12月31日
「いそがしそうだね」
大掃除をしていると、ミカンを持ってフリオが遊びに来た。
「引っ越しするからね。いらないものをできるだけ捨てようと思って」
「思い出とか」
「そう、思い出とか。なんて、遊んでる暇はあまりないのよ今日は」
「2,3日居なかったみたいだね」
「温泉行ってたんだ」
「いいじゃない」
「そう。温泉入って、将棋指してね。あとは年賀状書いてたの。年末に遊んだ変わりに明日からは仕事をするからね、今日のうちに大掃除をするんだ」
「そうか。だから今日は忙しいのね」
「うん、まあね。でもいいんだ。あ、そうだ。ミカン食べようよ」
僕は台所で緑茶を入れた。濃くて熱いお茶を飲みながら、僕とフリオはミカンを食べた。フリオが持って来たミカンは小さなミカンだった。薄い皮を剥いて房を口に入れると、ミカンの優しい甘みが広がった。
「そういえばね、久しぶりにスケッチをしたよ」
「へー。絵なんか描くんだ」
「ミカンを描いた」
「絵は得意なのか」
「いや、昔から苦手だった」
「そうか。頑張ったな」
「うん。頑張った。一生懸命にミカンを見つめすぎてね、少し眩暈がしたくらいだ」
「それは見つめすぎだな」
「うん。見つめすぎだった。電車の中で描いたのが不味かったね」
「そうか」
フリオは、2個目のミカンを丸のまま口に入れた。口の形が一瞬ゴリラの様になったが、2,3度大きく噛むと、すぐに戻った。口の中に少し余裕ができると、彼はお茶を一口すすった。
「じゃ、そろそろ帰るよ」
「そうか。じゃあ、良いお年を」
「ありがとう。絵、上手になるといいな」
フリオは、いつものようにさっさと帰ってしまった。
みなさまも良いお年をー