すうさんの夏の終わりの小旅行

9月8日(月)

2学期が始まって1週間が過ぎた。

それにしても、長い1週間であった。ルーティーン・ワークに順応するのに、かくも時間がかかるのか。それだけ、着実に年を取っているということなのだろう。

夏休みの最後の土日(30日~31日)は、妻と伊豆に旅していた。

娘が大学に行くようになった昨年から、ちょうど8月の終わり、30日という妻の誕生日に合わせて小旅行をするようにした。昨年は、三重県の相差まで出掛け、瀟洒な民宿で、伊勢海老やら取れたてのウニやらの海の幸を堪能させてもらった。

今年はどこへ行こう、とR天トラベルを見るとはなしに見ていたら、「【露天風呂付客室】日にち限定♪1日1組のみ早いもの勝ち!○得海鮮プラン!」なる惹句が目に飛び込んできた。「ほほう、露天風呂付客室ねえ、いいじゃんいいじゃん、けど高いんだろうなあ」と独り言ちつつ、場所は?と見ると、伊豆の戸田である。「戸田なら、浜松から2時間とちょっとで行けるなあ。で、いくらだあ?」と見ると、二人で38K以下である。露天風呂が付いている部屋でこの値段はリーズナブルである。さっそく妻に聞いてみた。妻は、こういうことについて何らの注文もつけない人である。「へえ、いいじゃん。楽しみ!」という、いつもの返事が返ってきた。これで戸田行きが決まった。

出発の当日、天気はあまりよくなかった。時折、小雨が落ちてくる。そう言えば、昨年もミキモト真珠島近くで昼食を取ろうとしたとき、土砂降りの雨であった。が、どういうわけか妻と出かけるときには天気はあまり気にならない。どうしてだろう?よくわからない。

車検から戻ってきたばかりのプリウスに乗って、一路伊豆半島を目指す。

こういう旅行は、何が楽しみって、まず食べ物である。昼食を、どこで、何を食べるのかというのが重要な問題なのである。選択肢は様々あったのだが、とりあえず、修善寺でガイドブックにも紹介されていた「独鈷そば」を食すことに決定した。

週末は混雑が予想される沼津インターを避け、東名は清水インターで降りて国1を沼津へ向かう。道中の音楽は、プロコフィエフの作品集と、先日神戸で購入してきたハイドンの交響曲集。曇天のドライブにはなぜかよくマッチする。

案の定、沼津に近づくと道が混み始めた。渋滞を避け、海岸沿いの旧東海道を走って、そのまま414号線を辿って伊豆市へと入り、大仁を経由して修善寺に到着。時間はちょうど12時。いい時間である。

修善寺は古くからの温泉場ということもあり、とにかく道が狭い。車ですれ違いするのに難儀するような道幅である。目指すそば屋は、「独鈷そば大戸」。店はわかったのだが、駐車場が見つからない。一度通り過ぎて戻ってきてみると、店の反対側にある駐車場が見えた。

昼時ということもあって、店の中はほぼ満員である。メニューは2種類、ざるそばとかけそばだけ。それぞれ一つずつ注文することにした。

待つこと暫し。注文の品が来た。ざるそばには天然の葉付き山葵が添えられていた。この山葵、「もしも全部使わなかったら、お持ち帰りくださいね」とのことだ。さっそく鮫皮卸しで卸してみる。「円を描くように卸すとうまく卸せますよ」とアドバイスを受けてやってみると、おお、山葵のよい香りが漂ってくる!

卸したての山葵を蕎麦つゆに入れ、薬味も少々入れて、さっそく蕎麦をいただく。う、うまい。「最初はつゆだけ、後でとろろを入れていただくと、また違った味わいがあります」と言われ、そのとおりにしてみる。どのようにして食べようが、うまいものはうまい!

他に、蕎麦と一緒に副えられていたのは、馬鈴薯と南瓜の煮付け。そばのいいアクセントになる。

妻の頼んだかけそばも、椎茸や人参、葱などが具として入っていて、それがまたつゆと絶妙にマッチしている。ま、そばだけで1,260円は決して安いとは言えないが、それだけの味わいはあるということなのだろう。

満足して、次の目的地である「虹の郷」へと向かった。

昨年、ミキモト真珠島へ入場する際に、JAFの会員カードがディスカウントチケットになるということを知り、今回も虹の郷の窓口へと差し出してみると、はたして2割引で入場することができた。持つべきは、JAFの会員カードである。

ちょうどこの頃になると、雨がほとんどやんでいた。これなら、傘なしで歩けそうであった。

「虹の郷」は、何と形容すればいいのだろう。「庭園」か。しかし、ちょうど夏の盛りは見るべき花もなく、なんとなく殺風景であった。

途中、漱石が滞在したという旅館の一部を移築して、資料館になっている建物があった。上がり框で靴を脱いでいると、いきなり奥の棚の陰から女の人がぬっと顔を出した。思わず、「うわあぁ、で、出たあぁ」と叫びそうになってしまった。人がいるなんて思ってなかった。もー、「いらっしゃいませ」くらい言ってくれてもいいではないか!

「ったくよう」と靴を履いて建物の外へ出、ふと側を流れている小川を見てみると、川岸に蛇がいた。「う、うわあぁ、へ、蛇だあぁ」と、その場から少なくとも50メートルほどはダッシュしたと思う。

もう二度と「虹の郷」に来ることはなかろう。

時間は午後2時を過ぎていた。ここから戸田峠を下れば、ちょうどチェック・インの時間になる。

途中、戸田峠を越えたところで、遠くに戸田漁港が一望に見渡せる場所があった。標高が高いためか気温は低く、薄靄がかかっていたが、はっきりと遠望することができた。

そのまま山を下りきったところが、宿泊場所であった。まだ、多少時間があったので、漁港の方へ行ってみることにした。

戸田漁港は、ちょうど港を取り巻くように突き出た御浜岬に抱かれた天然の良港である。その御浜岬は、先端にある諸口神社まで車で行くことができる。漁港を見守るように建てられた鳥居まで歩いてみると、シュノーケリングを楽しんでいる人たちがいた。水が澄んでいる。

そのまま、漁港でちょっとした買い物を澄ませてホテルへ。

宿泊先は、「魚庵さゝ家」。築7年という、まだ新しい宿だ。外見はホテルのようだが、旅館と民宿を合わせたような雰囲気もある。

部屋に案内してもらうと、はたしてベランダに露天風呂があった!案内してくれた仲居さんの話では、「チェックアウトされるまで、いつでもご自由にお入りになれます。」とのことだ。

でも、やっぱり露天風呂付き大浴場にも入らないと。誰もいない大浴場に入るのは、ほんとうに気持ちがいい。何とも贅沢な気分にさせられる。

湯上がり後は暫しうたた寝。目が覚めたところで夕食。この宿の特別料理は、高足ガニだそうだ。館内にはその生簀があった。でも、そんな特別料理は頼まなくとも、十分に美味しくいただける料理ばかりである。もちろん、二人で一品も残すことなく平らげてしまった。

妻は、どうやらここの温泉がひどく気に入ったらしい。「ねえ、湯上がりからしばらくすると、お肌がすべすべになるのよね」と喜びつつ、その後もせっせと大浴場や貸切露天風呂へと足を運んでいた。何よりである。

ぐっすり眠った後の、朝の部屋で入る露天風呂の気持ちがいいこと!昨日とはうってかわって、さわやかな青空だ。そんな青空の見ながら、のんびりと風呂に浸かる。至福の時間である。

朝食も、もちろん一品も残すことなく平らげた。チェックアウトする前に、もう一度大浴場に。この時も、貸切状態であった。部屋は満室だったらしいが、あまりそんなことが感じられないところもよかった。

思い切り満足して、宿を後にする。

帰りは、西伊豆の海岸線を走って沼津まで戻ることにした。途中、あわしまマリンパークに寄ってみた。アシカやイルカのショーを楽しんで、昼食は以前一度立ち寄ったことがある沼津港の鮨店「たか嶋」。絶品の締鯵などをいただく。

ここでビールを飲んでしまった運転手に代わって、帰途は妻がプリウスを運転。そのまま、助手席でしばらく意識不明になる。

かくして、美味しいものとすべすべの湯を堪能した今年の「妻の誕生日小旅行」も終わった。

2学期の始まりの1週間が、どうして長く感じたのか、その理由がお分かりいただけたであろう。

さて、来年はどこ行こうかしらん♪