スーさん、勝利の意味について考える

7月14日(月)

この土日は、市内大会の個人戦。
「個人」と銘打たれてはいるが、ソフトテニスの場合にはダブルスで行われる。
参加は、浜松市内各中学校に周辺の湖西市も加え、各校5組のエントリー。計193組(男子の場合)によるトーナメント戦である。
そのうち、県大会に出場できるのは26組(男子の場合)。何と、86.5%の組がこの予選で篩にかけられる。県大会出場がいかに厳しいものであるかということがおわかりいただけよう。
トーナメントであるから、1回負ければそれで終わり。県大会出場の可能性があるベスト32(3回戦)に残らなければ、敗者戦もない。
この個人戦が、前半戦の一つの山場であることだけは確かだった。

シードは、今春に行われた市選手権の結果を元にして決定される。本校の大将ペアは、市の選手権で優勝していたので第1シード、他の2組は選手権ベスト8だったので、それぞれ第6、7シードに組み合わせられていた。
気がかりなことがいくつかあった。
大将ペアで言えば、実力のあるS中団体メンバーである2年生ペアと3回戦で対戦すること。どうしてそんなことになってしまうのかと思うのだが、後で確認したところ、実力ならば2番か3番登録のはずなのだが、「まだ2年生だから」ということで顧問が4番登録にしたとのこと。規程では、「実力順に登録すること」と謳われているのに。こういうバカなことをする顧問がいるから、実力ある選手たちを埋もれさせることになってしまう。
シードは、実力のある選手を順当に上位へと押し上げるためにある。しかし、それ以外の理由(「下級生だから…」など)で登録原則を崩すと、階層化したドロー秩序に波乱を生じさせることになる。つまりは、まだ対戦が進まないうちに、実力者同士が相争って潰し合いを演じることになってしまい、その結果、どちらも上位大会に出場してもおかしくはない選手のどちらかが、出場できないことになってしまうということが出来する。選手にとってもかわいそうなことだが、何より予選の意味すらもなさない結果を生じさせてしまうということくらいは、ちょっと勘案すればわかることと思うのだが。

2番手ペアのシード下には、先週の団体戦で本校の3番手ペアを撃破したペアが入っていた。こちらは初戦、球筋が定まらないうちにやられてしまうことだってある。
これも聞くところによると、その学校のチームは昨秋から今春にかけての試合でまったく結果を残すことができなかったために、2番登録の選手であってもシードパックに入ってきてしまったということらしい。
確かに、大会直近の各校選手の実力を量ることは難しい。シード決めの試合もやってはいない。しかしこれは、組み合わせを作る段階で、それまでの練習マッチ等の結果も考量しながら、極力上位シード選手が順当に勝ち上がれるよう組み合わせることで回避されることではないか。そのためには、それなりの情報を持っている人が、組み合わせの場に同席していなければならないということである。

初日の土曜日は、2回戦まで。コート10面を使用して、129試合を消化する。この2回戦が終了するまでに、66.8%のペアが淘汰されてしまう。残念ながら、本校5番登録のペア(2年生ペア)が2回戦で姿を消してしまった。この試合は、別の3年生ペアの試合にベンチ入りしていたため、その試合が終わって駆けつけたときには、ちょうど試合が終わったところであった。試合を見ていた他の選手たちに話を聞くと、どうやら前衛選手が機能しなかったらしい。かように、夏の大会で2年生が勝つことは難しい。

他の4組は2回戦を突破してくれた。心配された2番手ペアも、最初のゲームを落としてどうなることやらと心配したが、競り合った第2ゲームを取ってから流れを掴み、そのまま勝ってくれた。しかし、翌日の組み合わせを考えると、何より大将ペアのことが心配だった。

その日は、夕方5時半からいつものメンバー、いつもの「まこと」でプチ反省会。オノちゃん、ヨッシー、シンムラくんとこは、揃って1組だけが翌日に残ったとのことだった。飲み始めが早かったため、「ちょっとだけやりますか」とのオノちゃんのお声掛かりで、これまたいつもの雀荘へと移動して東回しを5回ほど。こういうときはあんまり勝ってはいけない。翌日の試合に勝ち運を残しておかなければならないからだ。
でも、勝ってしまった。しかも、ヨッシーからは親の3倍満を和了ってしまった。結果、+60超。余計に翌日の試合のことが気がかりになった。

麻雀終了後はすぐに家に帰り、程なく床に就く。いつもならそのまま朝までぐっすりなのだが、この夜は3時間ほど眠った後で目が覚めてしまった。大将ペアが試合をしている光景が目の前に浮かんできて、眠れなくなってしまったからだ。もちろん、相手は3回戦の相手である。
その相手の試合は、2試合とも見ておいた。勝敗の行方を左右しそうなポイントがいくつかあった。そんなことも考えながら、どうやって具体的な指示を出そうかと考えているとますます眠れなくなった。仕方がないのでのそのそと起き出し、居間でPCを見るとはなしに見ていた。
まだ顧問になって間もない頃は、試合前にこういうこと(眠れない)もあったが、さすがに顧問も年数を重ねるとそんなこともなくなった。それだけ、今年は思い入れが強いということなのだろか。
確かに、もしも3回戦で負けてしまえば、大将ペアの県大会はない。もちろん、ベスト32にも入っていないから敗者戦もない。それだけはどうしても避けなければならないことだった。
1時間ほどPCの画面を見ていると、うとうととしてきた。そのまま布団に入り、再び目が覚めると5時だった。試合のある日は、選手たちは6時半頃には集まってボールを打っている。いつもは選手たちに任せきりだが、この日は早めに学校へ行って、気がかりなところはボール出しして練習させておこうと思った。

3回戦が始まった。3組が同時に入った。もちろん、ベンチは大将ペアの試合。どのゲームもポイント2-2まで競るのだが、そこから相手のミスが出る。そこが2年生ペアたる所以であろうか。逆に、大将ペアはだんだんと乗ってきた。結局、そのまま1ゲームも取られることなくストレートで勝ってくれた。大きく安堵した。こういうことを言うのもヘンだと思うが、この試合の大将ペアは強かった。滅多やたらと強かった。後衛選手の球は走ってるし、前衛選手も思いきってポイントを取りにいっている。つい、試合終了後に「今日のおまえたちは強い!」と言ったほどだった。

すぐに、別のコートでやっていた試合に駆けつけた。2番手ペアは失ゲーム1で勝ったのだが、同じコートですぐその後で行われた3番手ペアの試合が、タイブレークの接戦になった。3番手ペアの前衛選手は2年生である。夏の大会に賭ける3年生の思いがプレッシャーになっているのか、とにかくミスが多かった。相手のミスにも助けられて何とか3回戦をクリア。
さらに、別のコートでやっていた4番手ペアの試合に駆けつけたのだが、既に3ゲームをリードされていて、粘ってはいるのだが、決め手に欠けてポイントが取れない。1ゲームを取ったものの、そのまま3回戦で敗退してしまった。

残るは3組。負けても敗者戦がある3回戦をクリアして気が楽になったのだろうか、そのまま3組とも順当に勝ち残ってくれた。特に、大将ペアは無類の強さを発揮した。ベスト4に入るまで失ゲームはゼロ。特に、後衛選手は自在に打ってほとんどノーミスであった。ネット際に落とされたドロップショットも難なく拾い、そのままネット付いてスマッシュを打ち、頭越しのロビングを後ろ走りに繋いで返して相手のミスを誘うなど、非の打ち所のないプレーぶりであった。
準決勝も1ゲーム落としただけで快勝、決勝戦へと駒を進めた。
「これなら優勝できる」と確信した。

2番手ペアも、8本取りがタイブレークの接戦になったが、特に後衛選手が集中力を途切らせることなく打ち切って、勝利をものにした。準々決勝の相手は第3シード。しかし、この試合も後衛選手が見事な配球で相手のミスを誘い、前衛選手もいいところで決めてベスト4入りを果たした。

3番手ペアは、ミスが多いながらもベスト8入りを果たした。しかし、準々決勝の相手は第2シード。強敵である。試合は、本校の後衛選手がびしびし強打を打ち込むのだが、肝心なところでネットミスが出てしまう。前衛選手もリターンミスが重なったりして、結局1ゲームしか取れずに負けてしまった。

その第2シードと準決勝で対戦したのが2番手ペア。昨秋から何回か対戦しているが、まだ一度も勝ったことがない。前回までの敗戦のこともあり、今回はゲームプランをやや変えて臨ませた。これが奏効した。2ゲーム取られたものの、そのまま流れを変えることなく勝って決勝へ。
何と、決勝戦は本校の1番、2番登録ペアによる同士討ちとなったのである。
顧問冥利に尽きるとは、このようなことを言うのであろう。試合は、大将ペアが順当に勝ち、春の選手権に続いての優勝を飾ってくれた。

この2日間、個人戦ということもあり、いろんなペアと対戦した。そのことを少しだけ書いておきたい。
こと中学の運動部活動に限らず、「勝利至上主義」は至る所に蔓延している。
例えば昨今、日本のお家芸である柔道が世界で勝てなくなったとメディアは報じていたが、どうやらそれは、あくまで一本勝ちにこだわった結果であるらしい。しかし、世界柔道の趨勢は、「勝ち方」ではなく「勝てばよい」という方向にシフトしていた。結果、「勝ち方」のこだわった日本は勝てなくなった、と。

同様のことが、あらゆるスポーツの場面で生起しているような気がする。

ダブルスで行うソフトテニスも、そんなに数は多くないとは思うが、いろいろな戦術がある。どんな戦術を採用するかは、顧問の好みのあるだろうし、選手の特性を考えてのこともあろう。
でも、せめて小中学生の段階では、まずはオーソドックスな戦術を教えるべきではなかろうか。
松尾芭蕉も言っておるではないか。「格に入りて格を出ざる時は狭く、また格に入ざる時は邪路に走る」と。
もちろん、勝負なのだからどんな戦術も「あり」だとは思う。そういうやり方で勝つことの喜びを味わうことも必要なことかもしれない。
でも、それって、ソフトテニスの言わば「ダークサイド」に入ることではないのか。

ソフトテニスを指導できない顧問が、研修大会や練習マッチに誘われ、そこに集まった多くの学校がやっている戦術が「まっとうな戦術」と思い込んで、生徒たちに指導する。そうして、そんなやり方で近隣校と練習マッチをやると、おもしろいように勝てるようになる。自然、そんな戦術にさらに磨きをかけるために、校内の練習でも基本練習などほとんどやらずに、ひたすらゲームばかりをやるようになる。「なーんだ、ソフトテニスの顧問って、ひたすらゲームばかりやらせてれば勝てるようになるんだ」と思い込むようになる。だが、顧問としては、自らラケットを握ってのボール出しすらできないままでいる。

こういうのって、よくないでしょ?ソフトテニスのことを知らなければ、いろんな人に聞いたり本を読んだりして、自ら研究すればいいではないか。ボールが打てなければ、生徒たちと一緒に練習すればいいではないか。そうすることで、少しずつソフトテニスのことがわかってくる。わかってくると、その奥深さも実感できるようになる。
指導に、王道などないのだ。
「こんなやり方で、簡単に勝たせられるようになります」などの惹句でビデオなどを販売している向きもあると仄聞するが、まず詐欺の類いであろう。そんなこと、あるはずがない。
毎日毎日、生徒たちと一緒になって、一つ一つ技術的なステップアップをしていく以外に、勝利への近道などあろうはずがないのだ。

確かに、中学生段階で勝たせやすい戦術もないことはない。でも、そんな戦術を採用する時というのは、よほど体格的、運動能力的に非力な選手たちばかりという事情から、やむを得ず採用せざるを得なかったという時ではないのか。
ごく普通の選手たちを、「こうすれば勝てるから」と「ダークサイド」に導いてはいけない。それは、少なくとも顧問の教師としてやるべきことではない。

ソフトテニスを愛する中学校顧問の先生方には、ぜひ「勝利至上主義」の陥穽に陥らないよう願いたい。確かに、「シスの暗黒面」のパワーは強いし、魅力的ではある。だが、ひとたび「ダークサイド」に入ってしまうと、抜け出すのはほとんど不可能になってしまう。
勝つことだけが全てではない。
勝つことよりも大切なことはいくらでもある。
それを教えたい。
なぜなら、私たちは「教師」だから。