いつも泣くのは百姓じゃ

1月21日(金)

なんじゃ、最近は浮かない顔をしてることが多いのう。また、銀小鉄球博打で金を巻き上げられたんかいの。

「いやいや、もうあの遊戯は懲りたからきっぱりやめたんじゃ。そうでなくて、かわら版で文部科学省のお大臣さまが“総合的な学習の時間”を減らすと申しておる、とのお達しを見てのう。われら中学校づとめのこの三とせの月日はいったい何じゃったんじゃと思ってのう。」

おう、わしも見たぞい。学力低下の批判を受けて、「総合的な学習なんぞやっておるより、読み書き算盤に重きをおいたほうがよい」と宣わったんじゃの。

「総合的な学習の時間を導入するについては、その当時からいろいろと批判はあったんじゃ。むろん、その中には、そんなことをやっていては読み書き算盤の力がつかん、という批判もあったわい。だが、それやこれや全て考えた上での総合学習導入じゃあなかったんかい。それをまだ三とせにもならぬうちに、やっぱやーめた、はないじゃろうが。」

そうだのう。おぬしの言うとおりじゃ。お上は、一昨年の12月に「小学校、中学校、高等学校等の学習指導要領の一部改正等について」という通知を出し、それを受けて各県の教育委員会が、昨年1月に各学校へ「周知いたすよう」との通知を出したばかりだったよのう。その「通知」の中には、「総合的な学習の時間の一層の充実」ということが書かれていたはずじゃ。

「それじゃあ、“もっと総合学習に力を入れよ”とお達しを出して、わずか1年もたたないうちにそれを撤回するってわけかい。」

そうなんじゃ。まさに「朝令暮改」じゃ。

「総合学習についてはのう、わしは基本的な考え方はよいと思っていたんじゃ。中学校でも、大学のような“りべらるあーつ”ができるかもしれぬ、と思っていたからのう。しかし、実際の運用では「福祉」とか「環境」などの大枠にとらわれて、「体験学習」と称して校外へ出ていって、「福祉」や「環境」について体験したり調べたりしてこと足れりとしてしまうこともあったんじゃ。むろん、学校によってはかなり充実した学習を展開していたところもあったわけで、すべての学校がそうだとは言わぬのだが、総合学習のような教科書もない科目については、とにかく一から何もかも準備をしなくてはならぬということもあって、実際の学習を充実させるところまではなかなかいかなかった、というのが現状ではなかったかと思うんだけどのう。」

確かに、基本的な「こんせぷと」はよかった。だけど、「知」を「総合化」するには、「総合化」の前にかんじんの「知」はあるんかい、というところが問題だったんじゃないかのう。「調べ学習」とか申して、各自てーまを決めて、「いんたーねっと」などを利用して何かを「調べ」たとしても、それはあくまで「らんだむあくせす」にとどまってしまい、「しーけんしゃるあくせす」ならないところが問題である、とのお話もうかがったことがある。すなわち、「世界地図のところどころに穴があいている」ような「知」にとどまってしまうというわけだ。

「そのお話は、確か神戸女学院大学の内田大先生のお話だったよのう。ことほどさように、理想と現実はかけ離れていたということなんじゃな。導入に先立って、もっとその運用方法について、のうはうを蓄積しておくべきだったのかもしれないのう。」

「総合的な学習の時間」を導入することは、今後の日本の教育を考えるについて必須であるとの仮説に立ち、導入したのであろう。ならば、少なくともその仮説がある程度検証をされるまでは継続するのが筋というもんじゃなかろうか。でないと、国民に対してあまりにも無責任だと思うんじゃが。もしも、お大臣の言うように総合学習の時間を削減するのなら、一つ大切なことがあるんじゃ。

「なんじゃ?」

それはのう、「総合的な学習の時間」を教育現場に導入する施策を提案し、実際に実施したお上の責任者、わしはそれが誰かは知らぬが、そのお方が「すまぬ、わしが悪かった、不明じゃった」とお詫びをすることじゃ。そうしないと、お上が無責任を決め込んでしまうことになってしまう。それでは国民に示しがつかないというもんじゃ。

「きっと今回の件についても、喧喧諤諤の議論がなされることじゃろう。しかし、その議論が一応の結論を見るまでは、すなわち学習指導要領が改訂されるまでは、現場は現行の週2時間以上の総合学習を続けていかなくてはならないんじゃ。しかし、どうせ総合学習の時間は削減されるんじゃ、と思いながらでは指導するにも力が入らんわの。わしら、現場の者はいつもこうやってお上の施策に振り回される。だけど、現場の一存で総合学習の時間を削減するわけにはいかん。何せ国の掟だからのう。掟破りをするわけにはいかんのじゃ。」

かくなる上は、黄門さまのご巡幸を待って、訴えて出るしかないのう。

「そうじゃ!黄門さまと助さん角さんに頼むのじゃ!黄門さまあ〜悪いお役人を成敗してくだされえ〜」