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直島へ行く

11月5日(月)

 さあ、月曜日だよ。

11月4日(日)

 ついでに休む日曜日。

11月3日(土)文化の日。いや明治節?それとも。

 年一回の武道祭があるとかで、朝早くから、姫路は県立武道館へ。
 武道祭には出ないのだが、公開稽古に出かけるのだ。
この度、ご指導いただいたのは、合気道神戸三田道場の堀井悦二師範。
 稽古の途中、「実験」と称して、ほんの少しだけ受けをたらせていただいた。とてもうれしかったし、おもしろかった。

11月2日(金)

 それでも世間は動いている。

10月31日(水)-11月1日(木)

直島に行く。
なぜ急に、かような島に行くことになったのか。
いまとなっては、記憶にない。
 たしか以前、秋になったら、ちょっくらどこかに行って、芸術に触れ、うまいものでも食べてみたい、そんなふうに思ったことがある。でも、それは、ただぼんやりと思ったことに過ぎず、思った以上に何かの行動に移したわけではない。酔っ払ってつけたカレンダーの赤色の○印だけが、辿ることのできない記憶の実証として残されている。
 それでも、つまり、言い方を変えれば「ぼんやりと思ったこと」でも、強く念じたことは、空間を掻き分けてやってくるのか、急に旅の話が舞い込んできた。それも、芸術の秋と食欲の秋を同時に楽しめ、先達がいるというのだから、なんとも贅沢な話ではあるまいか。なんともありがたい話ではあるまいか。

 直島とは、瀬戸内海に浮かぶ島のひとつで、香川県高松市の北に位置する。手元の資料によると、住所は周辺の島々もあわせて、香川県直島町となるのだそうだ。さらに、それによると、直島本島の「面積は8.13平方キロメートル、人口は約3600名」らしい。岡山県の宇野港からフェリーで数十分。本島発着港である宮ノ浦港に着く。
まずは、島の東側に位置する本村(ほんむら)地区へ。
島は専ら一回100円の巡回バスでの移動(5駅行っても100円、1駅でも100円というありがたさ)。

「家プロジェクト」と銘打たれた場所を巡る。
ここは、かつて家屋だった建物を改築し、芸術作品を示す場所である。
そのため、民家のなかに突如現れた感が否めない「碁会所」で椿(作:須田悦弘)拝見となる。それらが木彫りの彫刻だと知らされなければ、きっと一生、何であるのかわからなかっただろう。なぜ畳の上に椿の花が散らばっているのか、気になったままかもしれない。庭を少々愛でて、次なる目的地、角屋へ。

「角屋」というからには、角にあるのかと思ったが、実際はそうではなく、普通の民家の通りの、それも真ん中にあった。
真っ暗にした部屋の中に、自然の淡い光が差し込む(作:宮島達男)。
水を貼った、もと土間と思しき場所に、デジタル数字がばらばらと、何の方向性もなく設置されている。水の中で光は、浮かんでは消え、消えては光り、カウントダウンを試みている。色は緑、赤、青、黄など。たしか、小学校六年生のとき、自分こういうのを想像した覚えがある。
 
続いては「南寺」。
 「寺」と名が付くのでそこには寺があるのだろうと、これまた想像し、思い、目的地に行くが寺はない。
先達に聴いてみると、そこは、使われなくなった、かつての寺があった場所ということだった。
 そして、のちに、ここが、とりわけ、この旅の記憶に深く刻まれる場所となる。


寺の跡地の一角に、安藤忠雄設計の建築物がある。
 そのなかに、ジェームス・タレルの光の世界があるらしい。
 芸術を観るのに-とくにそれが美術方面の場合-予備知識は要らないと名前くらいしか見なかった。ジェームス・タレルの作品は、その、どうにも表現し難い建築物のなかにあるということだった。建物のなかは、このうえない暗闇だった。目を閉じても、開けてもまったく光の度合いが変わらない場所、そのような暗闇のなかにいること自体、生まれて初めて経験だ。振りかざした自らの手さえ、よく見えないのである。だから、最初は何がどこにあるのかわからず、係員に先導されるまま、静かにベンチに腰掛ける。
ベンチに腰を落ち着け、しばらく-それがいったいどのくらいの時間か見当もつかないが。だって、時計の針もよく見えないわけだから-時間が経つと、前方に奇妙な光が放たれているのがわかった。
 正面に、まるで小さな映画館のスクリーンのような、長方形に切り取られた光が、ぽっかりと浮かんできたのである。
目が慣れてくると、だんだんとまわりの世界も見えてきた。
その光に導かれるようにゆるやかに立ち上がり、歩いてみる。建物のなかを、ゆるると歩き、吸い込まれそうな光に吸い込まれないようにしっかりと立ち、それでも覗き込む。
建物を出たあと、人間の、実に選択的な視覚を逆手に取り、別の角度からものを見てみることをタレルは示唆しているのだろうと述べる先達。しかし、わたしは、そこに単なる選択的視覚の仕業だけではない、どこか奇矯な深さを感じたことを書き加えておきたい。
端的に言えば、あの場所は、三途の川に至るとも取れる手前の道を表しているかのように見えたし、そのように感じられた。光の場所に行き着くまでの過程はさまざまであれ、誰もが前に引き寄せられてしまう、あるいは、拒否するのには違いなかった。
 その様子が、少なくとも人間が死を前にしたときの、ひとそれぞれの死の接し方を表現しているように思えてならなかったのである。予め用意された椅子に座って、目が慣れるまでじっとしているひと、目が慣れてもまだ座ったままのひと。なかには、真っ暗でおそらくなにも見えないままなのに、ずんずん歩き出してしまうひと。座りもせず、真っ暗闇を手探りだけで、どんどん前に進んで行くひと。何も見えないので、そのままぷいっととって返すひとなど。まさに、人生最期のときの対応の仕方を覗き見したような気分になった。もともと寺のあった場所であるとだけに、そういう生と死の境目を浮かび上がらせているように見えたのだ。それも東洋的な感触として。

その次は「石橋」に移動し、滝の絵を観る(作:千住博)。
ブラシで描かれたそれは、元は二階建ての牛舎のある家屋の二階部分を取っ払った場所にあった。二階までの高さをつかったキャンバスには、壁一面に轟々と音を立てて唸るような勢いで滝が流れている。滝は、時間や光の角度によって、さまざまな表情を見せるらしく、その場にいた間でさえも、随分と違った色合いを見せた。下から眺めてみると、ほんとうに水に飲み込まれそうになる。絵に音と痛さと温度を感じる。
これと同じくらいに惹きつけられたのは、この母屋そのものである。
このような建物に住みたいと急激に思った。
 いや、できれば、こんなふうな母屋に住んで、隣に道場を建てられたら、どんなにかいいだろうと、非常に強く思ってしまったのである。ご近所さんが運んでくる食材の、縁側のイメージまであった。

 ここでタイムアウト。
再び街並みを歩きながら、バスに少し乗り、「ゲル」とか「パオ」とか言われる宿に向かう。
 荷物を解き、夜の海岸を歩き、さっそく波音を聴く。
海岸沿いに点在する現代アートの触れながら、ベネッセミュージアムへと歩を進める。
 現代アートにもまた暗く、昼間のジェームス・タレルとは、違うなあということくらいしかわからない。それでもひととおり観る。
 夜風を感じながら、コンクリートばりの建物を眺め、波の音を聴きながらまた歩く。
 直島の海は、すこしだけ、心を静かにしてくれる。
 すでに身体が穏やかになっているのを感じる。

 翌朝は、降り始めた雨の音で目が覚めた。
 屋根があって、観光客用にそれなりに改築されているとはいえ、もとは民族の移動用の住居。よく見れば、屋根は、何ともいえないビニルで張り巡らされているだけなのだ。
 雨も止んで、涼しくなり、直島の南に位置する地中美術館へ。
 クロード・モネ、ウォルター・デ・マリア、ジェームス・タレルの三人のためだけに建てられた、実に優雅な美術館である。美術館の設計はもちろん安藤忠雄。
緩やかな時間があったので、モネの睡蓮などは、目を凝らして見てみる。構図をいろいろと感じ、蓮の位置を確かめたりした。でかい。
現代作家のものは、作品なので触ったりもできる。優雅に二回観て周る。
なかでも、タレルの「オープン・スカイ」は、横になって空を見上げた。二回とも横になっているうちに、眠ってしまう。ぐー。
 それくらいに安心してしまう場所なのだ。
 昨日のタレルの光の開放感が東洋的だとすれば、今日の縦方向の光は、西洋的な開放感を感じた。
 なぜ?
 そう思われる方もおられるでしょうし、場所の説明はし難く、感動は、ことばでは書ききれない。ですので、ぜひその目で、身体で確かめに行ってください。
 

フェリーに乗り、一路高松へ。
 琴電を乗り継ぎ、さて、うどんツアーの開始である。
 「わら家」で、生醤油うどんを食べる。ずるずるっ。以下無言。
 電車を乗り継ぎ、歩いて、さらに数十分後、「うどん棒本店」にて、冷天うどん。ずるずるずるっ。以下無言。
 こんなことは滅多とないのだが、店に入る前に目が合って一目惚れした、なめこうどんもついでに食す。せっかくだから、分けようねとかなんとか、うまいこと言いながら。
ずるずるっ。以下同文。ずるずるっ。
 う、うまい。
 食い尽くして、ひとりで店の前で記念撮影。
 ああー、うまかった、おしかった。
 目の保養と舌の保養。そしてなにより身体の保養と、実に五感によい旅であった。

10月30日(火)

 山あり谷ありの十月である。
 遠くへ移動したり、近くで友人に会ったり、新しい食べ物を食したりした。
 これまで知らなかった友人の新しい面々を知ることにもなった。もちろんそれはよい意味でのことだ。

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2007年11月 7日 13:38に投稿されたエントリーのページです。

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