スーさん、クロスセッションについて考える

3月10日(日)

先週の土日は娘が帰省していた。日曜日に、家内の勤務する浜松子ども館(遊びを通じた体験と交流機会を提供する施設)で 高校時代の友だちとちょっとしたコンサートを開くとのことであった。
そのため、その友だちと金曜日の夕方からわが家で「合宿」をして、プログラムを練り、披露する曲の練習をしていたのである。

ミニコンサートの聴衆は、主に幼児とその保護者。クラシックの曲ばかりを歌えば、堅苦しい感じになってしまうだろうし、かと言ってできれば本物の歌のよさも感じてほしいところだ。
実際、どんな感じのコンサートになるのか気になって、会場へと足を運んでみることにした。

浜松子ども館へ足を踏み入れるのは、実は初めてであった。さすがに、家内の勤務するところへ行くのは多少なりとも気が引けるものである。
この施設のコンセプトは、「子どもたちが子どもらしさを十分に発揮して、安心して思い切り遊ぶことができる愛情ある環境づくりを目指します。その中で多くの人とかかわりを持ち、社会性や創造性を高めていくことを期待します。なお、未来を担う大事な子どもを育てている親たちが、相互扶助のネットワークを広げ、併せて、子育ての専門的支援を受けながら、子育てを楽しむ環境を醸成します」とある。
浜松駅前のビルの2フロアには、様々な遊びの場が提供されていた。そうして、いろいろな場で子どもたちと保護者がいかにも楽しそうに遊んでいた。

娘たちのミニコンサートは、そんな遊び場の一つ、扉が閉められると防音になるフロアで行われた。
高校の音楽科で声楽を専攻した友だち(イジチさんと言います)が進行役となって、クラシック曲(「オンブラ・マイ・フ」)あり、この日のために制作されたコミカルなオリジナル曲(「チャップリン」)あり、保護者も子どもと一緒になってのアクションありという、歌を中心にけっこう盛り沢山のプログラムが組まれていた。
幼児が対象なので、そんなに長い時間やるわけにはいかない。それでも、ほぼ1時間近く、子どもたちを飽きさせもせず、最後はみんなで「となりのトトロ」と「おかあさん」を歌って、無事にミニコンサートは終了した。

それにしても、一つのジャンルにとらわれないコンサートというものは、なかなかおもしろいものだと実感させられた。
ベースはクラシック音楽であるにしても、そこにミュージカルのような要素が入っていたり、童謡が入っていたり、はたまたリトミックのようなものも取り入れられていたり。
こういうコンサートなら、いろんな人が参加できるし、楽しめる。既成の音楽ジャンルを超えた、コラボレーションの可能性や発展性を感じさせられた。

そんなことをぼんやりと考えていて、ふとFacebookでお気に入りにしているEMI & Virgin Classicsが紹介していた、youtubeの動画のことを思い出した。カール・ジェンキンスの「カンティレーナ」と題された映像である。http://www.youtube.com/watch?v=BU8AOIbS_04
演奏しているのは、コリー・バンドという金管楽器アンサンブルと、カントリオンという男声合唱団それにしても、そのアンサンブルの見事なこと!
コリー・バンドの金管楽器とは思えないほどの柔らかな音色に、カントリオンの男声合唱がいかにもマッチしているのである。

カール・ジェンキンスは、1944年イギリスの南ウェールズ生まれ。かつて、先進的ジャ ズ・ロック・アンサンブル、ソフト・マシーンの一員として活躍し、現在も作曲家、プロデューサーとして幅広く活動している。1990年代に、彼がプロデュースする「アディエマス」のデビューアルバム「ソング・オブ・サンクチュアリ」が世界的にヒットしたことで、広くその名を知られるようになった。
「アディエマス」とは、カール・ジェンキンスが、古くからのバンドメイトで盟友でもあるマイク・ラトリッジと共に結成した前衛クラシック音楽ユニットのことで、架空の言語「アディエマス語」でのコーラスをその特徴としている。

さっそく、その「カンティレーナ」が入っているCDアルバム「THIS LAND OF OURS」を買い求めてみた。
聞き知った曲がいくつか入っていた。ドボルザークの「新世界から」の有名な「遠き山に日は落ちて」や、「ダニーボーイ」、フンパーディンクの「ヘンゼルとグレーテル」から「夕べの祈り」などである。
ジェンキンスのオリジナル曲では、「レクイエム」からの「ピエ・イエス」、「The Armed Man」からの「ベネディクトゥス」などが秀逸だった。まるで、フォーレのレクイエムを聴いているような感じで、癒されることこの上ない。

何度かこのアルバムを聴いているうちに、このような一つの音楽ジャンルにとらわれない、いろんなコラボレーションが広まっていくことで、新たな音楽が生み出されていくのではないかということを想像した。
新たな音楽は、新たな聴衆を生み出す。新たな聴衆が生まれることで、より多様なコラボレーションが創り出される。
そんなコラボが広まっていくことで、より多くの音楽プレーヤーたちがそれに参加するようになっていく。

日本には、若くて優秀な音楽演奏者たちがたくさんいる。音大を卒業して、海外にも留学経験のある演奏者たちである。でも、実際に演奏者として生活していける人はごくわずかだ。日々の糧を得るために、ピアノ先生などをしながら口を糊する人たちの方が多かろう。
そんな演奏者たちが活躍できる場がもっとあっていい。

いろんな音楽ジャンルのクロスセッションが、そんな若くて優秀な音楽家たちに演奏機会を提供する場となればいい。そうして、そんなコンサートが広く社会一般にも受け入れられていくことで、スポンサードしてくれる団体や聴衆が出てくるようになれば言うことなしである。

西洋音楽が日本に輸入されてからそろそろ150年。新たな音楽が生まれ出る下地は十分に整えられている。