スーさん、竜宮城へゆく

6月13日(月)

週末の土曜日は、静岡県中学生ソフトテニス選手権大会のはずだった。
が、夜来の風雨で大雨警報も出されていたこともあって、早朝に中止の決定が流れた。

いつもこの選手権の時には、試合終了後にお隣りの沼津まで足を延ばして、K学園高を訪れることにしている。女子ソフトテニス部監督であるスガイ先生から、本校選手諸君がご指導を受けるためである。
今回もその予定だった。いつもは高校の敷地内にある宿泊施設にお世話になるのだが、今回は耐震工事の関係でその施設が使用できなかったため、高校近くのビジネスホテルに宿泊を予約していた。

先週の中頃から天気予報は土日両日の雨を報じていた。困ったなあと思っていた。試合が延期になるのは仕方がないにしても、沼津にだけはどうしても行きたいと思っていた。今回を逃すと、夏の大会前にスガイ先生から指導してもらう機会を失してしまうからだ。
案の定、試合は中止になった。問題は天気だ。天気予報を見るためにテレビをつけていたのだが、ちょうど沼津市内の様子を放送していた。ひどい風雨で沼津市内では街路樹が倒されたとのことだった。
これではとても行けないなあと思っていたのだが、予報を確認すると、どうやら午後には雨が上がり、日曜日は曇りの予報に変わってきていた。行くしかないと思った。

お昼前になると予報通りに雨がやんできた。すぐに沼津へ移動する旨、そしてたぶん学校のコートは使えないだろうから、この日試合予定だった愛鷹のコートがキャンセルされて借りられるようなら連絡を入れてもらうようスガイ先生に依頼して、こちらの保護者には連絡を入れた。程なくスガイ先生から連絡が入った。とりあえずコートを2面借りられたとのことだった。

浜松を出発したのはお昼過ぎ。沼津までは2時間ちょっとのドライブだ。途中、吉田〜焼津間が事故渋滞で混んでいたが、それ以外はスムーズに流れて午後2時過ぎには愛鷹コートに到着した。
既にスガイ先生と部員たちが練習を始めていた。あいさつをしてすぐに練習に入らせていただいた。
夕方までみっちり練習をこなして、宿舎であるホテルへ。

この日は、男子顧問であるハラ先生のご協力もあって、スガイ&ハラ先生御用達の海岸沿いのお店で小宴が予定されていた。
そのハラ先生のワゴン車にて件のお店「丸味屋」さんへ。このお店は、基本的に中華料理店である。しかし、ハラ先生が車の中から持参したものは、何と刺身の盛り合わせだった。さらに、ウニが詰まった箱、さらに大きな岩牡蠣、そうしてテナガエビの焼き物だった。
このお店からさほど遠くないところに、ハラ先生が懇意にされている干物屋さんがある。「アキシン商店」という。ここの干物は絶品である。そのアキシン商店の親父さんが、地元の鯵は言うに及ばず、金目鯛、イサキ、テナガエビらを提供してくださったとのことだった。スガイ&ハラ先生たちも、さすがに刺身に下ろしたりすることはできなかったので、学校近くの行きつけのお寿司屋さんで刺身にしてもらって持参してくださったのである。

刺身の盛り合わせを覆っていたラップが外されると、思わず、おお!と歓声が挙がった。
これぞ、駿河湾の旬の魚たちだった。
「では、いただきます」と、まずは鯵から。今の鯵は脂が乗っていておいしいとのことだった。いや、脂が乗っていようがいまいが基本的に駿河湾の鯵はおいしいのである。
続いて金目鯛。普通、金目といえば煮付けである。しかし、この盛り合わせには湯締めした金目鯛が盛られていた。さらにそれとは別に金目鯛の刺身。湯締めも刺身も、口の中に得も言われぬ甘さが広がる。ああ。
さらにテナガエビ。あまりコリコリ感はなく柔らかくちょっとだけ甘味がある。伊勢エビとはまた違った食感である。うう。
そうしてイサキ。イサキとはどんな魚なるや?
Wikipediaにはこうある。「釣りや定置網、刺し網などで漁獲される。旬は初夏で、この頃のイサキを麦わらイサキ、梅雨イサキとも呼ぶ。(…)身は白身で、マダイよりは柔らかくて脂肪が多い。刺身・焼き魚・煮魚・唐揚げなどいろいろな料理で食べられる。」
これが鯵に負けず劣らずうまい。旬の魚とはそういうものなのだ。
刺身にはもちろん日本酒である。これだけおいしい刺身が揃っていると、つい杯が進んでしまう。もちろん冷酒である。
ウニと岩牡蠣については、もう語るまでもないだろう。その美味しさについてはご想像にお任せしたい。

ひとしきり旬のお刺身を堪能したところで餃子が出てきた。ここは中華料理店なのだ。そうしてスガイ先生おススメのマーボー豆腐。こうなると、冷酒ではなくてビールがいい。
最後の締めはハラ先生おススメの海老そば。細麺にエビのあんかけが乗せられている。もう食べられないと言いつつも、つい箸が伸びてしまうのは何故であろう。
「いやあ、沼津っていいっすね!」とは、今回保護者の一人として車を提供してくださった「忍者」ハットリくん。もう一人の保護者、モリ先生も十分満足した様子だった。

明けて日曜日は曇りの天気。途中から薄日も差してきた。絶好の練習日よりだ。
午前中はポジション別にみっちりと基本練習を、午後は試合をさせてもらった。目に見えて選手たちの上達していく様子が見て取れた。来てほんとうによかった。

誤解のないように申し添えておきたいが、決して沼津の海の幸を堪能するために沼津まで行ったのではない。第一の目的は、選手たちのレベルアップのため。第二の目的は、スガイ&ハラ先生たちと懇親を深めるため。第三の目的があるとするなら、でき得れば鯵の干物くらいは買って帰りたいというところだ。
それが、今回は思わぬ初夏の駿河湾の旬の魚たちのお出迎えだった。
まるで、竜宮城に来ているようだった。
さすれば、さしずめスガイ&ハラ先生は、乙姫の化身ということなのだろうか。
そうだったのか。ありがたやありがたや。