地下も地上もパンドラの箱              【北陸新幹線 その 34】 

 前回の記事では、桂川ルートにかかわる水問題について触れました。今回はそ
の他の論点......といっても、ほとんどが以下のリンクにある過去記事の「復習」
です。2年前のものですが、新しい話は全くないのでそのままリーダブルです。
その間、ルート論争は百家争鳴でしたが、現地調査は誰もしていなのか、とても
公表できないような結果だったかのどちらかでしょう。
 まず、京都盆地北部から小浜までの山岳トンネル(記事ではⅢ区と呼んでいま
す)。地元が非協力的なので、縦坑や斜坑は作れそうもありません。青函トンネ
ル級、数10kmの掘り抜きが必要になります。もちろん、地質データなど満足な
ものはないので、巨大な火成岩か、ボソボソの軟弱地盤か、高温の温泉水か、何
が出てくるかは掘ってみてのお楽しみです。
 北海道新幹線やリニアの例をみれば、かなりの「想定外」を想定しておくべき
でしょう。残土の問題ばかりが注目されていますが、こんな状況ですから、大き
な事故を出さずに、迷惑をかけるほどの量の土砂を運び出すところまで行ければ、
現場業者は十分にお手柄です。
 だいたい、リスクばかり大きく発注側の懐具合に不安のある工事。こんなもの
を、施主余り人手不足の時代に引き受ける業者がいるのでしょうか。実際、大手
のゼネコンほど公共事業から撤退するようになっています。入札があっても無視。
関西大阪万博が典型ですが、地域の弱小工務店が、大きな仕事を引き受けさせら
れることになります。
 もともとの低予算、切迫工期に不払いリスクまで背負って、まともな工事が出
来るのでしょうか。半年で取り壊す万博ならともかく、何十年何百年も使い続け
る新幹線での安全が保てるのか大いに疑問です。
 そうそう、現地でのツキノワグマたちとの戦いの方もよろしくお願いしますね。
ちなみに、地元猟友会は中立を守るのではないでしょうか。


http://nagaya.tatsuru.com/murayama/2024/08/19_0558.html
子供だましの桂川 【北陸新幹線 緊急投稿】、拙稿、この長屋、

経済効果は言いたい放題

 南北ルートより(恐らく)マシとはいえ様々なリスクが残っている一方、桂川
ルートの便益の方はほとんど消滅しています。上の過去記事での私の予測(誰で
も思いつく内容ですが)どおり、今回の8ルート比較では、B/C(費用対効果)
について豪快なカンニングが行われまました。「ゴールポストを動かした」言わ
れますが、「大型ゴールをもうひとつ増設した」という方が正しいでしょう。
 B/Cの分子Bである経済効果の算出方法を、工事区間ではなく全線に切り替
えたのです。つまり、新大阪・敦賀間だけではなく、北陸全体・新潟・長野・北
関東全体の経済効果を織り込むべきだというのです。そして、区間内だけで計算
した0.5ではなく、全体での1.1なら合格点の1.0以上を達成しているという話です。
念のため言いますが、基準というものは、判断される側が動かしたら無意味です。
合格点を受験生が決める入試はありません。
 だいたい、区間内(0.5)よりも区間外(1.1-0.5=0.6)の経済効果が多いなんてい
うのも、あり得ない話です。大阪の人が、「敦賀乗り換えから新大阪乗り換えに
変わって10分早くなったから、これからはドンドン糸魚川に行こう」なんて考え
ますか。
 さらに困ったことに、「全線の経済効果で着工を判断する以上、経費も沿線全
体で負担するべきだ」という議論に必ずなります。福井県知事も同様のことをお
っしゃっていますが、まとまる話とは思えません。そもそも経済効果の及ぶ範囲
など決めようがありません。これまでに歯を食いしばって自前で整備新幹線を引
いてきた自治体にとっても、ふざけた話です。
 延伸するたびに追加負担を求められるのでは、新幹線の走る自治体は全て反対
にまわるでしょう。「小浜から新下関まで山陰新幹線を作るから、受益に見合っ
た負担をしてくれ」と言われたら福井県は喜んで出すのでしょうか。
 もうひとつ、着工5条件の議論で不思議なのは、「新基準」でB/Cが1そこ
そこの桂川ルートよりも値打ちのある事業は、他にいくらでもありそうだという
ことです。新幹線関係だけでも、西九州新幹線の佐賀県内やリニアの成田延伸・
関空延伸。一般の鉄道・道路などではいくらでもありそうです。今後、「新基準」
を錦の御旗に、全国各地の政治家が、ワラワラと動き出すでしょう。
 延伸ばかりではなく、被災してそのままになっている地方の鉄道路線の修復で
も、桂川より優先順位の高いものはかなりありそうです。もっと地味な話をすれ
ば、橋梁・下水道など長年放置されている重要インフラの更新・補修があります。
仮に、八潮市の下水道陥没の地点で先手を打って修繕しておいた場合の費用(C)
と、大惨事の後始末費用(B)とで比較すれば、きっと巨大なB/Cが出ます。
事故後に言っても仕方のない話ですが、同様の危険を抱える部分を修繕しておく
ことは可能。数兆円もあれば、日本のインフラの安全度は格段に向上するでしょ
う。
 けれども、長屋の大家さんがよく口にされることですが、「実際にはおこらな
かった大惨事の損失を勘定に入れる」のは、誰しも......特にわれわれ日本人には
苦手なことのようです。 


維新が仕込む緊急脱出装置

 もうひとつ、桂川ルート固有の問題もあります。小浜ルートがお目見えした当
初の牧歌的なプラン、巨椋池の車両基地から直線的に京都駅に向かうルートでの
計算でも、北陸新幹線の新大阪・京都間は最速列車で19分、松井山手停車なら
21分かかるとされていますが、これが正しいのなら新大阪・桂川間も同様でしょ
う。一方、現状の東海道線(京都線)新快速では新大阪・京都間は23分です。桂
川駅は京都駅よりも2駅、普通列車で5分ほど大阪よりの場所ですから、新快速電
車の新大阪・桂川間は20分前後ということになり、北陸新幹線と遜色がないこと
になります。
 こうなると問題になるのは新大阪駅と桂川駅との乗り換え利便性の比較です。
新大阪駅にはリニア中央新幹線も大深度地下で乗り入れている予定ですから、か
なりの迷宮駅になりそうです。一方、桂川駅では、北陸新幹線は東海道線の直下
を平行に走ることになります。エレベーターの本数をケチらずに普通に駅を作れ
ば、列車の先頭から末尾までのどこで降りても近くのエレベーターに乗るだけで
プラットホーム間の移動ができ、かなり使い勝手のよい乗り換え駅に仕上がりま
す。
 ということは、大阪環状線・大阪メトロなど他の路線を使う大阪駅からの乗り
換え客は、新大阪ではなく桂川まで新快速で行くことになります。下手をすれば、
新大阪からの乗車でも直接北陸新幹線ホームに向かわず、いったん新快速で桂川
まで行って乗り換えるというパターンもありです。だって、数百円ですが特急料
金も安くなりますから。
 新大阪駅での乗り換えが桂川駅よりも便利になりそうなのは、現状では岡山方
面からの山陽新幹線の乗客ぐらいで、ほとんどの大阪府市民には全く関係ないこ
とです。
 そのため桂川ルートには他にない裏の利点があります。桂川とその先の巨椋池
車両基地(京都府内)までの建設なら、大幅に経費を削減できるということです。
一方、新大阪駅乗り入れにはとてつもない難工事が予想されます。28年という数
字まで出ていて、付近では用地買収も発生するでしょう。
 予言しても良いですが、今後、桂川駅先行開業論が今後必ず登場するはずです。
北陸の立場でも、大阪駅への乗り換え駅が新大阪から桂川にかわるだけで、建築
費が激減し着工ハードルが下がるわけですから、とりあえず歓迎でしょう。
 この場合、線路の西の終点は京都府南部の巨椋車両基地ということなりますが、
そこから先の延伸(やるとすればですが)は、原案通り新大阪でも、大阪梅田で
も、あるいは京橋あたりを経由して関空を目指すのも自由です。
 もうひとつ、この先行開業プランにはおまけがあります。桂川ルートには東海
道新幹線との長い併走区間と交差があり、渡り線を作って新大阪方面に乗り入れ
る追加工事が比較的簡単にできることです。もちろん、そのころにはリニアはで
きているはずですから、東海道「平行在来」新幹線の路線需要は激減しているで
しょう。
 米原ルートの亡霊のような話ですが、巨額の延伸工事をしなくても小倉車両基
地付近から新大阪へ乗り入れられるのです。これまた北陸にとっても悪い話では
ありません。小浜新大阪間最速のプランになりますから。また、その気になれば
広島・博多や西鹿児島まで、金沢から乗り換えなしで行けます。
 けれども、このプランが恐ろしいのは、大阪府市が最初の延伸工事の当事者か
ら降りられることです。この夏の「ルート決定」で、維新が土壇場で桂川ルート
を容認したのは、「京都府内で工事を打ち切ってしまうことで、維新の本拠地大
阪のダメージを防ぐオプション」を残すためだったのかも知れません。先の参議
院選で小浜ルートを全否定するトップ当選者を出しながら裏切った以上、当面は
維新にとって京都の選挙はどうせ捨てゲームですから。
 ババを引くのは京都府と福井県です。路線が短くなり経費が激減しても、大ス
ポンサーの大阪がいなくなっては、とんでもない負担増がやってきます。
 京都の方は、例によって「金なら全く無い」で冷笑することになるでしょう。
この点については自他とも認める絶対の自信があるはずです。だいいち、桂川ルー
トでは京都の「利益に見合う負担しかしない」と言うのは事実上の0回答です。現
状のサンダーバードと比べて、京都駅からの時間短縮はなくなり、必ず乗り換え
も必要になります。そないな電車に金なんか、誰が出しますかいな。迷惑料ほし
いぐらいやわ。
 だから、もし工事が始まっても、「水や。沈下や。残土や。渋滞や。せやから
工事は当分お休みや」と困ったような顔をしながら、JRと福井県の力が尽きる
のを待つでしょう。かつて、平家や足利や豊臣を溺死させたドロ沼作戦の始動。
最後にババをつかませて逃げるのは、歴史が鍛え上げた京都町衆の伝統芸です。