スーさん、モレスキンを語る

9月27日(月)

モレスキンを使い始めている。
きっかけは、夏休みに読んだ『ツイッターノミクス』(タラ・ハント著、文藝春秋刊)だった。
「著名な作家や芸術家や科学者が愛用していたという小型の手帳。きっと彼らはそこに小説の構想や、気ままなスケッチや、天才的な閃きをメモしていたにちがいない。この手帳を持つだけで天才たちと時空を超えてつながり、創造性が刺激される。手帳を持つことを誇らしくさせる正統的な手帳、それがMoleskineだ。」(156頁)
こんなふうに書かれてしまうと、「ん?そんなにすんごい手帳なの?一度見てみたい!」とか思ってしまったのだ。

さっそくググッてみると、たーくさん種類のあることと同時に、とても高価な手帳だということが判明した。「密林」で確認してみたが、あまりディスカウントはされない手帳らしかった(でも最近はディスカウントされているみたいです)。しかも、「密林」からの直接販売ではなく文具店の販売だったため、別途送料もかかるらしかった。これではとてもネットでは買えない。
ちょうどその頃、神戸に行った。これ幸いとばかりに、三宮のジュンク堂内文具売り場でモレスキンを探してみた。あったあった、ネットで見たのと同様にたくさんの種類が並べられていた。
それぞれの違いがよくわからなかったことと、実際に使うのかどうかも定かではなかったこと、そして何より高価だったことで、その場でモレスキンを購入することはなかった。でも、気になる手帳であることだけは確かだった。

夏休みが終わって2学期が始まった。
そんなある日、「密林」から新刊お知らせメールが入った。『モレスキン「伝説のノート」活用術』(ダイヤモンド社刊)が発売されるというのだ。どんな種類のノートがあるのか、具体的にどうやって使っているのかとか、俄然知りたくなった。すかさずポチしてみた。
程なく本が届いた。一気読みした。モレスキンが欲しくなった。
本を読みながら、もしも自分が使うとしたら「インフォブック」かなあと考えていた。旅行に行ったときのあれやこれやを記録しておくのに使えそうだと思ったからだ。
浜松で直接購入できそうなお店を探した。どうやら、自宅近くの文房具店で手に入りそうな感じがした。すぐに電話を入れてみた。「あのお、モレスキンのインフォブック買いたいんですが。お店にあります?」と尋ねると、インフォブックは置いてないが、問屋からはすぐに手に入るので、翌日の午後にはご用意できますとの返事だった。すかさず注文した。

その日、職場でモレスキンの話をしていると、「え?確か〇〇書店で売ってたと思うけど」と教えてくれた先生がいた。
こうなると居ても立ってもいられない。とりあえず、実物を見てみようと思い、帰りにその書店に立ち寄ってみた。どこにあるのかとさんざん探した挙句、何とレジのすぐ横にけっこう何種類か置いてあるのに気がついた。手に取ってじっくりと見てみた。インフォブックもあった。心の中の声は、「買うしかない」と告げていた。最もオーソドックスなルールド(横罫)のポケットブックを購入した。

さっそく家に帰り、今春東京に行った際、上野のアメ横にて購入してきたペリカーノ・ジュニアで、表紙を開いたところの「In case of loss, please return to :」を書いてみた。
ああ、ペリカーノはこういう紙に書くための筆記具だったんだ、と深く実感した。ペン先の滑らかさといい、インクの発色といい、いかにもいい感じなのだ。紙質とのマッチングが絶妙なのである。ヨーロッパ文化の奥深さを感じた。
で、何を書いたか。
日記を書いたのだ。大学時代以来、日記など凡そ付けようなどとはつゆ思ったことさえなかったというのに。
その翌日、指定されたお店にインフォブックを取りに行った。こちらは、購入前から決めていたとおり、「旅行用」として使用することにした。これでモレスキンは2冊になった。なんだかうれしくなった。

件の『…活用術』には、「モレスキンと相性のいい文房具」も紹介されていた。それを見ていると、ついそれらの文房具も使ってみようかしらという気にさせられた。で、文具店であれこれと物色してみた。
例えば、スタンプ。今までは文具店に行ってもそんなコーナーには見向きもしなかったのだが、何と多くのスタンプが売られていることか!スタンプ台もいろんな色のものがあった。とりあえず、天気のスタンプと三色のスタンプ台を購入した。
さらには、マスキングテープ。これは、もともとは何かに塗装する際に塗料がはみ出さないよう隠すために使用されていたものだ。ところが、どうやら簡単にはがせる性質を利用して、最近はこれを手帳のインデックスにしたり、マーカーの代わりに使用したりするようになってきたらしいのだ。種類も驚くほどたくさんある。これも薄緑無地と、紺レジメンタルの2種類を購入。
あとは、モレスキンにペンを装着するためのペンホルダー。ホルダー部分が伸縮するため、ペリカーノ・ジュニアのような太めの万年筆でもきっちりホールドしてくれる。
これらを使ってモレスキンに日記を書く。
ああ、これがどれほどの快感であることか!
かように、モレスキンの実物を手に入れたその日から、かなり敬虔な「モレスキン信者」となってしまったのだった。

ここ10年ほど使用してきた手帳は、著名な経済学者が考案したという、A4横四つ折の細長い手帳であった。8週間が一覧できるジャバラ式のスケジュールシートを、手帳に差し込んで使用するものである。
これはこれで、自分にとっては使い勝手のよい手帳であった。もともと、あまり細かいスケジュールをいちいち手帳に書き込む人間ではない。イベントなど、主なものだけを書いて俯瞰できるようにしておけばそれで済んでいたのだ。A4用紙をたたんで挟んでおけるというのも便利だった。だから、ネットで専用の革のカバーなども購入したりして、かなり愛用はしていたのだった。
例年、新しいリフィルが発売される11月頃になると書店で買い求めていたのだが、1年分のジャバラ式スケジュール4本で1、300円くらいはしたと思う。決して安価ではないとは思っていた。

そこへモレスキンだ。
スケジュール帳もモレスキンを使用してみようかと思い付いた。あれこれ検討した結果、「18ヶ月ダイアリー」がよかろうという結論に達した。
たぶん、実物がすぐ手に入るところは、「ルールド」を購入した書店であろうと思った。仕事の帰りに寄ってみた。はたして、何冊かの「18ヶ月ダイアリー」があった。ハードカバーより多少は安価なソフトカバーを購入することにした。
こうなると、ダイアリー専用の筆記具も欲しくなる。ああ、何という物欲の権化であろうか。でもそうなってしまうほどにモレスキンは魅力的なのである。
これも『…活用術』に紹介されていた、LAMYのSafari。ダイアリーにはこれしかないと思った。幸い、これはディスカウント文具店にも置いてあった。迷わず購入。

かくして、計3冊のモレスキンとの生活が始まったのであった。
ゴムバンドを外して記入し、記入し終わってゴムバンドを「ぴちん」とかける。ああ、何という幸せ!