このシリーズは、一話完結形式のつもりですが、よろしければ、この長屋内に
あります関連記事も、お読み下さい。
本質を見落とす劣化メディア【その3】 - 支離滅裂なニュース解説
http://nagaya.tatsuru.com/murayama/2026/08/10_0758.html
本質を見落とす劣化メディア【その2】 - 大法螺政治と数字に弱い記者
i>
http://nagaya.tatsuru.com/murayama/2026/08/09_0826.html
本質を見落とす劣化メディア【その1】 - 震災は劣化をあぶり出す
http://nagaya.tatsuru.com/murayama/2026/08/06_1820.html
最初に二つのネット記事の引用を見て下さい。いずれも、熊本地震でのイオン
モールの爆発事故に関するものです。
吉田社長は、一部スタッフが施設内に残ったことについて、客らの避難誘導に手
一杯で、制御が難しかったと説明した。これに対し、この記者は、「確認ですけ
ど、『中に入っていいよ』とアナウンスとかは?」と聞き返した。 すると、吉田
社長は、心外だとの表情でこう説明した。「そういったことは一切ございません。
明確に否定しておきます」
イオンの吉田昭夫社長は事故翌日の7月20日に「 熊本市で記者会見し、」従業員
らに再入館を認めるアナウンスや許可を出したかと問われ「一切ない」 と否定し
ていた。
前者は、事故翌翌日(7/30)のJ-Castニュース。後者は、8月13日の日経新聞
朝刊(大阪版)の記事です(紙記事ですのでリンクの引用はありません)。いつ
の間にか、イオンが会社として、テナント従業員が爆発した建物内に戻る事を
「許可」していたことを、社長が全否定したことになっています。
、、J-Castニュース
https://www.j-cast.com/2026/07/30516778.html?p=all
原因は、はっきりしています。最初の記事にある「とか」が、日経の記事では
「許可」に化けているのです。細かく見ていきましょう。
「とか」という言葉を最初に使ったのは、質問しているどこかの記者です。本
人は「許可」と言ったつもりだったのかも知れませんが、少なくともJ-Castニュー
スが「とか」と聞いているのですから、聞き違いがあったとしても吉田社長を非
難するべきではありません。
記者が不用意に使った「アナウンス」という言葉も、回答者の意識範囲を「不
特定多数の従業員への放送」に狭めてしまうことになり、避けるべき言い方でし
た。誤解のおこりやすい口頭でのやりとりなのですから、「許可」の有無を明確
にしたいのなら、「確認ですけど、会社として建物内に戻る事の許可はしなかっ
たのですね。たとえばアナウンス放送や、あるいはスタッフの個人的な指示で?」
とでもして、誤解の余地のない質問をしておくべきでした。記者教育で、こうい
う訓練はされてこなかったのでしょうか。
そもそも記者会見が行われたのは爆発の翌日です。安否確認すら終わっていな
い段階ですから、個々の従業員の言動まで社長に把握できているはずがありませ
ん。相手が知っているはずのないことを、気にもとめずに質問するのは混乱のも
とです。回答する側が、自分の知っている事に、質問を取り違えて答えてしまう
ことがよくあるからです。逆に、少しでも社長が何か把握している可能性を考え
ていたのなら、そこを明確にして質問しないのは怠慢と言えるでしょう。どっち
にせよ質問技術が低すぎるのです。
「質問をきちんと理解せずに答えた側にも責任がある」なんて言わないで下さ
いね。もし社長が、「許可」の範囲は?「中」とはどこを指すのか?「入る」と
はどういう意味か?「アナウンス」とは何か?......こういう非常識で些細な逆質
問しだしたら、「会見をはぐらかしてる」と、徹底的に非難されるでしょう。言
葉の使い方に関して最小限の文化を共有すらしていなかったら、インタビューな
ど成り立たないのです。
そもそも、よほどのバカでない限り、誤解や混乱を招く質問をするとは思えま
せん。社長もそんなことは想定していなかったでしょう。でも、今後は大丈夫。
会見場には一定の比率でバカ記者がいることを、イオングループ全体で把握した
と思われるからです。今後は「現時点で把握している限りでは」などという、ア
ホにも分からせる断りが、多発されることになるでしょう。
この記者に対して、「明確な言質を取った意義は大きい」などという評価(お
そらく同業のさらに高品質のバカ記者でしょう)があったようですが、こういう
のを「言質」とされてしまうのでしたら、誰もまともに記者会見など開かなくな
ります。
高市現総理大臣が歴代の総理と比べて記者会見の回数が激減しているとのこと、
また、それが大して世論の非難を受けているようにも見えない背景に、こういう
問題もありそうです。
人災の責任、天災の教訓
その一方で、マスコミの劣化のせいで、大きなことが見落とされようとしてい
ます。地震時でのガス漏れの原因です。現状で分かっているのは爆発したのが、
モール全体で貯蔵していたLPガスで、それが館内に相当量漏れ出していたという
ことです。ポイントは二つ、まず「配管のどの部分が地震時にどう破壊し、どう
いう経路でガスが拡散したのか」という建築設備上の問題。もうひとつはガス遮
断装置が作動したのかということです。これらは、地震国での建物安全性のため
に極めて重要な知識のはずです。
爆発までの経緯をきちんと調査して、そこから教訓を引き出すことは事故後に
することのなかで際だって優先度の高いことです。特に今回のように、大型ショ
ッピングモールという一般的な施設でおきた前例のない大事故は、技術的な教訓
の宝庫と言って良いでしょう。けれども、こうした視点には新旧ともメディアの
関係者は興味があまりわかないようです。
配管や設備については後日議論するとしても、安全装置の問題では、次のよう
な疑問が浮かんできます。まず、爆発時点でタンクに付属している遮断弁はどう
いう状態になっていたのか......開栓状態だったのか、不完全な閉栓状態だったの
か、完全に閉栓していたのか。地震避難完了後、多くの従業員がタンク横の駐車
場にいたはずだが、なぜ誰も遮断弁の状態を確認に行かなかったのか(マニュア
ルではどうなっていたのか)。自動遮断弁の横には手動式の遮断バルブがあった
はずだが、誰も閉栓しようとしなかったのか。電源に不安のある状態なのだから、
手動で閉栓しておくべきだったのではないか。
この手のチェックは爆発の直後から行われているはずです。もし、タンク内に
ガスが残っていて、漏れ出しが続いていたら次の爆発がおこる可能性があるから
です。だから、タンク内のガス残量や遮断弁の開閉状況は、すでに会社側に把握
されているはずです。爆発直後、救助員が建物にしばらく入れなかったのは、こ
の部分を確認していたのではないでしょうか。
ここいらへんには、多くの問題点が隠されていそうです。マニュアルの他にも、
現場の過失はないのか。例えば、地震後に閉栓しようとして逆に開栓してしまっ
た可能性はないのか。おそらく、関係者の間で調査が進んでいるのでしょう。で
も、情報は公開されていません。理由ははっきりしています。質問する記者のレ
ベルが低すぎるからです。
社会部記者自身が様々な事件・事故・災害に関して技術的なことを事前に全て
知っておく必要はありませんが、社内に理科系教育を受けた準専門家がいて、現
場で専門家にまともな取材をできるだけのレクチャーを、記者にしておくべきで
した。素人の思い込みだけで書いた記事はないほうがいいぐらいです。
もうひとつ、問題を人災にして関係者の責任追及という流れにしようとするブ
ンヤ根性を封印してほしいものです。繰り返しになりますが、大事故がおこった
後、最優先すべきは原因の究明と、それにもとづく改善です。責任者の追求より
も、はるかに重要なことでしょう。けれども、これは警察関係者や司法関係者の
岡っ引き根性とも関係していることですが、当事者が処罰を恐れて口をつぐんで
しまうと、真相も教訓も闇から闇へと消えてしまいます。
警察・検察には、法的な制限もありどうしても過失の摘発という方向でものを
考えてしまいがちなのは仕方ありませんが、メディアがその後押しをするのは公
益に反することでしょう。軽率で偏見に満ちた素人記者がウロウロしていること
がわかった以上、イオンモール側も技術的な情報を、積極的に公開する気にはな
らないでしょう。
さっそくおこった同種事故
記事を書いていると、こんな小さな事故の報道がりました。
「(2026年9月)4日午前9時10分ごろ、千葉県市原市辰巳台東1丁目のイオンタ
ウンたつみ台で、」「屋外に設置されたガスタンクの配管からLPガスが漏れてい
た」
幸い爆発や炎上は免れ、単なるガス漏れで済んだようですた。漏れたガスが建
物内に充満しなかったことや、発見が早かった事から、大事には至らなかったの
でしょう。けれども、モール内の基幹のガス管で起こった事故で、遮蔽装置が機
能しなかったことは重大で大爆発が起こっても不思議のない状況でした。
熊本の教訓から、全国のイオンモールではガス設備の一斉点検を行っているは
ずなのですが、どうして、このガス漏れがおこったのでしょうか。もちろん、事
故自体の直接的な責任は100%イオンにあるはずですが、熊本の爆発後にメディア
が避難誘導の問題ばかり追及して、直接的なガス漏れの原因や安全装置の不具合
に全く関心がなかったことも事故の大きな背景になっています。
事件や事故のときに、メディアが責任者を追求することは当然のことですが、
それらの最終的な目的が、不幸な出来事の再発防止でない限り、メディアの公共
性は90%ぐらい無くなるのではないでしょうか。
他人の不幸や有力者の不正やミスを、暴いていじめること自体が目的のワイド
ショー文化に染まり、そのことを社会から批判的というより諦めの目で見られて
いることに、自覚と反省が無い限り、新聞の部数も報道番組の視聴率も近い将来、
限りなく0に近づいていくと思います。
イオンタウンでガス漏れ タンクの安全弁が"老朽化"か 従業員や客ら約
70人が一時避難 千葉・市原市、朝日新聞
https://news.yahoo.co.jp/articles/c55f4a997006f1c54d7ceafd5222a95a00230e00