3月17日(木)
「スチュワーデスになるの」といって辞めてしまった研究室の秘書さんが、どうしているのか、最近ちょっと気になっている。
ひょっとしてこれは恋なのだろうか。
こ・れ・も恋、あれも恋、たぶん恋、きっと恋。
医局の事務机に座っている姿を見ているときには、別に何とも思わなかった。色が白くて、若々しくてかわいらしい人だなあ、とは思っていたが、別にそれはそれだけの話しだった。
辞めた直後も、別に何とも思わなかった。しかし、一月の末に彼女が居なくなり、二月ほどがたった今になって、彼女がどうしているのか何となく気になりだしてきた。
今日で仕事が最後という日、「これを着るのがゆめだったんですー」と言って、彼女はケーシー(着るタイプの腰丈の白衣)を着て、肩に聴診器をぶら下げ、そこら辺にいる医者を手当たり次第に捕まえて、記念写真を撮りまくっていた。みんなと撮っていたのに、僕は何となく恥ずかしくて、一緒に写真を撮れなかった。ひょっとして、あの時から僕の恋は始まっていたのかも知れない。
だってさみしいものよ、泣けないなんて。
彼女は何時だって失礼でアナーキーだった。
医局の先生をハゲネタで蔑み、通勤途中に原チャリで2回も事故を起こした。
若いくせに焼酎を愛し、月曜日の朝はいつも二日酔いで不機嫌そうだった。
がんがん有休を取って、いつも韓国や台湾へ旅行に行っていた。ハングルを習いだして、直ぐ飽きて辞めたりしていた。
そのくせ、電卓を打つのだけはやたらに早くて正確だった。
連絡先も解らないし、春からはシンガポールかどこかに移り住むと言っていたので、きっともう彼女と会うことはないだろう。
さようなら。わたしのあわい恋の水中花