風の中で上げた奇跡的な成果」をあえて自慢しないほど、維新という政党は奥ゆ
かしくなったのでしょうか。あるいは、誤魔化し切れないぐらいの結構な額の赤
字を、しっかり出せた自信があるのではないでしょうか。
 今後、数年でおそらく維新という政党は、少しずつ自民党に削り取られて消滅
するでしょう。その間に内部告発などで、いろいろな形で残っている「巨額の債
務」は、知らず知らずのうちに大阪府市民と日本国民が背負うことになりそうで
す。
 この件は今年も追いかけるつもりです。

 八潮市の陥没

 昨年(2025年)、クマ騒動と入れ替わるように話題にならなくなった八潮市の
道路陥没。現在どうなっているのか。県が膨大な費用を投じて復旧をしているよ
うですが、いまだに周辺地域では悪臭が漂っているとのことです。
 気になるのは、現場付近で駐車車両のエンブレムが錆び始めているとの報道で
す。エンブレムとはいわば車の顔です。みすぼらしい姿をしているとメーカーの
威信に響きそうですから、常に排気ガスにさらされていても耐えられるように作
られているはずです。実際、廃車以外でエンブレムが錆びているのを見たことは
ありません。


八潮市の事故が示す下水道の危機...インフラを維持・拡張する時代から"しまう
"発想へ、下水道の「可視化」を急げ,Wedge(ウェッジ)
 https://news.yahoo.co.jp/articles/2366b51adee3c2b40c9dd619df5062c249d560e2?page=2


八潮市道路陥没事故から約1年 "戻らぬ日常"住民らの苦悩...続く交通規制や
「下水のにおい」「さび」報告も【バンキシャ!】,日テレNEWS NNN
 https://news.yahoo.co.jp/articles/3709cc871e929b31f6dc8b4947dfac4b1fa98733?page=2

 犯人は硫化水素なんでしょうが、かなりの高濃度で付近に漂っているはずです。
建物や送電設備などのインフラは大丈夫なのでしょうか。そして何より健康被害。
近隣住民に呼吸器系の病気が多発したら、誰がどう責任をとるのでしょう。責任
範囲やら因果関係も大議論になりそうです。
 休業補償やら不動産価値の低下など、損害賠償の話にはなかなか進んでいない
ようですが、たとえば原発事故を前例にして計算すると、こちらも膨大な金額に
なるはずです。今後のインフラ事故の「モデルケース」になるわけですから、自
治体としても安易に大盤振る舞いはできません。
 もし、水道事業が民営化されたら、こういう場合は事業者が倒産して全てチャ
ラになるのでしょうか。原発事故同様、広大な地域が住めなくなりますが、人口
も減り空き家が増えているのですから、多くの日本人にとって、他人事である限
り仕方のないことなのでしょう。
 あえて恐ろしいことを書きますが、これはテロにも十分に使えます。マンホー
ルから忍び込んで爆弾を仕掛け、下水本管の天井を破壊します。数日で土砂が流
入して道路陥没がおこり、修理には膨大な費用と日数がかかります。爆発の規模
が足りなくても硫化水素が仕事をしてくれますから、陥没は数年後のお楽しみで
す。
 以前、山岳地帯で高圧送電用の鉄塔を倒す「イタズラ」がありましたが、こん
なのも含めて、日本中にある細かいインフラ設備をいっせいに破壊したら、我が
国の経済活動は即死。数人の工作員だけでできそうですから、警備の厳しい原発
や新幹線を狙うより効率的です。台湾有事は基本的に外国の話。「そんなことよ
り」よほど深刻な潜在的脅威だと思うのですがいかがでしょうか。

 五輪、万博そして道路陥没。何の関係もないようですが、共通しているのは膨
大な公金が成果の少ないことに使われていて、それに対する批判が弱々しく、し
かも長続きしないことです。時間がたてば全てを水に流してしまう私たち日本人
の性癖が、最悪の形で現れた問題です。
 けれども、根本的な手当を先送りしたせいで、あちこちで被害の出血がチョロ
チョロと続いていては、いずれ、国全体がそれに耐えられるなくなるはずです。
あと20年もすれば若者たちは、空っぽの百俵を眺めて平成・令和の有権者を呪い
ながら、ため息をつくことになるのでしょう。
 これは警告ではありません。なぜならば、多分何をやっても、いまさら間に合
わないことだからです。覚悟するしかありません。

新春備忘録

 明けましておめでとうございます。昨年の10大ニュースと思いましたが、うん
ざりするほど話題になったトランプ・ミャクミャク・クマ・サナエ的な話を、も
う一回しても仕方がありません。ここはひとつ私らしく、忘れられていても火だ
ねが残っていて、今年あたり大ごとになりそうな話を集めてみることにしました。

第一部 終わらない福島の負債

 最初は原発にかかわる昨年末の2つの報道についてです。
 ひとつは、国土地理院が昨年の調査で、能登半島の志賀原発の下に活断層を新
たに発見したとのことですが、北陸電力は「航空写真から何がわかるのか」と、
怒り狂っています。つまり、活断層の有無についての論争です。
 もうひとつは、昨年末の日経新聞の一面トップ記事に、柏崎羽倉原発の電気を
使ってデータセンターを立ち上げるという構想が出ていました。海外でも、マイ
クロソフトやグーグルが原発とデータセンターを併設するというプランが報道さ
れましたが、果たしてうまく行く見込みがあるのでしょうか。東電自身は慌てて
取り消していますが......
 ところで、そんなことより、福島の廃墟原発はどうなっているのでしょうか。


 東電、新潟にデータセンター 大災害に備えリスク分散,共同通信
 https://www.47news.jp/13636493.html

 「東京電力、柏崎刈羽原発の周辺でデータセンター開発 AI 需要に的」の報道
について,東京電力,
 https://www.tepco.co.jp/press/news/2025/pdf/20251222j0101.pdf

 活断層をめぐる不毛な理論

 活断層から行きましょう。これまでにも何回か書いたことですが、基本的な論
点を二つ押さえておきましょう。まず、「断層が動くと、原発はなぜ危険なの
か」、そして「活断層とは何か」です。
 活断層の上に原子炉があるとなぜまずいのか、地震の揺れはあまり問題ではあ
りません。例えば、阪神淡路大震災のとき大きく動いた淡路島の野島断層。直上
の古い木造家屋が真っ二つに裂けても、倒壊していませんでした。一方、震源か
ら何十kmも離れた神戸市内の激震地では、鉄筋コンクリート造のビルが軒並み
全壊していました。被害の大小を分けたのは基本的にはその地域の地盤で、もと
もと田んぼだったような軟弱地盤のあるところで大きな被害が出ています。活断
層の近くがよく揺れるとは限らないのです。
 当たり前ですが世界中の原発は、十分に安定した岩盤の上に作られています。
よって、対応できないような地震は想定されていません。つまり、揺れないこと
になっています。まあ、地震国で原発を動かすなら、どこかで割り切らないと仕
方ありません。地震そのものによる原発の大事故も、なかったことになっていま
す。
 けれども、福島での原発事故の最初の原因は、津波ではなく地震の揺れそのも
のだと私は考えています。ちなみに、うっかりこの分析を原発推進派の「アゴラ」
に書いた私は、社長の逆鱗に触れ「永久追放」されました。よほどのタブーなの
でしょう。この件はまた、この長屋でまとめて記事にしようかと思っています。
 それでは「安全な揺れ」しかおこらない岩盤の上にある原発が、なぜ活断層を
忌み嫌うのでしょうか。それは建屋などの重要施設の真下で断層運動がおこり、
地面もろともに引き裂かれたらたまらないからです。
 阪神淡路のときに、私自身が調査した神戸市内の例ですが、比較的新しい鉄筋
7階建てのマンションが、断層(なのかどうか厳密には不明)に裂かれて、数cm
ずれたことがあります。同じ事が原発の直下でおこったら、冷却水のパイプ類が
ちぎれていきなりメルトダウンです。だから、国の安全基準でも直下に活断層が
発見されたら、既存の原子炉でも廃炉になります。
 電力会社のほうは必死になって、敷地内に断層があっても、それが活断層では
ない証拠を提示します。けれども、これはかなり不毛な議論です。「活断層」の
学問上の定義は、「今後活動する可能性のある断層」ということですが、これで
は現場では何の意味もありません。今の地球科学では地震予知でさえ難しいので
すから、特定の断層の今後を知るためには、精度の良い占い師が必要になるから
です。
 しかたがないので、「過去一定の期間動いていないなら今後もう動かないだろ
う」という推定で「活」断層かどうか判定することになります。現在の原子力規
制委員会の定義では「約12〜13万年前以降」に活動したものとのことです。上に
書いた国土地理院の指摘に対する北陸電力の反論は、敷地内でボウリングまでし
て地層データから、「断層はあるが、13万年よりも古いものである」と主張する
ものです。ご苦労さんとしか言いようがありません。


 能登半島北部などの活断層図を公開します,国土地理院,
https://www.gsi.go.jp/bousaichiri/afm_koukai_2025.html

 「古い断層だからもう大丈夫」というのは希望的観測でしかありません。全て
の断層は何もない地層が割れるところから始まります。「すべての娼婦もかつて
は処女であった」というわけです。何もないところに、いきなり断層が出来るこ
とさえあるといことは、古い断層が新たな地殻変動で「再稼働」することもある
ということです。ですから、いくら古い断層でも、特に安全とは言えないはずで
す。
 もうひとつ言えば、地上で見える断層はごく一部です。大部分は農地や建物・
道路などの下にあり見えません。地震で地表に断層が顔を出しても、その後に洪
水でもおこれば見えなくなるのが普通です。また、断層は、教科書にあるように
まっすぐに伸びるとは限らず、微妙に曲がったりずれたりすることもよくありま
す。
 ですから、原子炉の直下ばかりを見て、細かい議論をしても仕方ありません。
航空写真でザクっと地形を見て、「危ないんじゃないですか」と指摘した国土地
理院の主張は、理にかなっています。
 北陸電力が「志賀原発は安全だ」と言いたいのなら、2年前の震災直後の原子炉
建屋周辺の様子、たとえばアスファルトの割れや、原子炉建屋内部の状況(画像
がないとは言わせませんよ)を見せていただくのが第一歩です。当然ながら「古
い断層」は全く動いていないんはずですよね。
 また、「もし能登半島地震のときに運転していたら安全に冷温停止までもって
いけたこと」も、シミュレーションででも証明する義務が最低限あります。それ
にしても、地震から2年もたっているのに、なんで再稼働(東日本以来15年動いて
いない)の話が出てこないのでしょうか。建屋内外がグチャグチャになり、もは
や手の付けようがなくなっているのではないことを祈ります。


活断層 かつだんそう ,原子力規制委員会,
 https://atomica.jaea.go.jp/dic/detail/dic_detail_2668.html
引用・発言・名言の非公式解説ノート,ウィリアム・ブレイク,
https://note.lv73.net/william-blake/every-harlot-was-a-virgin-once/

 デブリとデータセンターの関係

 デブリとは何か。東京電力の癌、日本経済の癌、日本国の癌、そして日本列島
の癌です。福島第二原子力発電所の地下に貯まった金属酸化物の塊。強烈な放射
線を放つ、自然界には存在しない880tの「岩石」です。ここからバレーボー
ル一ぐらいの大きさの塊(4kg)をつくって、横に1時間いたら数日で死にます。
机一つ分(40kg)なら即死。豆粒大でも風船に付けて飛ばせば立派な核兵器で
す。
 福島第一廃墟原発地下にあるデブリはもともと原子炉燃料ですから、大量のウ
ラニウムを含んでいます。半減期は約45億年、地球の寿命に匹敵します。無害化
するころには、人類どころか地球があるのかないのかの世界です。苦労に苦労を
重ねてデブリを取り出し、整形し、海水の来ないところに安置できても、それは
ゴールではなく、何十億年単位の長期保存のスタートラインなのです。
 東電は最終処分について、何やら気楽なことを書いています。どうやら普通の
使用済み核燃料などの高レベル廃棄物と同じ方式で、処理するつもりみたいです
が、どう考えても無理です。ただの使用済み核燃料でも受け入れ先がないのに、
こんなものに対応できる処分場は、国内はもとより世界中探してもあるとは思わ
れません。


 取り出したあとの「燃料デブリ」はどうするのか?,TEPCO,
https://www.tepco.co.jp/decommission/towards_decommissioning/Things_you_should_know_more_about_decommissioning/answer-20-j.html

 逆に言えば、デブリの取り出しなど出来っこないことに、よほど自信があるの
でしょう。では、取り出さなかったらどうなるのか、デブリは敷地内に流れ込ん
でいる地下水にさらされて、汚染水を量産しています。
 現在は、ALPSという除去システムを使い、汚染水から大部分の放射性物質
を除去し、除去できないトリチウムに関しては十分に薄めることで安全な処理水
にして、沖合に放出しています。
 ちなみに、「トリチウムは薄めさせすれば安全である」というのが東電の見解
に反対意見も世界中に見られますが、この部分の安全性は科学的に支持できる主
張だと私も思います。では何が問題なのでしょうか。最初に東電の主張を見てみ
ましょう。

「これまで、原子炉建屋への地下水・雨水の流入量を減らすため、地下水のくみ
上げや凍土壁(陸側遮水壁)等、重層的な取組みを実施してきた結果、汚染水発
生量は、対策前の約540m3/日(2014年5月)から、約70m3/日(2024年平均)ま
で低減しています。」

 よく考えてみると頼りないことを言っています。地震からALPSが稼働する
まで1年以上かかっているますが、540立方mもの地下水が流れ込んでいるのに、
敷地から水が溢れたという話は聞いたことがありません。ということは、流れ込
んだ地下水は汚染水になり、地下から海のどこかに漏れ出していたはずです。
「重層的な取組み」とやらで、地下水の流入を防いだとしてもデブリと海を繋ぐ
地下水路は残存していて、デブリ出汁の利いた高濃度汚染水として海に流れ込ん
でいるはずです。この地下水路が有る限りはいくらALPSが頑張っても、潮の
干満などで流入した海水が放射性物質を、地下水路経由で海まで運搬する仕組み
はなくなりません。よって、「低減」しているのは「汚染水発生量」ではなく、
処理をした汚染水の量なのです。
 いまのところ、周辺海域でのモニタリングでは異常が出ていませんが、これら
はあくまでトリチウムを目的にした計測ですから、海底からしみ出してくるはず
の汚染水の影響を、どこまで拾えるのか不明です。
 けれども逆に言えば、事故直後1年以上も高濃度の汚染水が垂れ流しだったのに、
何も問題がおこっていないのですから、ALPSなど実質的には不要だったのか
も知れません。

 いつまでも、もつと思うな、建屋と同情

 原発の建屋がなんとか持ちこたえていて汚染水の流出を最小限にしていますが、
これがいつまでも続くとは思えません。前にも書きましたが1号機の建屋は築50年
以上で、事故後15年間はメンテがされていません。鉄筋コンクリート建物の寿命
は70年ぐらいといいますが大丈夫なのでしょうか。
 原子炉部分の鉄筋コンクリートは、地震、津波、爆発、高熱を経験した上に、
放射線を浴びつつ地下水や海水の流れにさらされ続けています。ですから内部の
鉄筋が錆びていないはずがありません。今後、錆びて膨張した鉄筋が周囲のコン
クリートをかち割りボロボロになり、小規模な地震などをきっかけにして建屋が
大崩壊して、デブリと海を繋ぐ地下水路が爆発的に広がることもありえます。劣
化が進んだ鉄筋コンクリートのメンテはただでさえ難しいので、強い放射線の中
でそんな作業ができるとは思えません。
 つまり事故のせいで廃炉も出来ないのです。どんなに頑張っても、あと100年も
すれば建屋が崩壊し、ALPSも破壊されるでしょう。そうなると大量の放射性
物質が海に流れ込むことになり、世界中から強烈に非難されることになります。
原子炉事故当初には一定の同情がありますが、100年以上前の事故の後始末ができ
ていないとなると、ただでは済みません。
 だから、東電はいつ崩壊するかわからない建屋を指をくわえて見ながら、効果
のはっきりしないALPSを、せっせとこの世の終わりまで運転しなければなら
ないのです。いくら国や他の電力会社がサポートしてくれるとはいえ、こんなも
のを背負い込んでいるのですから、東京電力の経営は苦しいはずです。案外、建
屋が大崩壊して手の付けようがなくなってたと開き直った方が、経営的な意味で
は将来が明るいのかも知れません。

データセンターで一発逆転

 こんな状況ですから、何が何でも収益性が高い原発を動かしたいところですが、
自社で生き残っているのは柏崎刈羽原発だけです。単純に稼働させるだけでなく、
なんとか安定した新たな収益源にしたいところです。出てきたのが敷地内データ
センター構想です。
 実は上の報道、東電自身が取り消しているように典型的な飛ばし記事で、もと
は関係者のプライベートな雑談・放談のたぐいを、記者が真に受けたのだと思い
ます。発電の常識と全く合わないからです。
 そもそもデータセンターの立地条件は、自然災害の少なさ、清廉な淡水、豊富
で安定した電力ぐらいで、それさえ満たされれば世界中どこでもいいのです。言
い換えれば、世界中が誘致競争の相手で、地震国日本は最初から不利です。水に
ついても、少なくとも既存の国内原発は全て河畔や湖畔ではなく海岸にあります。
原発の冷却なら海水でも使えるのでしょうが、精密機械でも同様なのか心許ない
話です。
 そして何より電力です。データセンターに限らず単独の原発に電力を依存して
いるシステムは世界中に皆無です。あえていえば原子力潜水艦ぐらいですか。原
発には自然災害や事故などでの緊急停止がつきものだからです。
 これまで緊急停止自体が原因で停電がおこった話は、国内ではあまり聞きませ
ん。考えてみれば、これはすごいことです。いつどこで大型発電機が停止しても
バックアップできる体制が組まれているわけですから。
 ましてやデータセンターです。停電はもちろん急激な電圧の低下、電源ノイズ
の発生なんかにも脆弱で、なによりも安定性が求められます。
 では、柏崎刈羽原発。あまり知られていませんが、こやつは東日本大震災より
も前の、新潟地震で故障・緊急停止して、やっと再稼働したところで3月11日
を迎えて再び停止、その後、大小不祥事が続いたこともあり、やっと最近、再々
起動の話が出たわけで、不安定性では定評があります。
 もうひとつ、この原発にはデータセンターを作るには向かない特徴があります。
こやつは、東電ではなく中部電力の縄張りである新潟県内にあり、出来た電気は
直接東京方面に送られます。だから、周囲の電力ネットワークからは切り離され
ているはずです。もし地震で発電が止まったら、データセンター用のバックアッ
プ電力はどこから持ってくるのでしょうか。関東の発電所から逆流するように、
はるばる新潟まで運んでくるのでしょうか。
 そうでなくても、データセンターのように大電力を安定的に必要とする施設は、
電力会社泣かせと言えます。貯蔵がほとんど不可能である電気という商品の特殊
性を考えれば、原発の緊急停止に備えて平時から大きな予備電源を用意しておく
のは、かなりの無駄が発生することになります。
 でも、だからと言って、いっぱいいっぱいの運用をしていたら、データセンター
への送電を守るために、都市への送電量を絞ったり、酷い場合には停電というこ
とになってしまいます。停電ならまだしも、データセンターへの送電を守るため
に、原発の運転者が緊急停止をためらうというのも、有ってはならないけれど有
りそうな話です。少しでも原子炉が事故ったら、データセンターも無事ではすま
ないと思うのですが。
 地震国である我が国は、データセンターの設置場所としては最悪の環境なので
す。柏崎刈羽原にデータセンターを作るようなIT事業者は、おそらく存在しない
でしょう。

 この記事は3本1組の記事の2本目です。
 1本目は、小浜ルートの駆除が始まった  【北陸新幹線 その28】
  http://nagaya.tatsuru.com/murayama/2025/12/22_0935.html
  です。
 2本目は、ゴーゴーイチでゴーは無理  【北陸新幹線 その29】
  http://nagaya.tatsuru.com/murayama/2025/12/23_1435.html
  です。
よろしかったらお読みでください。


 ここまで書いていた段階で、新しい動きが出ました。前回ふれました「フライング調査」の予算が、例年同様14.5億円で計上されるようです。インフレを考えれば実質減額で、無いよりは良いレベルですが、これをどうやって8ルートで分けるのでしょう。
 ではでは、維新が持ち出している8ルートを順に検討していきましょう。もしかしたら、提案者ですら、そんな面倒なことはしないかも知れませんが、いかに不真面目な議論なのかを記録しておくことことには価値がありそうです。
 まずはもう一度、8つのルートを並べてみましょう。

1)京都小浜
2)亀岡
3)湖西(新設)
4)湖西(在来線利用)
5)舞鶴(京都経由)
6)舞鶴(亀岡経由)
7)米原(乗り入れ)
8)米原(乗り換え) 

 舞鶴回りや亀岡経由も論外

 これまで延々と議論した小浜・米原系(1.7.8)ルートは簡単に結論だけにしておきます。小浜は技術的に無理無理無理無理です。米原系ルートは肝心のJR西や滋賀県に、メリットもやる気もないので無理無理無理無理でしたね。興味がおあり方は、これまでの記事をご覧ください。

INDEX-はじめて、記事を読まれる方のために【北陸新幹線 その25】,村
山恭平,http://nagaya.tatsuru.com/murayama/2025/06/21_1637.html

 まず、そもそも今回の延伸はなんのためかというと、大阪と北陸方面との移動時間の短縮です。小浜・京都ルートの場合、現行の「大阪からサンダーバードに乗って敦賀まで行く」のと比べて時短効果は30分程度。敦賀で乗り換えが発生している大阪・金沢間で比較しても、乗換駅の問題まで考慮すれば、大きな違いはなさそうです。
 今回の8ルートのうち舞鶴を回る2つ (5.6.)は、今の敦賀乗り換えよりも乗車時間は短縮どころか長くなりそうで、なんのための延伸かということになります。
沿線のどこが高架なのか地下なのかは不明ですが、少なくとも日本海側から京都に抜けるには長大な山岳トンネルが必須です。青函トンネルなみの長さで、天文学的工事費・難工事・ヒ素入り残土と言った小浜ルートの致命傷はそのままです。
 つまり、経費はかかるわ時間短縮は皆無だわで、各ルートの欠点を集めたような代物。議論を混乱させるために維新が持ち込んだとしか思えません。わかりやすく言えば嫌がらせです。 
 亀岡(2)は、(万一ですが)完成すれば小浜・京都ルートよりも早くなるかも知れません。けれども、敦賀から日本海に沿って西に向かうと丹波山地の北側にはいってしまうので、大阪方面に直線的な線路を引くと、毎度お馴染みの長大山岳トンネル問題をさけられません。おそらく、トンネルの距離は小浜・京都ルートよりも長くなるでしょう。
 小浜市と大阪市との間には、百人一首の時代から難所としてしられた丹波山地が立ちはだかっています。小浜経由が事実上不可能であると思われる本質的な理由です。今回の維新八案には無かったものを含めて、敦賀から大阪方面に向かうルートを考えると、「小浜を外すか、長大トンネルを掘るか」との究極の選択をつきつけられます。

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 ここで、あえて意地の悪い計算をしてみましょう。延伸が完成するとされる2050年ごろには、小浜市の人口は2万人程度でしょう。長大トンネルを掘って小浜を通すための費用は3兆円ぐらいはかかりそうです。少なくとも、小浜市民1人あたり1億円以上のお金が使われることになります。「新小浜駅のために1億円出しますか」とか「延伸やめる代わりに、全員に1億円あげます」とかの話になったら、市民こぞって「延伸してほしい」とはならないでしょう。まことに品のない話ですが、こう考えてみると小浜を経由することは巨大なバラマキだとわかります。技術面のみならず財政面を考えても無理だと言わざるをえません。

 NOと言える滋賀県

 最後に残った湖西系の2ルートはどうでしょうか。今回の維新提案で一番目新しい部分です。まず、湖西(新設ルート)。最大のメリットは直線性が良いことです。長大トンネルを避けるのなら完全な直線は難しいでしょうが、国道161号やJR湖西線沿いの比良山脈の麓を一気に山科まで向かえます。
 沿線はほとんどが山林なので用地買収は進めやすく、地べたを走れますのでトンネルや高架橋も最小限ですみそうです。市街地に高架橋を並べる米原ルートより、もしかしたら安くつくかもしれません。京都駅付近での接続を工夫できれば、大深度地下工事をする必要もありません。だから工期も短かそうです。地下水問題も発生しにくいでしょう。
 けれども、このルートには米原と同じ大問題があります。滋賀県の不同意です。米原ルート以上に県民のメリットが少なく、環境問題などの実害は米原よりマシとは言え、費用負担と並行在来線問題が解決できない限り、知事は相手にしないでしょう。国もJRも「それなら、うちが負担します」とは言うはずもないので、佐賀県内での西九州新幹線と同様に話の進めようがありません。
 最後に残ったのは4)の湖西(在来線利用)というやつですが、あまりに漠然としていて、何を提案しているのかよくわかりません。極端に言えば、現在の「湖西線」の名称を「北陸新幹線」に変えればそれでいいのでしょうか。
 馬鹿にされたような話ですが、案外それもありという気がします。現在、特急サンダーバードが走る湖西線は、ほぼ全線が高架で踏切が一か所もありません。車両・信号設備の改良やホームドアなどの細かい工夫と敦賀駅乗り換えの対面化で、「関西から北陸への移動時間を短くする」という最大の目的は、低予算でもかなり達成できそうです。
 さらに、将来的には三線軌条やフリーゲージトレインといった方法で、サンダーバードを敦賀から新幹線高架に乗り入れて、金沢方面まで行くことも考えられます。維新としては、この湖西(在来線利用)がもともと本命で、あとの6プランは当て馬だったのかもしれません。財政状況を考えれば安さは正義です。

 〈北陸新幹線延伸〉五里霧中の中央要望 再検証「発車」も長期化必至,北國
新聞,https://www.hokkoku.co.jp/articles/-/1964506


 巻き込まれた子供たち

 今年、北陸新幹線がらみで一番気分の悪いニュースは、小浜市が児童や幼児を巻き込んだことです。何回も書きましたが、小浜・京都ルートには、はじめから実現性がありません。にもかかわらず、何の責任もない子供たちを巻き込んでしまいました。

 北陸新幹線が走る未来の小浜、アートに 福井県嶺南4市町の子どもたちが共同
制作

福井県「若狭湾観光連盟」公式サイト,https://wakasabay.jp/articles/-/2555

 数年もすれば、小浜・京都ルートの話など雲散霧消しているでしょう。そのころ多感な時期を迎える彼らはどう思うでしょうか。ある日突然、正式に小浜延伸が断念されるか、小浜を通らないルートが着工されるかしたら、彼らにどう説明するのでしょう。ある少年は無力な地元の大人たちを馬鹿にし、別のある少女は故郷を弄んだ国や社会に対して反感を抱くことになるかもしれません。
 こうした経験をした子供たちは成人しても、自分たちが主権者であるという実感を、平均的な日本の若者よりもさらにに持ちにくいでしょう。この「長屋」の大家さんの文章には、「学校教育でも家庭教育でも「適切な負け方」については誰も教えない」とあります。だから彼らは恐らく、地元民に絶望しながらも地元に残ったり、都会人に不信感を持ちながらも都会に出たりすることになります。

〈北陸新幹線延伸〉五里霧中の中央要望 再検証「発車」も長期化必至,内田樹
の研究室,http://blog.tatsuru.com/2008/08/18_1017.html

 北陸新幹線の大阪延伸問題。大きな視点で見れば、「大人」たちの利権と負担をめぐるありふれた争いなのでしょうが、こうした、たとえ些細でも無責任な「大人」の振る舞いが、地域の将来に大きな傷を残すのではないかと思います。

 この記事は3本1組の記事の2本目です。
 1本目は 
 小浜ルートの駆除が始まった  【北陸新幹線 その28】
 http://nagaya.tatsuru.com/murayama/2025/12/22_0935.html
です。
よろしかったらお読みでください。


 今年(2025年)の参議院選挙直後に、「北陸新幹線の敦賀―新大阪間の延伸ルー
トを再検証する石川県関係の自民党国会議員」たちが、小浜ルートのB/C(=
経済効果/建設費)が0.551だと独自推定しました。つまり、建設費の半分
ちょっとしか経済効果がないとのことです。試算した団体には米原ルート系の方
が多そうですから、故意に厳しくした可能性はありますが、これでもまだ甘い評
価だと思います。大甘中の大甘、Fラン大の仏教授(故人でもフランス哲学研究
者でもなく、仏様のようにやさしい先生)による、就職内定者向け卒業追試験の
採点のようです。
 まず、建設費だけ考えても「丹波山地での長大トンネル(青函トンネル級)」
と「大深度地下工事(国内で成功例なし)での京都盆地縦断」という二つの大技
を含む巨大プロジェクト。総工費は不明のはず「膨大」としか言いようがありま
せん。
 これは悲観論でも言いがかりでもなく、リニアでも北海道新幹線でも費用のメ
ガ上振れは、実際におこっていることです。どちらも着工時より五割以上増えて
いて、今後のさらなる追加まで示唆されています。大規模なトンネル工事とはそ
ういうものかも知れませんが、地下構造に不安の多い小浜ルートでは、想像を絶
する規模のギガ追加を求められそうです。

事業費3兆円半ばに膨らむ試算 2038年度末以降に延期の新幹線札幌延伸 鉄道・
運輸機構が公表へ,STVnews,https://www.stv.jp/news/stvnews/kiji/st52d458b5a83746748055cf481d36e273.html

なぜリニア工事費が11兆円へ倍増?それでも計画実現が不透明なワケ,枝久保達
也,https://diamond.jp/articles/-/377120
山地を嫌う高速鉄道【北陸新幹線 その7】 
一長十短四苦八苦【北陸新幹線 その8】,村山恭平,http://nagaya.tatsuru.com/murayama/2024/07/10_0927.html

残土は続くよどこまでも【北陸新幹線 その9】,村山恭平,http://nagaya.tatsuru.com/murayama/2024/07/12_0736.html
見えない刺客は火成岩【北陸新幹線 その10】,村山恭平,http://nagaya.tatsuru.com/murayama/2024/07/12_0738.html

 やや蛇足ですが、上の議員さんたちの計算は、見かけの数字が細かすぎること
も問題です。経済効果はもちろん建築経費もドンブリ勘定しかないのですから、
少数点以下3桁という高精度の数字(「5」「5」「1」)を出せるはずありま
せん。今わかることは「小浜ルートのB/Cはどんな良くても0.6を上回らな
い」ぐらいが妥当なところでしょう。
 でも、語呂がいいから容認しちゃいましょう。ゴーゴーイチ.........ホウライ指
数と呼ぶぞ。確かに、「ゴーゴーイチの無い時と有る時で」小浜派の皆さんの元
気が全然違いました。関西以外の方には分からないかもしれませんが......。
 馬鹿にするなと言われそうですが、馬鹿にされても仕方ない数字です。小浜派
が文句を言うなら、今回の「B/Cの算出方法」にか、あるいは「着工の可否にB
/Cを使うこと自体」に、最初から反対しておくべきでした。

 調査費のフライングは容認できる

 当然ながら26年度中の着工は無し。次の焦点は調査費です。着工前のフライ
ング支出と批判されながらも、この2年は15億円程度で細々と調査継続中です。
 意外に思われるかも知れませんが、この支出を私は評価しています。着工五条
件の確認のためには、正確な建設費用の見積もりが何よりも大切なはずで、その
ためには詳細な地質調査が必要です。逆に言えばこれをやらない限り、大規模な
トンネル工事を伴うプロジェクトのB/Cが見積もれるはずがないのです。
 ろくに地質も調査せずに着工すれば、本当に完成するかさえ不明で、「工費は
プライスレス、工期はエンドレス」の泥沼に突っ込みかねません。これに限らず、
われわれ日本人の計画性の甘さは、インパール作戦のころから進歩していません。
今世紀になって、むしろ拗らせているようです。

フジのヤマから昭和が見える ...... フジテレビ性上納事件で考える戦後日本
(その1) 悪事も満足に出来ない令和日本の会社,村山恭平,http://nagaya.tatsuru.com/murayama/2025/04/28_0919.html
 断言しますが、リニア、北海道新幹線、辺野古の埋め立てなどの巨大プロジェ
クトが、ことごとくトラブル続きで大遅延している最大の原因は、事前に十分な
地質調査をしなかったからです。特に今回の北陸新幹線のように多数の案を比較
検討するなら(真面目やるならですが)、まずは地域全体の地質を詳細に調べる
のが妥当でしょう。
 しかしながら、今のヤバイ財政状況では永遠に完成しない「ホウライ電鉄」の
調査費など、いきなり廃止されてもおかしくありません。そうなると、建設費を
まともに予想出来ないのですから、ルート選定はますます混乱するでしょう。
 ここまで記事を書いていると、もう一つニュースが入ってきました。JR東日
本が、整備新幹線の原資にもなる、路線の貸付料の「値上げ」に応じる気がない
と言いだしたのです。北陸新幹線延伸への金の出し手は、国、JR、沿線自治体
(福井県、滋賀県?、京都府、大阪府)ですが、どこも自分とこの負担は軽減し
てもらえると甘く考えているようです。
 だから、このまま無理に小浜で着工などしようものなら、毎年毎年、費用負担
を巡ってバトルを展開するようなことになります。巨額の未払いが発生して建築
業者に迷惑が及ぶかも知れません。一度でも、そんなことになれば、翌年からど
こも工事に参加しなくなりますから、万博の海外パビリオンのような食い逃げは
できません。

整備新幹線の貸付料 JR東日本が「維持管理」の範疇を主張 1991年の「合意」
指摘,産経新聞,https://news.yahoo.co.jp/articles/53aac71cadc2cdd35d076df7d8bf934ee56a8a46

 以前、小浜ルート吸血鬼論を書きましたが、どうやら来年度も生き残りそうで
す。毎年恒例の「調査費」が2026年度予算にも計上されそうだからです。一方、
新装開店の与党プロジェクトチームは、維新というトロイの木馬が加わり小浜以
外の7ルートの検討を始めるということです。
 並べてみましょう。

1)京都小浜
2)亀岡
3)湖西(新設)
4)湖西(在来線利用)
5)舞鶴(京都経由)
6)舞鶴(亀岡経由)
7)米原(乗り入れ)
8)米原(乗り換え) 

 整理の仕方がメディアによって多少ちがうようですが、現時点(2025/12/13)
で一番アクセスしやすく消えにくいと思われる「読売オンライン」の記事に準拠
して整理していきます。著作権など面倒くさいので図を貼り付けませんが、ちゃ
んと見たい方は、下のリンクからダウンロードしておいてください。ただし、あ
まりおすすめしません。半年も待たずに、話題自体が全部まとめて消えると思わ
れるからです。 

 「北陸新幹線延伸ルート、維新が8案の再検討要求...与党PT」,読売オンラ
イン,
 https://www.yomiuri.co.jp/pluralphoto/20251213-GYT1I00017/

 粗製乱造

 これらのうち、2)亀岡、3)湖西(新設)、5)6)舞鶴、7)米原乗り入れ、は
どの部分がトンネルなのかさえはっきりしていません。メディアによってコース
の位置が微妙に違うという代物です。これでは工法も用地買収費も見積もりよう
がないので、B/Cは予想の概要のだいたいのところの見込みの推定もできませ
ん。
 こんなのを出してくるのは、既存の1)小浜やら8)の米原やらの工費計算のい
かがわしさを誤魔化す気なのかと勘ぐりたくなります。あるいは単に議論を混乱
させるつもりなのでしょうか。
 国土交通省に各ルートについて選定のための数字を出させるとのことで、維新
は「8案全ての試算には2年程度を要する可能性がある」などとのんきなことを
言っています。けれども、ここまで漠然とした話では、1000年検討しても意味の
ある数字が出てくるはずありません。無理に進めてガラス張りで議論などすれば、
話が集約するどころか、あちこちから反論というよりツッコミが入り収拾がつか
なくなります。
 なぜ維新は今になってこんな荒唐無稽な提案を出してきたのか、この1年の経
緯を振り返りながら考えてみましょう。

 京都市民の堪忍袋

 まず今年(2025年)2月、福井県境に近い南丹市議会が「住民から一定の理解を
得られるまで建設工事に着手せず、市内に掘削土を搬出する斜坑を設置しないよ
うに求める」要望書を鉄道建設・運輸施設整備支援機構に提出しました。「一定
の理解」というかなり低いハードルのようですが、機構側に自治体や住民を説得
できるカードがあるとは思えないので、事実上の拒否宣言です。
 それに続いて6月、京都市議会が小浜ルートに対して事実上の反対決議をあげま
した。市長もこの決議を尊重する方針を示しました。「ちゃんと説明してくれな
い限り協力はできないよ」とういわけです。南丹市のケースと同様、推進側がま
ともに説明できるはずないと知りながら、あえて質問をしています。つまり、京
都府内では福井県境から京都駅までの2市が反対表明をしたわけです。いままで、
穏便に済まそうとあいまいな態度だった京都府民も、ついに我慢の限界に達した
のでしょう。
 今にして思うと、これは二つの点で今年の重要な転換点でした。まず、京都府
では反対の声がかなり根強いということが、あからさまになったわけです。直後
の参議院選挙では、小浜強行論を主張する候補が現れず、争点化すら出来ません
でした。
 もうひとつは、府北部での地質・環境調査や用地買収準備などが、さらに難し
くなったことです。こんな要望や決議を出しておいて、両市が公道や公有地での
調査を無条件で許可するとは思えません。官民挙げての反対が盛り上がっていま
すから、民有地の立ち入りは無理ですし、クマと猟友会の両方を敵に回して山に
入る勇敢な地質調査員がいるかどうか疑問です。

 「市が潰れてしまう」 北陸新幹線"小浜・京都ルート"は八方塞がり? 鉄道
・運輸機構に南丹市が「待った」...日本の原風景の行方どうなる,高田泰,
https://merkmal-biz.jp/post/87444

 住民理解なく着工しないで 北陸新幹線で京都・南丹市,KYODO,
https://news.yahoo.co.jp/articles/71b0c3fc7956eb89a5730378f8fd3a262ace8203

 京都市議会の北陸新幹線市内ルート反対決議、福井県の反応は 県の担当者、
県議会議長は国に注文,福井新聞,
https://www.fukuishimbun.co.jp/articles/-/2328707

北陸新幹線の京都市内大深度トンネルルートへの反対決議(令和7年6月6日提
出),京都市,https://www2.city.kyoto.lg.jp/shikai/honkaigi/R07/ikenshoketsugi5.html

 そうこうしているうちに、小浜ルート推進派の西田参議院議員(自民、参議院
京都)が、はるばる沖縄まで行って「ひめゆりの塔」を侮辱して、オール沖縄ど
ころかオールジャパンで顰蹙を買いました。歴史観の問題というより、単に無知
と軽率さをさらけ出したように見えます。

「西田議員のトンデモ発言 その1~5」,村山恭平,
 http://nagaya.tatsuru.com/murayama/2025/05/18_1658.html
 http://nagaya.tatsuru.com/murayama/2025/05/18_1701.html
 http://nagaya.tatsuru.com/murayama/2025/05/18_1705.html
 http://nagaya.tatsuru.com/murayama/2025/05/18_1710.html
 http://nagaya.tatsuru.com/murayama/2025/05/18_1711.html

 当然、直後の参議院選挙では大苦戦をすることになり、新幹線に関しては小浜
原理主義者だったこの人が「他のルートも検討する」と言わざるを得なくなりま
した。つまり、「小浜推し」は京都の票を減らすことを、本人も認めざるを得な
かったのです。

 薄氷の勝利で加速する見直し論

 さて開票です。6年前の選挙では42万票獲得し、ゼロ打ち(開票率0で当選確実
が出ること)だった盤石候補が、今回は大苦戦のあげくわずか約19万票でなんとか
2位に滑り込みました。次点との差は3万票弱。「アンチ小浜」候補の乱立や公明
党の協力がなかったら、恐らく落選していたでしょう。

参議院京都府選挙区選出議員選挙 開票結果,
2025年選挙区,https://www.pref.kyoto.jp/senkyo/documents/r7san_senkyokukaiketsu.pdf
2025年比例代表https://www.pref.kyoto.jp/senkyo/documents/r7san_hireikaiketsu1.pdf
2019年選挙区,https://www.pref.kyoto.jp/senkyo/documents/r1senkyokukaihyoukekka.pdf
 西田氏の苦し紛れの「ルート見直し宣言」が、選挙公約だったかのように一人
歩きをして、今の混乱につながってしまったのですから、小浜派にとっては、黙
って落ちてくれた方がまだしも良かったのかも知れません。
 一方、ダントツで当選したのは米原派である維新の新人でした。ところが、別
の維新の大物議員が「米原は不可能だ」などと言いだしました。米原より前原と
いうわけでしょうか、何をしたいのかよくわかりません。結局この大物が与党新
PTの共同代表に西田氏とともに選出されました。仲良くしましょうね。
 この時点で西田議員は、「維新の党内で意見を集約しないと(PTの)議論が
混乱する」と警告しましたが、維新は議論の集約どころか怪しげなルートをさら
に何本も追加して、むしろ混乱を楽しんでいるようです。
 この騒ぎの中、小浜派の最後の砦だった元福井県知事のS氏が、別件のセクハ
ラが発覚して辞任に至りました。まさしく来年度(2026年度)予算議論の詰
めの段階でです。新知事が就任するのは来年の1月25日。もちろん、小浜派が
当選するとは限りません。副知事が、小浜を通らないなら県は予算を出さないと
いう、従来の見解を繰り返していますが、小浜派のリーダー不在は当分続きそう
です。

 この記事は【無理のクマさん】連載3本中の3本目です。
 1本目は「シュレック氏との出会い」で http://nagaya.tatsuru.com/murayama/2025/12/12_0852.html

 2本目は「クマの出没を地形で考える」で 
http://nagaya.tatsuru.com/murayama/2025/12/13_0759.html
よろしかったら、これらもお読みいただけると幸いです。

 インバウンド型と難民型

 前回までの現状認識の上で、クマ対策を考えてみました。報道を見ていると、
人里や農地に現れるクマには2つのタイプがあると思われます。仔熊などが好奇
心から人里に出てきたり、人間の食料の味を忘れられずに畑に現れたような連中
で、わざわざ積極的に山を下りてきた、いわばインバウンド型のクマです。
 おそらく人類が集落を作っ以来ずっとあった事で、ごく一部の人食い熊以外に
は、鈴やロケット花火による威嚇が十分通用しました。最近までは、街で捕まっ
たクマも人間を襲った場合以外は山に返すことが多く、駆除されることは希でし
た。
 ところが、ここ数年。個体数が増えすぎたため生存競争に破れて山を追い出さ
れた、いわば難民型のクマが激増しています。彼らは人間よりも他のクマの方が
よほど怖いので、普通の威嚇は効果がありません。なんとか人里で生き残ろうと
しますから、山に返してもすぐ降りてきます。
 難民型が増えたせいで、東北や北海道では、今では人里でみかけた段階で問答
無用で駆除になります。ただし、同じツキノワグマでも絶滅が心配される四国で
は保護に重点がおかれ、駆除は極力さけるられています。
 従って早急に議論すべきなのは、クマが急増したレッドゾーン内の難民型のク
マについて、「原則保護・例外駆除」という考え方が、どこまで通用するかにつ
いてです。最初に両極端な意見を見てみましょう。
 まず、「野生の熊なんか絶滅させてしまえばいい」という乱暴な意見がありま
す。レッドゾーン内の住人にとっては、確かな安全が永久に確保できる究極的解
決策と言えます。
 逆に、「かわいそうだから狩猟も駆除もやめろ。クマの出るような場所には住
まなければ良い」という極論もあります。確かに、愛くるしい小熊たちと、知り
あいでもない住人たちとを比較すれば、西日本や首都圏にはクマの味方をしたく
なる人も一定数いるでしょう。心情的には理解できる部分もあるのですが、こう
いうのは善悪よりも美意識(「カワイイ」も含む)を優先する一種のルッキズム
なのでしょう。
 美意識がやっかいなところは、善悪の判断や損得勘定さえも簡単に超越してし
まうとことです。「良い○○人も悪い○○人も殺してしまえ」などというのもこ
の一種でしょう。対応策は、「投票など何か政治的・社会的選択をするときに、
自分が何かのルッキズムにとらわれていないかチェックする習慣をもつこと」と、
「他人がルッキズムで暴走する可能性を常に考慮して、挑発に類することをしな
いこと」ぐらいしかありません。
 ある種のフェミニストなどがやりがちなことですが、上から目線の論理や倫理
でルッキズムを批判しても逆効果にしかなりません。善悪と美醜とは相互に独立
した価値なので、いくら誠実に議論しても(珍しいケースですが)、話が堂々巡
りしてお互いに釈然としない感覚だけが残りだちだからです。相手の美意識を尊
重した上で、「それにとらわれすぎると多くの不幸と分断を生み出すこと」を説
明し、妥協点を探すより仕方ないでしょう。
 たとえば、若い女性の部下だけをチヤホヤする男性上司には、彼の感性自体は
否定せず、「そうした振る舞いは、仕事の効率を下げ、その部下を含む多くのメ
ンバーを不愉快にする可能性が高い」ことを、冷静に説明していくのが上策でし
ょう。職場では効率を低下させることは悪ですから、この部分は合意できるはず
です。

ルッキズムは永遠に不滅です,村山恭平,http://nagaya.tatsuru.com/murayama/2024/10/20_1504.html

 ゴキブリ退治と絶滅論

 話がそれました。クマ対策について両極論の間には、いくつかの「現実的だ」
とされている意見があります。整理してみましょう。

1.一定数の個体を飼育し、残りの野生のクマは絶滅させる
2.人里や農地に現れたクマは駆除し、山では狩猟を行い個体数を減らす。
3.人里や農地に現れたクマは駆除するが、狩猟は行わない。
4.クマは一切殺さず、人間の側が逃げる。

 軍事的な表現に直せば、1は全面戦争、2敵基地攻撃、3は専守防衛、4は撤
退戦ぐらいになりそうです。順に見ていきましょう。
 まず1の熊絶滅論は全く無意味。不可能だからです。うちの名物、北陸新幹線延
伸問題なんかでも見てきましたが、技術的に(実質)不可能なことを議論しはじ
めるのは、思考実験としては面白い(例.富士山は移動できるか?)かも知れま
せんが、政治や経済の場では時間の無駄でしかありません。
 クマ絶滅論はゴキブリ退治と全く同じ発想です。たとえば飲食店は、できれば
ゴキブリなど絶滅させてしまいたいのですが、ほとんどうまくいきません。いわ
ゆる三つ星フレンチの厨房でも深夜には......という実態がある一方、客の前に一
匹でも現れたら、店によっては致命傷になります。だから経営者には絶滅が悲願
なはずなのに成功例は皆無です。厨房を一度取り壊して作り直すのが唯一の方法
でしょう(半年もすれば元の木阿弥ですが)。
 クマで言えば山脈全体を焼く払うぐらいの話です。ヒグマを倒すために、北海
道の全ての山・森林・農地を一気に焼き尽くす......大量破壊兵器でも使わない限
り無理です。
 では、人海戦術で殲滅するというのはどうでしょうか。たとえばヒグマなら北
海道全体を完全包囲しなければなりません。山奥で悠然と暮らしている大型のヒ
クマが、身の危険を感じて大量に人里に向かいかねないからです。
 もちろん猟友会だけでは手が足りませんので、警察や自衛隊......まだまだ不足
します。米軍に加え、中ロ朝韓、ついでにASEANやらEU各国にも援軍を求めましょ
う。オール人類による北海道ヒグマとの戦い......考えるだけ無駄です。これに限
らず技術的に考えれば、絶滅論は現実的な話にはならないのです。環境保全や動
物愛護を持ち出すまでもありません。

弊害の多い狩猟

 では、2つめの「敵基地攻撃モデル」はどうか。今でも各地の猟友会は従来の
害獣駆除だけで手一杯でしょうから、陸上自衛隊にということになります。防衛
省関係者からは「銃剣で戦うぞ」とか、「攻撃ヘリから対戦車砲をぶっ放せ」み
ないなヨタ話(もちろん本気ではなく、何でもかでも自衛隊に押しつけることへ
の嫌味)が出ています。
 兵器とはあくまで人を殺したり建物や乗り物を壊したりするたの道具で、動物
相手には向きません。別途、必要な数の猟銃と十分な訓練が兵員には必要です。
やり過ぎて、「自衛隊は対クマ戦は強いが、普通の戦闘はすっかり忘れた」、な
どとならないか心配です。少なくとも猟銃に慣れ過ぎると、ライフル射撃の勘が
狂うのではないでしょうか。シュレック氏の話では随分体感が違うようです。東
京五輪の射撃の予選に出はったのですが、警察・自衛隊とは勝負にならなかった
そうです。
 もう一つ、仕留めた死骸はどう処理するのでしょう。山林や急斜面での運搬、
自衛隊に応援を求めるのならこの仕事が最適だと言われていますが、人数が足り
るとは思えません。300kgを越えるような個体は、平地でも運ぶのに4~5人がかり。
藪の中を時には数キロ運ぶ。かといって現場で解体すると、血の臭いに他の熊が
集まってきます。死骸や骨を現場に放置するなどもってのほかです。共食いとは
いえ、おいしくて栄養価の高い餌を与えて、クマたちに肉食化教育をすることに
なります。
 さらにもう一つ付け加えるならば、人里での駆除によって新鮮なクマ肉が大量
に出回る状況では、狩猟によるジビエビジネスには競争力がありません。公費に
よるガバメントハンターということになりますが、人工減少・少子高齢化・財政
悪化の三重苦が特に厳しい地方で、どれぐらい回せるのか心許ない話です。

 現状維持どころか後退戦

 結局、害獣駆除の考え方で「出てくるクマは、皆々倒せ」の対症療法しかなさ
そうです。3.の専守防衛の考え方ですが、このままでは現状維持すら相当難しそ
うです。東北・北海道地方の中小都市では、この問題が起こる前から急激な人工
減少に悩まされていました。徐々に耕作放棄地や廃墟が増え、周辺には柿・栗な
どがの果樹が収穫されることもなく放置されています。格好の環境です。食住環
境が良くなるのですから、狩猟で頭数調整をしないかぎり、レッドゾーンのクマ
は確実に増殖することになります。
 ところが狩猟や駆除を支える猟友会員は激減しています。免許をとり、自宅で
銃を厳重に管理し、危険をもろともせず、ひがな一日山野を駆け回り、ちょっと
した事故で前科がつく世界です。多くの若者が仕事はもちろん趣味としても、今
後狩猟を始めることはなさそうです。猟友会が弱体化すれば、狩猟どころか駆除
の数も減らさざるを得ません。
 防衛ラインがどんどん後退し、最終的には居住を断念する4.全面撤退になる集
落が、増えてくることになります。高齢化と人工減少による地域崩壊にクマが拍
車をかけたという事になりそうです。駆除も長い目で見れば時間稼ぎに過ぎず、
少子高齢化が進む日本人が繁殖意欲旺盛なクマに勝つことは、本質的に無理なの
ではないでしょうか。

 撤退論を考える

 私の提案です。まず、猟友会にしろガバメントハンターにしろ、狩猟のような
効率の悪いことはせずに駆除に徹することです。そして市町村ごとに、市街地な
ど確実に駆除を行うゾーンと周辺農地など可能な限り駆除を行うゾーン、そして
それらの周辺に位置する中間ゾーン、さらに放置する山林ゾーンに分けて管理す
ることです。
 必要なのは、最初に駆除の能力を見積もって、その範囲内でゾーンを決めるこ
とです。猟友会側で最大守れるエリアを指定してもらい、「守るべきエリアでは
なく、守れる大きさのエリア」ということになります。その範囲に限定しないと、
「うちの村も」とか「私の畑も」という正当かつ切実な要望が止めどなく集まり
ます。全てを受け入れてゾーニングをすると駆除の手が回らなくなり、隙をつか
れて市街地にまでクマが侵入してくることになりかねません。
 そうなると余計に街の活力の低下と住民の流出がおこり、市町村単位でコミュ
ニティーの維持が難しくなり、駆除に避ける人員も手薄になり、クマの出没が増
えます。さらに住民が流出するという悪循環に陥り、役場と住民票を残して市町
村が消滅するということになりかねません。
 逆に強引な政治力の行使か民主的な熟議(と言う名の強引な政治力の行使)か
は知りませんが、クマの侵入を防止できるゾーニングが完成した市町村は、近隣
からの住民も流入し、しばらくの間はコミュニティーを維持できます。けれども、
我が国の平均的な出生率を大きく越えるベビーブームがその街で10年以上続か
ないと、容赦なく人口減少と少子高齢化が進行して、一度持ちこたえた街も衰退、
消滅の途をたどることになります。
 つまり、限界集落の限界をクマのパワーが破ってしまったということです。さ
らに猪・鹿・猿など他の害獣が増え農産物などの被害も増えます。疲弊した地方
都市は、一度でも地震・風水害・山火事などで、コミュニティーに大きなダメー
ジを与えられると、そこから回復する余力があまりにも少なく、ちょっとしたこ
とでも致命傷になってしまうのです。
 なんとも気の滅入る話ですが、現実から目を逸らした政策は長期的にはかえっ
て状況を悪くします。たとえば、警察・自衛隊などの人員に過剰なリスクや負担
をかければ、本来の業務の空洞化、士気の低下、就職希望者の激減、などという
形で、時間稼ぎの成果を大きく上回る弊害が発生します。
 勝ち目のないことを受け入れながら知恵をしぼって撤退する......気勢の上がら
ないプロジェクト(「プロジェクトX」の題材には最も不適)、もしかしたら日
本人には最も苦手なことなのかもしれません。長屋の隅にころがっている3年前
のあの本が、行政をあずかる人たちの教科書になる日も遠くないでしょう。

 撤退論――歴史のパラダイム転換にむけて,内田樹編,https://www.shobunsha.co.jp/?p=7075

 この記事は【無理のクマさん】連載3本中の2本目です。
 1本目は「シュレック氏との出会い」で http://nagaya.tatsuru.com/murayama/2025/12/12_0852.html
よろしかったら、こちらからお読みください。

 シュレック氏との経験をもとに、今年(2025年)の大事件になりましたクマの
大量出没とその対策について考えてみました。
 まず、出没の場所ですが、北海道と東北地方が大部分で、それに北関東甲信越
と北陸・北近畿(滋賀・京都)と続きます。クマが激増しているこのエリアをレ
ッドゾーンと呼ぶことにしましょう。
 国内で他に生息が確認されているのは紀伊半島・中国・四国ですが、人との遭
遇が少なく人的被害もごく少数です。また、九州では絶滅が確認されています。
クマの存在密度は山林の深さに関係しているように思います。私なりに整理すれ
ば、「クマは山脈に連なる地域で増える」ということになります。
 少し解説をしましょう。山の多い場所は次のいずれかです。山脈・山地・連山
です。学問的な定義ではないのですが、こう整理して覚えておくと便利です。山
脈とは大地のシワです。急な斜面と尖った峰筋が一直線に細長く続きます。川も
それと平行に走り支流はあまり発達しません。
 大雑把に言えば、下から河川敷・農地(村落・市街)・里山・山林・峰の順に
川と平行にそれぞれが細長く並ぶことになり、自動的にクマと人とのゾーニング
ができている環境と言えます。山林も農地も長々と続くので、移動するときクマ
も人も相手のテリトリーを通る必要がありません。
 こうした地形が出来やすい典型的な(小学校の教科書にあるような)大山脈は、
国内に5本しかありません。すなわち、日高(北海道)、奥羽(東北)、木曽・
飛騨・赤石(中部)で、全てレッドゾーンのほぼ中心に位置しています。
 次に、山地ですが、そのほとんどは山脈のなれのはてで、風化によって山が削
られて低くなり、川や谷筋が発達してネットワーク状になったものです。さらに
風化が進んで凸凹がすり減って、頂上に平地が残るのっぺりした広大な台地が出
来ることがあります。これを高地と言います。傾斜が緩いので集落や農地が峰の
すぐ近くにまで広がっています(棚田や段々畑など)。杉・檜の植林も古くから
盛んに行われており、自然林が少なく熊の餌になるトングリ類はあまり落ちてい
ません。近くの山脈にある本格的な山林と行き来できるような場所(たとえば夕
張山地、阿武隈山地、関東山地)以外では、今のところクマの急増は見られてい
ません。
 連山というのはあまり聞かない言葉ですが、狭い地域に同時多発した兄弟火山
のグループを言い、多くの場合、一つ一つの山々は独立しています。また、火山
の大部分は火山灰や溶岩だけでできていますから、水はけが良すぎる上に土がや
せていてドングリなる木はあまり生えておらず、標高が高くても火山はクマにと
って魅力のある山ではありません。たとえば富士山の裾野にもクマはいますが、
個体数も少なく被害の報告はあまり聞きません。

 九州では絶滅したクマが四国にはいる理由

 国内各地での地形とクマとの関係を見てみましょう。
 九州は意外なほど大規模な山林の少ないところです。標高1800m以上の高山の
大部分は、屋久島内か九重連山かにあり、いずれも火山です。それ以外でも雲仙
・阿蘇・霧島・桜島と九州の高山はほとんどが孤立した火山で、しかも爆発噴火
型やカルデラが多く、富士山のような巨大な山はありません。山脈状の地形は熊
本・宮崎間に少しあるだけで、そこにも1700m越えの峰はありません。東京都内
にすらこれらより高い山は10座以上あります。
 九州ではかなりの山中にまで耕地が広がり植林も盛んです。人工林では餌にな
るドングリ類が極端に少なく、人間から隠れられる場所もあまりません。おそら
くそのためでしょう、戦前のうちに野生のクマは絶滅しています。
 一方、四国には、西日本最高峰の石鎚山をはじめ1900m越えの山だけでも、
4座もあります。活火山はひとつもなく山脈状の地形で多く広葉樹林が発達して
います。もちろん、ドングリを落とす広葉樹の原生林も潤沢に残っています。
 だから、本州のツキノワグマとは何世紀にもわたって行き来がないはずなのに、
今でも四国の中心部には数十匹の集団が残っているということです。この数なら
突然の餌不足もおこりにくく、食い詰めて人里に降りてくる個体も皆無でしょう。
そのため、今のところ熊鈴などの普通の対応で十分で、むしろ絶滅が心配されて
います。
 では本州のツキノワグマの分布はどうなのでしょうか。本州全体は地続きなの
で、すべての集団に交流の可能性がありますが、現在のところ数十の集団に分か
れているようです。ちなみに淡路島や佐渡島などの離島には、野生のクマは一頭
もいません。
 本州の各地域を簡単に具体例を見ていきましょう。
 まず、確実に孤立していると思われる小集団が紀伊半島にいます。本州で唯一、
太平洋ベルト地帯の南側にいる数100頭規模の集団で、四国と同様こちらも今のと
ころ大きな被害が出るほどの急増はおこっていないようです。
 次に、山口県・広島県西部・島根県西部からなる中国地方西部、こちらの集団
も頭数の推計は発表されていませんが、今のところあまり大きな被害は出ていま
せん。このエリアでは、今年(2025年)に入って目撃数が減少していることも報
告されています。
 西南日本にある以上三地域のクマたちは、今のところあまり問題になっていま
せん。さて、残りの青森から島根東部までつながる広大な地域をレッドゾーンと
一括りにして扱ってよいかどうか、私には判断がつきかねていますが、細かい分
析をしたところで意味はあまり無いでしょう。大部分が過疎地で山脈・山地の割
合も高いので、今後、熊の数が増えていけばクマの移動と交流がおこり、地域全
体が一体化してしまう可能性が高いからです。
 以上まとめると、国内のツキノワグマの集団は、小さい順に、「四国」「紀伊
半島」「中国地方西部」そして「北陸・関東・東北にまたがるレッドゾーン」の
4つにあるということです。このうち、個体数が激増していて今大問題になったの
はレッドゾーンだけです。言い方を変えれば、「太平洋ベルト地帯の北側の過疎
地」それも人口減少と高齢化が激しい場所ばかりです。耕作放棄地や収穫されな
い果樹が増加していそうなエリアでもあります。
 ではもうひとつのクマであるヒグマはどうかなのか、実質的に北海道全域が1つ
のエリアです。かなりの頭数が札幌にまで出没しているのですから、北海道本島
内にはヒグマの来ない場所はないと考えられます。一方、利尻島や礼文島などの
離島や、北方領土のうち歯舞諸島・色丹島にはいないとのことなので、北海道本
島全体をレッドゾーンに追加しました。

 クマ出没マップ,汎用投稿システム Sharp9110,https://public.sharp9110.com/view/allposts/bear

熊出没データを解析してみた(1/3) 熊の出没,おぴ, https://ops-system.net/blog/archives/473

 生き物通信21,大西尚樹,https://www.ffpri.go.jp/thk/research/publication/ffpri/documents/kikanffpri-19_26-27.pdf

 同時に急増したことの謎

 ところで、ヒグマとツキノワグマとはクマの中ではかなり遠い種類(混血はし
ない)なのに、同時期に出没が急増したのはなぜなのでしょう。ドングリの豊作
と凶作の周期が短くなり、この10年ほどはほぼ一年ごとに豊凶を繰り返している
ことが原因のようです。豊作の年に出生数が増加し、翌年の凶作で人里に出没し
た。これまでのように3~4年に一度だけ豊作があるのなら、豊作の時に一時的に
個体数が増えても、翌年から2~3年の間に淘汰されるので、急増は起こりにくい。
という説が有力です。
 よくできた話ですが、なぜ豊凶の周期ができるのでしょう。これは豊作のあと
は「種子の生産のために消費する樹体内の養分を回復させる」まで凶作が続くが、
近年の温暖化で回復までの年数が短縮した」という説明がなされることが多いの
ですが、では、気候も日照時間も違う場所に生えている膨大な数のドングリの木
が、北海道から山陰までのレッドゾーン内で、なぜ一斉に豊作になるのか不明で
す。有効な熊対策をするためには、今後ぜひこの部分を解明しておく必要があり
そうです。

近年、クマ被害が急増している理由 気候変動による影響は?,ウェザーニュー
ス,https://weathernews.jp/news/202511/050146/

 ただし、根本的には日本ではヒトが減っているため、一時的なクマの急増を押
し返せなくなっているということが大きな要因です。実は、こうした現象は2年
前に予言されていました。

「これまでは里山が野生の力を押し戻して、『ここから先は人間の領域だ』と宣
言していたのですが、里山が過疎化で痩せ細ってきて、野生を押し戻す力が弱ま
っている。都市部に熊や猪や鹿が入り込んできて、街中で人的被害が出るという
ことも遠からず起きると僕は予測しています。」

内田樹「人口減の日本は〈都市集中〉に舵を切った」そこまでして資本主義の延
命を図らなければならないのか?,婦人公論.JP,https://fujinkoron.jp/articles/-/7703?page=2

 大きな構造の中で考えなければならない話なのですが、現状の対策は、「とり
あえず人里に出てきたクマや人間に危害を加えたクマを駆除する」ということに
徹しています。電気柵やロケット花火などを使っての追い返しも行われています
が、やはり駆除が対策の中心です。このあと(特に来春の冬眠開けや再来年に予
想されるドングリの凶作時)どうするのか。さらに、これから最低数十年は続く
と言われる人口減少下で、どうしていけばいいのでしょうか。

 ある日。冬の朝。ドアを開けると生臭い風。ポーチのタイルには薄赤い水滴が
飛び散っています。出所はドアノブにかけられたコンビニのレジ袋。中には何や
ら内臓めいたものが入っています。今もし、こんな猟奇じみたことがおこれば、
即110番通報です。でも、30年前の田舎暮らしは呑気なものでした。
 「ごちそうさん。でも、驚いたで」
 「朝5時やったから、起こしたら悪いと思ってな。大物の猪がかかったから、し
ぇんしぇ(先生)にお裾分けや。けど、生で食べたらあかんで......虫わくで」
 電話の相手は知り合いの猟師さん、猪が専門ですが鹿やアナグマも仕留めます。
オフシーズンには副業の建物解体をしておられます。なにしろ、ちょっとした木
造家屋をバール一本で解体してしまうお方で、うちの家族はシュレックさんと呼
んでいました。
 思えば不思議な御縁でした。知り合ったきっかけは、わが四女が空き地に繋が
れた2頭の若い紀州犬に、ちょっかいを出したことです。大型犬に目がない私も
参入し、このワンコたちと親子で遊ぶのが保育園帰りの日課になりました。その
うち、シュレック氏から「そんなに好きなら、ときどき散歩に連れて行ってくれ
へんか」「餌やっておいて」などと頼まれ、娘共々お世話を手伝うことになりま
した。
 二頭は兄妹で、訓練中の猟犬でした。人間でもよくある話ですが、兄貴(ヨシ
オ)は臆病で、猪を見ると震え上がってしまい、シュレック氏の足下から離れ
ようとしないそうです。妹(グー)の方は出来が良く、猟の手伝いのようなこと
を、半分仔犬のころからやっていました。ただ、彼らも猟期以外は普通のワンコ
なので、シュレック邸の横の空き地に繋がれていて、私たちに出会ったわけです。
 お世話のお礼は、様々な山の幸でした。松茸もありました。猪レバーも玄関先
に吊されるたわけです。ヨシオとグーは、その後わが家で引き取り15年にわた
って付き合うことになるのですが、その話はまたいつか機会があれば書くことに
しましょう。

 淡路島遠征

 夏のある日、シュレック氏から電話です。「しぇんしぇ(先生)。明日、淡路
島に行かへんか」「はあ、淡路ですか?」「そや。鹿狩りや。夏鹿は脂が乗って
てうまいで」「仕留めたやつを、トラックまで運ぶの手伝ってくれ」
 暑い盛りは禁猟なのですが、農業被害が深刻とのことで、季節はずれの駆除の
仕事が、はるばる紀伊水道を渡ってシュレック氏にまで回ってきた訳です。弟子
たちは皆仕事があって行けそうもないので、夏期休暇中の教員(当時は暇でした)
の私が指名されたわけです。現場は洲本や鳴門のリゾートホテルに近く、新鮮な
ジビエを持ち込めば結構な収益があるとのことです。でも、鹿を仕留めて私に運
ばせるより、私を仕留めて鹿に運ばせたほうがよほど効率的でしょう。さすがに
固辞いたしました。
 後日聞いたところ、仕方なく鹿の耳だけを切り取って駆除完了の証拠として役
所に持っていったとのこと、それ以外の部位(ほぼ全身)は現場に放置。狐狸や
トンビの御馳走になったのでしょう。
 ジビエというものは、仕留めた瞬間に危険な野獣から鮮度管理の難しい巨大な
食材になります。すぐに作業場に運ぶか、逆に食肉加工業者を現場に待機させて
おき、最低でも血抜きっだけはしておかないと、臭くて使い物にならないそうで
す。そのため、輸送手段がない現場では、もったいないけど放置は仕方ありませ
ん。
 こういう話をすると、「食べないなんて、命の大切さが分かっていない」とか
おっしゃる方がいますが、そんなに命に拘るのなら、狩猟なんかやめるべきです。
肉食もやめましょう。ついでに生きること自体やめませんか。人間、いや全ての
動物は他の命を犠牲にすることで自分の命をつないでいます。けれどもその命も
いずれ消えていきます。生きること自体が残酷で身勝手で、かつ無駄なことなの
です。
 「いただいた命」なんて言い方、鳥肌モノです。あなたは猪に「お命頂戴しま
す」と頼んで承認されましたか。一方的に殺した相手に謙譲語を使って、何か意
味のあることをした気になる......感動ポルノにもならない、贖罪自慰。「あなた
の命をいただいてよろしいでしょうか」。黙っていきなり「いただく」のもあり
です。
 繰り返しになりますが、私たちが生きること自体が残酷で身勝手で、かつ無駄
なことなのです。そのことを自覚して、ときに自己嫌悪に陥り、ときに誤魔化し、
ときに開き直りながら生きる。結局それしかないわけですから、あまり見苦しい
ことや、はた迷惑なことはやめておきましょう。

 駆除と狩猟は別物

 シュレック氏からは他にも猟についての面白い話をたくさん聞きました。山に
入ったら、まず目標とする大物を決めて、そやつの行動パターンを調べます。専
門用語でストーキングと呼ぶそうです。そして罠を仕掛けるか犬と猟銃で仕留め
るかなどと作戦をたてます。ときには、ストーキングだけで何日もかかるそうで
す。
 特に狙いをしぼらずに歩き回って、出会った猪を撃つということもあるのです
が、日によっては一頭もかからないこともあり、まあ中級品が2~3頭獲れれば
上出来とのことです。
 これを最低でも2~3名一組で行うので猪猟はとても採算が悪く、自他とも認
める泉州一の鉄砲打ちのシュレック氏でも、これだけで生活することは不可能で
す。だから、日本国内の猟師さんはほぼ全てアマチュアであり、基本的に趣味の
集まりである猟友会が地域を害獣から守っているのです。
 最近の狩猟では、近くに建物や道路などがあるため銃が使えないこともありま
す。罠が使えれば一番楽なのですが、お目当ての猪がかかるとは限りません。ア
ナグマやタヌキが入っていることもよくあり、何かが捕まっている間には罠は機
能しません。結局、野原で犬に追いかけさせ、人犬団体が集団で襲いかかり猪が
動けなくなったところで、シュレック氏がナイフでトドメを刺すという、縄文時
代となんら変わらない手法になります。
 犬たちも無事では済みません。死に物狂いの反撃を受け、牙で腹を割かれたり、
跳ね飛ばされて大木や岩に激突したり、泥沼に押さえ込まれて溺れたりで、チー
ムシュレックでは猟犬のシーズン戦死率が50%越えのことがあり、例年犬を貸
し出している紀州犬保存会の会長さんをあきれさせたこともあります。
 シュレック氏は、自分の犬を殺した猪(大物が多い)は「絶対に忘れずに敵を
とる」と息巻いていましたが、どう考えても相手の猪の方が正当防衛です。でも、
犬好きの私もこちらに同調してしまうのですから、みんな身勝手なものです。案
外、絶対に猪を追わなかった我がヨシオが一番、正しくマトモだったのかも知れ
ません。

 本当は恐ろしい害獣駆除

 農作物被害の防止などで、街や里山に現れた猪を殺すことを害獣駆除と言いま
す。ジビエの入手はオマケみたいなもので、あくまで目的は殺すことです。場所
は主に里山や村落なので道路網も発達していて、猟師の移動、罠の輸送、処分後
の運搬。どれひとつとっても、山中での狩りとはえらい違いです。狩猟がアウェー
ゲームなら駆除はホームゲームです。
 けれども、害獣駆除には狩猟にない残酷さがあります。たとえば食肉目的の狩
りでわざわざ瓜坊(イノシシの子供)を狙うことはありませんが、害獣駆除では、
どんな幼獣でも罠にかかったら容赦なく処分することになります。
 以前、罠にかかった瓜坊に授乳している母猪を、ナイフの一撃で仕留めて喜ん
でいるシュレック氏を見たことがあります。子供の方は連れて帰って少し育てて
から、若い猟犬の練習台にするそうです。瓜坊と仔犬、最初はじゃれ合っている
ようですが、犬の方は育つにつれて野生に目覚め、少しずつ攻撃がエスカレート
して最後は殺してしまうそうです。理不尽なイジメや仲間内での暴力を容認する
ことで、野蛮さを引き出していく......なんだか、旧日本軍の新兵教育みたいです。
 我がヨシオ君は、いくら瓜坊をけしかけられても野生に目覚めることはなく、
逃げてばかりだったそうです。シュレック氏の話では、何匹かに一匹こういう
「出来損ない」がいるとのことですが、これが遺伝によるものなら紀州犬はよほ
ど人間より上等のDNAをお持ちだということになります。攻撃性が一斉に発火する
集団では、負け戦はしばしば全滅を意味します。実は、全体の士気を下げ統制を
乱す個体は、出来損ないどころかその種にとって貴重な存在なのです。
 話がそれました。害獣駆除は狩猟とは比べものにならないぐらい、安全で効率
の良い仕事です。深山に分け入って獲物を探したり分析したりする必要は全く無
く、農地や里山でウロウロしていたり罠にかかったやつを仕留めれば良いのです
から。今問題になっているヒグマやツキノワグマでは、この差は猪よりさらに大
きくなりまするでしょう。重量も危険性も桁違いだからです。

「殺すぞぉー」ドスのきいた体育教師の声が、体育館に響きわたりました。開
口一番これですか。「ええか、これから村山先生の講演があるから、静かに聞く
ように。わずか15分や。これしきのことに耐えられんようでは、どんな現場も
務まらんぞ」......忍耐力鍛錬のために、全校生徒は私の話を聞かされるのでしょ
うか。「もうひとつ。三年生男子、くれぐれも去年のようなことがないように。
危険極まりないし、だいいち先生に失礼やろ。」......何があったんです。「しつ
こいようやけど、死んでもしゃべるな。その代わりな。15分を1秒でも過ぎる
ようなことがあったら、わしの出番や」......過ぎません過ぎません。カジュアル
に「殺す」の「死ぬ」のが出てくる修羅場で、何をどうしゃべったのか覚えてい
ませんが、10分ほどで切り上げ、逃げるようにして職員室に駆け込みました。
 もう30年以上前の話ですが、当時は教育現場でそれもかなり公式の場で「殺
す」とか「死ぬ」とかの言葉が使われていました。もちろん、ただの比喩だとい
うことが全員にわかっているのですから、誰も問題にもしませんでした。
 それから数年後、娘たちが通った地域の小学校で自分の研究の一環として、ゲー
ム機を使った自習用のネットワークシステムを開設しました。メーカーから機材
を無料提供されての結構本格的なやつです。結構人気が出て、放課後、私の作っ
た拙い計算ゲームにまで、何人かのマニアまで生まれました。
 ある日、下校時間にマニア君のひとりが、続きやりたいからマシンを「持って
帰っていいか」と、いたずらっぽい顔をして言うので、「殺すで。家では家のこ
とをしとき」と軽くたしなめると、「やっぱりそうですよね」と頭をかきながら
帰って行きました。
 片付けを終わって帰ろうとすると、たまたま横にいた教頭先生から「殺す」は
やめてくださいね。と深刻な顔でわざわざ注意されて驚いたことがありました。
もちろん、誰にも殺意なんかあるわけないですし、冗談以前の軽口だということ
も明白、言われた子供も傷つくどころか意にも介してなさそうでした。ちなみに
その子は何事もなく翌日もやってきました。
 確かに品のない表現だったことは認めますが、どう考えても暴力的な話ではな
く、誰も傷つかず、しかも真意(この場合は、「学校の備品を持ち帰ったらだめ
でしょ」)はちゃんと伝わっているのです。それを、命の大切さと絡めた文脈で
批判するような文化が発生しだしたようです。文脈を無視して、死とか殺とかの
文字がはいる表現は全部だめだというのなら、「死にそうに忙しい」とか「黙殺
する」とか「併殺打」とかもいけないのでしょうか。

言葉尻の言葉尻を捉える方法

 BS朝日の報道番組「激論!クロスファイア」が終了しました。報道によれば、
「高市早苗氏の選択的夫婦別姓に対する否定的な姿勢について、ゲストの辻元清
美氏、福島瑞穂氏が批判。その後、田原氏が『あんな奴は死んでしまえと言えば
いい』と発言した」のが原因のようです。メディアによっては「大暴言」とか
「モラル逸脱」とまで言われて批判されていますが、本当にそうなのでしょうか。

BS朝日「激論!クロスファイア」終了を発表 田原総一朗氏の発言「モラル逸脱」
 番組責任者ら懲戒処分,スポニチ,https://www.sankei.com/article/20251024-KGVSIC3IY5HAFBQU4HTXUNZUPA/

 言葉尻を捉えるという表現があります。多義的な言葉をわざと発言者とは別の
意味に解釈したり、比喩であることを無視したりして、意図的な誤解に基づいて
発言者を批判することぐらいでしょうか。
 例を挙げましょう。「言葉尻という表現はセクハラだからやめてよ」というや
つです。こういうときに「尻といっても、あなたの両足の間にある薄汚い穴の周
辺の事じゃなくて、言語解釈上の妥当性の話をしているのです。だから、この議
論にあなたの醜く歪んだ性感覚や陳腐で貧しい美意識を持ち込まないでください」
なんてやると、本格的な暴言になりますから、穏当に「揚げ足取り」と言い直し
ておきましょう。細かいニュアンスは違いますが仕方ありません。
 言葉尻を捉えることや揚げ足取りは、きわめて生産性の低い行為です。よくて
ただの時間の無駄。たいていの場合は、やったほうが顰蹙を買います。唯一効能
があるとすれば、相手のペースで議論が進みそうなときに、話の腰を折って流れ
を変えられることですが、これはボクシングで言えばクリンチのようなもので、
よほどうまくやらないと、論破の先送りにしかなりません。それどころか、せっ
かくのチャンスを逃すこともあります。
 有名な高市自民党新総裁の「就任スピーチ」で、「(自民党議員には)馬車馬
のように働いていただきます」と言ったことに対して、共産党の志位議長は、
「『全員に馬車馬のように働いてもらう』にものけぞった。人間は馬ではない。
公党の党首が使ってよい言葉とは思えない」と反論しました。典型的な揚げ足取
りです。Xの一般ユーザーが「じゃあ出馬もしないでください」と返されてしまい
ました。公平に見て、議長の一本負けでしょう。
 けれども、総裁の発言には問題はなかったのでしょうか。前後にあった「ワー
クライフバランスを捨てる」との発言との関連で、労働強化につながる発想だと
いう批判はあり売るでしょう。志位議長の批判もこの方向からなのですが、ほか
にも大きな問題があります。
 比喩としての馬車馬という言葉は一般の騎乗馬との比較で使われます。車を引
かされている馬は、急坂を駆け下りたり障害物を飛び越えたりは出来ません。た
だただ、目の前の道を進むのみです。だから、馬車馬という言葉は通常悪い意味
で使われます。つまり、何も考えずに、命令されたことをただただ実行するタイ
プの労働者のことです。
 目下の人間に「馬車馬になれ」という場合、二つの意味があります。ひとつは
「余計な判断はせずに言われたことだけやれ」という意味、もうひとつは単純に
「さぼってないで働け」というやつです。今回の高市新総裁はどうだったのでし
ょう。ほとんどの批判者は後者の意味にとっています。直前に「だって今、人数
少ないですし、もう全員に働いていただきます」とおっしゃっているので、まあ
妥当な解釈なんでしょう。
 けれども、今の自民党の危機の原因は、国会議員をはじめとする党員の怠慢な
のでしょうか。どちらかと言えば、裏金作りやら統一教会との関係やら、一所懸
命にいらんことをして国民の顰蹙をかったことが大きいのではないでしょうか。
 とすれば、総裁の発言には「これからは妙なことを考えずに党本部の指示にし
たがって動け」という含意があったのではないでしょうか。だとすれば、国民の
代表である国会議員に対して随分失礼な言い草です。志位議長はなんでこのあた
りを批判しなかったのでしょうか。「うちじゃ昔からやってるから」なんて言わ
ないでくださいね。

高市総裁の「馬車馬」発言批判の志位議長に 「では出馬もしないで」とツッコミ,
zaqzaq,https://www.zakzak.co.jp/article/20251006-5L3GTAIPLFBQRHMYZ7WUKYXWMM/


昭和と令和がクロスするとき

 さて、田原総一朗氏のケースです。一番詳細かつ正確に報道されていると思わ
れるサイトから引用します。

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福島氏は「今までの言動で、選択的夫婦別姓に反対で、ジェンダー平等にも後
ろ向きだと思っている」と高市氏の姿勢を批判し、「全く男性原理そのもので
(政治を)やるんだったら、女性であることの意味もないじゃないですか。だか
ら、やっぱり(選択的夫婦別姓に)賛成してほしいと思いますよ」とした。
田原氏は福島氏の発言に割り込むようなかたちで、「高市に、大反対すればい
いんだよ。なんで高市を支持しちゃうの?」と切り込んだ。辻元氏と福島氏が
「支持してないよ!」とすると、田原氏は「あんなやつは死んでしまえと言えば
いい」とした。
辻元氏が「田原さん、そんな発言して...高市さんと揉めたでしょ、前も」と
嗜めるも、田原氏は「僕は高市と激しくやり合った」と主張していた。

田原総一朗氏「あんなやつは死んでしまえ」発言、ネット民は「死んでくださー
い」発言のフワちゃん想起「この差はなに?」,Jcasニュース,
https://www.j-cast.com/2025/10/22508581.html
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 これ、暴言というより語彙の貧困じゃないでしょうか。「殺す」ではなく「死
んでしまえ」を使い、さらに「と言えばいい」と発言を他者に委ねる形にする...
...殺人教唆やら脅迫やらにしては、えらい腰の引けた発言です。要は、もっと
「大反対」しろと言いたいのですが、ほかにアイキャッチーな表現が見つからな
かったので「死」を使っちゃったということです。
 辻本さんにたしなめられてもきちんと対応できなかったのは、意地になってし
まったのでしょう。録画後の編集を当てにして気が緩んでいたのかも知れません
が、正直に言えば、やはりお年かなという気がします。
 もし、福島氏や辻本氏が「夫婦別姓を指示しないなら死んでしまえ」なんて言
ったら、高市さんだったら「そんなん言われんでも50年もしたら死にますがな。
あんたらも同じやろ」ぐらいの「答弁」はしそうです。なにしろ「お茶を飲む」
を「茶ぁしばく」、「食事をする」を「飯どつく」と言うこともある関西の言語
環境を3方とも、よくご存じでしょうから、うまく処理してしまうでしょうが、だ
れかがネタに回収できなかったらスベったまま収集がつかなくなるのが、今回の
田原発言なのです。
 あちこちで指摘されていることですが、この件の責任は田原氏よりも番組にあ
ります。録画なんですから、うまく編集すれば何事も無かったはずです。なぜそ
うしなかったのか。私には可能性が2つあると思います。ひとつは、辻本氏の窘め
が面白かったからです。党派を超えて窘められる司会者なんてあんまりいません。
 もうひとつは、ノスタルジーです。「出演者の中途半端な発言を煽って、より
過激な本音を引き出す」というのは、バブルを代表する硬派の深夜番組で「朝生
(朝まで生テレビ!)」で一世風靡した田原氏の十八番です。私自身、この発言を
最初に聞いたとき「懐かしい。田原さんらしいな」と思ってしまいました。「激
論!クロスファイアー」を見ている人の大部分は、朝生の栄光を知っていると思
われますから、番組担当者は「ちょっとばかり、昭和の(バブルの)香りをお茶
の間にお届けするか」などと考えたのではないでしょうか。そして、発言の平成
的な意味での不適切さが、令和のマスゴミ嫌いのSNS世論とクロスしてしまい大炎
上したわけです。

朝まで生テレビ!,Wikipedia,https://ja.wikipedia.org/wiki/%E6%9C%9D%E3%81%BE%E3%81%A7%E7%94%9F%E3%83%86%E3%83%AC%E3%83%93
!


そろそろフラジャイルのついて研究しませんか

 セクハラやパワハラについても、大炎上が起こるのは、昭和の価値観と令和の
価値観が交差する場合です。悪いと知りつつこわごわやっているような事例は、
炎上などせずに、内々にか適正にか知りませんが処分されて終わりです。けれど
も、「コミュニケーションの一環だ」とか「俺たちもみんな経験したことだ」と
かを、開き直りではなく本気で言い出す加害者がいて、誰かがそれを拾い上げて
パスを繋ぐと大炎上劇場の始まりになります。
 まあ、今の日本人がなんとなく合意している価値観では当然のころでしょう。
けれども、潜在的被害者があまりにもフラジャイルに(傷つきやすく)なったり
して、みんなが防衛的になり、少しでもリスクのあることはしなくなるのが良い
とも思えません。
 もう20年前の話ですが、研究者としてのキャリアの最後で赴任した本務校では、
セクハラ研修を受けたのをきっかけに(念のため言っておきますが全教員向けの
研修です。私個人向けのものではありません)、それまでの勤務先とは明らかに
違う冷たい対応を学生にするようになりました。
 特に、女子学生には「男女が密室で二人きりになることはリスクのある行為で
ある。ほかの先生はどうか知らんが、私の研究室にひとりで来るときは、レイプ
される覚悟をしておくように。そうそう、最近はジェンダーフリーで芸域を広げ
ているから、本年度からは男子も同様である」などとゼミや授業で言い放ち、用
事のある学生とは事務室で会うようにしました。あるいはオンライン(当時はテ
キストベース)を利用しました。
 やってみると、これが楽なんですね。二人きりでないと出来ないような深い話
をシャットアウトできるからです。やるにしても、通り一遍の対応で済ませられ
ます。家族や友人関係のことなら「まあ、仲良くやりなさい」、進路のことなら
「頑張れ」でOKです。何年かこれをやると、以前のような濃厚な指導や相談は面
倒でもうできなくなります。
 心理学の故河合隼雄先生なら、「学生にレイプの覚悟をさせるのなら、教員の
方もレイプ冤罪の覚悟をしろ」とおっしゃるでしょう。まあ、幸か不幸かそれほ
どの思い入れを持てそうな学生とはついに出会いませんでした。
 話が「揚げ足取り」から随分離れました。「殺す」とか「死んでしまえ」とい
う言い方は、たとえ比喩であっても嫌がるひとが一定数出てきたの事実です。発
言者がAIなどを使って逃げてしまうことは可能でしょうが、これを際限なくや
りだすと基本的なコミュニケーションにも、いずれ支障が出てくるでしょう。そ
うなると必ず、「言葉で傷つくのは傷ついた方に責任がある。勝手に傷ついとけ」
なんて言い出すやつが出て来るでしょう。
 フラジャイル問題はどうやら先進国共通のようです。恐らく「人間とはどうい
う場合によりフラジャイルになるのか」とか「言葉で傷ついた人はどういう過程
で回復するのか」みたいな問題意識は、これから重要になると思われます。心理
学や言語学などの研究者に期待したいところです。