校内合唱コンクール

10月17日(火)

今日は校内合唱コンクール。通常であれば、学校の体育館で行うのであるが、本校では昨年に引き続き、JR浜松駅すぐ隣の「アクトシティ中ホール」にて開催することになった。

本市では、音楽発表会事業として、校内で行われる中学校の合唱コンクールを、本格的な音楽ホールである「アクトシティ中ホール」で開催できるよう教育委員会が予算を組んでくれている。原則的には、3年に1回の割合で市内の全中学校が開催するとのことである。当日のホール利用料はもちろん、ホールまでの交通費(バス代)も教育委員会持ちという、浜松市が目指す「音楽のまちづくり」に相応しい事業を展開してくれているのである。

しかし、学校によっては、遠方であることや聴きに来る保護者への配慮、生徒指導上の問題等で、残念ながら積極的に利用しない学校もあるとのこと。そうなると、せっかく準備した予算が十全に活用されなくなってしまう。本校のように2年連続して利用できるような学校も出てくるのは、そういう事情も手伝ってのことだろうと思われる。それはそれで、たいへんありがたいことなのである。

何が違うって、本格的な音楽ホールは響きが違う。外を走る車の音など、外部の音が遮断された空間には、音楽を紡ぎ出すのに必要な静寂さが担保されている。曲の完成度が高くなればなるほど、響きの良さは演奏の聴き応えに大きく影響する。学校の体育館とは比べものにならないのである(当然だけど)。さらには、照明や音響設備も違う。目映いばかりに照明の当たった舞台、逆に照明の落とされた客席。しんとしたホールに響く司会の声。全てが学校で行う場合とは比較にならないのである。

こういう空間での振る舞いは、きわめて定型的に行われなければならない。司会は、「お決まりのフレーズ」を多用しなければならないし、客席での振る舞いもお行儀よくしなければならないのである。それができるかできないかで、生徒たちの文化資本を量ることができるとも言えよう。

その点、本校の生徒たちは、きわめて場に応じた振る舞いをすることができる。司会も挨拶も、ほとんど台本なしで行えるし、静かにしなければならない場面では、それこそ物音一つしない静寂さを保つことができるのである。よい子たちである。

さて、合唱コンクールである。

オープニングは、リコーダーの演奏。地区・県予選を抜けて、来年3月に全国大会に出場する生徒たちによるアンサンブルである。曲目はドビュッシーのピアノ曲をリコーダー用に編曲したもの。静かな雰囲気のままに開会式が始まる。選択音楽の器楽合奏を挟んで、まずは1年生の合唱。

本校は、1年生4クラス、2,3年生3クラスの計10クラスである。学年全体の生徒が舞台に乗っても、十分合唱ができるということから、それぞれの学年の発表の前には学年全員の合唱が行われる。1年生の合唱は、まだ声変わりをしていない男子生徒もいるから、2,3年生のように張りのあるテノールやバリトンの声は期待できない。しかし、ソプラノの女子生徒に2,3人混じって歌う男子生徒のボーイソプラノもなかなかいい声なのである。どのクラスも甲乙つけがたい出来映えである。

そうそう、本校では、クラスの合唱を発表する前にそれぞれの学級担任が曲の紹介をすることになっている。これがまたいい。歌詞を紹介しながらクラスへの思いを語る担任、練習への取り組みぶりを紹介しながら生徒たちの未来を語る担任、一つの物語を作って曲を紹介する担任と、それぞれ工夫を凝らして曲の紹介を行うのである。何より、担任の思いがじんと伝わってきて、つい「どんな合唱を披露してくれるのだろう」と思ってしまうのである。

2年生の合唱が始まった。コンクール前から、2年生の下馬評は高かった。本校では、各学年の最優秀賞受賞学級の中から最もすばらしい合唱を披露した学級に特別賞が贈られることになっている。通常は3年生が選ばれるのであるが、今年は「2年生が取るのでは」と専らの評判であった。それだけ、練習段階からレベルが高かったということなのであろう。

合唱が始まった。トップはその「特別賞」候補の最右翼と言われていたクラスである。曲は「風のめぐるとき」。混声4部で中学生のクラス合唱としては演奏が難しいのではないかと思われる曲である。う、う、うまい!指揮者も抜群!これがクラス合唱であろうかと思ってしまうほどのすばらしい合唱である。クラス合唱というと、その声の大きさとかがまず話題になるのだが、いくら大きな声で歌おうとも、それが地声の場合には響きがよくない。このクラスの生徒たちは違うのである。特に女子生徒の声がすばらしい。本格的な合唱団の声かと聞き紛うほどの声なのである。

次のクラスは「木琴」。これまた、すばらしい合唱である。歌詞の持つ雰囲気を歌い手が自分なりに感じつつ、曲調を見事に表現している。先ほどのクラスと甲乙付けがたい合唱ぶりなのである。「2年生、恐るべし」。聴いて青ざめたのは3年生であろう。

昼食後は、いよいよ3年生の合唱である。2年生の合唱に危機感を持ったのであろうか、昼食もそこそこにすぐに練習を始める。昼休みの中ホール前広場に歌声が響き渡る。それだけでも「音楽のまち」に相応しいではないか(って、通行人にはうるさいとしか受け取られなかったかもしれませんが)。

さすがに3年生は、どのクラスも最上級生らしい堂々とした歌いぶりであった。曲は、それぞれ「郷愁歌」、「親知らず子知らず」、「君とみた海」。どれもいい曲ばかりである。3年生の思いがひしひしと伝わってくる。歌い終わってステージを降りてくる女生徒の中には、感極まって泣いている生徒もいる。「親知らず子知らず」は特にすばらしかった。2年生との特別賞争いは、たぶんこのクラスとの間になるであろうと思われた。

吹奏楽部の発表が終わって、いよいよ結果発表である。特別賞のクラスは、アンコールでもう一度舞台に上がって歌うことになっている。さて、2年生で最優秀賞を獲得したクラスは、予想どおり「風のめぐるとき」。3年生は「親知らず子知らず」。本校では校長先生が音楽科ということもあり、審査員は校長先生がお願いした特別の審査員(本校の音楽教諭の他に、不肖手前の娘の通う高校の音楽科主任、地元の合唱指導者)の計4人で行われる。つまり、専門家によって審査されるのである。それだけに、「特別賞」はまさに「特別」の意味合いを持つ賞なのである。果たして、「親知らず子知らず」であった。妥当であろう。講評では、「僅差でした」とのことであった。2年生の健闘ぶりを讃えたい。

かくして、すばらしい合唱コンクールは幕を閉じた。何より、生徒たち全体の文化資本の高さを実感させられた一日であった。どのクラスも、合唱練習を始めたのはほぼ1ヶ月前。2年生などは、コンクール直前の3日間、野外活動に出かけていたから、練習期間が十分であったとは言い難い。でも、それを何とかしてしまうところが本校生徒たちのすばらしいところである。クラス合唱の伴奏者を男子が務めるクラスも多かった。それだけ、小さいときから音楽に親しんでいるということなのであろう。

たぶん、どこの学校でも合唱コンクールには力を入れて取り組んでいることであろう。そんな各学校のすばらしい歌声を、ぜひ聴いてみたい。本県では4年前に「中学校文化連盟」が発足した。その中文連主催で、「各中学校の合唱コンクール学校代表によるコンサート」を開催してはどうだろうか。幸い、本校の校長先生は、その中文連の会長である。さっそく、お願いしてみることにしよう。