スーさん、桑田真澄さんの野球訓について考える

7月27日(火)

高校野球地方大会が佳境を迎えている。
今日の時点で甲子園行きを決めたのが55校。いよいよ、夏の全国高校野球大会が始まる。
それに先立っての企画だと思われるが、先週の火曜日(20日)の朝日新聞朝刊に、「野球を好きになる七つの道」と題された桑田真澄のオピニオン記事が掲載された。
この記事のことは、翌21日の「ゑびす屋」タニグチさんのツイートで知った。
“昨日の朝日新聞、桑田真澄の「野球を好きになる7つの道」秀逸。「目の前の試合に勝つことを至上の目的にすると、指導者は手段を選ばなくなる。小学校時代は礼儀と体づくりの基礎を身につけることが大切」「現役を引退して生きるのは感謝する心とひとを思いやる気持ち」。おススメです。”

すぐにでも読みたいと思ったのだが、残念ながら朝日新聞を購読していると思しき知人が思いつかない。かつては、自分も含めて、教育関係者の朝日新聞購読率は高かったのではと想像される。が、いつの頃からか、教師や学校現場への批判的記事や、あまりに「先に結論ありき」の報道記事が目立つように感じられて、自分は購読をやめてしまった経緯がある。おそらく、同様の教育関係者も多かったのではないか。だから、すぐに購読者が思いつかなかったのである。

ひょっとしたらネットで配信されているかもしれないと思って探ってみたが、残念ながらasahi.comにもアップされていなかった。そのうち夕方になって、Oくんが“見つけました!「1、練習時間を減らそう2、ダッシュは全力10本3、どんどんミスをしよう4、勝利ばかり追わない5、勉強や遊びを大切に6、米国を手本にしない7、その大声無駄では?」うーむ、重みが違う‥。”とツイートしてきた。
どうやら、件の記事を読んだ人が、ご自分のブログにアップしたものを見つけたらしい。これは、どうでもその記事を手に入れずばなるまいと思っていた。

それにしても、「灯台下暗し」とはこのようなことを言うのである。実は、隣の実家が朝日新聞だったことを失念していたのである。
すぐに実家に上がりこんで、前日の朝刊を探した。あったあった!「オピニオン 球児たちへ 野球を好きになる七つの道」、すぐに持ち帰って熟読した。
桑田・清原(KKコンビ)による、PL学園高の甲子園春夏合わせて優勝2回、準優勝2回という素晴らしい結果については、実際に彼らの活躍ぶりを知っている人たちにとっては広く知られた事実である。
しかし、そんな彼らが高校時代には3時間しか全体練習をしていなかったということは、知らなかった。まさか、そんなことが…。
“ぼくは、PL学園高校1年夏の甲子園で優勝した後、監督に「全体練習は3時間にしましょう」と提案しました。決して怠けたかったからではありません。どんなに野球が好きでも、自分の体力と集中力には限界があると考えたからです。(…)短時間で効果的な全体練習をして、その後は各自の課題や体調に応じて個人練習をした方が技術力はアップすると思います。”

以下、随所に唸らされる言葉が並んでいた。
“練習量を増やし過ぎると、動作は徐々にゆっくりになってしまいます。その動きを脳が覚え、身体に染みついてしまう。”

“ミスをなくそうとムダな努力をするよりも、ミスから学ぶことのできる選手の方が、成長が早い。それなのに、ミスをした選手を怒鳴りつけたり、罰練習をさせたりするのは野球というスポーツがわかっていない証拠です。”

“小学生時代は毎日、グランドに行くのが憂鬱でした。指導者に殴られるからです。顔がぱんぱんに腫れ上がり、殴るところがなくなると、今度はケツバットが猛スピードで飛んできました。体罰は指導者だけでなく、先輩から受けることもあります。特に、目の前の試合に勝つことを至上の目的にすると、指導者は手段を選ばなくなります。とりわけ小学校時代は、礼儀と体づくりの基礎を身につけることが大事です。そんなときに、選手権大会は必要ないと、ぼくは考えます。”

“体罰は連鎖します。体罰を受けた選手は、体罰を与える指導者になる。理不尽な体罰を繰り返す指導者や先輩のいるチームだったら、他のチームに移ることも考えて下さい。我慢することよりも、自分の身体と精神を守ることの方が大切です。”

“練習時間を短縮して空いた時間は、勉強や遊びにあててください。(…)人間は得意なことだけで生き抜くことはできません。(…)現役生活を引退してから生きるのは、遊びや新しい出会いを通じて身につけた「感謝する心」「ひとを思いやる気持ち」です。こうした能力を養うためにも、生活のすべてを大切にしてもらいたいと思います。”

“現在のメジャーリーグは、(…)残念なことにリーグ全体に拝金主義がはびこり、稼ぐためなら手段を選ばなくなっているのを、ぼくはメジャーリーグに行って実感しました。”

“ヤジは日本に野球が伝来してから、100年たってもなくならない欠点の一つです。(…)そんなものを続けるよりも、対戦相手や仲間にリスペクトの気持ちを表現したほうが、スポーツマンらしくてかっこいいと思いませんか。”

いやはや。
これは、こと野球に関わる人だけでなく、すべてのスポーツに関わる選手・監督・コーチ・保護者・サポーターが、常に心しなければならないことばかりであると信ずる。

この土日、沼津K学園高の男女それぞれの監督とコーチが来浜された。あれこれお話をする中で、自分が「ダークサイド」に入っているかどうかを、どのようにチェックするかということが話題になった。
結論は、「ひょっとしたら自分はダークサイドに入っているのではないか、と疑う人はダークサイドには入っていない」ということに落ち着いた。
逆に、ダークサイドに陥り易い人としては、試合に負けたことの原因を監督自らに求めない人、「選手に恵まれない」など常に自分が被害者意識を抱いている人、自分の指導の拙さについて疚しいと思っていない人、勝利至上主義に居着いている人、などが挙げられた。
「勝ち負け」は確かにわかりやすい。でも、スポーツは、何かをわかりやすくするためだけにやっているものではない。

今回の桑田の提言も含め、スポーツに関わる人たちで、もっともっとこのような議論を深めていく必要がありはしないか。でないと、スポーツの「犠牲」になってしまう子どもたちがますます増えていくように思う。

全国高校野球選手権大会の開会式は、来月7日、秋立つ日が開会式だ。