スーさん、勝利至上主義を問う

8月9日(月)

日曜日は、東海大会(ソフトテニス競技)の個人戦(男子)観戦のため三重県は四日市市へ。
大会前に、なぜか本校にて練習を行ったH中・N中・T中ペアの応援も兼ねてのことである。
すでに、お盆休みに入っていることもあり、高速道はかなり混むことが予想されたので、とても一人で行こうとは思っていなかったが、幸いシンムラくんが同行してくれるということになって、それぞれのペアの保護者からも「ぜひ来てください」と強く要請されていたこともあって、「んじゃ行くか」ということでオノちゃんとともに車上の人となったのである。

会場は海縁にある四日市ドーム。インドアでテニスコートが12面取れる大きな会場である。
到着すると、いちばん手前のコートでT中ペアが試合をしていた。相手は岐阜県の強豪校。いきなりタイブレークの接戦となったが、何とか勝ってまずは初戦をクリアした。
東海大会の個人戦は、東海4県からそれぞれ8ペア、計32ペアが4組8ブロックに分かれてのリーグ戦と、各リーグ1位ペアによる決勝トーナメントにて行われる。東海ブロックから全国大会へ抜けられるのはそのうちの7ペア。決勝トーナメント進出ペアのうち、1ペアだけが全国切符をもらえないのである。どうして8ペアではいけないのかと理解に苦しむところだ。それはさておき…。

H中、N中のペアは、残念ながら初戦は負けてしまった。でもリーグ戦だから、結果はどうなるかわからない。両ペアには、「次の試合もがんばるんだぞ」と声を掛ける。
さて、T中ペア。なぜか、このペアだけがあれこれとアドバイスを求めてきた。県選抜チームで教えたということもあろうが、まだ2年生でいろいろと対戦相手のことや具体的な戦術についての情報を得たいということもあるのだろう。とりあえず、気がついたことだけは簡潔に話しておいた。
それが奏効したのかはわからないが、T中ペアは続く第2試合も快勝、いよいよ決勝トーナメント進出をかけて、三重県準優勝ペアとの対戦である。

さて、H中ペア、第2試合はタイブレークに持ち込んだものの勝てず。N中ペアが第2試合快勝したところまで見届けてお昼へ。
会場近くの喫茶店でランチを注文したのだが、店内は混み合っていて時間がかかった。ようやく食べ終わって会場へ戻ると、既にT中ペアの試合は終わっていた。何と三重県のペアにはストレート勝ちしていた。これで予選リーグ突破が決まった。
結局、静岡県のペアは、このT中ペアのほかは静岡県大会で優勝したF中ペアだけが予選リーグを突破した。両ペアとも、まだ2年生である。

決勝トーナメントが始まった。
このトーナメントで1勝を挙げるのがいかに困難かということは、過去2度、監督として7位決定戦に回った経験があったから重々承知していた。
T中ペアには、そんな旨も話をしておいた。
準々決勝、先にベスト4入りして全国大会出場を決めたのは、F中ペアだった。しかし、T中ペアは岐阜県のペアに終始リードを奪いつつも、追いつかれて逆転負けしてしまった。
続く、順位決定戦、その前の試合あたりから後衛選手の足が動かなくなりつつあった。この試合は、いいところなくストレート負け。7位決定戦に回ることになった。
その7位決定戦。今までの経験だと、ほとんどの試合がタイブレークまで縺れ込んだ。はたして、今回もそうなった。
ゲームカウント3−2とリードしたものの、タイブレークに追いつかれた。そのタイブレークも、先にマッチポイントを握ったのは相手のペア。しかし、全国大会出場がかかったマッチポイントには言い知れぬプレッシャーがかかるのだろうか、ことごとく相手がミスをしてDEUCEを繰り返す。少なくとも5本以上の相手のマッチを掻い潜り、ようはくこちらに逆マッチが回ってきた。こういうときはすんなり決まるものである。最後は相手のミスでT中ペアの全国大会出場が決まった。

それにしても、どうして8位まで出場させてくれないのだろうか。7位と8位と、何がそんなに大きく違うというのだろう。少なくとも、この試合に関してはどちらのペアが全国大会に出場してもおかしくはなかった。しかし、勝敗を争わせ、どうしても勝者と敗者を決定させる。そのことに、どんな教育的意義があるというのだろう。勝って全国大会出場を決めたペアはうれしさも一入であろうが、敗れたペアの心中はどうだろう。
T中ペアが全国大会出場を決めてくれたことはもちろんうれしかったが、試合終了後、コートにうずくまったままなかなか立ち上がれなかった相手選手の姿が、そのあともずっと目に焼き付いていた。

そんな思いもあって、家に帰って『スポーツにおける抑制の美学』(西村秀樹/世界思想社)を半分ほど一気に読んだ。
「勝負は勝たざる可からず、敗者には屈辱を徹底せしむべし」という勝利至上主義は、どうやら明治時代から始まった学校対抗戦の野球などにその源流を遡ることができるらしい。
応援も含め、あまりのエスカレートぶりに、当時の早稲田野球部長であった阿部磯雄は、「吾人は最早勝負の点数のみに着眼するが如き、幼稚なる思想を去らざるべからざる」と戒告する。そうして、「勝って驕らず敗るるも悲観せず、勝敗の如何は別問題として常に堂々たる勇者の態度を失はざらん事を心懸け」(「大阪朝日新聞」大正4年8月18日)、選手も観客も品位があって紳士的でなければならないことを主張した。

爾来、凡そ一世紀。阿部の主張にもかかわらず、勝利至上主義は野球に限らず、あらゆるスポーツに深く蔓延している。試合をすることに価値がないわけではなかろうが、それを通して何を学ばせるかということこそ肝要なことであろう。そのことを忘れて、ひたすら勝つことにこだわることからは、もうそろそろ卒業すべきではなかろうか。
なぜなら、勝利至上主義って「幼稚な思想」だから。