スーさん、一級審査を受ける

11月12日(月)

土曜日は、合気道浜名湖道場の昇級・昇段審査。手前は、先月下旬、同道場生であるタカバさんから、「寺田先生が、受ける気があるんなら受けてもいいわよ、と言ってました。どうします?」と迫られていた。

2級を取得したのはちょうど昨年の11月。この1年は、週に1度の稽古ではあるが、時には芦屋で内田先生の稽古も受けたりして、自分なりには地道に稽古を積み重ねてきたつもりであった。しかし、1級となると、今までの審査を見ている限り、かなりハードな審査である。はたして、馬齢知命を迎えた体がついていけるのかどうか甚だ心許なかったし、技もどれだけこなせるのか自信がなかった。

さらには、今夏より道場主の寺田先生が体調不良のため、稽古は道場生の初段者が中心になって、自主稽古を続けてきたことも、技のこなしに自信が持てない大きな要因となっていた。さすがに事情を酌量していただき、10月からは月に一度のペースで、寺田先生のお師匠さまである北総合気会の山田博信師範が、わざわざ浜松まで出稽古していただけることになったのだが、それでも基本的に稽古は初段者中心の稽古に終始している。手前のような他動的稽古態度の者が、自主的な稽古でどれほど力が付いたのかはかなり疑問のところがあったのである。

周囲からは、「せっかくだから、受けた方がいいっすよ」と背中を押され続けた。不安なところはあったのだが、「じゃあ、やってみっか!」と多少は悲壮な決意をしたのである。その旨をタカバさんにメールをしたところ、「自由技を少し考えておいてください。片手持ち、両手持ち、正面打ち、横面打ち、突き、後ろ取りをそれぞれ7種類以上。」という恐怖のメールが返ってきた。なもん、無理だってば。

それからの日々は、審査の日が心に重くのし掛かる毎日であった。こんな気持ちになるんなら、審査なんか受けるって言わなきゃよかった、と後悔しきりであった。少しでも不安を和らげるために、稽古の時には当のタカバさんをつかまえて、「突きの捌きからの技教えて」とか、「後ろ取りからの技のポイントは?」とかひたすら教えを乞うた。おかげで、少しはメールにあった捌きはひととおりこなせるような気持ちになってきた。

審査は、土曜の午後からである。いつもは寺田先生のお住まいになる湖西市にて実施してきたのであるが、今回はいつも稽古している浜松スポーツセンターの道場で、山田師範御臨席のもとに行うことになった。気持ちの準備のことも考え、その日の午前の部活動は休みにした。直前までイメージトレーニングでもしておこうと思ったからである。

幸いなことに、審査前日の金曜日の夜には、山田師範直々に稽古していただけるということになった。たぶん、審査を勘案されてのことであろう。ありがたいことである。たぶん、そこで稽古されることは、言わば、「試験前日の特別授業」のようなものである。稽古は、主に両手取り、後ろ両肩取りからの技が中心であった。師範の動きを食い入るように見つめ、集中して稽古を行った。

さて、審査当日。のんびり晏起し、朝食を済ませ、いつも審査の前にしか繙かない『規範合気道』を見つつ、技の復習をした。写真を一枚ずつ丁寧に見るのではなく、全体の流れをイメージしながら、捌きから技への移行を一つ一つ確認してみた。おかげで、基本の技をきちんと見直すことができたような気がした(実際、このときに確認した「横面打ちからの五教」は審査で求められた)。

出発までにはまだ時間があったから、本を読んで気分転換を図ろうとした。が、10分ほど読むと眠くなったので、思い切ってふて寝することにした。小一時間ほどで目覚めたときに、突然、今日の審査に臨む心構えを思いついた。「居着かないようにしよう」ということである。審査は、師範から指示で行われる。その指示に、「ん?どうやるんだっけ?」とか思ってしまうと、その瞬間に居着いてしまう。師範からどんな指示をされようとも、すぐに体を動かしてみることで、身体が自動的に動くことを心掛けることにしたのである。

審査は午後1時からであったから、30分前には会場入りし、準備運動と呼吸を念入りに行っていた。と、山田師範のご到着が少し遅れるとの連絡が入った。これ幸いと、シンちゃんを稽古台にして技の確認する。「バッチリじゃないですかあ!」と気遣って言ってくれるのがうれしい。いったん覚悟を決めると、不安な気持ちは何処へやら、「ま、なるようにしかならんわい」と腹をくくることができた。

5級の審査が始まった。次は自分たちの番だと思うと、他級の審査など上の空で見てしまうのだが、実は5級の審査でも技の基本がよくわかるということに気付いた。特に、回転投げについては、この5級の審査を見ていて納得するところが大であった。かように、他級の審査もきちんと見ていることが大切なのだ。

続いて、いよいよ1級の審査である。審査を受けるのは4人。名前を呼ばれ、正面に膝行で進み出、審査に入った。最初は、座りの固め技(1〜4教)である。続いて、座りからの入り身投げ、四方投げ。ここまでは2人組で行われたが、次の技からは受けが入った(手前の受けはシンちゃん)。まずは、半身半立ちからの回転投げ。さらに、立ち技になって、両手取りからの天地投げ、四方投げ、小手返し。このへんで息が上がった。汗も、これでもかというくらいに放出される。水分補給をしたくてたまらない。

師範からの指示は、次から次へと発せられる。前日行った、後ろ両手取りからの呼吸投げ、三教。片手両手取りからの四方投げ、入り身投げ。酸素不足で頭が痛くなってくる。これから先は、どんな技の指示がされたのか、よく覚えていない。汗は、拭いても拭いても後から後から出てくる。最後は、一人ずつ自由技。さすがにたまらず、自分の番になる前に水分補給をした。もう何でも来い、の気分であった。

ようやく、「はい、では正面に礼をして」と、師範の声。審査が終わった。体中が充実感で満たされた。もちろん、途中でよくわからなくなって、受けのシンちゃんから、「手、こっち」とか誘導されることもあったが、それでもこんなに体が動くのか、とあらためて自分で自分の身体を褒めたくなった。審査前に自らに言い聞かせた「居着かないこと」は、十分に達成できたと実感した。

実は、2級の審査の時も、同じような充実感を味わうことができた。しかし、今回は、それにも増しての達成感があった。何より、審査が終わった後の身体感覚、体中の細胞という細胞が賦活化され、何に対してもいきいきと鋭く反応できるような感覚が体中に残っているのが不思議であった。普段はあまり動かさないところを含め、身体全体を使って動いたためであろうか、審査後の太刀取りの稽古でも、師範の動きのポイントをつかんで、すぐにやってみることができるような気持ちにさせられた。得難い経験であった。

稽古終了後、一人一人に山田師範より免状をいただいた。胸を張って免状をいただけるような気がした。それほど、充実した審査であった。審査と稽古の後は、初更より直会。水分の枯渇した身体に、ビールが染み渡る。美し酒であった。今回の審査で、今までよりさらに合気道が好きになったような気がした。次なる審査は、昇段審査である。しかし、そんなことはあまり考えず、今回の審査に臨んだ際の心構えである「居着かないこと」を中心に据えて、さらに技を磨いていこうと思う。

受けを取ってくれたシンちゃん、ありがとう。おかげでいい動きができました。これからもよろしくです。