フロイトはえらい

7月18日(月)

16日(土)、先週の個人戦に引き続いて市内大会のソフトテニス競技団体戦が行われた。

昨年までは、第1シード校は1番コートでの試合と決まっていたが、昨年の団体戦で本校の選手が軽い熱中症に罹ったことから、大会本部に「上位シード校については試合コートを配慮してほしい」旨をお願いしておいた。

市内大会が行われる浜松市の花川運動公園テニスコートには、20面のテニスコートがあるのだが、一昨年本県を会場にして実施された国体のために、4面のテニスコートには屋根が取り付けられた。その屋根付きコートで、上位シード校については試合ができないものかというお願いである。

幸い、寛大なる大会本部役員諸氏にはその申し入れを快諾していただき、本校はめでたく屋根付きコートでの試合とは相成ったのである。

さて、本校の3連覇のかかった団体戦が始まった。

本校は第1シードだったため、2回戦からの出場である。

その2回戦、特に接戦が予想される相手ではなかったのだが、本校は初戦の硬さということもあってか、凡ミスによる失ゲームの多い試合であった。

試合は何とか勝つことができたが、「なーんかイメージ悪いよなあ」という感じであった。

次の相手は県大会へ2組出場するペアを擁するチームである。先週の個人戦でも、その学校の大将ペアにはだいぶん苦戦させられている。

接戦になることが予想されるだけに、何とか選手たちのゲームのイメージを変えさせなければならない。

思いついたのは、フロイトである。

実は、先週からフロイトの『精神分析学入門』(懸田克躬訳/中公文庫)を読み始めている。

どうして読もうという気になったのかは自分でもよくわからない。

しかも、この本は購入したのが確かまだ大学に在学中のときであり、最初の序文だけ読んでその後は「積ん読」状態になって25年以上を経過していた本である。

実家の書棚から取り出してきたときには、四半世紀分の埃を被っており、紙質も劣化して頁の周囲が茶色く変色していた。

それでも、読むのには別段支障はない。多少の黴臭さを我慢すればいいだけである。

ご存じの方も多いと思うが、件の『精神分析学入門』第1部は、「しくじり行為」についての記述である。

読み始めたのは大会が始まってからであるから、当然のごとく「しくじり行為」とくれば「選手が試合中にするしくじり行為」ということに引きつけて読んでしまう。

その中に、以下のような一節があった。

「仕事というものは、強い注意をはらっていないときに、とくに正確にできるものなのです。しくじり行為という不運の多くは、しくじりをしないようにと注意するときにこそくるのです。つまり、必要な注意力を絶対に他にそらしていないときにこそ起こるわけです。」(同書、31頁)

ふむふむ、なーるほど思い、そこの部分には傍線を引いておいた。

それを、ちょうど次の準々決勝に備えて、選手たちに何をアドバイスしてやればいいのだろうと考えていたときに、はた!と思いついた。

「あのさあ、みんなきっと『ミスをしてはいけない』と思ってプレーしてるだろ?それって、まちがいなんだよ。ふだんの練習では集中して『ミスをしてはいけない』と思ってやってるんだろ?だから技術的なレベルも上がってくる。だけど、試合のときには『ゲームを楽しんでやろう』って思ってやらなきゃダメなんだよ。『ミスをしていけない』と思えば思うほどミスをするようになってんだよ。これはなあ、おいらが思いつきで言ってるんじゃなくて、フロイトっていうえら〜い精神分析学者がそう言ってんだよ。だから、次の試合からは『ゲームをするのは楽しい、ポイントやゲームが行ったり来たりするのは何とも言えず楽しい、ああテニスをやっててよかった!』と思って試合をやるように。」と話をした。

その準々決勝、負ければ県大会への出場はない。

ところが、選手たちは初戦とは見違えるばかりの試合ぶりであった。動きにはきれがあるし、ボールが走り出したのである。

結局、その試合は2ペアとも失ゲームなしの完勝であった。

続く準決勝。相手は第4シード校であったが、これも2ペアで失ゲーム1の完勝。いとも簡単に県大会への出場が決定した。

最後は、3連覇のかかった決勝戦。相手は先週の個人戦で優勝したペアを擁する第2シード校を堂々と破って決勝に上がってきたチームであった。

本校の選手たちは、その第2シード校を決勝で打ち負かし、個人戦の借りを返すことを心中密かに期していたことだろうから、相手が違って多少は気が抜けるのかと思っていたのだが、監督の心配は杞憂であった。

この試合も、3番には回らず2ペアで失ゲーム1ずつの完勝。3連覇である。

夜は、保護者たちと一緒に祝勝会。優勝して飲むビールは、また格別にうまい。

それもこれも、フロイト大先生のおかげである。

さて、県大会は今月の28日からである。会場は静岡市にある県営の草薙テニスコート。

昨年は団体・個人ともに、東海大会出場をかけて敗退してしまった。さて、今年はどうなることやら。

まあ、がんばります(試合をするのは選手たちですが)。