スーさん、一瞬青ざめる

4月22日(金)

本校には、この4月から新規採用教員が赴任している。長い講師生活を経て、難関の教員採用試験を見事突破し、ようやく正規の教員として採用されたのである。
新規採用教員には、1年間の「初任者研修」が義務づけられている(『教育公務員特例法』第23条)。
基本的には県の教育委員会が年間の研修計画を立案し、それに基づいて市の教育委員会が地域の実情を考慮しつつ年間指導計画を作成し、具体的な研修を実施することになっている。
「初任者研修」については、手前も前任校で2人の新採の指導教員をやった経験があるが、昨年?からその方法はだいぶ変わって、「拠点校方式」が採られるようになった。
これは、校内での「新採指導担当」とは別に、他の学校に在籍するベテラン教員が「拠点校指導教員」として、新採の配置された学校を複数校担当し、曜日を決めてそれぞれの新採のいる学校へと指導に出向くというものである。
これはなかなか大変な仕事である。1週間で4校を巡回しながら指導を行うのであるから、当然本務校での授業など行うことはできない。本務校に籍がありながら、実質本務校の生徒を指導する機会はほとんどないのである。
そんな大変な仕事を引き受けられて、本校の新採指導に訪れてくれるのは、つい2年前まで本校で学年主任をしておられたタカヒサ先生である。
タカヒサ先生と手前とは、当時同じ学年主任として、同様に荒れていた学年の生徒たちを何とかしようと互いに手を携えながら奮闘した、いわば「ガダルカナル島攻防戦時の戦友」のような間柄である。
手前などとは違って、仕事はたいそう緻密に行う先生である。本校に拠点校指導教員として配置されてきた時にも、「校内で配布された文書は、すべて私のレターケースに入れておいてください」と念を押されていたので、手前が毎日発行している「業務日報」も、勤務日以外のものも含めてすべて先生のレターケースには入れている。
「業務日報」には、末尾に教務主任の雑感を毎日記すようにしている。これは、特にそんなことを記す必要もないのだが、「つねに自己を超克し、おのれの義務としおのれに対する要求として強く自覚」(@オルテガ)するために、自分に課しているルーティーンなのである(実態は駄文である)。
そんな駄文も、タカヒサ先生は少しも見逃さず、先日の勤務日の際には「ねえ、この前の日報に紹介されてた『14歳の子を持つ親たちへ』って、もう発売されてるの?」と尋ねられた。
「えっ?オイラはまだ買ってないけど、もう発売されてるかもしれないね」などと曖昧に答えていたのである。
その日の夜、タカヒサ先生から手前の自宅に電話があった。手前の携帯の番号は知っているはずなのに、携帯にではなく自宅の電話にかけてくるところが、いかにもタカヒサ先生なのである。
「あのさあ、今日家に帰ったら女房が『14歳の子を持つ親たちへ』買ってきてあってさ、もうだいぶん読んだんだって。それでさあ、女房が言うに“ここに書いてあるヒトって・・・(手前の名前)先生じゃない?”って言うんだよ。だから、どれどれって読んでみたけど、まちがいなくこれ・・・(手前の名前)先生のことだよ。いいかい、えっと162ページかな、”うちは女子大ですけど、大学院の授業だけは男子も聴講できるんですよ。その中に静岡の公立中学校の先生がいて、その先生にこの間研究発表をしてもらったんです。”って、まちがいないだろ?」(タカヒサ先生は、手前が神戸女学院の大学院へ聴講生として参加していた時には、まだ本校勤務であったから、その間の事情をよくご存じなのである。)
「えーっ!、それホントなの?」(と一瞬絶句)「だって、春休みに合気道の合宿に行って、そのとき内田先生にもお会いしたけど、そんなこと全然言ってなかったよ」(と暫時狼狽)
内田先生、あの時の発表は、オーディエンスがきわめて限られていたからこそ、バカな暴論も吐けたのです。でも、こうやって衆人の目に晒される袖珍として上梓されれば、どこの誰が読んでいるかわかりません。
題名からして、教育関係者が読むことは十分に考えられます。その中には、「なにい、この静岡県にかような不逞な言説をなす公立学校教員がいるとは、何たることぞ!」と、怒り心頭に発する県の行政関係者等がいるやもしれないじゃあないですか。
「ええい、すぐにどこの誰か調べるのぢゃ!そしてこの下手人がわかり次第、市中引き回しの上、獄門にせい!」などと宣われたら、ワタシはどうすればいいのでしょう。
先生、もしもこの件にかかわって、行政関係者等から問い合わせ等がありましても、くれぐれも真実をお話しなさらないよう、よろしくお願い申し上げます。
というわけで、いつお咎めがあるかと兢々としつつも、顔なじみには「ねえねえ、今度新潮新書から出た『14歳の子を持つ親たちへ』の中にさあ、オイラのこと書いてあるからさあ、絶対買ってよ!」と販促活動に貢献している毎日なのである。

先生ごめんなさい。
あれくらいアバウトな書き方だったら、たぶん特定できないだろうと思って書いちゃったんですけど・・・
でも、あの「本音」のところに私は問題の根の深さを実感したわけで。ひとつご勘弁を。
今度会ったときにビールおごりますから!(ウチダ)