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文楽の想像力

相変わらず文楽・人形浄瑠璃が盛況である。
かつて、例えば昭和三十年代に、文楽がこのような隆盛を見せるとは一体誰が予想したであろう。
かつて文楽も他の芸能と同様、興行会社によって切り盛りされていたのだが、ついに商業ベースでは立ち行かなくなって、大雑把にいえば経営が国の手に委ねられることになった。
もちろん今だって決して商業的に成り立っているわけではないのだが、少なくとも文楽を見たい!というお客様が山のようにおられ、チケットがなかなか手に入らないというのは事実である。大変に景気がよろしい。
違いの分かるネスカフェのCMにお人形さんが登場する始末である。
そういえばかつてどこかの航空会社のCMにもお人形さんが出ていた。
実盛みたいな立派な武士のお人形、緊張しているのか険しい表情で機内のシートに座っている
→辺りを見回し、足をヨイショと延ばしてシートをリクライニング。「お?意外に快適かも」と表情ゆるむ
→ホッとリラックス、スチュワーデスと談笑する実盛
みたいな。
あれ可愛くて大好きだったんですがもう一度やってくれないかしら。

二月は色々なお客様がみえた。
H水社のK山さん。あいかわらず男前である。
ご挨拶にお席まで参上した、いわばこちらがホストであるのに、「お仕事はどうですか?」みたいな優しさあふれるトークにこちらが癒やされてしまった。
作家のM浦しをんさん。あいかわらずお雛様みたいな方である。「あやつられ文楽鑑賞」、皆さんも読んでくださいねー。
プランナーのS藤雅彦さん。
初めてご挨拶申し上げるのだが、その才能につねづね畏怖さえ感じている私は、恥ずかしながらバリバリに緊張してしまった。
風のように颯爽と登場してバリトン声で「本日はようこそ」とぶちかまそうと思っていたのだが、通路を行くおばさんに突きとばされた上に声がかすれてロレツがまわらず、アワアワの変なファンの人になってしまった。S藤さんは明らかにビクッとして少し腰を浮かしていた。怖がらせてすみませぬすみませぬ。
さらに連れ合いからバレンタインのチョコをことづかっていたので、S藤さんにお渡ししたら「くすくす」と笑われた。
さすがのS藤さんも三十路を越えた既婚の男からバレンタインチョコを手渡されたのは初めてであろう。
文楽、楽しんでいただけましたか。

「三十三間堂棟由来」(通称「柳」)はまるっきりヨーロッパの童話みたいで、想像力あふれるイメージ(という言い方は日本語として変か)が次々に登場する、ものすごーくよく出来たファンタジーだと思うのだが、あまりそういうことを言う人はいない。
鷹狩りの鷹が柳の木の枝にからまったので木を伐り倒してしまえということになる。
そこへ現れた弓の名人・平太郎。矢を射って見事に鷹を助け、柳も伐られずに助かった。
恩返しのために柳の精は女性の姿(その名も「お柳」)となって現れ、平太郎との間に子をもうける。この植物の精、特に柳の精ってのがいいでしょ。生々しくないのに色っぽくて。
ところが時の法皇の病気平癒を祈る三十三間堂建立のため、その柳の木が伐られることになる(ちなみに病気の原因は『柳の枝に刺さった髑髏』)。
ひそかに夫とわが子に別れを告げるお柳。
柳を切る斧の音が「てうてう」と響き、柳の葉がはらはらと舞い散る中、お柳は苦痛に身悶えしつつ嘆き悲しむ。
驚いた父子が柳のところに駆けつけると、すでに切られた柳が運び出されようとするところ。
ところがいくら押しても引いても、夫婦親子の別れを惜しんで柳はビクとも動かない。
そこで子が綱を引くと、不思議や柳はスルスルと動き出す。
「綱引き捨てゝ『わつ』と泣き、縋り嘆けば父親は、涙に声も枯れ柳」。
どうです。なんかヨーロッパっぽいでしょ。谷中安規調の絵本で読んでみたくなりませんか。
昔の作者の想像力ってすごいわ。

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2005年03月12日 10:33に投稿されたエントリーのページです。

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