スーさん、監督する

6月8日(月)

土曜日は、県中学生ソフトテニス選手権大会参加のために、早朝から富士宮へ。
前日に富士宮の天気を確認すると、土曜日は終日雨との予報であったから、たぶん中止だろうなあと思っていた。が、土曜日の朝6時に県ソフトテニス連盟のHPで開催の可否を確認すると、「本日の中学生の大会は予定どおり開催いたします」とのテロップが流れていた。「うへえ、やるんだあ」思いつつ、すぐに主将のところに連絡を入れ集合時間等を確認、その30分後には東名高速道を東走していた。

コートに到着すると、まだ2面ほどコンディション不良のために使用できない状態であったが、他の8面は使用できそうであった。すぐにテント等を降ろし、試合前の練習ができるよう準備させる。程なく、30分ほど遅らせて開会式を始める旨の放送が入った。
とりあえず大会本部で受付を済まそうと思って車を降りると、見知った顔が挨拶をしてくれた。3月末の都道府県対抗戦で県選抜チームに所属していた三島K中のS選手であった。隣にいたお父さんも一緒に、「あのときはお世話になりました」とご挨拶をしてくださった。つい何とも懐かしい気持ちになった。「今日はがんばれよ」と声を掛けると、「優勝します」と力強い返事を返してくれた。

その後、すれ違う人ごとに挨拶をされたり会釈されたりするので、「ん?今の誰だっけ?」と思うこと屡々。どうやら、県選抜チームの保護者や関係者の方々のようだった。とりあえず、失礼のないように挨拶はだけは返しておく。これだから県選抜チームの監督をするのは嫌だ。おちおち、試合会場をうろつくこともできない。
仕方がないので、開会式後は自校ペアの試合が始まるまで、シンムラくんとこの荷物置き場でおとなしく座って四方山話をしていた。

と、見知った顔の選手が口々に「こんにちわぁ」とか挨拶しながら、続々と手前のところに集まってきた。2ヶ月ほど前に解散した県選抜チームの面々だ。
「おお、元気かあ。調子はどうよ?」などと水を向けると、都道府県対抗戦以降の近況を聞かせてくれる。「先生、ボクは都道府県対抗の時がピークでした」と言う選手もいた。
県選抜チームは、全員が異なる学校の選手たちであった。都道府県対抗戦時には、それぞれの選手に応じたマッチングも考慮してカップリングも決めたつもりだ。当然、自校でペアを組む選手とは違ったパフォーマンス、それもよりハイレベルでのパフォーマンスを見せてくれる選手たちであっただろうから、自校ペアに戻った際には多少なりとも違和感があったのかもしれない。
そんなことは、本人たちはもちろん頭ではわかってはいただろうが、実際にプレーの違いをどうしようもなく感じてしまったということはあったであろう。ある意味、それはそれで仕方がないことだったのかもしれない。
でも、都道府県対抗戦で高いレベルでの試合が経験できたことは彼らも相当うれしかったらしく、実際の試合の時の話があれやこれやと出てきた。まるで、同窓会をやっているようだった。楽しいひとときだった。

1回戦が終わって、浮かない顔でやってきたのは、県選抜チームで殿を任せたF中のK選手だった。「先生、球が入んないんすよ」と言う。
このK選手、選抜の練習を重なる度に、目に見えて上達していった選手である。力強いサービスと、相手前衛に的を絞らせない配球、そうして何より絶妙の高速ロビングが打てる後衛であった。
確かに、1回戦の試合ぶりを見ていると、気になることがあった。それを伝える。「わかりました。修正します」ときっぱりと言った。こういうところがK選手のすばらしいところである。こうなると、自分とこの選手よりもK選手のことが気になってしまう。しかも、そのK選手のペアとは本校ペアがそれぞれ3回戦と4回戦で対戦することになっているにもかかわらず、である。

さて、本校の選手たちである。
本校からは2ペアがエントリーしていた。しかし、どういう組み合わせか、2ペアとも第2シードブロックに入っていた。予選の順位もあるが、通常同一校のペアは敗退ブロックに組み合わせる。どうも、そんな配慮もなく機械的にペアを填め込んでいったらしかった。
すぐに、今年度より県中体連ソフトテニス専門部長を務めるヨッシーに電話を入れ、来年度以降は善処してもらうよう要望しておく。
試合の方は、2ペアとも順当に初戦を突破した。しかし、第2ペアの2回戦はタイブレークにもつれ込む厳しい試合になった。ベンチに座った相手校コーチのマナーが最悪だった。1球ごとに、「短いのが来るぞ!」とか、「守れ守れ!」とか指示しているばかりか、相手ペアがポイントを取ったりこちらのペアがミスしたりする度に、大声で「ウオー!」と両手を挙げてベンチから立ち上がったりしているのである。呆れてものが言えなかった。当然、イエローカードの対象である。が、審判は前の試合で負けた中学生がやっている。中学生が大人にイエローカードなど出せようはずがない。腹は立ったが、仕方がないので黙っていた。試合は、タイブレークのDeuceを繰り返して本校ペアが勝った。
試合後、その学校と地区が近い県選抜スタッフのYコーチに「あれ誰?」と聞くと、何とYコーチの高校の先輩だという。「ちゃんと話しといてや」と頼んでおいた。

こんなことは、もう何度も言ってきたことなのだが、どうも世の中にはおわかりいただけない人たちがいるようで、今更言うのも鬱陶しい程であるが、繰り返し言っておく必要はあろう。
試合をしているのは選手である。監督やコーチではない。
ベンチに座っている監督やコーチは、そんな選手を見守るしかない。もちろん、声援が必要なこともあろう。ベンチからの声援が選手の力になることはある。でも、それは「声援」であり、「指示」は許されていない。その場でのベンチワークが重要であることは認めるが、もし試合中に選手にそれを伝えたかったら、周囲にそれとは知られぬよう伝えるとかするしかない。
自分の教えた選手がいかにもまずいプレーをしている時など、試合中に何とかそれを修正したい気持ちに駆られるのはわかる。でも、だからと言って試合中に大声を張り上げて選手を罵ったり、相手選手が打球姿勢に入ったときにコースを指示することなどは論外の行為である。
昨夏の中体連全国大会では、監督がベンチから離れることと、選手に声を掛ける行為について、厳に慎むよう事前の監督会議で競技委員長より話があった。実際、試合では審判が監督やコーチに注意を与える場面が多々見られた。それでよいと思う。たとえ地区大会であっても、同様のことは周知徹底を図っていく必要はあると思うのだが。
ヨッシーには、今後奮闘を期待したい。

その第2ペアの3回戦の相手は、第2シードであった。K選手のペアである。現時点で、本校ペアで対抗するにはかなり骨が折れることは予想されていた。ちょうど試合が始まるときには、本校大将ペアの試合が始まっており、手前はそちらのベンチに入っていたので、大将ペアの3回戦突破を見届けて第2ペアのコートに行ったのだが、そのときには既に2ゲームを取られてゲームセット寸前であった。本校の後衛はよく粘っていた。しかし、肝心なところで前衛選手にミスが出た。結果、ストレートで敗退。
暫くして、大将ペアの4回戦も始まった。相手は、またしてもK選手のペアである。第1ゲーム、本校ペアがテンポよく攻めてゲームポイント。しかし、そこから本校前衛選手がイージーボールを見逃して流れが変わった。競ったもののそのまま第1ゲームを落としてからは、K選手の高速ロビングが決まり出し、こちらは防戦一方。苦し紛れのボールを相手前衛に決められて、ほとんどポイントも取ることができないままストレートで敗れてしまった。

本校選ペアが次の準々決勝の敗者審判を終えるのを待ち、荷物を片付けて撤収しようとしていると、K選手がやってきた。帽子を取り、ぺこりとお辞儀をして「お願いします」と言う。ストロークがよくなってきたことを伝え、逆に得意のサービスが入らなくなってきている原因と思しき技術的な点を一つだけ指摘し、「今日の出来なら十分に優勝できるから、自信を持ってやるんだぞ」と励まして、試合会場を後にした。
浜松に到着後、シンムラくんから試合結果のメールが入った。K選手ペアの優勝だった。自校の選手のことのようにうれしかった。ちなみに、準優勝ペアの後衛は県選抜チームの主将だった。
選抜チーム解散後も、そうやってそれぞれにがんばっている姿に接することができたのは何よりのことであった。
いよいよ来月からは中体連の夏季大会が始まる。もちろん、本校選手も頑張らせるつもりであるが、陰ながら選抜選手たちの健闘も期待したい。
やれやれ、県選抜の監督をやるのって、「微妙」である。