スーさんの熱い夏

7月13日(月)

中学3年生にとっては、中体連(中学校体育連盟)の最後の大会となる、所謂「夏の大会」が始まっている。
この大会、3年間活動してきた部活動の成果を問うものであるとともに、地区予選から始まって県、ブロック大会を経て全国大会へとつながる大会であることから、自ずと力の入れようも他の大会とは違って真剣にならざるを得ないものとなる。
それだけに、選手にかかるプレッシャーも相当なものであることは想像に難くないであろう。

そんなスポーツ選手たちの精神的なストレスを緩和させるためだろうか、近年は「メンタル・トレーニング」やら「メンタル・リハーサル」やらが流行っているようだが、はたして人間の心理なるものがそんな簡単に制御できるようになるのかどうか、どうも手前などは眉に唾してみたくなってしまうのである。
かつての日本の武芸者たちも、そんな精神的な動揺を克服しようと心を用いたことは、『兵法家伝書』(柳生宗矩/岩波文庫)などにも詳しい。

「かたんと一筋におもふも病也。兵法つかはむと一筋におもふも病也。習のたけを出さんと一筋におもふも病、かゝらん一筋におもふも病也。またんとばかりおもふも病也。病をさらんと一筋におもひかたまりたるも病也。何事も心の一すぢにとヾまりたるを病とする也。此様々の病、皆心にあるなれば、此等の病をさつて心を調ふる事也。」(51頁)

浜松地区中学校ソフトテニス大会は、7月4日(土)の団体戦の予選リーグから始まった。
そこでいきなり「病」が出た。
予選リーグの初戦、3番勝負となったが、その3番ペアが第1ゲームからイージーボールを連続でミスして歯車が狂い、修正もきかないまま敗れてしまったのである。
オーダーを替えて臨んだ第2試合も、ぴりっとしないままにゲームはもつれ、勝敗の行方が危ぶまれたが、何とか勝って予選は2位で決勝トーナメントに進むことになった。

当然のことだが、予選2位の場合は組み合わせはよくない。予選を1位通過すれば決勝トーナメントは第5シードになるはずであったが、本校は第3シードの下に入ることになった。ちなみに、本校の代わりに第5シードになったのは、シンムラくんのK中である(そう、予選初戦の相手はシンムラくんとこだったのである)。第3シードは、優勝候補の一角と言われるS中。春の選手権を制した強力な大将ペアを擁する学校である。
浜松地区から県大会に出場できるのは6校。ベスト8に入らなければ権利はない。そのベスト8をかけてS中と対戦しなければならない。この1週間は、S中との対戦をイメージしながらの練習となった。

そうして臨んだ決勝トーナメント。
初戦の相手はお隣の学校だった。コートが4面あるため、時々お邪魔しては練習マッチをさせてもらったりしていた。この初戦は、相手のミスにも助けられて3ペアとも勝つことができた。いよいよS中との対戦である。
相手の強力な大将ペアのことを考えれば、当然勝負は3番に持ち込まれるであろうとの予想であった。そのためにこの1週間力を入れて取り組ませてきたこともあった。
勝敗を分けたのは、何度もdeuceを繰り返した末に取った第3ゲーム。これで流れが来た。第5ゲームは落としたものの、そのままタイブレークに突入することもなく4-2で勝利、何とか県大会出場権のあるベスト8に入ることはできた。

続く準々決勝の相手も難敵であった。相手大将ペアは、6月の県選手権でベスト4入りを果たしている。この試合も3番勝負になるのは必至であろうと思われた。
予想どおり3番勝負になった。1ゲームを先取。ここから相手後衛が粘りだした。我慢できずに動かない相手前衛のところに打ってポイントされる展開から、逆に2ゲームを落としてしまう。ここからまたもや「病」が始まった。「拍子」を合わせ始めてしまったのである。
『兵法家伝書』にある。

「あふ拍子はあしゝ。あはぬ拍子をよしとす。拍子にあへば、敵の太刀つかひよく成る也。拍子がちがへば、敵の太刀つかはれぬ也。敵の太刀のつかひにくき様に打つべし。つくるもこすも、無拍子にうつべし。惣別のる拍子は悪しき也。」(43頁)

「惣別のる拍子は悪しき也」とあるとおり、相手に合わせた結果は2-4の敗戦であった。
順位決定戦に回ることになった。

それにしても、この敗戦はいただけなかった。同じようなミスを繰り返すプレーのあまりの不甲斐なさに、つい声を荒げる場面もあった。これでは冷静にコーチできない。
次の順位決定戦の初戦に勝たなければ県大会はない。でも、ベンチには入らない方がよかろうと思った。その旨、選手を集めて話をした。そのまま荷物置き場のテントで結果を待つことにした。
オノちゃんがやってきた。「何してるんすか?試合は?」と言うので、「行かない」とだけ答える。
そのまま、テントであれやこれや話をしていた。
試合の終わった選手たちが戻ってきた。3番勝負の末に勝つことができたようだ。
これで、県大会出場が決まった。そのくらいの実力はあると信じていた。ひとまず、安堵の胸を撫で下ろした。
続く5位決定戦。さすがに県大会出場を決めた後の試合であったためか、この試合は集中力が欠けていた。大将ペアもタイブレークの末に敗れ、結果は6位であった。
でも、上出来だったと思う。

本校チームが順位戦に入る前、シンムラくんとこのチームが順位戦のコートに移動してきた。その前の試合を見ていたオノちゃんから話を聞くと、どうやらシンムラくんとこの選手たちも「病」にかかったらしかった。金縛りにあったように動けないまま、3番勝負で負けてしまったとのことだった。
そのシンムラくんとこは、残念ながら順位決定戦の初戦で負け、県大会出場はならなかった。本校に勝って第5シードを獲得したまではよかったが、それが逆にプレッシャーになってしまったのだろうか。
かように、特に中学生の試合など、勝敗の行方を左右するものは、技術はもちろんであるが「病」の克服が大きな課題であること、さらには局所での勝敗が次にどこでどう展開していくのか、勝負事というのはまったく予断を許さないということをあらためて感じさせられた。

今回は、残念ながら新型インフルエンザに罹患した生徒の出た中学校が団体戦を棄権した。3年間一生懸命に部活動に打ち込んできて、その最後の大会に出場できないという選手や監督の無念さは察するに余りある。世の不条理を嘆きたくもなるであろう。
日曜日は個人戦の2回戦までが行われたが、そんな思いも勘案して、個人戦だけは該当校ペアとの対戦のみ1週間遅らせることを大会本部が決定した。当然の措置と思う。
その該当校ペアがシード下に入っていた本校の大将ペアを除き、2ペアが2回戦を突破した。
個人戦の3回戦以降は、次の土曜日である。

まだしばらくは明けそうにない梅雨空の下、熱い戦いは続く。