4月4日(月)
「しまった。ジョンのひじの骨はジャンに貸したままだった」
あるとき、ジョンは思い出したようにそう言った。
貸していたのは、ジョンの右腕のひじの骨らしい。
あるとき、ジャンに「骨を貸して」と言われて何の気なく貸したジョンは、それ以来気にすることなく過ごしていたようだが、きょうになって、ふと思い出したようだった。
骨を貸したジャンは、そのままふらりとどこかへ行ってしまったそうである。
貸したジョンのほうは、思い出したから気になって、貸したのはいいが返してもらっていないことに気づくとたちまち、骨の必要性を感じた。
だから、ジョンはジャンを求めて、しばらくはまた出かけることにしたのだという。
というのもジャンは、ジョンとは違って、行き先も告げず、ある日突然気づいたらどこかにいっているようなヤツらしいからだ。
そして、場合によっては、そのどこかから連絡があるときもあれば、どこかに行っていたことをあとから教えられることもあるのらしいというようなヤツらしいからだ。
とにかくジャンは、ひとところに落ち着かない性格なんだと私はこれまでずっと、そう聞かされてきた。
4月3日(日)
晴れる。曇る。雷がなる。雨が降る。変な天気。
4月2日(土)
そこらじゅうで春の香りがする。
足取りは軽く、心は明るく、態度はでかく。
さくらは、もうすぐだ。
4月1日(金)
背後からいきなり「やあ」という声がした。
誰の声かと思って振り返ると、声の主は「僕だよ」とこたえた。
しかしその「僕」には何ら見覚えがない。
自らを「僕」と名乗るひとなんて、この世に山ほどいるのだ。
それでも記憶を呼び起こそうとした。
だが、うまくいかなかった。
何の記憶もないまま、しばらく(といっても実際は数秒のことだろうが)考えた。
どこかで、「僕」と名乗る声の主との記憶が眠ってないか、探し続けた。
しかしどうやって考えても、動いても、そう簡単には何も出てこなかった。
記憶の片隅に触れるようなヒントを得るような記憶は、まったく見つからなかったのである。
これでは反応のしようもない。
仕方なく面倒のない程度に、にっこり笑って応答した。
すると、声の主はこう続けた。
「あ、その顔は覚えてないね。そりゃそうだろうな。いつだったか、一度会ったきりだから。でもよかった。元気そうで」。
声の主の言うことには、やはり私たちは、それほどよく知る間柄ではないみたいだった。
それでも私が元気なのかそうでないかくらいは見分けられるくらいには、相手は私のことを知っているようだった。
そう思って改めてよく見ると、声の主はイヌのような顔をしていた。
3月31日(木)
年度末明日は早速年度初。
3月30日(水)
いつもながらM先生は、さわやかである。
お話をうかがっているだけで、たいそう落ち着いた気分になるのである。
にこやかに笑い、たくさんの話題を振りまき、そのどれもが美しくまとめられる。
見え隠れする品位というか、大人の色合いを感じ、
大人とはこういうものなのかと気づく瞬間が多々あるのだ。
と書けば、誰もがすごく神秘的な様子を浮かべられることだろう。
そう神秘的なのです。
それはまるで竜宮城にいるかのように。
ただならぬ浮遊感と安堵がわたしを襲う。
ご多忙中のなか、足を運んでくださる。
そのことだけでも深く感謝した。しかし、それでも感謝したりない。
この思いはいつの日か必ず、大人になって。
さ、早く大人にならなくては。