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あの日みた八戸の夕焼け

8月16日 

カフルイ空港のハーツでビュイックのセダンを借り、コンドミニアムへ向かった。窓の外には、サトウキビ畑と原野を足して2で割ったような、中途半端で広大な景色が続いている。ずっと先の方に大きな山が見える。

褐色の肌を持つ大きな山は、中途半端な野原の土地がそのまま盛りあがったような形をしている。建物が少ないせいもあるかも知れないが、どこまでが平地でどこからが山なのか境目がわかりにくい。

内陸部を通り抜けて、いよいよ海沿いの道に入る。右側にキヘイビーチを眺めながら車を走らせると、20分ほどで、コンドミニアム「マウイ・カマオレ」に到着した。場所はキヘイの南端で、もう少し走るとワイレア地区になる。コンドミニアムの目の前にはカマオレビーチパークがある。

海に向かって傾斜しているコンドミニアムの敷地内を車で登っていくと、プールに隣接してオフィスがあった。プールでは数人が泳いでいたが、オフィスには全く人影がない。どうやらランチタイムの休憩らしい。仕方がないので出直すことにした。

サウスキヘイロードに面したレストランで昼食を取り(イーダ先生はサラダ。僕はマヒマヒのソテーとビール。)、この日の簡単な予定を立てる。

小一時間ほどしてから再びコンドミニアムに向かい、チェックインを済ませる。部屋に入れるのは15時ということなので、それまでプールで休むことにした。イーダ先生は日陰のテーブルに陣取ると、すぐさま読みかけの『半島を出よ』に向かった。どうやら今回の旅は村上龍と縁が深いらしい。

「どこまでいったの」

「先遣隊が福岡に上陸したところ」

僕は水着に着替えて早速泳ぐことにした。裸足で歩くと、プールサイドのタイルが焼けるように熱い。泳いだりベンチで寝ころんだりしているうちに15時を過ぎたので、鍵を受け取って部屋に入った。十分な広さの1リビング1ベッドルームで、リビングから小さな庭にでると、遠くに海が見えた。静かである。

荷物を出してからシャワーを浴び、少し休憩した後で早速夕食の買い物に行くことにした。

車に乗ってサウスキヘイロードを空港方面に戻る。日はすでに傾きかけていて、道は、一日海で遊んで宿に帰る人や、逆に、夕方近くになってから海に向かう人達で賑わっていた。海へ向かう人は、多くがボディーボードを抱えている。ジョガーも多い。ジョガーの70%が男性で、その70%が上半身裸である。そしてさらにその90%に、入れ墨が入っている。ヘッドセット装着率は全体の95%を超えている。

車で10分弱のところに食品スーパーを見つけたので、そこで買い物をした。結局、6泊のマウイ滞在中の食事は、ほとんどこのスーパーで買った食材をコンドミニアムで調理して食べた。えらそうに書いたが、ほとんどはイーダ先生が作った。僕の担当は、野菜切りと食後の洗い物である。

日本のワンルームマンションの湯船くらいあるショッピングカートを押して店内に入り、買うものをじゃんじゃん放り込んでいく。トマト、ジャガイモ、セロリ、ピーマン、ニンニクなどの野菜、桃を2個、オレンジ3個、米1キロ、パスタを二袋、スライスハム一袋、ミネラルウオーター1ガロン、牛乳半ガロン、ビール1ダース、赤ワイン1本、ビーフジャーキー一袋、ポテトチップス一袋などである。コンドミニアムのキッチンにはすでにおいてあったが、塩、胡椒、オリーブオイルなどの調味料も少し買った。スーパーには日本人向けの商品も豊富で、出汁の素やカレーのルーまで置いていた。

大量の買い物袋を車に詰め込んで部屋に戻り、食材を冷蔵庫に詰め込む。空っぽだった大きな冷蔵庫が、色とりどりの食べ物で埋まっていく。

一段落して外を見ると、日没が迫っている。時刻は午後7時くらいだった。庭に出て椅子に座り、ビールを飲みながら夕日を眺める。静かである。庭を歩き回っていた鳥たちも一日の仕事を終えたようで、姿を消してしまった。何も話さず、何も考えず、ただ、日没を見ながらゆっくりとビールを飲んだ。

「病棟の窓から外を見ると、大きな川が流れている。夕焼けが綺麗なんだ」

北くんが言った言葉を思い出した。

医者になって3年目の春、僕は北くんと入れ替わりで、八戸の病院に勤めることになった。電話で患者の申し送りを終えた最後に、彼はそう教えてくれた。

川沿いの地平線から空いっぱいに広がる夕焼けは、実際とても美しかった。何かを訴えかけるような夕日でもあったし、ただ勝手に空一面を赤色に染めているだけのようでもあった。

自然が自分に対して何かを訴えていると感じるのは、わがままな考えである。しかし、もし何も訴えていないのだとしたら、あの八戸の夕日はあまりにも大袈裟だった。

そんなことを思い出しているうちに、夏休みの最初の夕日はあっさりと落ちてしまった。いつの間にか気温が下がっている。

部屋に入って、ピーマンとタマネギ、ハムの入ったパスタを作り、ワインを飲みながら二人で食べた。

旅の疲れと時差ボケのせいか、ワインの酔いが早く回り、11時前にはベッドに入った。

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2006年8月24日 18:08に投稿されたエントリーのページです。

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