小浜ルートの加速主義者     【北陸新幹線 そ の 36】

 まさかと思われていた桜川ルート、最初から行き詰まっているのですから、奇
策と力業で突破するしかありません。



「前原誠司衆院議員=日本維新の会=は21日、総工費の75%をJRの貸付料で賄う
場合、京都府と京都市の負担はそれぞれ1%未満に抑えられるとの見通しを示した」
「総工費が5兆5000億円として、1%未満とすると500億円ほど。25年間で割ると年
間20億円」




JRの負担75%だと京都府市は各1%未満 北陸新幹線「桂川案」で前原衆院議
員が試算、産経新聞、

https://www.sankei.com/article/20260721-MI3S2MYWL5MTBPEVSZR7KMSGLA/%0A/

ひと桁足りない資金計画

 この話は別の項目でも触れましたが、もう少し詳しくやりましょう。


本質を見落とす劣化メディア【その2】 - 大法螺政治と数字に弱い記者、こ
の長屋、村山恭平

http://nagaya.tatsuru.com/murayama/2026/08/09_0826.html

 1%負担の京都府や京都市が年額20億円なら、貸付料で75%負担するJR西は
1500億円です。けれども、現在の北陸新幹線(高崎・長野・金沢・敦賀間)の年
間貸付料は500億少しなので、敦賀・新大阪はせいぜい100億といったところでし
ょう。桁がひとつ足りません。そもそも、日本中の整備新幹線路線の貸付料は全
部合計しても800億弱なので、帳尻合わせさえ、そう簡単にはできません。
 別の計算もしてみましょう。現在、大阪・敦賀間のサンダーバードの一日の乗
客数は約8000人、往復16000人 。特急券こみの料金は、平均的な区間と思われる
新大阪・金沢間で約10000円です。一日の売り上げを切り上げ1.6億、年商600億で
す。ここから払える貸付料はかなり無理をしても300億で、やはり桁がひとつ足り
ません。
 ここいらへんの話は専門家による詳しい記事がでましたので、よかったらそち
らを参照して下さい。誰が考えても不可能だということを、おわかりいただける
でしょう。


そりゃ無理だ...北陸新幹線延伸「2027年度着工」を阻む5つの巨大な壁、ダイヤ
モンドオンライン、枝久保達也: 鉄道ジャーナリスト

https://diamond.jp/articles/-/396457


 押付料の後出しジャンケン

 けれども国土交通省は諦めません。いや、おそらく諦めさせてもらえません。
整備新幹線延伸(北海道・北陸・西九州の3区間)費用のための貸付料増額作戦。
まずは既存新幹線の貸付料支払期間の倍増化です。現状30年で打ち切るところ、
もう30年貰おうという厚かましい話です。30年住宅ローンを完済した顧客に「お
代わり」と言う金融機関は、その日のうちに焼き討ちにあうでしょう。
 最初の犠牲者はJR東日本です。2028年に終了するはずの、北陸新幹線(高崎
・長野間)の貸付料175億円の支払いを、あと30年伸ばすことを要求されています。
ウッカリこれを呑むと、他の路線の約300億円も次々と「お代わり」になりそうで
す。自社管内には延伸予定がないのですから、いじめみたいな話です。


説明資料、国土交通省
https://www.mlit.go.jp/policy/shingikai/content/002009184.pdf

 こんな無茶な前例ができると、北陸新幹線のご当地JR西日本をはじめ、整備
新幹線をかかえるJR北海道・九州も他人ごとではありません。東海道新幹線で
しこたま儲けているJR東海にも確実にツケが回ってきそうです。各社とも、こ
んな負担を引き受ければ、間違いなく株主代表訴訟がおこります。
 JR東はこの提案を待ち構えていたようで、早速反撃に出ました。


国土交通省への当社の見解を記した文書の提出について、JR東日本、
https://www.jreast.co.jp/press/2026/20260731_ho01.pdf


 勝てない戦いと負けられない戦い

 この広報合戦、どう見てもJR連合軍側が有利です。国が民間企業に契約以上
の負担を求めるのは憲法違反。公共性を主張しても、「だったら、なんでそんな
契約を結んだのか」という議論なります。
 国土交通省もモチベーションが上がりません。有利な妥協に持ち込んでも、一
桁多い北陸新幹線延伸の負担を賄えるわけではなく、はじめから勝ち目はないの
です。一方、JRの方は、こんな広報資料まで出してしまったのですから、株主
の手前も妥協のハードルが上がりました。そう簡単に負けるわけにはいきません。
 国交省としては、貸付料で必要分の建設費用を賄うことは無理でも、「JRさ
んも泣いてくれたんですから、そちらもお願いしますよ」と京都府市に持って行
くつもりだったのでしょう。けれども、こんな展開になったら、住民の怒りの火
に油を注ぐことになります。「天下のJRはんが遠慮してはるのに、うちみたい
な貧乏自治体がお金出すなんて、そんな偉そうなこと、ようしまへんわ」京風大
炎上のはじまりです。
 もう少し掘り下げてみましょう。前原議員の「20億ぽっきりプラン」でも、延
伸に全くメリットのない京都にとってはボッタクリですが、金額以外も懸念材料
があります。支払いの時期です。
 いくらなんでも完成前から貸付料は取れませんが、工事費の支払いの方は着工
後は毎年のことです。となると、ほぼ確実な建築費の上振れリスク、恐らく確実
な途中断念リスク、今のままでは確実な関係企業の倒産リスク、すべてが自治体
と国にのしかかってきます。
 圧倒的に資金が不足している上に、隠れリスクもたっぷりありそうですから、
着工してしまうと、こちらにも次々とお代わりが来そうです。京都府市に妥協の
余地はありません。水際での完全撃退あるのみ。負けは財政破綻を意味します。
 京都市は、坊さんたちの「法力」を借りて、地下水の独自調査をすることにな
りました。仏教会の請願を市議会は満場一致で採択です。問題が出そうな地域で、
問題が出るまで掘るわけですから、問題が出てくるでしょう。
 行政自らこれをやってしまうと、出てきた問題が解決しない限りGOサインは
出せなくなります。つまり退路を断ったわけです。断る理由をお金にしないのが、
実にエレガントですね。


維新が狙う桂川クラッシュ

 少し引いた視点でこの夏の動きを振り返ってみましょう。北陸新幹線の延伸が
らみの話が急に活性化したのは、7月15日のルート決定からです。大議論になる
かと思っていましたが、あっさり維新が折れて桂川ルートに決着しました。昨年
の参院選、京都選挙区で維新がたてた候補者は、小浜ルート拒否の公約にしまし
た。けれども、維新は公約違反呼ばわりを覚悟で、自民に従いました。大阪都構
想への協力との交換条件とのことでしょう。ただし、その後のことも考えていた
ようです。
 ルート決定の直後に出てきたのが、今回議論している前原発言。これで景色が
変わりました。それまでJR西日本や京都府市は、明確に賛否を表明していませ
んでした。ところが、具体的で無茶苦茶な資金プランを前原氏に突きつけられた
事で、一気に反対論ないしは慎重論に傾きました。
 ところで、前原氏は新大阪延伸を本気で希望しているのでしょうか。私にはそ
うは思えません。公約違反をした維新にとって最大の悪夢は、小浜ルートが京都
府内で着工され、あちこちでトラブルがおこることです。もし、地下水枯渇や地
盤沈下がはじまったら、「あいつらが、裏切りよったせいや」となってしまい、
前原議員本人の次の選挙まで危なくなります。だから、ドサクサまぎれに工事が
始まっては困るのです。
 そこで、「JRの負担75%」という現実不可能な提案で、財源問題を関係者
に叩きつけて挑発したのでしょう。矛盾を抱えながら破綻を先送りしている計画
を、あえて前進するよう仕向けてクラッシュさせる。まさに加速主義です。
 今のとこと、このやり口は成功しています。線路貸付料をめぐって、国とJR
西日本は正面衝突しそうです。桂川の周辺で京都市による地盤調査も始まります。
オール京都で「桂川ルート」バッシングが始まれば、維新の公約違反など誰も覚
えていないでしょう。
 とっちらかった状況で、今年もまた概算要求のシーズンになりました。日本中
から減税を求められ、世界中から緊縮を求められている財務省に、小浜ルートで
の本格着工を求めても認められるはずがありません。
 例年通り、少額の調査費を求めての事項要求にとどめたとしても、最悪の場合、
着工五条件の不成立を理由に、それすら却下されるでしょう。着工の見込みがな
くなったものに、調査予算はつけられないという理屈です。桂川ルート決定のお
りに、推進側が着工五条件を達成させると言ってしまったので、財務省はお手並
み拝見モードのはずです。
 財務省が着工五条件という防波堤を死守しておかないと、日本中にある「基本
計画路線」(半世紀前にゾンビ化した新幹線計画路線)が動き出す恐れがありま
す。実際、二つの路線が「調査対象路線」、すなわち税金で調査を開始する路線
に、この夏昇格しました。どちらもB/Cなど考えるまでもない代物ですが、「桂川
ル-トがOKなら、おらが村にも新幹線を引いてくれ」という、正当な要望を断
るのは難しくなりました。なんとか、調査開始までで止めておきたいところです。
 これはかなり深刻な問題です。シンカンセンというブランドイメージがあるだ
けに、話が国際的に拡散しやすく、「ニホンハ、ザイセイサイケン、ヤルキ、マ
ッタクナイデスカ?」という懐疑論に、新たな根拠を与えることになります。円
の国際的信用にドロを塗り、最悪の場合はハイパーインフレの引き金になりかね
ません。財務省にとってもまた、負けられない戦いなのです。


若き抑制主義者の悲劇

 加速主義者がいるのなら、抑制主義者もいるのでしょうか。最近出てきました。
福井県知事です。間違いなく、一番本気で北陸新幹線が新大阪まで延伸すること
を願っている政治家です。



北陸新幹線の早期全線開業に向けて5日に東京で開かれた建設促進大会で、満場一
致で採択された決議文には、県などが求める「来年度中の認可・着工」の文言は
盛り込まれておらず「一日も早い全線開業」という表現に留まりました。

- 中略 -

石田嵩人知事:
「令和9年度の認可着工は福井県としては実現可能だと考えているが、地下水への
影響や地元負担の課題解決についてスケジュールありきで進めるべきではないと
いう意見もあった。それを受け、令和9年度の言葉は文書にあえて記載しなかった」



沿線府県と福井県に"温度差" 北陸新幹線延伸の認可・着工時期 国への要
望に「来年度」の記載見送る 「スケジュールありきではない」意見を尊重、福井
テレビ、

https://www.fukui-tv.co.jp/?fukui_news=%E6%B2%BF%E7%B7%9A%E5%BA%9C%E7%9C%8C%E3%81%A8%E7%A6%8F%E4%BA%95%E7%9C%8C%E3%81%AB%E6%B8%A9%E5%BA%A6%E5%B7%AE%E3%80%80%E5%8C%97%E9%99%B8%E6%96%B0%E5%B9%B9%E7%B7%9A%E5%BB%B6%E4%BC%B8

 読んでいて、せつなくなります。ここで採択されたのは、あくまで決議文です。
「米原・小浜両ルートの同時着工」「金沢新大阪間にリニアを」......はさすがに
ダメですが、スローガンなんですから、多少は無理なことでも発表できます。
「着工五条件にこだわらない政治決断を」とか「まず小浜までの即時先行開業」
などというのは、盛り込んでも違和感はありません。
 けれども、今回は「来年度中」というキーワードを「あえて」封印しました。
これは、京都の反対派(というより普通に生活したい京都市在住者全員)を刺激
しないこと、また、財源問題が厳密かつ詳細に(というより普通に)議論される
ことも避けようとしているように見えます。つまり、加速主義的衝突をなんとか
止めさせようとする、ある種の抑制主義なのでしょう。
 極めて理性的な判断です。小浜ルートが来年度中に破綻するのを防ぐには、こ
れしかないでしょう。けれども、いまさら議論のスピードを落としたところで、
新たな展望が開けるわけではありません。潤沢な財源や画期的なトンネル掘削技
術が、天から降ってくるころは期待できないからです。また、それ以上に、沿線
人口の減少や国や自治体の財政悪化が進めば、さらに不利な状況になります。
 知事にとっては苦渋の決断です。建設促進大会の流れが抑制主義的になってい
ても、福井県の代表者が「何が何でも来年度」と言えば、採択される可能性が高
かったはずです。「これでは次の選挙を戦えない」とか「ここで妥協すると、永
遠に着工できない」という危惧も、ちらっと知事の頭をよぎった事でしょう。ど
んな犠牲をはらってでも、小浜ルートを生き残らせた......若い知事の決意には心
を動かされるものがあります。
 けれどもそれだけに、実現不可能な計画を立ち上げて福井県民に空しい期待を
抱かせた、初期の推進者は罪深いものだと思います。小浜ルートが完全消滅した
時点で、この誠実な若手知事には、「北陸新幹線をつぶした男」の烙印が押され
そうです。けれども今となっては、もう誰にもそれを回避する手段はなさそうで
す。真珠湾なくしてポツダム宣言なし。無能で無責任な権力者たちのツケは、必
ず次世代の若者に回ってきます。石田知事は令和の平敦盛なのでしょうか。


超絶美少年の悲劇!『平家物語』敦盛最期ってどんな話?、和楽、
https://intojapanwaraku.com/rock/culture-rock/190440/