スーさん、「涼しくなる音楽」を選ぶ

8月9日(木)

立秋は過ぎたものの、相変わらず厳しい残暑の日々である。
そんな暑い日が続くこともあってか、大阪天神祭ではたいへんお世話になった「西成の叔父貴」ことホリノ社長から、「涼しくなる曲を取り上げてほしい」とのリクエストがあった。

「涼しくなる曲」ですか。

地球上でいちばん「涼しい場所」と言えば極地、それも北極より南極の方が寒いとのことだ。
ならば、南極の曲を聴けばきっと涼しくなるに違いない。
でも、南極の曲なんてあるのだろうか?
それが、ちゃんとあるのだ。ヴォーン・ウィリアムズの交響曲第7番「南極交響曲」である。

曲のもとになっているのは、ロバート・スコットの南極探検隊を描いたイギリス映画『南極のスコット』(1947年)のための音楽で、第7番はこの映画音楽を再構成して一つの交響曲として完成されたとのことである。初演は1953年。ジョン・バルビローリ指揮、ハレ管弦楽団によって行われた。

以下は、曲についての詳細である。
“楽章数は5つあり、第3楽章と第4楽章は連結されている。総譜では、おのおのの楽章の開始に先立ち、文学作品の引用句が掲げられている。このように、作品成立の由来からもわかるように、交響曲とはいうものの、形式の拘束とは無縁に作曲されており、内容的にも標題交響曲と連作交響詩との中間にあり、実質的には交響組曲のようになっている。極地における自然界の猛威と愛すべき動物たち、氷山・氷原・オーロラ・ブリザードの描写、危機を目前に進退窮まった人間の無力感と自己犠牲といったものが、ロマン派的な構成原理や印象主義的な音楽語法を駆使して描き出されている。”(@Wikipedia)

第1楽章:前奏曲。アンダンテ・マエストーゾ(引用句:シェリーの詩『鎖を解かれたプロメテウス』)
まるでどこかの惑星のような雰囲気を感じさせる、夜明け前の南極。やがて夜が明けると、荒涼たるその大地が姿を現す。実際に風の音を起こすウィンドマシーンに乗せて、初めて南極後に踏み入れた人々の不安を象徴するかのような女性のヴォカリーズ。しかし、すぐにそんな不安もかき消され、南極点を目指す意気込みを表すような明るく希望に満ち溢れたコーダで曲が閉じられる。

第2楽章:スケルツォ。モデラート~ポコ・アニマンド(引用句:詩篇第104篇)
描かれているのは、ペンギンをはじめとする南極の動物たちであろうか。まだここでは雰囲気は明るい。

第3楽章:風景。レント(引用句:コールリジ『シャモニー渓谷の日の出前の讃歌』)
どこまでも続く昼の氷原。夜ともなれば、空には幻想的なオーロラ。やがて迎える夜明け。極点に到達したスコット隊を描くかのように、オルガンが荘厳な音色を響かせる。

第4楽章:間奏曲。アンダンテ・ソステヌート(ジョン・ダン『夜明けに』)
ハープの伴奏に乗せて、平穏な夜明けのメロディーを吹くオーボエ。しかし、後半ではまるで行く手を何かに阻まれるかのように遅々とした足音も聞こえる。

第5楽章:終幕。アラ・マルチア、モデラート(スコット大佐の最後の日記より)
悲劇を予感させるようなおどろおどろしい始まり。一歩一歩踏みしめるかのような足音をあざ笑うかのように、ウィンドマシーンが風の音を鳴らし、女声合唱がとヴォカリーズがスコット隊を弔うかのような歌声を聞かせる。最後に残る風の音…。

ご存じの方も多かろうと思われるが、世界で初めて南極点に到達したのはノルウェーのアムンセン隊であった。スコット隊よりも先んずること1ヶ月。南極点に達したスコット隊が見たのは、ノルウェーの国旗だったのである。
失意のスコット隊をブリザードが襲う。
“吹雪は10日間も吹き荒れテントに閉じ込められたが、スコット隊の持っていた食料はたったの2日分だけだった。スコットは日記に1912年3月29日付で「我々の体は衰弱しつつあり、最期は遠くないだろう。残念だがこれ以上は書けそうにない。どうか我々の家族の面倒を見てやって下さい」と書き残し、寝袋に入ったまま3人ともテント内で息を引き取った。”(@Wikipedia)

家にあるCDは、サー・アンドリュー・デイヴィスがBBC交響楽団を指揮したヴォーン・ウィリアムズの交響曲全集(現在は廃盤)。
この第7番に関しても、悲劇性を過度に強調したりすることなく、かと言って単なる情景描写に終始するということもない、たいへん端正な演奏である。こういう演奏を聴くと、イギリスの作曲家の演奏はやっぱりイギリスの指揮者・交響楽団がいいのだと思わせられる。
HMVで検索してみたら、全集は他にスラトキン・フィルハーモニア管、ボールト・ロンドンフィル盤などがヒットした。特に、マーラーで意欲的な演奏を聴かせたスラトキン盤は、ぜひ聴いてみたい気がする。

ホリノの叔父貴、この交響曲と、映画「南極のスコット」のDVDを併せて視聴すれば、たぶん涼しくなると思われます。お試しあれ。