8月30日(月)
「仮免のとき、脱輪だけは、したらいけないよ」
合宿免許に来る前、ワタシが親から言われたことばである。
「脱輪」というのが、いったいどのような事情や事態によって起きることなのか、
言われた当初、じつは本人は、いまひとつ意味がわかっていなかった。
「脱輪?ふーん」
と答えたものの、とにかくしないでおこう。
そう、心に決めて向かったものである。
なぜ、わざわざそんなことを言われたかといえば、
それは父が免許を取るとき、仮免で脱輪した苦い経験があるからだそうだ。
聞いた話では、父は仮免前日、飲み会か何かがあり、
夜遅くまで、しかも普段飲む以上に多くアルコールを摂ってしまい、
翌日、見事二日酔いがたたったらしい。
以後、我が家では、そして、そのことを知る親戚のあいだでは、
車の免許を取るという人物が現れると聞くが早いか、
必ずどこかで誰かが、「え?仮免受けるの?脱輪せんようにね」
と言うことになっていたようである。
さて、こうして、ひとりのなんでもない出来事が、
時と場所を越えて、限定的な特有の意味をもつ挨拶になり変わってしまった。
しかし実際、脱輪した人など、親戚のなかでは、未だかつて聞いたことがない。
誰も、そんな悪魔の囁きのような言葉に、耳を貸さなかったからだろう。
いやはや。