帰ってきたサンダバ-ド
桂川ルートですか。まことにご愁傷様です。これで北陸新幹線の新大阪延伸は
消滅しました。わずかに完成の可能性のあった米原ルートが消えたからです。今
後は、詳細な工事費が判明して着工が頓挫するか、詳細な工事費を粉飾して着工
後に頓挫するか、のどちらかでしょう。当事者間では早くも負担の押し付け合い
が始まっています。JR西日本、福井県、滋賀県、京都府、大阪府、そして日本
国が参加するババ抜きです。
どうやらJR西日本も、私と同じような見解のようです。記事を書いているう
ちに飛び込んできニュース。大阪方面と敦賀駅を結ぶサンダーバード用に、新型
車両を開発するそうです。小浜ルートは完成までに30年はかかるとされていま
す。その期間は、関西方面から北陸新幹線に向かうには、敦賀駅での乗り換えが
必要です。そこまでの在来線を走る特急サンダーバード用の車両もそろそろ更新
の時期。問題はその次世代列車の仕様です。
新型車体で高速化はするわ。グランクラス(超富裕層向けグリーン車)を導入
するわ......乗車のわずか1時間ちょっとのリレー列車には贅沢な話......と思って
いたら、翌日の報道では能登半島や金沢への乗り入れの話が出ました。そういえ
ば、今年一月の段階で、JR西の社長は、能登の和倉温泉までの直通運行につい
て「勉強をする」と言っていました。着々と布石を打っています。
サンダーバードが「復活」し、大阪駅や京都駅(いずれも桂川ルートの北陸新
幹線は停まらない)から豪華高速列車で直接北陸へ行けるようになる......いよい
よ北陸新幹線の新大阪延伸は必要無くなります。さすがに、今すぐ「延伸や~め
た」とはならないでしょうが、線路貸付料など北陸新幹線の費用負担をめぐる条
件闘争で、JR西日本は態度を硬化させるでしょう。つまり、「断念上等。出来
ないでも良いっすよ」宣言です。
妥協の産物桂川
桂川とは何か。地元以外の方に一番わかりやすい説明をします。嵐山を流れる
保津川の下流のことです。そんな所にトンネルを掘ってどんなメリットがあるの
か......ひとことで言えば、リスクを少し減らして価値を完全に失った妥協失敗の
産物です。
この記事ではリスクの話をまとめます。まず、定番の水問題。確かに桂川ルー
トは、食品など井戸水を使う産業が密集している市内中心部や伏見地区を避ける
ルートですから、「真っ向勝負」の南北ルートよりも悪影響は減りそうです。け
れども、そうでない別の可能性だってあります。地下50mに達する大深度トンネ
ルで、市域の西端の地下を南北に30kmもぶち抜くのですから、市内各所の井戸の
水源をネコソギ横取りしてしまうかも知れません。あるいはトンネル外壁から地
下水に溶け出すカルシウムが、酒所伏見の原水に強烈な苦みを加えるかもしれま
せん。リニアでの岐阜での苦戦からわかるように、地下の工事は深くなればなる
ほど、不確定要因が増えます。取り返しのつかないことに、「とりあえずやって
みよう」ではあまりに無責任です。
地下水の浮力の恐ろしさ
これまでは利水の話でしたから、ルートから地下水の需要地までの距離をとれ
ば、リスクは(恐らく)小さくなります。けれども。トンネルの安全を地下水か
ら守るという治水の視点では、桂川ルートはかえって危険な場所に踏み込むよう
に見えます。
桂川にそってトンネルを掘る以上、帯水層が厚く複雑な地層に出会う可能性が
高く、大量の湧水は覚悟しなければなりません。それに伴う地上で地盤沈下も神
のみぞ知る話です。被害は工事中か完成直後におこるとは限らりません。埼玉県
八潮市での陥没のように、地下で少しずつ空洞化が進み、完成数十年後のある日
突然......ということもあり得ます。鹿児島県の北薩トンネルは、完成数年後に崩
壊しました。詳しくは以下の過去記事をお読みください。
地盤を甘く見てはいけない、拙稿、この長屋、
http://nagaya.tatsuru.com/murayama/2025/02/03_0850.html
文化財への影響はより繊細に考えなければならないでしょう。東・西本願寺講
堂、東寺五重塔、全部まとめて倒壊の「三重殺」を狙える南北ルートのような派
手さはありませんが、桂川ルートの直上には広沢の池や桂離宮があります。東西
1km圏には仁和寺・大覚寺・広隆寺といったビッグネームが控えています。ひと
つでも被害が出たら最低でも数年は工事がとまるでしょう。そして巨額の損害賠
償。別に文化財がなくとても住宅密集地で大規模な陥没が発生すれば、何100億単
位の損失も考えられます。
桂川地区で事故がおこれば、東京の外環道トンネル陥没事故がらみの訴訟での
「大深度地下工事は財産権の侵害であり大深度地下法は違憲である」との原告の
主張に、大きな説得力を与えることになります。もし最高裁で違憲とでもなれば
小浜京都ルートはリニアを道連れに即死です。それまでにかかった経費、誰が払
うのでしょう。
大深度地下は誰のものか、三島康生、note
https://note.com/chyofu_gaikan
事実上、国内では成功例のない大深度地下トンネル技術で、帯水層の多い京都
盆地に挑むのですから、徹底的な事前調査を望むのは当然のこと。無理に突っ込
めば施工業者も地獄を見かねません。
その意味で、京都仏教会が市議会に出した「市独自の調査を求める請願」は仏
恩のように思います。どうすれば安全な工事ができるのかを、きちんと調べる事
が、無駄な犠牲や経費を出さないと言う点で、推進側にとっても利益のあること
だからです。
市議会では満場一致で採択されました。しかも、調査データは公表されるとの
ことですから、もし「工事不可能」となったら、京都府市は頑として着工を認め
ないでしょう。
一方推進側は、「(鉄道建設・運輸施設整備支援)機構によると、既に現地調
査を終え、影響評価を進めているが、公表時期は未定。複数のルートを想定して
調査を行っており、機構の広報担当者は『追加の現地調査は考えていない』とし
ている」。
おかしな話です。昨年秋、維新の「8ルート案」で議論が混乱したせいなのか、
桂川ルート沿線ではボウリング調査どころか地質調査すら満足に行われていない
ようです。その代わり?の、怪しげなシミュレーションでは「地下水に大きな変
化はなかった」そうです。ちなみに調査データに基づかないシミュレーション結
果のことを、フィクションもしくは捏造と呼びます。生成AIを使うと安くてよろ
しいですよ。
確認しておきますが、機構が第一に説得すべきなのは京都市のはずです。独自
調査までして理論武装してくる相手に、「手ぶら」で立ち向かえば八百長以外で
勝てるはずがありません。「調査をしようがしまいが科学的な論争では勝ち目が
ない」と見て、政治的に京都市押さえ込む気なのか、すでに諦めているのかのど
ちらかでしょう。
北陸新幹線延伸ルート決定「府民の理解と納得不可欠」、依然京都で分かれる
賛否...福井では早期開業期待の声「ひと安心」、読売新聞オンライン、yahoo、
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https://news.yahoo.co.jp/articles/1f498d2c2864f42c002eeaf7ac0ba39a5a7bb91c?page=1