スーさん、大津で甲野先生に出会う

6月18日(月)

「相」とは、『常用字解』(白川静/平凡社)によれば、
“木と目を組み合わせた形。相は木を目で「みる」の意味である。盛んにおい茂った木の姿を見ることは樹木の盛んな生命力をそれを見る者に与え、見る者の生命力を助けて盛んにすることになるので、「たすける」の意味となる。たすけるというのは、樹木の生命力と人の生命力との間に関係が生まれたことであるから、「たがいにする、たがいに、あい」の意味となる。(…)見ることは人の生命力を盛んにするという魂振りの力があると考えられたのである。”
との説明がある。

何が「相」なのか。日曜日、滋賀県大津市にて行われた「京滋身体操法研究会」主催の、甲野善紀先生の講習会のことである。

この講習会のことは、高橋佳三さんのご案内で知るところとなった。ぜひとも参加したいと思っていた。いつものメンバーを誘ってみたが、今回はさすがに中体連夏季大会の前ということもあり、部活動指導のため残念ながら不参加というメンバーがほとんどであった。ちょうどテスト前ということで、部活動が休みだったオノちゃんだけが参加することになった。また、直前、多田塾の本部稽古に参加する予定が急遽キャンセルになって体の空いた浜名湖道場のタカバさんから、「何とか参加できますでしょうか?」との問い合わせがあり、それも高橋さんにお伺いしたところ快諾をいただき、都合3名で参加することになったのである。

オノちゃんと二人だけならば、燃費のいいプリウスで行こうと思っていたのだが、タカバさんが参加するとなれば、彼のX-TRAILで行くに限る。何しろ、彼は長距離ドライブにめっちゃ強いのである。手前とオノちゃんの「おじさん2人組」は、「じゃお願いね」とそれぞれ助手席と後部座席に乗り込んだのである。

日曜日の高速道は空いている。ぐいぐい走って、何と会場に近い名神大津インターを出たのは11時。途中2回休憩をしたのに、それでも2時間半ほどで着いてしまったのだ。いやあ、やはり若い人の運転にはかなわない。ゆっくり昼食を取り、会場である県立武道場まで向かう。

この武道場は、琵琶湖畔に建てられたたいへん立派な建物である。講習会は2階の柔道場で行われることになっていた。階段を上がって柔道場を覗くと、すでに数人の人が体をほぐしている。それにしても、この柔道の広いこと!ざっと見渡しても余裕で200畳以上はある。さらに、観客席付き!なのである。

開始時間の1時になって、佳三さんが来られた。かんきくんも一緒である。久闊を叙しているうちに、甲野先生がいらっしゃった。いよいよ講習会の始まりである。どんな講習会になるのやらと、期待に胸がふくらむ。

甲野先生は、それまでテレビやDVD等でそのお姿は拝見したことはあったのだが、実際にその謦咳に接してみると、想像していたよりも穏やかな感じを受けた。静かな語り口、時折差し挟まれるユーモア。そして、切れ味鋭い技の数々。知らぬ間に、先生の繰り出す技に目は釘付けになってしまっていた。その技については、何と形容すればいいのだろう。まるでマジックを見ているかのようなのだ。

驚きの連続で、時間はあっという間に過ぎていく。途中休憩を告げられたのが始まってから2時間ほどしてから。しかし、休憩となっても甲野先生の周囲には人垣ができている。いろいろと先生に質問する方もいて、それに先生が実際に技を見せながら丁寧に答えていらっしゃるのである。

終了時刻は4時。一応終了の挨拶はしたのだが、それでもまだ先生の周りには10人以上の方が集まってあれこれ体を動かしている。ようやく先生の周囲から人が退けた頃合いを見計らって、一緒にカメラにも収まっていただき、持参した内田先生との対談本(『身体を通して時代を読む-武術的立場』)にもサインしていただく。

たいへん無礼であることは重々承知の上で、敢えて甲野先生の印象を述べさせていただくとすれば、甲野先生は少年のような方であった。いろんな技を試してみるのが楽しくてたまらないし、「こんなことだっててきるよ」と他の人にもつい見せたくなる。野山を駆け回って、自分のやりたいことに目を輝かせて熱中している永遠の少年。そんなイメージである。

こういう方にお会いすると、当然のことながらその大量のオーラを浴びることになる。技を集中して見れば見るほど、その見ることにより「生命力」が感化されるのである。つまりは、「相」なのである。このことと関係があったのかどうかはわからないが、家に帰っていつものようにビールを飲んで、いつものように寝たのだが、1時間ほどして目が覚め、それからずっと眠れなかったのである。

得がたい機会をお世話いただいた佳三さん、どうもありがとうございました。おかげさまで、「杖の押し合い」のコツはなんとなくつかめたような気がします。次回も都合がつけば行かせていただきますので、ご紹介をよろしくお願いします。

さて、いよいよ明日はゼミ発表。久しぶりに岡田山を登ることになる。終了後の宴会も楽しみだけど、はたして、内田先生はお酒を飲んでも大丈夫なのであろうか??