12月5日(月)
「ひさしぶりだね」
美味そうな苺を持ってフリオが遊びに来た。
「そっちこそ久しぶりじゃない。なにしてたの」
「九州に相撲見に行ってた」
「気楽でいいねえ。うらやましいよ。でも、その前から随分姿を現さなかったじゃない。また帰ってたの」
「行ったり来たりだよ。冬支度もしないといけない。まあ、俺のことはいいんだよ。そっちこそ何してたの」
「俺も色々だよ。行ったり来たりだよ。医局の関連病院の先生が急病で倒れてね、出張がまたひとつ増えたんだ。それで忙しくなった。ところで相撲はどうだったの」
「なかなか良かったよ。なんて言っても会場が空いているのがいいね。寂しくて」
「寂しいのがいいのかどうかはわからないけどね、相撲は冬に限るよね。夕方五時くらいになるともう日も暮れちゃってさ、炬燵に入って、テレビを付けるとやってるのは相撲だよ。大乃国あたりが無意味に太ってるんだ。」
「横綱なのにやたら弱いんだよな」
「そうそう、でも人はすごく良さそうなんだ」
「ところでさ、最近麻雀しているらしいじゃない」
「そうなんだよ、数えたら6年ぶりだったね。『この配牌は唯一無二の配牌なり』なんて叫んじゃったりしてね。やたら楽しいんだ」
「気楽なのはそっちじゃない」
「そんなことないよ。これは日曜日の午後のささやかな楽しみなんだから。でも、確かに麻雀を打つというのはどこかで後ろめたい気持ちがするね。だから楽しいのかもしれない」
「なるほど。あ、そうだ。苺食べようよ」
僕は台所で簡単に苺を洗い、お皿に盛ってテーブルに出した。冷蔵庫からビールも持ってきた。
「最近の苺は大きくて甘いね。昔の苺は粒が小さくて、酸っぱくて、表面の種がざらざらしてたよな」
「噛むと、ぷつぷつ言うんだよね」
僕たちは苺を食べながらビールを飲んだ。甘い苺は思いのほかビールとよく合う。
「相撲が終わった翌日の月曜日って、すこし寂しいよね」
「高校野球が終わった翌日も寂しいね」
「なぜかプロ野球が終わっても寂しくないよね」
僕たちは随分長く会話をした。
フリオと沢山話をするのはこれが最初で最後かもしれない。あるいはまた、こういう機会があるのかもしれない。