恐るべき怪人コンサル」

 この長屋の大家さんが、時々語られる怪談に、「銀行系のコンサルが財政立て
直しのために本学に来た」ときの話があります。「1年間の調査の結果、『この
校舎は古いだけで無価値だから、郊外に移転して高層の建物にしたらどうか』と
いう答申をした」というのがサゲなのですが、以前からこの話はどうも腑に落ち
ませんでした。
 「『聖地』のオーラも、数年後に国の重要文化財に指定されるヴォーリズ設計
の校舎の美しさもこの」怪人コンサル(ムラヤマ銘々)には感知できなかったか
ら、というのが大家さんの解釈なのですが、そんなことがあり得るのでしょうか。


本当に「無価値」ならボウフラは寄りつかない

 相手は大型不動産プロジェクトを手がけようとしたコンサルです。親銀行の看
板まで背負っています。そんな連中に、天下のヴォリーズ建築のそれも国内最大
級の大伽藍を、承知の上で「無価値」と言い切る度胸があるのでしょうか。
 また価値判断はともかく、数年先の重文指定可能性を感知できないとすればコ
ンサルとしては大問題です。めでたくキャンパスを買い受けたディベロッパーが、
「さて、そろそろ古いだけの校舎をぶっ壊して、タワマンでも建てっか」となっ
たとき、重文の話が露見したら開発担当者は卒倒するでしょう。プロジェクトが
完全に詰んだわけですから、不注意なコンサル側もただでは済みません。名も無
い系列金融機関に出向し古くて無価値な社員寮の一室でキャリアを終える社員が、
何人も出てくるでしょう。
 もうひとつ解せないのは、プロジェクト自体の採算です。仮に「古いだけの校
舎」が無価値ならば、キャンパスを売却しても得られるのは、土地値だけという
ことになります。おおまけに、「古いだけの校舎」の取り壊し費用も馬鹿になり
ません。
 最寄りの私鉄支線駅「門戸厄神」から徒歩で10分以上。場所によっては、さ
らに上り坂。岡田山キャンパスは住宅地としてはあまり魅力的な場所ではありま
せん。パッとしない阪神間の住宅需要を考えれば、そんな土地に興味を示す建て
売り業者がどれぐらいあるのか......少なくとも良い値がつくとは思えません。
 一方、移転先の新キャンパス。ツキノワグマたちと遊べる(岡田山はアライグ
マでした)ほど環境が良い場所へ、教員と学生をスクールバス輸送するにしても、
コストを考えれば最寄り駅からせいぜい5km圏内が限界です。特に、通学時間
に制約の多い中等部(中学高校)のことを考えれば、あまり不便な所に移転する
わけにも行きません。京阪神付近とすれば夢洲やポートアイランドなど埋め立て
系ですか。
 こういう場所の地盤を考えれば、普通の中層校舎では基礎工事が大変で不経済
です。怪人コンサル氏のおっしゃる「高層の建物」と符合するのは偶然でしょう
か。けれども、岡田山キャンパスを売り飛ばしても、高額の建築費が降ってくる
とは思えません。そんなことは「1年間の調査」の間に、電卓ひとつ叩けば無理
だとわかりそうなものです。清水にボウフラが沸きにくいのと同様、金の臭いの
しないところにコンサルは寄りかないはずです。



存在しないものの切迫、長屋の大家さん、内田樹の研究室、

http://blog.tatsuru.com/2026/07/05_0927.html


 胸の高鳴る岡田山IR

 近年、町おこしのなどで、地域の古い建物を再活用する例が増えてきています。
各地の赤レンガ倉庫など、博物館や商業施設への再開発はもはや定番といえるで
しょう。「奈良監獄ミュージアム by 星野リゾート」なんていうのも出来ました。
また、地方の人口減少もあり、最近は廃校の再利用がすすんでいて高級宿泊施設
になった例もあります。レトロで建物としてしっかり作られ、長年大事にされて
きた学校施設は、水回りの手当さえ出来れば最高のリゾート物件になるようです。
先日、京都の廃校高級ホテルを訪れた時、上の「怪談」の謎解きに関する一つの
仮説を思いつきました。
 怪人コンサル氏は、もしかしたら校舎群の価値を十分に理解した上で、買いた
たくための方便として「古くて無価値」という表現を、最初に使ったのではない
でしょうか。だとすれば、後日、「建物の価値がわかる買い手を見つけてきまし
た」と言い出す気だったのでしょうが、実際には「無価値」の一言のせいでアホ
扱いされて、コンサルという業態そのものにまで汚点を残して完全玉砕しました。
「素晴らしい建築だと思いますが、不動産的にはなかなか評価されません」とで
も言っておくべきだったのかも知れません。
 彼らの本音を推定してみましょう。住宅地としては冴えない岡田山もリゾート
として考えると、全く別の眺めになります。まずアクセス。確かに公共交通機関
を前提にすれば不便な場所ですが、自家用車利用だと話が変わります。伊丹空港
や三宮へは30分。関空や新大阪へも約1時間。敷地は広大なので、都市型リゾー
トでネックになりやすい駐車スペースも十分にとれます。また、西宮北口までは
10分弱ですから、頻繁に送迎リムジンバスを出せる距離です。
 古くて無価値に見えるが実はお宝の校舎はどうするか......リゾート開発の定石
で考えれば、山裾の大学部分をブランドショップ中心のショッピングモールにで
もして、中等部の校舎は高級ホテルにするのが妥当でしょう。各教室はスイート
ルームに最適なサイズで、関西有数のオルガンを擁するチャペルや「延喜式内社
の岡田神社」は最高の結婚式場になります。他にも、カフェ、レストラン、高級
料亭......ついでに西宮市が維新政権になったら、カジノも誘致しちゃいましょう。
どう考えても、夢洲IRよりは有望です。
 なにしろ、豊かな広葉樹林に囲まれ、ヴォリーズの力作がてんこ盛りですから、
「映える」施設になることは間違いありません。歴史的建築物の有効活用ですか
ら誰からも文句を言われず、重文にでもなればさらにハクがつく上に、メンテ費
用には補助金まで出ます。
 怪人コンサル氏のチームは、もしかしたら岡田山キャンパスの買い手候補とし
て、特定のリゾート業社に目星をつけて内々に話を通してから、大家さんたちの
ところに出向いたのかも知れません。なんとも胸の高鳴る話です。高鳴りすぎて
吐き気までしてきましたが、気にせず次にいきましょう。
 万一そうなった場合、追い出された神戸女学院の末路はどのようなものなので
しょうか。この想定と同じような経過を実際にたどった学校が近隣にあります。
「夙川学院」です。もう20年以上前ですが、この法人が経営破綻しかけたとき、
「さる筋」から「スポンサーにならないか」と冗談めかしに言われたことがあり
ました。
 その後、その「さる筋」が法人を傘下に収め、中学高校はキリスト教教育を廃
止し、神戸ポートアイランドに移転し受験校化の道を邁進しています。こうした
大転換が在校生や教員、潜在的入学希望者にとって良かったのか、あるいはやむ
を得なかったのかは、ここでは論じませんが、問題は「どこが絵を描いて、資金
を出したのか」です。
 「さる筋」の関係者は、みなさん真面目で実績もある教育者なのですが、その
際、チラ聞きした金融機関は、もしかしたら大家さんの所に来た怪人コンサル氏
と同系統だったのかもしれません。考えてみれば、時期もほぼ同じでした。ちな
みに、その中学高校の跡地は高級マンションになっています。考えたくもない話
ですが、歴史の歯車が狂っていたら、神戸女学院が餌食になっていたのかも知れ
ません。



ヴェレーナシティ夙川パークナード、関西シティラボ、
https://kansai-sanpo.com/daiwa-shukugawa09/


守銭奴2.0

 最初の大家さんの記事では、「『そこに存在するもの』だけ」を「現実として
認識する」「リアリスト」というのが出てきましたが、彼らの中に、「霊的波動
も、声の響きも、学舎の優しさも、木々の緑の美しさも、数値的には示せない」
はずのものを、全て感知しながら、それらを本能的に金銭的価値に変換するタイ
プの変異種が新登場したのかも知れません。
 自戒を込めて言えば、不動産という本質的に公共性の高い商品を扱う場合に、
自然への畏怖やコモンの視点を忘れてしまうと、誰しもが似たような事をしでか
しかねないと思います。ただし、この怪人コンサル氏は、はじめから自然やコモ
ンの概念が極端に欠落しており、一種のサイコパスなのかもしれません。露骨過
ぎて騙されにくいのが救いとも言えます。
 彼らは、鋭敏に自然環境や建築物のかけがえなさに反応し、もしかしたら霊的
波動にも同期しているかも知れませんが、すべてそれらを金の臭いとして感受し
ているのでしょう。こういう手合いと共存していくことが出来るのか、あるいは
敬遠しきることが出来るのかは、立場や状況によって違うでしょうが、古典的金
の亡者タイプの「リアリスト」以上に警戒すべき連中であることは間違いないで
しょう