本質を見落とす劣化メディア【その3】  支離滅裂なニュース解説



本質を見落とす劣化メディア【その2】 - 大法螺政治と数字に弱い記者 i>
http://nagaya.tatsuru.com/murayama/2026/08/09_0826.html
本質を見落とす劣化メディア【その1】 - 震災は劣化をあぶり出す
http://nagaya.tatsuru.com/murayama/2026/08/06_1820.html

もよかったら、読んでみて下さい。


撒き餌にはまるメディア

 これまでの話だけなら、メディア記者は理科系に弱いだけということになりま
す。私の学生時代から、彼らは「僕ら文系だから」とまるで問題意識がありませ
んでした。だったら、地球温暖化に警鐘を鳴らしたり、AIの普及に悪態をつい
たりしなければいいと思うのですが......
 けれども、文系の方はバリバリかというと、頼りない限りです。目先の話題に
引っ張られすぎるのです。今国会の終盤の話題の中心は、皇室典範(略してコテ
ンパン)と国旗です。通常国会中は総理大臣の悲願であるはずの減税はほとんど
無視されました。
 ニュースの優先順位を編集者が決めるのは当然ですが、今から1年後に物価で
苦しむ人と、日の丸を燃やしたい人と、自分の子供を天皇にしたい独身男性と、
どれが一番多いかを考えてみたりしないのでしょうか。また、なんで「悲願」を
2年間限定にするのでしょう。想い出作りみたいな話です。
 ちなみに、この騒ぎの中で皇室に養子に行くのは、皇居前広場で日の丸を燃や
すのと同じぐらい、国民の顰蹙を買うんじゃないでしょうか。

 キング・オブ・劣化のニュース解説

 ぼやきの小ネタ集はこれぐらいにして、最後は華々しくいきましょう。最初か
ら最後まで分析が無茶苦茶という最悪のニュース解説です。内容は、今年の全国
学力テスト(中3の国語・数学)で、読書時間が長い生徒の成績が中程度の生徒
より劣っていたことの分析です。リンクをつけますが、半年ぐらいでリンク切れ
になりそうですから、細かく引用しながら、突っ込んで行きます......訂正、どう
やらアーカイブ化する気のようです。どういう神経なんでしょう。リンクをたど
れば、おそらくTBSが停波するまでは読めそうです。



"長すぎる読書"が正答率低下に?「逆U字現象」とは 読書と学力テストと
の相関関係は?【Nスタ解説】、TBS、

https://newsdig.tbs.co.jp/articles/-/2848139?display=1


https://newsdig.tbs.co.jp/list/program/N%E3%82%B9%E3%82%BF

 最初に結論を言いましょう。「いまどきテレビ番組なんか作っているマヌケや、
それにノコノコ出てきてコメントする三流学者や、見るからにアホそうな評論家
は、読解力も知的レべルも低く、そのことに劣等感を持っているので、統計を曲
解して書物そのものを侮辱する」......と主張するのと同じぐらい、偏見に満ちた
解説です。
 物好きと言われそうですが、コーナーの最初から細かく引用して批評します。


最初から嵐の予感



「子どもの読書に関する研究を行っている北里大学一般教育部の猪原敬介准教授
によると、この逆U字現象は2026年が偶然ではなく、毎年起こることだといいま
す。」

 いきなり「偶然」という言葉の誤用です。もとのデータは「小学6年生と中学
3年生の約200万人を対象」の「全国学力テスト」ですからサンプル数は十分にあ
ります。だから、2026年単独のデータでも偶然ということは確率上あり得ません。
何らかの要因(ノイズ)で、理論的に不適切思われる数値が出たとすれば、それ
は「誤差(を含む)」と呼ぶべきです。
 本題にはあまり関係ない用語ミスですが、統計を扱う研究者の発言なら、かな
り恥ずかしいものですし、取材者の聞き間違いなら別の意味で問題外です。この
段階で「大丈夫かいな」と思ってしまいます。



「読書が好きな人が成績がいいということは、読書を多くすれば成績が上がると
思いますが、実はそうではないんです。」

 思いません。理由は二つ。まず、今回は数学の成績の話も出てきています。
「読書をすれば、数学の成績が上がる」とは、あまり自信を持って言える話では
ありません。
 もっと本質的な理由は、相関関係は必ずしも因果関係とは限らないということ
です。例を挙げましょう。「蝉の鳴く日はかき氷が売れるから、かき氷を販売禁
止にすれば蝉は鳴かない」は間違いですね。「暑さ」という共通の原因を無視し
て、存在しない直接の因果関係を主張しているからです。
 番組の例で言えば、「読書が好きな人が成績がいい」のは、勉強重視の家庭の
子供は、本と親しむことが多く、また数学も塾などで学ぶことも多い、とでも考
える方が常識的な解釈です。だから、本嫌いの生徒が急に読書をしたのに成績が
上がらなくても、何の不思議もありません。「思いますよね」と言われても、首
をかしげるばかりです。


つまらないけど常識的な解釈



「中学3年生を対象にした『学力テストの正答率と読書時間』の関係を見ると、読
書を全くしない人に比べると、読書をする人の方が学力テストの正答率は上がり
ます。ですが数学では、1日10分以上30分未満をピークに下がっていきます。国語
でも同様に1日30分以上1時間未満をピークに少し下がっていきます。」

 一日、10分以下の読書をしない中学3年生の多くは、そもそも「知的(テストで
計れるという意味での)」なことが得意ではない、というのは常識的な話で、ニ
ュースでわざわざ取り上げることでもないでしょう。
 もちろん、「知的」でなくても、たとえばスポーツや物作りなど優れたことが
ある生徒もいますし、中学卒業後に急に「知的」になることもよくあります。け
れども、この番組の趣旨は現状での「学力テスト」の高得点をとりあえず肯定的
に考え、それに対する読書の影響を見るもののはずですから、以下これを前提に
議論します。
 まず、数学の方ですが、一日30分以上の読書者は得点が下がるという負の相関
は、いわゆる文系理系論で説明できます。文学や政治経済が好きというタイプの
生徒と、計算や論証や実験が好きというタイプの生徒がいて、受験学年の中三で
一日に30分以上読書するのは前者であるという、これまた常識的な解釈がありま
す。少なくとも、「そういう生徒から本を取り上げたら数学の成績が上がる」と
いう気はしません。
 国語については別の解釈があります。長時間読書者で成績が下がっているのは
「2時間以上」と答えた生徒集団だけですが、彼ら全員が、本当に2時間以上読ん
でいるとは限らないのです。
 この「2時間以上」は、この設問に6つある選択肢の最初のもので、「選択肢を
読み違えるおっちょこちょい」「読む気のない不精者」「そろそろ飽きてきたや
つ」や「テスト自体に反感を抱く生徒」などの「問題児」たちは、最初の選択肢
を機械的に選んでしまいやすく、不真面目な彼らは実力よりも点数も低いという
可能性も高そうです。「2時間以上」組は全体のわずか3%ほどですから、「問題
児」たちの低得点が紛れ込めば、影響が大きいのです。
 この設問の2つ先には、「放課後や学校が休みの日に、本(教科書や参考書、漫
画や雑誌は除く)を読んだり、借りたりするために、地域の図書館(電子図書館
を含む)にどれくらい行きますか」という設問があります。これに対して、最初
の選択肢の「だいたい週に4回以上行く」という、およそありそうもない回答を
した生徒は53.3というかなりの低得点になっています。図書館の近所に住むのは
低学力のもとなのでしょうか。
 これ以外でも、数字で答える設問の最初の選択肢は、内容とは関係なくほとん
ど(11問中9問)が、2番目の選択肢よりも低い得点になっています。「問題児」
たちの仕業の可能性が高いのではないでしょうか。
 身も蓋もないことを言ってしまうと、今回の全国学力テストに限らず、アンケー
トの結果とテスト成績とを比較する時の「逆U字現象」とやらは、かなりの部分
がこの陳腐な「問題児集中」論で説明できてしまいます。
 なにも、「学力低下の原因が長時間読書である」という新奇な仮説を持ち出さ
なくても、常識的な解釈で十分なのです。



全国−生徒(国・公・私立)【表】、国立教育政策研究所、
https://www.nier.go.jp/26chousakekkahoukoku/factsheet/data/26m_401.xlsx




選択肢別平均正答率・平均IRTスコア[児童生徒質問](小・中学校共通)、国
立教育政策研究所、

https://www.nier.go.jp/26chousakekkahoukoku/factsheet/data/26pm_427.xlsx


学力伸ばす謎の活動



「長時間の読書が学力を下げてしまう要因の一つとして、中学生は小学校の時に
比べると部活動や受験勉強など自由時間が短くなり、長すぎる読書が他の活動の
時間を奪ってしまうためではないかということです。」


 思いつきのような仮説に、細かいアラ探しをしても仕方有りませんが、「長す
ぎる読書が他の活動の時間を奪ってしまう」ことが「学力を下げてしまう要因」
だと言っているとしか読めません。「他の活動」って何なんでしょう。学校の授
業でもなく、受験勉強でもなく、自由時間にする読書以外のなんらかの「活動」
が、学力を伸ばしているというのでしょうか。
 もう一度確認しておきますが、ここで言う学力とは共通テストの点数のことで
す。読書時間1時間前後の中3生は、授業と受験勉強以外の「謎の活動」をして数
学力を鍛えているのでしょうか......だとしたら、恐ろしく不気味な話です。国語
にしたって、受験勉強よりも読書よりも有効な「謎の活動」がある、というので
すから。


うっかりコメント、曲解で恥さらし?

 次は組織開発コンサルタント・著作家の方のコメントです。でも、これまでの
話題と、話がかみ合っていません。



「私の子どもも携帯を見ている時間の方が長いです。本でしか得られない効用は
どこにあるのかは、大人も考えなくてはいけないことだと思います。読書経験を
いかに開くかということが大切になってくると思います。」

 「著作家(←普通は「作家」か「著述家」といいます)」が「長いです」など
という間違った丁寧語(さぼり敬語)を使っていることや、本題とは無関係な家
族のプライバシーを開示していることは、いまさら気にしないとしても、何やら
違和感の強いコメントです。
 理由は、ここまで、「本では得られない効用(謎の活動?で得られる効用)」
について議論していたのに、いきなり「本でしか得られない効用」の話になって
いるからです。そして最後に「読書経験をいかに開」けば数学の点数が上がるの
かという、意味不明な世界に突入します。
 ここから先は、私の想像ですが、この「著作家」の方はインタビューで、一般
的な読書と発達の話をしたのに、編集の都合で無理矢理、学力テストでの読書害
悪論に組み込まれてしまったのではないでしょうか。だとすれば、番組に対して
抗議しておいた方がいいと思います。恥をさらしてますよ。



「読書好きだからこそ『お気に入りの作家やシリーズに没頭する』ということを
やりがちかもしれません。しかし、北里大学の猪原淳教授によると、他の作家の
書き方・テーマに触れる機会が少なくなり、読解力や語彙力UPにつながらない可
能性もあるそうです」

 こういう番組で名前を出されるのは一種の災難です。「読書好きだからこそ
「『お気に入りの作家やシリーズに没頭する』ということをやりがち」という怪
しげな仮説は、番組のキャスターが言い出したもので、教授の見解ではありませ
ん。
 この仮説の致命的な弱点は「2時間超組」よりも読書時間の短い「1時間組」
や「30分組」が、多様な読書をしていることを前提にしていることです。何の
根拠があるのでしょう。またもしそうなら、長すぎる読書ではなく偏った読書が
原因のはずです。
 数学に関しては全く説明になっていません。「文章題には読解力が関係してい
る」なんていうのはこの場合は屁理屈です。問題文を読んでみましたが、普通の
中3が誤読するような設問はありませんでした。これを理解できない生徒が、わざ
わざ毎日2時間以上読書をするとは思えないのですが......


令和8年度全国学力・学習状況調査の調査問題・正答例・解説資料について、国
立教育政策研究所、

https://www.nier.go.jp/26chousa/26chousa.html


拡散する話題、加速する劣化



「国際的な学力テストで、"大人も"本の読みすぎによる"逆U字現象"が起きて
いるといいます。毎日読む人より週に1回程度読む人の方がテストの成績が高いと
いう結果が出ています。」

 出典も示さずに出してきた怪しげな国際データですから、コメントのしようが
ありませんが、あえて言えば年齢の影響ではないかということです。
 毎日読書をする人の中には、かなりの割合で高齢者が含まれていそうです。彼
らが、週に1度しか本を手に取れないほど多忙な現役社会人と学力テストで勝負
したら不利を免れません。



「国語に関する世論調査(2023年度)によると、「1か月に何冊の本を読む?」
(16歳以上/電子書籍含む/漫画・雑誌は除く)という質問に対して、「読まない」
と答えた人は62.6%でした。」

 それは分かりましたが、その人たちの学力はどうなってるのでしょうか。番組
のテーマは「本の読み過ぎの悪影響」のはずです。最後に「読まない」人の話を
出して、いったい何を言いたいのでしょうか。



「井上貴博キャスター:
あくまでも学力テストとの相関関係なので、人生を豊かにする曲線とは全く別だ
と思います。何でも熱中しすぎると、相関関係で時間が取れなくなるのは当然だ
と感じます。」

 「人生を豊かにする曲線」とは意味不明ですが、たいした意味のないことだけ
は確かなようです。結局、読書時間が長いと、例の「謎の活動」の時間がとれな
くなるというのが結論ですね。
 今年度の全国学力テストのある結果を、あまり指摘される事の無い「長すぎる
読書の問題性」で説明しようとしたまでは良かったのですが、識者2人からそれを
裏付けるコメントがとれず、とりあえず思いついた仮説を強引にこじつけて、番
組を作ってしまった感じです。
 厳しいようですが、キャスターの能力不足としか言いようがありません。特に
致命的だったのは、統計に関する不勉強で、最後の最後まで無知をさらけ出して
しまいました。
 「相関関係」という基本的な統計用語の使い方(2回目)は、「この番組の制作
者たちが言いたい事は、『本を嫌っていると、私たちみたいなバカになるよ』で
ある」と解釈するのと同じか、それ以上に不適切だと思われます。