3月19日(土)
「泣く」というのは、人間にだけ許された動作なんだろう。
夕方の柔らかな日差しを浴びながら歩いた人気のないその大学は、まぶしく心に焼きついた。そんなふうに感じたことなんて、一度もないのに、懐かしい何かを思い出させた。
懐かしすぎたのか、思い出が美しすぎたのか、涙が溢れてきそうになった。
だから、無理矢理ぼんやりした。
ぼんやりして、いろんなことを忘れ、いろんなことを思い出した。
簡単なことばを使えば、春は出会いと別れの季節らしい。
涙をすんなり流すことができれば、ひとは、ひとしく美しくいられることがあるのかもしれない。そして、ひとしく穏やかになれるのかもしれない。
でも、その方法を持たない人間は、どうやって美しく穏やかにいるのだろう。
3月18日(金)
「探すのをやめたとき見つかることもよくある話で」、先日、ついにどこへ行ってしまったのか行方がわからなくなった自転車は、一昨日、違うかたちで手元に届いた。
別に鍵が壊されていたとか、タイヤがなくなって戻ってきたとかそういうのじゃない。別の自転車になってやってきたのである。
行方知れずになったあと、自転車はどこへ行ったのかなあ、欲しいなあ、どうしたらいいかなあ、と切実になっていると、ふと、やってきたのである。
世の中、そういう出会いもあるんだろう。
念じれば叶うのである。
「探すのをやめたとき見つかることもよくある話で」、どっかへやったことなんて、これまで一度もなかった大学のロッカーの鍵を失くした。
その日来ていた服、コート、ズボンのポケットから使っていた鞄、歩いた学内の道までも、くまなく探したが見つからなかった。
座った部屋の椅子も机の近くも、翌日になってからも、どこもかしこも探したけれど見つからなかった。
運良く予備の鍵があったので、それを借りてロッカーの中身を取り出すことはできたけれど、まるでいい心地がしなかった。
でも、なぜか慌てることがなかった。
「なんとかなるさ」と思ってしまったのである。
とりたてて理由なんかない。なんだかそんな気がしたのだ。
それでもとりあえず、家の掃除をしてみた。けれど、鍵は見つからなかった。
それがふとした拍子で出てきたのは、ロッカーの中身を取り出して、鍵のことをもう忘れていた頃である。
急に、ちゃりんと音がして、家の床の誰が見ても床だとわかる場所から出てきた。
いったいどうしたことだろう。
こんどは特に念じてはなかったが、失くしたことは心地がよくなかった。その意味では、見つかって欲しかった。でも、誰が見たって床だとわかる場所から出てきたのは奇妙だ。
ほんとうにいったいどうしたことだろう。
わかるのは、探すのをやめるとモノはいろいろ見つかるもんらしい。
でも、踊ってないよ。
井上陽水は踊ったんだろうか。
3月17日(木)
式の翌日は大雨と相場が決まっている。
はじまりはいつも雨。
3月16日(水)
卒業式。
ことしも懲りずに卒業式に出かける。
毎度飽きずに出かけてしまうとは、もしかしたらこれは、ひとつの習癖となっているのかもしれない。
この時期特有の憂いを覚えながら、「卒業式」という響きの中のどこかに身を置くのが好きなのかもしれない。
「入学式」には、これほどまでにきちんと出かけた記憶はないから。
しかし先輩を送り出したり、後輩を見送ったり、同期を見送ったり、自身が卒業したりなんかで、卒業式に出かけるのも何度目か。
何度目になるのだろうかと思うと、それだけでもちょっと感慨深い。
式後には茶話会。
茶話会は、天気が悪かったり、そうでなくても風が強かったりすると、会場となる中庭から体育館へと移動して催されるのだが、快晴に恵まれた今日は、にこやかに表に出て立食。
きょうは、わたしにとっても区切りの日なので、それだけでもちょっと感慨深い。
いつもと同じ道を歩いて山を登り、部屋に入るにしても、身体が震え、汗をかき、真っ直ぐには歩けなかったのだ。というのは大ウソな話しだが、少々寒かった。
ちゃんと真っ直ぐ歩いたけれど、あまり食べられなかった。
中庭のテーブルにあったものを、だ。
それは、ただ単に運が悪かったのだろう。
よく食べる集団と同じ場所を共有してしまっただけのことである。
茶話会では、合間を見つけて、にこやかに挨拶にまわり、写真撮影にかかる。
残念ながら、「八方美人」にはなり切れず、本日は「四方美人」手前くらい。
嗚呼いつの日か、にこやかに振舞える「八方美人」と呼ばれたし。
そう思わせられる大人になりたいと誓う。
3月15日(火)
極端に内向きなことばを綴るというのには、いくつかの理由がある。
1. 何かある。
2. 何もない。
3. 何かあるけれど、書いている時間がない。
4. 何もないけれど、書くこと見つけるために頭を捻っている時間がない。
5. 書きたいことがありすぎて、うまくまとまらない。
6. 書きたいことがなさすぎて、白くなるのがいや。
7. 単に疲れている。
8. 怒り狂っている。
9. その日の出来事をまったく覚えていない。
10. 書く気力がない。
11. 書きながら疲れて削除。
12. 書いたのに誤って削除。その後、意気消沈。
13. 放心状態。
14. 旅行中。
15. 急ぎの仕事がある。
16. 睡眠不足。
17. 体調不良。
18. 食べ過ぎで消化不良。
19. 極端な空腹。
20. パソコンの不調。
21. 反省中。
22. 暴力的。
23. 考えすぎ。
24. そのときの気分。
25. 1日は24時間しかないとき。
3月14日(月)
ガクトはガックン。ひざカックン。
学徒も学都で膝ガックン。
3月13日(日)
王様の耳はロバの耳
王様の耳はロバの耳
王様の耳はロバの耳
3月12日(土)
「アビエイター」と「鯛海老庵」
3月11日(金)
夜は送迎会でフレンチっぽい中華料理。
3月10日(木)
木曜の朝の光はいちだんと早く射しこみ、鋭いほどにまぶしい。
淹れられたコーヒーの香りは部屋中に漂い、かろやかに猫が舞い降りる。
アスファルトの上を響かせるヒールの音は、いつしか先を急ぐ風景のなかに溶け込む。
詰め寄る乗車口に並ぶ姿の横顔がつくるのは週末を待ち望む人の姿。
そこには僅かに険しい表情が紛れ込む。