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おじさん歴の長いおじさんと語らう

8月29日(日)

おめでとう、ぺ・ヨンジュン!


8月28(土)

自動車学校の「ロビー」と呼ばれる休憩所には、
たくさんの机やら椅子が置いてある。

自販機が設置され、ときには合宿参加者が大声で騒いだり、
話したりしているのが聞こえてくる。

ここはまた、二つの建物を行き来する通り道を兼ねているので、
時間帯によっては、ひとの出入りがかなり激しくなる。

わりと大きめのテレビもあって、朝から晩までほぼ一日中、
NHKが流されっぱなしだ。

ここで見たことのない今期、
朝の連ドラの主題歌を歌うミーシャの声を、何度となく聞いた。

そんな場所にある机の一角でコースマップを見ながら
—おそらく難しい顔をしていただろう—座っていたら、
隣に座っていたおじさんが、ふいに話し掛けて来た。

「おじさん」といっても、もうとっくに60は済んだくらいで、
こちらの推測年齢からすれば、すでに「おじいちゃん」の域に入ることに、
何ら違和感を感じさせない頃合だ。

愛用車は、ずばり白の軽4トラックを思わせる。
稲穂がぴったりきそうな、いかにも田舎のおじちゃんである。


「試験、受けに来たんか?」

顔をあげた瞬間の、ふいに急な質問だったので、
「は、はい」と答えるのが精一杯だった。

「そおかあ…」と、なぜかしらおじさんは感慨深げに納得している。

そのままなのも悪い気がして、とっさに
「おじさんは、何をしに来られたんですか?」と尋ねてみた。

というのも、そのおじさんは、
見るからに教習を受けに来た感じではなかったからだ。

同じように椅子に座り、机に向かっている割りには、さっき、
ちらっと見たかぎりでは、携帯電話の説明書や、
なにかコンピューターに接続するための機器の説明書など、
とにかく昨今「取説」の名でとおるあの手のモノをじっと見つめている。

しかも格好は、チェックとおぼしき紺色系の単パンに、
どういうわけか、ふんだんに縦縞か何かの模様のある半袖のシャツを羽織り、
頭にはおじさん調の麦わら帽子、足元は鼻緒は黒の草履という姿。

独特の素朴さがある。

ともあれ教習には、
おそらく禁止されているはずの出で立ちなのである。

おじさんの答えは次のようなものだった。


「いや、女房のな、つきそいで来とるんよ。
高齢者のな、講習を受けて、その証明を警察に出して、
それから免許が更新されるんよ」

「そうなんですか、そういうのがあるんですね、この頃は」。

「この頃はなあ、年寄りの事故が多いからなあ、
こういうのも、せなあかんようになってきた」。

「なるほど。で、それは、長いことかかるんですか?」

また尋ねてみた。

なぜなら、外は、気のはやい夕立が降りだしていて、
おじさんは、空模様を気にしながら話していたからだ。

「いや、なんや一日で済むらしいわ。いちおう2時間の講習ゆうとるけどなあ…」

「待つのも、たいへんですね」

にっこりと笑いながらこう答えると、
どちらからともなく、目線は互いに元のところへ戻された。

数十分した頃、おじさんの側には「女房」と思われる女性(おばさん)が
近づいてきて、講習は、思ったより時間がかかりそうだと説明していた。

おじさんに、ずっとここで待ってもらったままなのも悪いし…
というようなことも、どこか加えながらのやり取りがなされていた。


そのあとも、結局おじさんは待っていた。

そしてまた、もくもくと、携帯電話の説明書を見ていた。
カメラのところを熱心に見ていた。

ときには空を眺めていた。

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2004年8月29日 22:13に投稿されたエントリーのページです。

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