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「ワイレアのサンタクロース」現る

8月28日

二日目の朝。目が覚めてすぐ庭に出る。庭は外に向かって緩やかな坂になっていて、ブーゲンビリアの垣根がパブリックスペースとの境界になっている。空は晴れており、遠くに見える大きな山は、てっぺんが雲に覆われていた。

芝生の上でサンダルを脱ぎ、海に向かって呼吸を整える。朝の空気で肺を満たし、全身に行き渡らせ、ゆっくりとはき出す。何の予定もないハワイの朝である。時間を気にせずに呼吸を繰り返す。

1時間ほど庭で過ごした後、しつこく寝続けているイーダ先生をおこして朝食を摂る。メニューは、牛乳とバナナ、前の夜に食べ残したセロリとトマト、あとはコーヒー。

食事の後は、1時間ほど本を読み、それからプールへ行く。旅の疲れがまだ残っていたようで、この日は、本を読んだり、昼寝をしたりして、のんびり過ごした。

昼食は、トマトソースのパスタにビール。夜は、白いパエリア(サフランを買い忘れた)と、カリフォルニアの白ワインだった。

無線LANが引かれていて、インターネットが無料で使えることがこの日判明した。


三日目。
午前中は前日と同じように過ごした。午後からはワイレアへ行き、散歩がわりにゴルフをする。帰りに寄ったショッピングモールで、ハンバーガーとオニオンリングを食べた。

肉厚の玉葱にボリュームのある衣をつけて揚げたオニオンリングはロコビールとの相性ばっちりである。チーズバーガーも旨かった。

スーパーで夕食の買い物をしてからコンドミニアムに戻り、いつものように夕暮れを庭で過ごす。

晩ご飯は、アボガドの刺身、コンビーフとジャガイモの炒め物、赤ワイン。

夕食後、イーダ先生が『半島を出よ』を読了。

最後のほうは、「ふがーっ」っと鼻息荒くページをめくる興奮ぶりが脇にいる僕にも伝わってきた。読み終えて心なしか息切れをしているようだ。

水割りを飲みながらお互いに感想を述べあう。

僕は、「これは「軍人将棋」の様な話である」という感想を述べる。

その時は酔っぱらっていて、何を言いたいのか自分でもよくわからなかったが、「良かれ悪しかれ、人には働きどころというものがある」ということが言いたかったのである。


四日目。
朝。寝ぼけまなこで、一人プールに向かう。誰もいないプールでひとしきり泳いだ。

午後から少し遠くのショッピングモールへ行き、コーヒー豆やCDを買う。ついでに、スーパーマーケットSafewayに寄って夕食の買い物をする。30ドルのボディーボードも購入。名前を「カマオレ1号」とすることにした。

五日目。
思ったよりも楽しかったので、午後からもう一度ゴルフをする。場所は前々日と同様に、ワイレアのブルーコースである。

二人でボールを無くしまくり、途中棄権の危機に見舞われる。前々日のラウンドでは、殆どボールを無くすことはなかったのだが、二度目のこの日は、前半の終了時点で、予備のボールが二人で一個だけという状況に陥ってしまった。

仕方がないので、とりあえずドライバーを打つのを止めて、のんびりラウンドを続けていると、どこからか赤いポロシャツを着たお爺さんがやって来た。

爺さんは、僕たちの電動カートに近づいてくると、いきなり

「ボール足りてるか?」

と聞いた。

「いや、たくさん無くしちゃって、二人で三個しかないんです」

と答えた。

爺さんは何も言わずに、僕たちのカートの籠に5,6個のゴルフボールを放り込んだ。彼のショートパンツのポケットからは、後から後からゴルフボールが出てきた。ボールに付いているマークがまちまちだったから、コースで拾ったロストボールなのだろう。

「ありがとうございます」

僕たち二人はそれぞれに礼を言った。

「水はあるか?」

爺さんは、僕たちの無くなりかけたミネラルウオーターのペットボトルを見ながらそう言った。

そして、僕たちが答えるのを待たずに、自分が持っていた小さなクーラーボックスを開けて、よく冷えた500mlのペットボトルの水を一本くれた。

「ありがとう」

僕たちはそれぞれにもう一度礼を言った。

「気にしないで。いいラウンドを」

爺さんはそれだけを言うと、そのまま去っていった。

後からクラブハウスで聞いた話では、この人はこの界隈でも有名な、「ワイレアのサンタクロース」と呼ばれている人物で、初心者が多いこのゴルフコースに毎日現れ、誰に頼まれるわけでもないのに、慈悲深い行動を繰り返しているそうである。

元々はアメリカ本土に住んでいたのだが、仕事を引退してからこのコースの近くにコンドミニアムを購入し、老婦人と二人でのんびり暮らしているらしい。

「時々、この辺ではほとんど見かけないような立派なスーツをきた男が爺さんの家を尋ねてくることがある。実は、相当なお金持ちという噂もあるが、本当のところはよく解らないんだ。爺さんのことは、誰にも本当のことはわからない」

水色のポロシャツを着たゴルフクラブのスタッフが、僕たちが使い終えたゴルフクラブを拭きながら、そう教えてくれた。


ゴルフの後は一度コンドミニアムに戻り、その後で、近くのカマオレビーチパーク3へ行った。言うまでもなく、「カマオレ一号」の乗り心地を試すためである。

キヘイのリゾートエリアには、いくつかのビーチエリアがある。その中にある「カマオレビーチパーク」は3つに分かれていて、北から南に向かって番号がついている。

ビーチパーク1と2は、キヘイの特に賑やかな場所にあり、人も多く、サーフィンやボディーボードのレッスン&レンタルショップがあったりする。

我々がよく出かけたビーチパーク3は一番南側にあり、この辺になると店はほとんど無くなって、コンドミニアムが建ち並ぶ静かな場所になっている。ビーチに出ている人は、小さな子供を含めた家族連れが多い。


夕方になり、風が強まってきた。乗りやすい波が出始めているのが素人の僕でもわかる。

「少し休んでから遊ぶ」というイーダ先生は、ビーチチェアーに腰かけて新しい本を読んでいる。

僕は早速ボディーボードにのってみることにした。

沖から吹く向かい風の中、僕は「カマオレ1号」を左脇に抱えて、海に向かってゆっくりと歩いていった。


赤いポロシャツのお爺さんの話は途中から嘘です。すんません。

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2006年8月31日 13:15に投稿されたエントリーのページです。

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