スーさんの音楽つき西伊豆ツァー

5月23日(水)

先週の土日は西伊豆へ。
土曜日は下田で黒船祭を見学し、そのまま西伊豆へと移動して松崎の南にある岩地に投宿、日曜日はその岩地にて開催される大漁祭りを見学しようとの目論見であった。
せっかく伊豆まで行くのなら、まだ通ったことのない新東名も通行してみようということになった。

伊豆も下田や松崎までとなると、浜松からは4時間以上のドライブとなる。となると、行き帰りのドライブミュージックをしっかり選定しておくことが必要になる。
新東名、美しい新緑の山、トンネル、伊豆の海と山、夕日…。
選んだのはブルックナーである。
とりあえず、家にあるヨッフム指揮、ドレスデン国立管弦楽団の全集を持ち込み、まずは1~6番までをプリウスのCDチェンジャーに入れて出発した。

新東名は道幅が広い。片側三車線の区間も多い。そんな走りやすい道路に、ブルックナーの特にスケルツォの楽章はよくマッチする。
4分の3拍子で始まる主部と、A−B−Aという三部形式で書かれているブルックナーのスケルツォ。中でも頻繁に使用される「タタタンタン」という8分音符二つと4分音符二つのリズムの繰り返しが、スケルツォ全体にリズミカルな力強い印象を与える。つい、聴いていてゴキゲンになってしまうのである。

スケルツォを交響曲に導入したのは、かのベートーヴェンだそうだ。彼は、交響曲の一つの楽章に、優雅なメヌエットではなく、「スケルツォ」(元々の意味は「諧謔曲」と言うのだそうだ)という、感情表出の場とでも言うべき楽章を充当したのである。
確かに、ベートーヴェンの交響曲におけるスケルツォは、どれも一度聴いたら忘れられない印象的なものばかりである。でも、それに負けず劣らずブルックナーのスケルツォはすばらしい。
当然、そんな気分はアクセルにも反映される。1番、2番を聴き終わったところで、ちょうど長泉沼津インターから新東名を降りた。ずいぶん早い感じがした。

新東名からは伊豆縦貫道へ。CDチェンジャーは3番に入っていた。
伊豆縦貫道は、まだ伊豆まで「縦貫」していない。三島塚本からは国1を走る。三島市内はいつも渋滞だ。その渋滞を抜け、国道136号線(下田街道)へ折れて伊豆中央道へ。さらに、修善寺道路を経て下田北道路へ。
有料道路を降りると湯ヶ島である。今は、湯ヶ島もずいぶんと寂れてしまったとのことだ。その湯ヶ島を抜けて、天城越えの手前の道の駅にて暫し休憩。
新緑の伊豆の山々が美しい。

休憩後は4番である。
そもそも、ブルックナーの交響曲を知ったのは、この4番「ロマンティック」からだった。
カール・ベーム指揮、ウィーン・フィルのレコードである。ジャケットは、ベームが人差し指を唇に当てて「静かに!」というサインを出している写真。1974年のレコードアカデミー賞の大賞を受賞したレコードだから、ご存じの方も多かろう。
ブルックナーがいっぺんに好きになったのは、このレコードからである。
美しいホルンの5度跳躍音形のソロで始まる第1楽章、憂愁を帯びた第2楽章、そうしてホルンと弦楽器との掛け合いが楽しいスケルツォの第3楽章、第1楽章の第1主題が高らかに謳い上げられる第4楽章と、どの楽章をとっても間然とするところがない。
このレコードは、それこそ盤面が擦り切れるほど聴いた。でも、聴く度に新しい感動がある。
それほどに、この4番の曲としての完成度は高いということなのであろうし、それを実感させてくれたベーム、ウィーン・フィルの演奏も、まさに名演と言うに相応しいということなのであろう。
ヨッフムの4番を聴きながら、4番だけはこのベーム盤を入れてくればよかったと後悔した。

プリウスは天城越えにかかっていた。
伊豆の山の間を縫って、車内に「ロマンティック」が流れる。車窓の美しい新緑の山々の風景に、まるで映画音楽のようにその音楽はマッチする。
天城からループ橋を降りて河津へ。『伊豆の踊子』の辿った道である。
河津に下りると、下田街道は海沿いの道となる。遠く水平線が望める南伊豆の海岸線がまた美しい。そんな風景を愛でながら、下田に到着した。ちょうど4番が終わったところだった。

その下田では黒船祭を、日曜日は西伊豆岩地の大漁祭りで新鮮な鰹料理を堪能して、帰途に就いた。
いつ来ても、西伊豆はほんとうにいいところだ。新鮮な海と山の幸、地元の人の厚い人情、そして美しい景色。訪れた季節それぞれに、新しい発見がある。
そんな伊豆路にはブルックナーがよく似合う。