スーさん、勝てばいいのかと懐疑する

10月2日(木)

新人大会が始まっている。
先日の日曜日には予選リーグが行われ、本校はなんとか予選を1位で通過することができた。

さて、久しぶりに市内の顧問の先生方と顔を合わせ、互いに新チームの状況などについて情報交換を交わす中で、はたしてそれは如何なものかと思える話も耳にしたので、以下に記しておく。

本市では、学校週5日制の完全実施(02年)に伴って、当時の教育長の鶴の一声(だったと思う)で、第2・4土日に部活動を実施しない旨の申し合わせがなされ、活動の一切を自粛するようになった。生徒を家庭や地域に帰すというのがその趣旨であった(と思う)。でも、そんなことをしているのは県内でも浜松市だけであった。

同時に、部活動の指導に「外部指導者」を積極的に導入するようにもなった。それまでベンチ入りが許されなかった外部コーチも、学校長の承認があればベンチ入りできるようになったのである。
浜松市のように練習制限のない市町村の学校は、顧問と外部コーチとが手を携えつつ、着実に競技力を向上させていった。おかげで、部活動の大会では、どの競技においても浜松市のチームが周辺市町村のチームに勝てない状況が出来した。練習しないのだから、勝てなくなるのは当たり前である。

いくら「勝利至上主義」ではないと標榜しても、さすがにあらゆる試合で「出ると負け」状態が続くと、そんなことに我慢ができなくなるのは理の当然である。
ならばと、学校の部活動を主体にしつつ、保護者や地域の指導者が中心になって、「クラブチーム」を結成する動きが活発になった。クラブチームならば、市の申し合わせにとらわれることがないからである。
これにより、それまで活動制限により悶々としていた顧問の先生方は、ようやくその溜飲を下げることができた。

それから6年。途中、浜松市の合併もあり、さすがに旧市の申し合わせ事項は周辺市町村に強制できず、第2・4土日の部活動自粛申し合わせは撤廃された。
この間、結成されたクラブチームとしての活動は、着実にその根を下ろしていた。どころか、逆にそのことが弊害を産むようにもなっていた。
どういうことか。
保護者は、何より自分の子どもが活躍している姿、できれば我が子の勝利の姿を見たいと願う。
そのために、クラブチームの運営も引き受ける。
学校の活動だけでは不十分と思われるところを、保護者ができる範囲でカバーしていく。
そんな活動をしつつ、試合の応援にも駆けつけていくうちに、知らず活動が熱を帯びてくるようになる。
だんだん活動がエスカレートしてくる。
学校の正規の練習時間だけでは飽きたらず、平日の夜間も、地域の指導者等を動員して練習するようになる。
とまあ、こんな具合だ。

実は、そうなる前に顧問が歯止めを掛ければいい。「ちょっとそれはあまりに行き過ぎですよね。」と釘を刺せばよいのだ。でも、それで勝利を手にできると考えている顧問は、過度を承知でブレーキをかけない。それで勝てれば、そのことが自分に対する称賛や名誉になると思っているからだ(たぶん)。およそ教育者たるものが取るべき態度ではなかろう。
たとえそうではなくとも、自分が顧問として指導することにあまり自信がないために、熱心な保護者にものが言えないということもあろう。でも、指導できるできないということと、教育上の配慮から活動の行き過ぎを指摘することとは、自ずと別のことである。それが言えなければ教師とは言えまい。

A中は、保護者が市営コートの予約に走り、ほぼ毎日、外部コーチの指導で夜7時~9時まで練習しているそうだ。「ウソだろ?」と思っていたが、昨日実際にそうやって練習しているところを目の当たりにしてしまった。
昨日は雨上がりで本校のコート状態が悪かったので、市営コートで練習できそうか予約状況を確認してみたところ、運良く午後5時から7時まで1面だけ空いていたので移動することにした。コートに着くと、件のA中が何と平日でなかなか予約が取れない屋根付きコートを2面も使用して練習をしていた。「よくまあ、コートが取れるもんだ。」と感心しつつ、自分たちの練習を終えて帰途に着こうとふとA中が練習していたコートを見ると、顧問とは別の人物が7時以降も指導しているではないか。どうやら、噂話は本当のようだった。

もう一度言う。
保護者や地域の指導者に部活動のお手伝いを願うことは、決して悪いことではない。寧ろ奨励されることである。
そのためにクラブチームを結成するのも悪しきことではない。
だが、一度クラブチームとしての活動となったときにはなかなか歯止めが利かないということも承知しておきたい。
子どもも保護者も顧問コーチも、試合で勝ちたいという気持ちに変わりはない。だが、そのために子どもに過剰な練習を課してよいということにはならないはずだ。
何を持って過剰とするか。子どもの生活が、学校での正規の活動時間以外にそのことによってかなりの時間を占められるものがあるとするなら、それは過剰なものである。
例えば、夕方7時まで学校部活動の練習を行い、そこからさらに2時間も練習を行うとするなら、中学生としての発達段階を考慮してそれは過剰と言うべきではなかろうか。
中体連の大会とは、中学校体育連盟が主催して行う、「部活動の大会」のことである。まちがっても、「クラブチーム」の大会ではない。そこを勘違いしてはいけない。
ただ勝つためだけに、部活動としてではなくクラブチームとして過剰な練習をしているところは、ぜひクラブチームの大会に出場すべきであって、中体連と銘打った大会に出場すべきではない。

中体連も、そろそろこういうことを十分に議論すべき時期に来ていると思うのだが。
幸い、昨日本校に本市中体連会長から電話があった。たまたま手前が電話を取った。「よろしければ、ちょっとお耳に入れておきたいことがあります。」と申し上げると、「なあに?」と聞いてくださった。「いいことを聞いたよ。」とおっしゃっていただいた。今後の中体連の動きに注目していきたい。