スーさん、コンクールについて考える

10月29日(火)

今年の全日本吹奏楽コンクールが終わった。
今月の19日には、福岡サンパレスホールにて大学の部が行われ、われらが大学の吹奏楽部が11年ぶりに出場、銀賞を得たとの報告に接した。
現役諸君の健闘と、指導にあたられた方々のご労苦をあらためて労いたいと思う。

もちろん、コンクールであるのだから、最上級の賞を得るに若くはない。
しかし、そのことばかりが目的になってしまうと、勝つためには手段を選ばないという勝利至上主義に囚われてしまい、大切なことが抜け落ちていくような気もする。
そのことについて、少し考えてみたい。

例えば、指揮者のことである。
全日本吹奏楽連盟の規定によれば、指揮者は職業演奏家でも問題はないとのことだ。
ということは、極端な話、小澤征爾氏が指揮をしてもよいということである(しないだろうけど)。一昨年、ベルリン・フィルを指揮した佐渡裕氏が指揮をしてもよい(たぶんしないだろうけど)ということである(実際、佐渡氏は学生時代に京都の高校のブラスバンド部を指揮していたこともある)。
もし、小澤征爾や佐渡裕が大学の吹奏楽部を指揮してコンクールに出場した際、最上級の賞をつけない審査員がはたして何人いるだろう。

全国大会での最上の結果を至上命令としている大学については、さすがに小澤征爾や佐渡裕というわけにはいかないが、それなりに知名度のある職業演奏家なり音楽大学の先生なりを指揮者に迎えて、実際のコンクールもその指揮者に指揮してもらえば全国大会で最上級の賞を得るための近道になる、と考えるのは自然な成り行きであろう。
実際、自分たちの学生時代(1970年代)には、某オーケストラの管楽器奏者が指揮してコンクールに出場している大学は存在した。もちろん、毎年のように連続して最上級の賞である金賞を受賞していた。

でも、それってどうなのだろう。
自分たちが学生の頃は、学生のクラブ活動の世界に大人が介入してきているようで、あまり気持ちがいいものではないと思っていたのだが、その気持は今でも変わっていない。

学生のクラブは、学生が自主的に活動するべきものである。
それでは、演奏も含めて、よりレベルの高い音楽活動ができないという向きもあるだろう。
でも、学生の活動というのはそういうものなのではなかろうか。
要は、何を「学生にとって大切なもの」と考えるかということだ。

学生の自主的な活動で、コンクールに関してならば、
①まず出場するかどうかの話し合いから始めて、出場するのなら何を目標とするかということや、具体的にどのように取り組むかということを話し合う。
②課題曲と自由曲の具体的な選曲はそれからだ。
③曲が決まったら、どう解釈するかを話し合う。曲づくりに関しては、この過程が最も重要と思われる。
④曲の解釈についてのコンセプトが決まったら、コンクールの地区予選に合わせて、具体的な練習計画を練る。
⑤あとは、ひたすら猛練習を積み重ねる。それも時間にゆとりのある学生の特権だからである。
⑥ひとしきり曲が仕上がってきたら、そこでようやく大人の出番だ。「この人なら」という人物に交渉し、実際に自分たちの演奏を聴きに来てもらって、具体的なアドバイスを受ける。
⑦そのアドバイスを受けて、さらに話し合いと練習を積み重ね、曲を仕上げていく。
⑧そうしてコンクールに臨む。もちろん、コンクール当日に指揮をするのは学生である。

結果はどうであれ、こんな取り組みが学生を成長させるのではなかろうか。
あれこれ話しあったり、練習を進めていく過程で、互いにぶつかり合うこともあるだろうし、その取り組みから袂を分かつ者が出てくることもあるだろう。
でも、その過程で、互いのコミュニケーション能力やマネジメント能力を磨いたり、自らの音楽性を高めたりというようなことが修得されていくであろう。
トップダウンで、指導者である大人の言われるがままにハイハイと言うことを聞いているだけでは得られない多くことを、コンクールへの取り組みの中で学んでいくのである。
大人が関わるのであれば、「大切なことは、結果よりも過程である」という、「大人の目」で学生たちの成長を見守ってほしいのである。

吹奏楽コンクール大学の部に限って言うなら、「その大学に在籍する学生が指揮するものとする」という規定を新たに設けてはどうだろうか。
「それなりの大人が指揮すれば、もっといい演奏ができるのに」というような思いを持つ人も多かろうと思われるので、連盟が中心になって、学生指揮者向けに指揮法クリニックを実施するようにしてはどうだろう。大学3年生の時から、連盟が推薦する指導者たちの中から、この人に教えてもらおうという指導者を学生が選び、個人的にレッスンを受けさせるのである。個人負担を減らすために、学生連盟から供託金を拠出して補助するようにしてもよいであろう。
そうやって、学生が自信を持って指揮できるようにするのである。

そんなことを考えながら、久しぶりに吹奏楽のCDを聴いてみた。
「LegendaryⅡ(吹奏楽の伝説)」と題されて、1998年にブレーン社から発売されたシリーズCDの中の一枚、「関西学院大学応援団総部吹奏楽部」の演奏である。
学生指揮でも、これだけすばらしい演奏ができるという好個の例である(もちろん身贔屓である)。