スーさん、ヒラノさんに教わったこと

7月3日(火)

大学時代のクラブの1級上の先輩であるヒラノさんが、先日Facebookにニールセンの交響曲について書かれていた。
6曲の交響曲それぞれの特徴に続いて、ブロムシュテット、サンフランシスコ響の演奏について、
「ブロムシュテッドのサンフランシスコ響は、Tubaのゴリゴリ感やパリパリのTimp、フロントベルのようなHornの雄叫びなど、性能の良いマシンを想像させますが、でも本当はもう少し奥深いオケの演奏で聞いてみたいな。」と感想を述べられている。
そうですか、ニールセンですか。さすがはヒラノさん、今もってクラシック音楽を幅広く聴いておられると感心しきりであった。

カール・ニールセンについては、あまりご存知でない方もおられよう。
シベリウスと同年の生まれで、デンマークの作曲家である。6曲の交響曲が最も有名であるが、その他にも協奏曲やオペラなども残している。
かく言う自分もニールセンの交響曲全集のCD(ダグラス・ボストック指揮、ロイヤル・リヴァプール・フィルハーモニー管弦楽団)は持ってはいるが、ヒラノさんようにじっくりと聴いたわけではなかった。
というわけで、今回はニールセンについて何か書くというわけにはいかない。

ヒラノさんには、いろいろなことを教えていただいた。音楽のことだけでなく、それこそ「いかに生くべきか」というようなことについても貴重なご意見をいただいたりした。ほんとうにいろんな面でお世話になった先輩なのである。
今回は、そんなヒラノさんから紹介していただいたレコードで、特に忘れ難いレコードのことである。

そのレコードは、ウォルフガング・サヴァリッシュがドレスデン国立歌劇場管弦楽団を指揮した、シューマンの交響曲全集である。(CDは、http://www.hmv.co.jp/product/detail/3872768)
どうしてヒラノさんがこのレコードを紹介されたのかはよくわからない。どこで聴かせてくれたのかもよく覚えていない。ただ、「これ、エエでえ」とだけ言って紹介してくれたのではないかと記憶している。
ほんとうに、これはすばらしいレコードだった!

未聴の方は、まず3番の「ライン」から聴いていただきたい。
まずは、この交響曲の白眉とも言うべき第1楽章。「生き生きと」と指示されたとおりの第1主題にまず魅せられる。何となくわくわくしてしまうのである。さらに、再現部の前のホルンによる主題の斉奏!
この交響曲では、それぞれの楽章でホルンの果たす役割がたいへんに大きい。
第2楽章はスケルツォであるが、中間部のホルンの二重奏がなんとも美しい。静かな第3楽章を経て、第4楽章はホルンにトロンボーンを加えた金管楽器のコラールが厳かに響く。一変して、第5楽章はうきうきするような楽しい行進曲である。

シューマンの交響曲については、その管弦楽法について言及されることが多い。曰く、
“管弦楽法の構成では、ホルン群を除けば各楽器を独奏で扱うことが少なく、弦楽器と管楽器を重ねて同時に全合奏で演奏させることが多い。大改訂後に出版された交響曲4番で改訂前に比べてオーケストレーションは全般的に分厚くなっているなど、シューマンは意図してそのようなオーケストレーションを行っているが、くすんだ響きになって機能的でないとして(人によっては「ピアノ的」「楽器の重ねすぎ」と称する)、後世に非難の対象となっており、手を加えられることが多い。
特に指揮者としてシューマンの曲を自身で演奏する機会も少なくなかったグスタフ・マーラーが、楽器編成はそのままに指揮者としての観点からオーケストレーションに手を加えた編曲はよく知られており、今でも一部を採用する指揮者が少なくなく、またマーラー版として全面的に採用した録音もある。”(@Wikipedia)

かのマーラーも、オーケストレーションには手を入れていたのだ。
でも、このサヴァリッシュ盤では、くすんだ響きがすると言われればそんな感じもしないではないが、逆にそれがいかにも上品な響きに聴こえてくるのだ。
それは、たぶんドレスデン国立歌劇場管弦楽団の演奏レベルの高さによるものであろう。
ドレスデン国立歌劇場管弦楽団と言えば、世界でも最古の歴史と伝統のあるオーケストラと言われ、ウェーバーやワーグナーなど錚々たるメンバーが音楽監督に名を連ねている名門中の名門オーケストラである。
つまりは、オーケストラのレベルが高ければ、多少のオーケストレーションの不具合など、瑕疵とするに足らずということなのである。

ちなみに、マーラーによるオーケストレーション改訂版の演奏も聴いてみた。リッカルド・シャイーがライプツィヒ・ゲヴァントハウス管弦楽団を指揮して録音した全集盤(CD)である。
3番は、確かに具体的なオーケストレーションの変更が聴ける。最も顕著なのは、第1楽章再現部前のホルンによる第1主題の斉奏のところである。ここでは、朗々としたホルンの響きがいかにも格好いいのであるが、マーラー版では何とゲシュトップ奏法(右手でベルを密閉状態にして、吹き込む息の圧力を増し、約半音高い鋭い金属的な音を出す奏法)が指示されている。
でも、これではちょっと拍子抜けしてしまう感じがする。かのマーラーを持ってしても、オーケストレーションの改変は一筋縄ではいかなかったようなのである。
やっぱり、多少はオーケストレーションに問題があろうがなかろうが、サヴァリッシュ盤がいいのである。
そんなサヴァリッシュ盤を選んだヒラノさんの慧眼ぶりに、あらためて敬意を表したい。

近年では、「シューマンのオーケストレーションの特徴をこの作曲家の味や魅力と解釈する見方も増えてきている」(@HMV )とのことだ。
泉下のシューマンも、さぞや溜飲を下げておられることであろう。