それはリアルなの?それともドリルなの?

4月21日

「ママ、銃乱射のアナウンスがあったから、暗闇の中でテーブルの下に隠れてるの」
「何?それはリアルなの?それともドリルなの?」
「わからない。ママ、怖い」
「どこにいるの?何が起こっているの?電話して」'

 これは、先月3月16日に『マディソンマガジン』というマディソンのローカル誌がカバーいっぱいに飾ったショートメールの内容だった。この日、私はソーシャルメディア上でこの不穏なショートメールのやり取りだけが掲載された写真を見つけると、つい画面をスクロールする手を止めてこのローカル誌の記事に興味をそそられたものだった。  
 カバーの下のほうには「銃乱射訓練は良い面以上に悪い面があるのでは?」とのキャッチコピーが添えられている。いつもの地元の美味しいお店やゆかりのある人物を紹介するという楽しそうな写真ではなく、なんだか物々しい雰囲気である。ショートメールの中の「ドリル」という言葉が何を意味するのか分からなかったので、それが「訓練」を意味する英語であり、またロックダウンという言葉はアメリカ人にとってコロナに関連するものだけではなく、銃乱射の犯人が来た際に学校そのものを封鎖する時に使うのだということに改めて驚きながら記事を読んだが、それ以上に私を驚かせたのは、奇しくもこの記事に目を留めたわずか10日後の3月27日、アメリカはテネシー州の私立小学校で再び銃乱射事件が起こり、6人が殺されたという事実だった。
 
 そう、アメリカでは2023年に入ってからすでに100件以上の銃乱射事件が起こっており、のどかな田舎町のマディソンでも、今では子供たちは学校で必ず「銃乱射訓練」というものを受けるようになっている。しかもその訓練は、より緊張感を出すために子供達に訓練かどうかを知らせない場合があるので、それによって子供たちが学校生活でトラウマを持つという副次的な社会問題が深刻化しているのである。中には、訓練中に七歳の子供が腕に「ママパパ愛している」と書いて自分が死んだ時に備えたというエピソードや、訓練を受けたことでより多くの子どもたちが、以前より不安感を抱くようになったという統計が報告されており、だからこそ、マディソンのローカル誌は、表紙一面を使って改めて、子供たちが銃乱射訓練を受けることそのものに疑問を投げかけたというわけである。

 六歳の息子を持つ私としては、なんとなく他人ごとではない話だった。あのままアメリカの学校に通っていればいずれは息子もその訓練を受けたわけであり、しかも、もしも子供から銃乱射事件が起こっているから助けてほしいという連絡が入ったとしても、親は絶対に学校に駆けつけてはいけないと教えられるそうである。(無理な話である。)またALICEという悪名高い銃乱射訓練を実施する会社はアンチ訓練派から最も嫌われているプログラムを提供しており、より緊張感を高めるための爆発音などの演出に加えて2019年には偽物の銃を使ってトレーニング中に学校の先生たちを実際に撃ったこともあり、これも大きな物議を醸したことがあった。ALICEのコンセプトは「Run-Hide-Fight」であり、子供たちは犯人が来た時に何か投げつけて犯人を戦えるように手元にハサミなどを持つように教えられる。銃乱射事件は通報を受けてから警察が到着する前に事件が収束することが多いため、このALICEは逃げ隠れて膠着するだけではなく、戦うことも子供達の体に教え込ませるという過激なプログラムなのである。
 だけど、高まる訓練への不満とは裏腹に、今、全米のほとんどの学校が年に一回以上の銃乱射訓練を実施しており、子供達は学校が必ずしも安全な場所ではないということを知っているようだった。彼らは訓練を通じて学校で常に自分が隠れることのできる場所を見つけておくように指導され、ハサミや教材で使う積み木などは勉強道具であるとともに銃乱射の犯人に向かって投げつける凶器にもなり得ると教えられるのである。

「いつもロックダウン訓練の時は本当に緊張する」
 マディソンマガジンの取材を受けたイーストハイスクールに通うアイリーンという少女はそう答えていた。頭ではこれはドリルだって分かってる、と。
「だけどもしもそうじゃなかったら?もし、今回私たちの学校が銃乱射の現場となっていて、自分が来週のニュースに報じられる子供になるとしたら?」
 リアルなのか?それともドリルなのか?記事を読みながら私は、銃社会をいつまでも選び続けるアメリカ社会の子供達への皺寄せは決して小さくないような気がしたのだった。